不倫女性の心情変化を濃厚なベッドシーンで描く『シンプルな情熱』 レティシア・ドッシュにインタビュー「私は愛を定義しない」

  • Facebook
  • Twitter
  • LINE
ライター:佐藤久理子
不倫女性の心情変化を濃厚なベッドシーンで描く『シンプルな情熱』 レティシア・ドッシュにインタビュー「私は愛を定義しない」
『シンプルな情熱』©2019L.FP.LesFilmsPelléas–Auvergne-Rhône-AlpesCinéma-Versusproduction ©Julien Roche

“まぼろしのカンヌ”で話題沸騰!

2020年、惜しくも開催されなかったまぼろしのカンヌ国際映画祭に選出された「カンヌ・レーベル」作品として、もっとも話題にのぼった一本が『シンプルな情熱』だ。

『シンプルな情熱』©2019L.FP.LesFilmsPelléas–Auvergne-Rhône-AlpesCinéma-Versusproduction

フランスの人気作家アニー・エルノーが自身の体験をもとに、毎日年下の愛人からの電話を待ち続け、逢瀬が叶うとひたすら情事に耽る不倫の女性の心情を描きベストセラーとなった原作を、気鋭の若手女性監督ダニエル・アービッドが映画化。ヒロインには、カンヌでカメラドールを受賞した『若い女』(2017年)で一世を風靡し、演技派として注目を浴びるレティシア・ドッシュが扮し、対する相手役にはダンス界の異端児と言われるカリスマ、セルゲイ・ポルーニンが抜擢され、恋人たちの官能的な情事を演じる。

赤裸々なベッドシーンに何人もの有名女優が辞退したというこの役に、果敢に挑んだドッシュが、多くの議論を巻き起こしたヒロインの愛のあり方について、またポルーニンとの共演について率直に語ってくれた。

レティシア・ドッシュ ©Philippe Quaisse / UniFrance

「観客はまるで彼女の頭のなかにいるような気分になる」

―アニー・エルノーの原作は全部読んでいらっしゃるそうですね。どんな点に惹かれるのでしょうか。

もちろん、いつか自分が演じることになるとは思っていなかったけれど、これまでの本は全部読んでいた。彼女の小説はいつも心を掻き乱されるようなところがあり、読み終えて無傷でいられることがない。優しさがありながら同時に、身を切られるような要素がある。だから読む際は自分がしっかりした状態じゃないと辛い。そこがまた魅力でもあると思う。

『シンプルな情熱』©2019L.FP.LesFilmsPelléas–Auvergne-Rhône-AlpesCinéma-Versusproduction ©Julien Roche

―この役を演じることになった経緯はどのようなものだったのでしょう。ベッドシーンが多いのは、覚悟の上でしたか?

じつは最初に演じることになっていた女優が降りて、そのあとまた有名な女優が候補に挙がっていたのだけれど、ヌードになるのを嫌がって断り、アービッド監督はずっと女優を見つけられずにいたの。そんなとき、以前仕事をした縁で、本作のプロデューサーがわたしのことを監督に紹介してくれて、引き合わせられた。監督からは、ベッドシーンが8つ出てくるけれど、それらのシーンを通してふたりの愛の関係を描きたいと言われた。ふたりの関係には異なるトーンがあるから、ベッドシーンでその変化を描写したいのだと。

そんな試みの映画はこれまで観たことがないので、とても面白いと思ったの。それにこの映画が、女性の視点を通して描かれるということにも惹かれた。観客はまるで彼女の頭のなかにいるような気分になる作品よ。とにかく、わたしは初対面の監督とすぐに打ち解けることができて、即座に「ウイ」と返事をしたの。

『シンプルな情熱』©2019L.FP.LesFilmsPelléas–Auvergne-Rhône-AlpesCinéma-Versusproduction ©Julien Roche

「ダークだけれど光を感じさせるセルゲイは、優れた俳優になる資質を持っている」

―役作りのためにどんな準備をしましたか?

