押井守「映画は一期一会じゃない、再会するもの」(1/3)

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ライター:BANGER!!! 編集部
押井守「映画は一期一会じゃない、再会するもの」(1/3)
この映画が観たい#65 〜押井守のオールタイム・ベスト〜
70年代からテレビアニメの演出を手がけ、劇場版『うる星やつら』や『機動警察パトレイバー』、そして『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』で世界にその名を轟かせた押井守監督。実写映画も多く手がけ、また小説家や劇作家として多方面で精力的に創作活動を続ける押井監督が、映画というテーマでインタビューに応えてくれました。映画との出会いから人生を変えた作品との邂逅、さらに制作現場での苦労話などなど、超・濃厚な内容でお届けします!(全3回)

“映画の原体験”は、私立探偵の親父に連れて行かれた映画館

僕が子どもの頃って、街中が映画館だらけだったんですよ。大田区の外れのほうの大森っていうところで生まれて育ったんですが、大森だけで確か8軒くらいあった。だから毎日観ても余るくらい。あと、うちの死んだ親父っていうのがですね、要するに“私立探偵”やってたんですよ。私立探偵って言っても犯罪捜査とかじゃなくて、信用調査とか旦那の浮気の尾行とか、そっちの方。

だから基本的にヒマなんですよ、仕事がそんなにあるわけじゃないから。僕は末っ子だったんですけど、学校から戻るとよく映画に連れていかれて。週に2~3回は行ってたんじゃないかな。その関係で、気がついた時には映画を観てたっていうかね。もちろん子どものために映画に行くっていうんじゃなくて、自分が観たい映画しか観せてくれなかったけど。たぶん家にいたくなかったんだと思う。お袋がうるさかったんじゃないですかね、仕事ないから。長く外に居たかったのかもしれない。だからテレビがうちに入ってからはピッタリ行かなくなった。完全にテレビっ子になっちゃったから。

映画も嫌いじゃなかったんだろうけど、それよりは時間つぶしだったんじゃないですかね。いわゆるチャンバラ映画しか観せてくれなかったから。それかギャング映画。あとは新東宝とか、ちょっと“あやしい”映画ですよね。どっちにしても子どもが観る映画じゃない。

『バンビ』だか『ダンボ』だかが近くの映画館でかかった時に、1日中泣きわめいて。「観たい観たい」って言い続けても、ついに連れてってくれなかった(笑)。普通はそこで連れてってもらって、子どもだから『ダンボ』とか観て、もしかしたらそれで人生変わってたかもしれないじゃないですか?  だから僕は、ディズニーのアニメーションが好きじゃない、はっきり言って嫌い。っていうのは、そういうのがあるのかもしれない。子どもの頃に観てれば違ってたかも。そういう感じなんで、映画の原体験というよりも「気がついたら観てた」っていう感じじゃないですかね。

「中学校に上がった頃には一人前のSF者になってた」

一番最初に覚えてるのは『宇宙水爆戦』(1954年)。もちろん当時はタイトルも知らなかったけど、画面だけは覚えてた。幼稚園に上がる前、3歳の時に、たぶん親父と一緒に観に行った。チャンバラ映画しか観ない親父が、なぜこれを観に行ったのか? 謎ですよね(笑)。だだ、どこで観たかは覚えてる。確か川崎の映画館だった。たぶん、ほとんど寝てたんじゃないですかね。いくつかシーンを覚えてるだけ。

でも、ひさしぶりにパンフレットを見たら記憶違いがあるので、ちょっとびっくりした。確かこのお姉さん、僕の記憶の中では金髪のお姉さんだったんですよ(笑)。もっとエロチックな、グラマーだったような記憶もあるんだけど、そういうわけでもなさそうだし。『禁断の惑星』(1956年)とか、あの辺と一緒になってるのかもしれない。

(『宇宙水爆戦』には)ミュータントが出てくるんですよ。脳みそが露出した有名なモンスターなんですけど。そのモンスターがお姉さんを襲うシーンがあって、そこだけははっきり覚えてる。僕の中でモンスター映画と美女がセットになったっていうのは、その時の記憶なのかもしれない。だから、いまだにモンスター映画とかには絶対に美女が必要だ、モンスターと美女はセットだっていう確信みたいなものがある。どっちかだけじゃダメっていう。

それが、かなり焼きついちゃったのかもしれない。のちにSF好きになって、中学校に上がった頃には一人前のSF者になってた。SFしか読まない、SF映画しか観ない。そういう意味で言えば、これが直接の影響かどうかわからないですけど、資質が芽生えちゃったことは間違いない。まあでも、子どもはみんなこういうの好きだからね。嫌いな子どもの方が珍しいから原因とは言いにくいかもしれないけど、そういうものが素地としてあったのかもしれない。「映画ってこういうもんだ」っていうのがどこかしらにあった。

