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ヴェネツィア映画祭を席巻! Netflix『The Hand of God』パオロ・ソレンティーノ監督「マラドーナが僕を救った」

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ライター:#佐藤久理子
ヴェネツィア映画祭を席巻! Netflix『The Hand of God』パオロ・ソレンティーノ監督「マラドーナが僕を救った」
Netflixオリジナル映画『The Hand of God』独占配信中

パオロ・ソレンティーノ&フィリッポ・スコッティ

映画監督が自伝的な作品を撮ることは少なくないが、パオロ・ソレンティーノの新作『The Hand of God』は現実とイマジネーション、感傷的な部分とエキセントリックな要素が融合した、まさにこの監督にしか撮ることができない、印象深い作品だ。

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サッカー界の伝説、ディエゴ・マラドーナがSSCナポリに移籍した80年代のナポリの街を舞台に、風変わりな大家族に囲まれた思春期の少年、ファビエットが困難に直面しながら、銀幕の世界に夢を求め、手探りで未来を掴もうとする過程を描く。監督が白羽の矢を立てた新星、フィリッポ・スコッティが主人公ファビエットに扮し、ソレンティーノ映画に欠かせないイタリアの名優トニ・セルヴィッロが父親に扮する。

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本作は2021年のヴェネツィア国際映画祭のコンペティションで披露され、審査員グランプリを受賞。またスコッティが若手俳優に与えられるマルチェロ・マストロヤンニ賞を授与された。日本では2021年12月3日(金)より一部劇場で限定公開されたのち、12月15日(水)からNetflixで独占配信される。

ヴェネツィアに顔を揃えたソレンティーノ監督とスコッティに、本作について語ってもらった。

フィリッポ・スコッティ / 撮影:佐藤久理子

「マラドーナは現実を偉大なものに変化させるヒーロー」

―監督に質問ですが、自分の青春時代の物語を撮ろうというアイディアは、以前から温めていたのですか。

ソレンティーノ監督(以下、監督):監督としていつかはやらなければならないものとして、ずっと考えていた。でも同時に、とりかかるのが怖くもあった。歯医者に行くようなもので(笑)、痛いからなるべく行きたくないけれど、でもいつかは行かなければならない、僕にとってはそんな題材だった。これまでの僕の作品にも、つねにパーソナルな要素はあるけれど、それは隠されたものだった。でも昨年50歳を迎えて、いよいよ本作にとりかかるときだと決心したんだ。

―何をそれほど恐れていたのですか。

監督:作ること自体というより、作ったことが自分にとって何も変化をもたらさなかったら失望するかもしれない、ということが怖かった。これまでさまざまなことに直面してきたにも拘わらず、僕という人間はあまり変化していない。相変わらずいろいろな問題を抱えているし、不安定だ。だからこの映画を作ることがセラピーのようになればいいと思った。

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―ここに登場する家族はとてもエキセントリックな人が多いですが、それはあなたが変わった人々を描くことに惹かれるからなのでしょうか。

監督:僕の家族がこういう人ばかりだったんだ。みんな性格や仕事も異なっていたから、会話もこの映画のなかのような感じだった。ちなみに映画に出てくるスープは、母が料理をしたくないときによく作っていた。温めた山羊のミルクに血を混ぜるんだ。もちろん、映画にはフィクションのキャラクターや創造も組み込んでいるけれど。

―マラドーナがナポリの人々に与えた影響は絶大ですが、監督ご自身にとっても大きな存在だったのでしょうか。

監督:そう。この映画も彼にぜひ見て欲しかったから、彼が亡くなったことはとても悲しかった。彼は僕の人生にいろいろな意味で大きな影響を与えた。映画のなかで、ファビエットはマラドーナの存在により人生を救われるけれど、僕にとって彼は家族を超えた、他の世界との初めての繋がりだった。彼のサッカーはクラフトの芸術だ。僕の家族はアートとは無縁だったけれど、彼は現実をなにか偉大なものに変化させる人間として、僕にとってヒーローだった。ナポリの人々はいまも彼を愛していると思う。

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―80年代が舞台ですが、あなたの映画にしては珍しくあまり音楽が使われていないですね。

監督:当時の音楽を使って過度にノスタルジックになることを避けたかった。時代感を出してそこに観客が興味を惹かれるよりも、キャラクターに意識を集中して欲しかったんだ。僕が映画で音楽を使うときは、感情が停滞するようなときだが、本作は逆にエモーションに溢れている。それにあの時代、自分の生活には音楽があまりなかった。ウォークマンが出回り始めた頃で、時々ウォークマンを聴く程度だった。まさに映画のなかのファビエットのように。