もちろん、まず減量したわ(笑)。スポーツもやった。綺麗に映りたかったし(笑)、とくに相手役のセルゲイは素晴らしい肉体の持ち主だから、それに見合わないと思われるのが怖かった。

―ダンサーのセルゲイは、裸になることにもまったく抵抗がなかったそうですが、そんな彼の状態はあなたに演じやすさをもたらしましたか。

ええ、とても。彼は本当に紳士で気遣いがあって、女性をリスペクトしてくれる。それだけでも快適だけど、さらにユーモアがあって、撮影の合間にはいつも冗談を言い合っていた。相手役の男優が気詰まりを感じていると、悲惨な体験になるけれど、セルゲイの場合まったく不安にならなかった。お互いちょっと緊張したときはコニャックを一杯煽って撮影に臨んだわ(笑)。

『シンプルな情熱』©2019L.FP.LesFilmsPelléas–Auvergne-Rhône-AlpesCinéma-Versusproduction ©Julien Roche

―とはいえ彼が映画でこのような大役を演じるのは初めてですが、俳優として彼はどんなタイプだと思いますか?

とてもプロフェッショナルで、心を動かされるところがある。彼の役はあまりエモーションを表に出さないロシア人で、監督もそういう演出をしていたから、彼はとても演じづらかったと思う。感情を見つけられないことを恐れていた。でも彼は優れた俳優になる資質を持っているわ。たとえばホアキン・フェニックスのように、ダークでいてどこか光を感じさせるところもある。だから表情に富んだ役柄だったら、彼のダンスと同じように、とてもエモーショナルで豊かなものになると思う。彼もそういう役を、これから演じることに興味があるんじゃないかしら。

「彼女にとって肉体的な快楽を再発見することは大事だったのだと思う」

―あなたはエレーヌという女性をどのように解釈しますか? 原作者のアニー・エルノーはフェミニストとして知られていますが、男性に振り回されている本作のヒロインは、見方によってはその対極と言えなくもないですよね。それとも恋をすると、すべては帳消しになるということでしょうか。

たしかに、このヒロインはとても矛盾している。わたしはこの役を演じながらエルノーがフェミニストであること、とても知的な女性であることは忘れないようにしていた。女性としてエレーヌのような状況は、いいものとは言えない。自分だって女としてできるだけ自立していたいと思うけれど、男性との絆も持ちたいし、限界はある。エレーヌは自立と男性との関係とのちょうど中間にいて、彼女にとって肉体的な快楽を再発見することは大事だったのだと思う。でも、それが愛なのかそうじゃないのかは、わからない。わたし自身は愛というものを定義しない。情熱や欲望も愛の一部なのか? 正直わからないわ。

『シンプルな情熱』©2019L.FP.LesFilmsPelléas–Auvergne-Rhône-AlpesCinéma-Versusproduction ©Magali Bragard

―自分の子供のことすら忘れてしまうほどにのめり込む状態というのは、理解できますか?

ええ。誰かに夢中になったり、何かに没頭して周りが見えなくなってしまうことはあると思う。わたし自身もそういう面があるから理解できるの。自分にとって、それは怖いことだけれど。このヒロインは1年の経験だったものの、人によってはそういう状態が長いこと続く場合もあると思うわ。

『シンプルな情熱』©2019L.FP.LesFilmsPelléas–Auvergne-Rhône-AlpesCinéma-Versusproduction ©Magali Bragard

取材・文:佐藤久理子

『シンプルな情熱』は2021年7月2日(金)よりBunkamuraル・シネマほか全国公開

Share On
  • Facebook
  • Twitter
  • LINE

『シンプルな情熱』

「去年の9月から何もせず、ある男性を待ち続けた」と追想するエレーヌ。パリの大学で文学を教える彼女は、仕事もしたし、友だちと映画館へも行った。だが、彼と抱き合う以外のことは現実感がなく、何の意味もなかったのだ。

彼の名前はアレクサンドル、あるパーティで出会った、年下で既婚者のロシア人だ。友人のアニタからは「のめり込まないで。いずれロシアに帰るのよ」と忠告されていたが、エレーヌには今の恋を生きることが全てだった。

アレクサンドルからの電話をひたすら待ちわびるエレーヌであったが、彼から「次にいつ会えるかわからない、3週間フランスを離れる」と告げられる。彼の不在に耐えられなくなったエレーヌは、息子とフィレンツェへの旅に出る。

そして、3週間後、アレクサンドルからの連絡を待つエレーヌのもとに、1本の電話が入るが……。

制作年: 2020
監督:
出演:
  • BANGER!!!
  • 映画
  • 不倫女性の心情変化を濃厚なベッドシーンで描く『シンプルな情熱』 レティシア・ドッシュにインタビュー「私は愛を定義しない」