『夏、至るころ』で監督デビュー! 池田エライザが影響を受けた映画は?「技術が発達しても超えられない“何か”がある映画に憧れる」【第二回】

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ライター:稲田浩
『夏、至るころ』で監督デビュー! 池田エライザが影響を受けた映画は?「技術が発達しても超えられない“何か”がある映画に憧れる」【第二回】
『夏、至るころ』池田エライザ監督

女優・池田エライザが原案・初監督を務めた映画『夏、至るころ』が2020年12月4日(金)より全国順次公開。福岡県田川市を舞台に、高校最後の夏を迎えた太鼓少年の翔(しょう)と泰我(たいが)の思春期ならではの葛藤、そして不思議なギター少女・都(みやこ)と出会ったことで始まる特別なひと夏を描く本作は、地域の「食」や「高校生」とコラボした<ぼくらのレシピ図鑑>シリーズ第2弾だ。

かねてから製作側に興味があったという池田は、念願の監督デビュー作にどんな想いで挑んだのか? 撮影現場のエピソードから垣間見える責任者としての矜持、キャスト・スタッフへの気遣いと信頼、そして影響を受けた映画などから、映画監督・池田エライザの“個性”が見えてきた。

 

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「結局は“人と人でしかない”ということ」

―青春映画には“系譜”みたいなものがありますが、残っているのはやはり王道みたいな作品が多い気がします。

私は見た目とか名前とかが派手だから、いろいろなイメージを持たれるけど、私自身“直球”なんだと思います。『夏、至るころ』は、私の身の回りの人が「超エライザっぽい」って言ってくれるような映画ですし。

―キャスティングは映画の全体像が見えたところで決めていのでしょうか?

脚本ができてからキャスティングしたけど、また(キャストに)当ててちょっと書き直したりもしたかな? これは監督によるんですが、私が書いたから私の解釈のものが正解とも言えるけど、私以外の誰かが読んだ瞬間に他者の解釈が生まれるわけで、そこを尊重するというか、折り合いをつけるのがすごく楽しかった。「そうか、あなたなりの翔ちゃんがいて、私なりの翔ちゃんがいて、この差はなんなんだろう?」っていうのが、結局この映画のいちばん大切にしている人の原体験みたいなところだから。何か、そういうことについて話し合っていると、自ずとセリフも変わってくるというか。結局、監督をしていていちばん思うのは“人と人でしかない”っていうこと。演出の仕方しかり、その人にとって最善の監督っていうのを常に選択していかなければならないので。

『夏、至るころ』©2020「夏、至るころ」製作委員会

―それは一人一人に対して、委ねるという?

結局“みんなで作る”っていうのが好きなんだと思います。ポリシーがないってこととかではないんだけれど、たぶん私が映画に一番惚れ込んでいる理由って芸術的なところとかではなくて、まったく違うプロの人たちが集まって、世代もバラバラで、でも同じ方向を向いて撮るっていうところ。それぞれ折り合いをつけて、共感し合って、把握して察してっていう……それがすごく好きなんです。監督が「私の言うことを聞いて!」って言ってしまった瞬間に、「じゃあ監督が好きにやれば?」ってなっちゃうから。そうならないように極力、聞いて、考える。

『夏、至るころ』©2020「夏、至るころ」製作委員会

「撮影現場がそのまま映るというか、映画にもその空気感が反映されると思う」

―主人公たち3人が集うプールのシーンもそうですが、友情や恋愛や不安など、簡単な言葉に回収しづらい感情の“揺れ”みたいなものが丁寧に描かれていますよね。映画全体がそうした揺れの中で成立していると感じました。

そうですね。技術部の方を選ぶときの前提として、もちろん技術力は大切ですが、声を荒げない、ということがものすごく大事で。役者の仕事がすごく繊細で、本当にミリ単位の仕事だと分かっているからこそ、みんな「いま彼が集中しているから、息を止めて集中して撮ろう」って。彼らが芝居しやすいように……翔ちゃんの泣き芝居もそうだし、呂依くんの怒りの芝居もそうだし、役者優先で動いてくれる。結局、撮影現場がそのまま映るっていうか、その空気感が映画にも出ると思うので、そこだけは絶対ギャップのないように気をつけていました。

『夏、至るころ』©2020「夏、至るころ」製作委員会

―さきほどお話された人間関係も、そういうことなんでしょうね。一人一人に向き合って生まれる時間、それが画面から伝わるでしょうし。

芝居の演出の仕方って、本当に人によるじゃないですか、例えば呂依くんとかは、オーディションで「怒ったことがない」って言うんですよ。私、ちょっとそれが悲しくて。なんか知恵年増になって未来に希望すら描けなくて、ドライになってるんだろうなって。だからその引き出し方は、本当に残酷なぐらいに煽らなきゃいけなかったり。でも、ベテランの方が「すみません、編集の都合でちょっと切るんで、ここだけ繋いでもらっておいていいですか?」って聞くと、普通に「はい!」って言ってくれた。リリー(・フランキー)さんとか原(日出子)さんは、感情論とかを操作しようとすることではなくて、画の都合を伝えたりする方が理解してくれたりするし、自分が何をすればいいか、その役割を認識してもらうだけで、お芝居は完璧だから……。演出がいちばん、もちろん編集もだけど、楽しかったですね。