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「パク・チャヌクやリー・チャンドン、三池崇史、みんな異なるけれど素晴らしい監督」

本作が琴線に触れるものになっている理由のひとつは、ファビエットに扮したスコッティの魅力に依る。アクの強い家族のなかで、寡黙でまだ世間を知らない少年のナイーブさを、その繊細な佇まいから漂わせる彼は、観る者それぞれに思春期の痛みを彷彿させ、共感を引き出す。

映画に主演するのは本作が初めてという彼とソレンティーノは、どのようにこのマジックを生み出したのだろうか。

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―監督はフィリッポ(・スコッティ)に出会って、自分と似ているところがあると思いましたか。

監督:そうだね。僕よりずっとハンサムだけど(笑)。僕は17歳のとき、自分のことがよくわからなかったけれど、彼にもそんなところがあるように思えた。少なくとも僕にとってはミステリアスだった。もちろん俳優としても才能がある。オーディションをしたなかで、彼がもっとも優れていると思ったよ。

―(スコッティへ)あなたにとって監督の分身を演じるというのは責任が重かったと思いますが、監督とはどんなことを話しましたか。

スコッティ:僕はまず、自分が監督の子供時代を演じるということは、あまり考えないようにした。もちろん、これは監督のパーソナルなストーリーだけど、ひとつのキャラクターとして考えようと思ったんだ。パオロはつねに僕を導いてくれたよ。世界でもっとも素晴らしい監督のひとりに指導を受けるなんて、とても恵まれていた。

パオロからは、あまり考えなくていい、ただキャラクターに集中して演じればいいと言われた。彼から教わったことで一番心に残っているのは、「自分にとって真実を語ることが大事であり、僕は君の真実を理解したい。演技するのではなく感じればいい。感情を生きることが大事なんだ」と言われたことだね。

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―準備としてはどんなことをしましたか。

スコッティ:役に決まったという話をもらってから1ヶ月、両親のもとを離れてナポリでひとり暮らしをした。それで何かが変わるか、あるいは何も変わらないかもしれないけれど、そういう状況を受け入れてみようと思ったんだ。あとは当時の音楽を聴いたり、映画を観たよ。(フェデリコ・)フェリーニのいくつかの作品や、トリュフォーの『恋愛日記』(1977年)とか。でもこの作品に出る前、少し演劇をやっていたから、その経験はずいぶん役立ったと思う。

―トニ・セルヴィッロはソレンティーノ作品に何本も出演している、監督の守護神のような存在ですが、彼との共演はいかがでしたか。

スコッティ:とても思い出深いものだったよ。彼は自分のことをあまり語らないから、詳しくはわからないけれど、撮影中、演技のことや俳優という仕事について、いろいろと話してくれた。それを聞きながら僕は、本当に父親みたいだと思って感動した。でも彼をバイクの後ろに乗せて運転するのはとても緊張したよ。事故ったら大変だから(笑)。

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―監督に質問ですが、本作では映画に対する憧れと愛が溢れています。あなたが映画に出会ったのも同じような年頃だったのですか。

監督:僕が映画に出会ったのは決して早いほうではない。18歳でフェデリコ・フェリーニやイングマール・ベルイマン、ライナー・ヴェルナー・ファスビンダーなどの映画を発見して、惹かれるようになった。僕は映画学校には行っていない、完全に独学だ。だから僕の映画の知識はかなり偏っていると思う。

―さきほど本作を作ることがセラピーのようになることを期待したとおっしゃっていましたが、効果はありましたか。

監督:まだ出来上がったばかりだから、実際のところはよくわからないというのが、正直な気持ちだ(笑)。

―(スコッティへ)今後はどんな作品に出たいと思いますか。

スコッティ:イタリア映画はもちろんだけど、外国の監督とも仕事をしてみたい。アジア映画もファンなんだ。パク・チャヌク、リー・チャンドン、三池崇史、みんな異なるけれど素晴らしいと思う。

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取材・文:佐藤久理子

『The Hand of God』は2021年12月3日(金)より一部劇場にて公開、12月15日(水)よりNetflixで独占配信

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『The Hand of God』

1980年代のナポリ。サッカーを愛する少年ファビエットが、家族を襲った突然の悲劇を経て、映画監督として生きる不確かだが希望に満ちた未来に向かって歩み出す。

制作年: 2021
監督:
出演: