主演ロモーラ・ガライが役作りから#MeTooまで語る!『ミス・マルクス』は時代を先駆けた女性活動家のパンクな伝記ドラマ

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ライター:佐藤久理子
主演ロモーラ・ガライが役作りから#MeTooまで語る!『ミス・マルクス』は時代を先駆けた女性活動家のパンクな伝記ドラマ
『ミス・マルクス』©2020 Vivo film/Tarantula
Photo by Dominique Houcmant

“マルクスの娘”を熱演! ロモーラ・ガライの代表作誕生

2020年の第77回ヴェネツィア国際映画祭でワールドプレミアを迎え、「強烈なパフォーマンス」「控え目ながら、文句なしに人の心を打つ演技」と絶賛されたのが、カール・マルクスの末娘の半生を描いた『ミス・マルクス』で、ヒロイン、エリノアに扮したロモーラ・ガライだ。

『ミス・マルクス』©2020 Vivo film/Tarantula

デビューからほぼ20年を迎えるガライは、これまでフランソワ・オゾン初の英語映画、『エンジェル』(2007年)のヒロイン役や、キーラ・ナイトレイと共演した『つぐない』(2007年)、キャリー・マリガン主演の『未来を花束にして』(2015年)の他、イギリスのTVシリーズにも多く出演してきた。だがそのなかでも本作は、彼女の代表作と言える。

『ミス・マルクス』©2020 Vivo film/Tarantula/Photo by Emanuela Scarpa

父カール・マルクスとともに社会主義の普及に務めながら、女性の権利を主張し、翻訳や演劇活動もしていたエリノア・マルクスは、私生活では浪費家で女性問題が後をたたない戯曲家のエドワード・エイヴリングに献身的な愛を捧げつつ、43歳の若さでこの世を去った。古色蒼然とした時代映画ではなく、パンク音楽などを用いながら、現代にも通じる女性の生き方のドラマとして描かれた本作について、ガライに訊いた。

ロモーラ・ガライ

「パンクロックは役になりきるのにとても役立った」

―この役のリサーチの過程で、エリノアについてどのようなことを知りましたか。

じつは1910年代の女性参政権運動を描いた『未来を花束にして』に出演したとき、この時代についてリサーチするなかでエリノアの名前が出てきたの。でも、そのときは彼女についてあまり深くは調べなかったから、今回はもっとよく知るきっかけになったし、彼女のような人物を演じることができるのはとてもエキサイティングだった。

『ミス・マルクス』©2020 Vivo film/Tarantula
Photo by Emanuela Scarpa

彼女の書いた手紙や記録を読んで、社会主義のキャンペーンのために各国を回り、19世紀初頭の社会主義のムーブメントでとても重要な人物だったと知った。彼女は父の仕事を引き継ぐ意義を感じていたのだと思う。そして父親の思想を市井の人々にもっとわかりやすく伝えるために、工場を訪問して人々に直接訴えていた。社会主義が世界を変えることを信じていたのね。それに当時、社会主義はいろいろな派に分離していたけれど、彼女は誰からも好かれていた。いわばまとめ役のような存在だったの。

『ミス・マルクス』©2020 Vivo film/Tarantula
Photo by Emanuela Scarpa

―そんな彼女が「ダメ男」のエイヴリングに、裏切られながらも尽くし続けたというのは驚きですが……。

本当に。これはわたしの想像だけど、おそらくふたりは知的な面でとてもマッチしていたのではないかしら。それに彼女ほど聡明な人物に見合う男性も、そう多くはいなかったはず。彼女は結婚制度を時代遅れの産物と見なしていたから、エイヴリングが既婚男性であることにはこだわらなかった。

『ミス・マルクス』©2020 Vivo film/Tarantula
Photo by Emanuela Scarpa

映画のなかで彼女は、「一緒にいると、とても楽しい」と言うけれど、おそらくもっと強い繋がりがあったはず。それにふたりはある意味、社会主義の象徴的なカップルのようなところがあったから、別れることがよくない印象を与えるのを恐れて、精神的に追い込まれていったのかもしれない。ただエイヴリングは貧しい人のことを本心では気にかけていなかったし、見せかけだけの社会主義者のような印象がある。

『ミス・マルクス』©2020 Vivo film/Tarantula

―スザンナ・ニッキャレッリ監督のアプローチはとてもユニークですね。パンクロックの音楽にのって踊るエリノアのシーンがとても印象的ですが、監督のアプローチをどう感じましたか。

パンクロックは役になりきるのにとても役立ったわ。あのシーンは、エリノアの底にある怒りやストレスをよく表現していたと思う。スザンナはエリノアにとても共感していて、外観も含めて細かい点まで自分のなかで決まっていた。時代感にあまり捕われないコスチュームや、エリノアが歳をとってもあまり変わらないようにすることも彼女のアイデア。彼女の個性的なアプローチがこの作品の魅力になっているわ。

『ミス・マルクス』©2020 Vivo film/Tarantula
Photo by Emanuela Scarpa

「いまだに90%近い映画が男性監督によって作られている」

イタリア人のスザンナ・ニッキャレッリ監督はガライについて、「とても知的で理解が深い。ふたりで話し合っているなかで、彼女こそエリノアだと思った」と語っている。実際、ガライの発言を聞いていると、社会的なヴィジョンや政治的な意見をはっきり持っていることが伺える。話題はフェミニストだったエリノアから、現代のハリウッドの状況、さらに自身も危うく被害に遭いそうになったハーヴェイ・ワインスタイン事件と「#Me too」ムーブメントへと広がった。

『ミス・マルクス』©2020 Vivo film/Tarantula
Photo by Dominique Houcmant

―エリノアはフェミニストの草分けでしたが、あの時代からわたしたちがどれほど進歩したかは疑問です。現在、ハリウッドでは女性の活躍が注目を浴びていますが、いまの状況をどう感じていますか。

少なくともわたしがこの仕事を始めた頃よりは、幸い進歩していると思う。いまの若い女優たちは、仕事場で肉体的な危険に晒されることはないのではないかしら。

『ミス・マルクス』©2020 Vivo film/Tarantula
Photo by Dominique Houcmant

―あなたはワインスタイン問題が公になったとき、自分もホテルに呼ばれて被害に遭いそうになったと公表し、彼を「シリアル・レイピスト」と呼んでいますが、業界全体にも責任があったと?

ええ、見て見ぬふりをして、彼のような人物が存在することを許していた、というかほとんど保護していた。こういう事件は実際に被害に遭った人以外には、なかなか事の重大さがうまく伝わらない難しさがある。「#MeToo」ムーブメントはその点で対話の場をもたらし、女性が安心して働けるような環境がもたらされることに役立った。

というのも、ワインスタイン以前から、ハリウッドは長らくセクシストの伝統があったと思うから。いまだに90%近い映画が男性監督によって作られていることも、それを物語っている。そういう環境が今後、早く変化していくことを願っているわ。

ロモーラ・ガライ

取材・文・撮影:佐藤久理子

『ミス・マルクス』は2021年9月4日(土)よりシアター・イメージフォーラム、新宿シネマカリテほか全国順次公開

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『ミス・マルクス』

1883年、イギリス。最愛の父カールを失ったエリノア・マルクスは劇作家、社会主義者のエドワード・エイヴリングと出会い恋に落ちるが、不実なエイヴリングへの献身的な愛は、次第に彼女の心を蝕んでいく。社会主義とフェミニズムを結びつけた草分けの一人として時代を先駆けながら、エイヴリングへの愛と政治的信念の間で引き裂かれていくエリノアの孤独な魂の叫びが、時代を越えて激しいパンクロックの響きに乗せて現代に甦る。

制作年: 2020
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