『夏、至るころ』©2020「夏、至るころ」製作委員会

―1本目でそこまでいろんなことを見通せているっていうのは、すごいことだと思います。

いまは火薬を使った派手な演出で、大勢の人が亡くなってしまうような映画も気軽に観られる時代じゃないですか。でもケータイで2時間、人の噂話についてああだこうだに使うよりも、「こういう映画を観てみる2時間っていかがかしら?」っていう、私からのプレゼント……というか“提案”ですね。何も起こらないんだけど、自分の声とかセミの音とかから、自分ちの近所の煮魚作っている匂いとかを思い出して、ご近所さんの煮魚を作っている匂いなんかを思い出して、そのへんの空き地とかで「ちきしょう、あんな大人になるもんか!」って思ってたなっていうようなことを思い出して、自分の核になる部分を疎かにしてきたなってことに気付いたり。他人に対するああだこうだじゃなくて、自分を思いやる時間に充ててほしい。だから“学生時代の夏”。日本人はありがたいことに、ほとんどの人が学校に行けている。だから、そういう原体験について自分のために時間を使って欲しいなって思うんです。

「こんなに技術が発達しても超えられない“何か”がある過去の映画に憧れる」

―今回、エライザさんが影響を受けた映画をインタビューの前に挙げていただきましたが、『スワロウテイル』(1996年)『レディ・バード』(2017年)『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』(2017年)『千と千尋の神隠し』(2001年)『裸足の季節』(2015年)と、かなりバラエティに富んでいますね。

この5作に共通しているのも……いまの世の中、自分もそうなりがちだけど、みんな未来の心配をしすぎて自分のことを考えていない気がしていて。日本は特に秩序を守ったりすることにすごく神経をすり減らしているから、観た後に自分のことを考えさせてもらえる映画という部分で共通している気がします。『レディ・バード』なんて映画館を出た後、帰り道でずっと泣き止まなくて……。あのカットきれいだったなとか、あのお芝居すごくいいなとか、そんなの一切なくて。「あぁ、あの人にお礼を言っていなかったな」とか、そういうことを考えるほうが、未来を心配するよりも足取りを強くしてくれる気がするんですよね。どんなに先のことを予測しても、それが外れていたら何にもなくなるけど、どうなっても対応できる“己”を持っていたほうが迷子にならないのかなって。そういうのって結局、自分の原体験に触れたりすることが強さを育ててくれると思うから。そんな意味で、この映画たちがすごく好きなんです。

―いちばん昔に観た作品は?

『千と千尋』世代です。もう小学生とか幼稚園とかですよ。子供のときって、込められた社会風刺には気づかない。「わぁ、お父さんが豚になった!」とか言って。「龍が飛んでる!」みたいな。五感を刺激するきれいなエンターテインメントとして「すごい」って思っていたのが、また10代、20代になると全然見え方が違ってくる。年齢によってどの層を見るかが変わってくるから。『スワロウテイル』とかはお芝居を始めてからなので、19歳とか?

 

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―では、過去のものとして観て?

そうですね。画面からスタッフの熱量が伝わるというか、映画にみんなが命をかけている。やっぱり、映画そのものが好きな人からしたら羨ましい体験じゃないですか。わりと合わせ鏡みたいな存在で、何回も観ちゃいますね。そのときの自分の精神状態がわかるというか、余裕のなさというか、モードがわかる。

―それは具体的に、どういったものでしょう?

“憧れ”ですね。なんか……こんなに技術が発達しているのに、超えられない“何か”がある。予算だけじゃないと思うんです。その“すごい画”を撮ろうって監督が言ったときに、大体プロデューサーが頭を抱えるんですけど、それをみんなで「えいっ!」って気合いでやれちゃったっていうことですね。「まじかよ!」って思いながらエキストラを呼んで、「まじかよ!」って思いつつ助監督もエキストラたちに演出をつけて……すごいことだよなって思います。

取材・文:稲田浩

写真:嶌村 吉祥丸

『夏、至るころ』は2020年12月4日(金)より渋谷ホワイト シネクイント、ユナイテッド・シネマキャナルシティ 13ほか全国順次公開

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『夏、至るころ』

翔(しょう)と泰我(たいが)は高校最後の夏を迎えていた。二人は幼い頃から祭りの太鼓をたたいてきた。だが、泰我が突然、受験勉強に専念するから太鼓をやめると言い出す。ずっと一緒だと思っていた翔は急に立ちすくんでしまう。自分はどうしたらよいのか、わからない……。

息子の将来を気にかける父と母、やさしい祖父と祖母、かわいい弟。あたたかい家族に囲まれると、さらに焦りが増してくる翔。ある日、祖父のお使いでペットショップを訪れた翔は、ギターを持った不思議な少女・都(みやこ)と出会う。彼女は音楽をあきらめて東京から故郷に戻ってきていた……。

制作年: 2020
監督:
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