その後、何度か観たにも関わらずラストはよく覚えていない(笑)。けっこうウィットが利いた皮肉なSFなんだけど、ラストがどうだったかまるっきり覚えてないんですよ。もう一回観るかっていったら……たぶん観ないと思う(笑)。

「映画は一期一会じゃない、再会するもの」

お話って基本的に2~3回観たら終わりなんで。30年くらい経って観れば、また違う発見があるんだろうけど。中にはそういう映画ありますからね。『ハスラー』(1961年)とか、学生の頃に観たときはなんてことないと思ったんだけど、60過ぎて観たときビックリした。「こんなにすごい映画だったのか」って。それは、こっちが成長したから。

ただ、それは例外なんで。映画っていうのは、僕は基本的にディティールしか覚えてない。「ウルトラマン」だって、どんな話だったかなんて覚えてる人の方が少ないと思うんですよ。だから映画はディティールが大事だっていう、そんなような本を先日出しましたけど(「シネマの神は細部に宿る」東京ニュース通信社刊)。ディティールがなかったら、映画なんて半分も観る価値ないと思う。お話だけだったら、それこそラジオドラマだっていいんで。小説読んだ方が面白いし。映画の最大の魅力は何かって言ったら、僕にとってはそういうディティールなんですよね。

これ(『宇宙水爆戦』)なんかはミュータントもそうなんですけど、最初のシーンでノースロップ(※米国航空機メーカー)が造った全翼機が出てくるんです。要するに胴体がない爆撃機。その正体も、後に飛行機マニアになったから分かったんですけど、ずっと覚えてた。「翼だけで飛んでる、あのでっかい飛行機なんだろう?」っていう。それが長ずるに及んで、その正体がわかっても、そっちの趣味が続いちゃうっていうか。どっちかって言ったらSFとの出会いっていうよりも、割とミリタリーっぽいものとの出会いだったのかもしれない。飛行機とか軍艦とか、毎日そういう絵を描いていた子どもなので。当時は別に珍しくなかったけどね、子どもはみんなそういうの好きだから。

要は、それが後になって分かるっていうさ。それがまた映画の面白いところで。自分の映画のセリフでも使ったと思うんだけど、「再会することが大事だ」っていう。だから、こういうの(インタビュー)は最高の機会ではあるんですよね、普段は忘れちゃってるわけだから。映画って一期一会じゃなくて、再会するもの。再会した時に、改めて“恋愛関係”に入ったり“お師匠さん”になったりとかね。新しい関係になるっていうか。それが映画のいいところだと思う。

アニメーションの世界に入ったきっかけ

この映画が観たい#65 〜押井守のオールタイム・ベスト〜

他に行き場所がなかったっていうか……別に普通の“映画青年”だったから。普通に助監督やって、監督になりたいと思ってたんだけど、ちょうど日本映画が不景気になり始めた時期で、募集も何もなかったんですよ。だから実は、8ヶ月か10ヶ月か、一応サラリーマンやったことあるんですよ。って言ったって2人しかいない会社だったけど。いわゆる普通の“給与生活者”ってやつをね、一応は経験したんですよ(笑)。

そのあとラジオの仕事をして、深夜放送とか作ってたんですけど。だから卒業して2年間くらいは違う仕事してて、3年目にいよいよどうするんだ? って時に、アニメスタジオに入った。そこから何が変わるかっていうとね、アニメスタジオ入って子ども向けのお笑い系の番組をやった時に、周りがキャッキャ言って笑ってくれたんですよ、「あなた面白いね、ギャグに向いてるよ」って。その時に、初めて自分の仕事を評価されるっていうさ。もっとわかりやすく言うと“ウケる”っていう快感に目覚めたっていうかね。自分が作ったものを観て、みんな面白がってくれるっていう、人を面白がらせるっていうことが好きであることに気がついた。

そこらへんから先ね、自分は仕事として映画やれるんじゃないか? っていうさ。その経験が大きかった。アニメスタジオに入ったからこそね、小難しい理屈並べてた映画青年が、単純に面白いものを作って喜んでもらうっていう、その快感に目覚めちゃった。だから大きな経験だった、確かに。「人に評価されるってことは、こんなに嬉しいのか」って。映画青年だった頃は、評価されなくて当たり前だと思ってたから。自分はそういうことやってるんだって。いつかは映画作家として評価されたいと思ってたわけだけど、それはいつか分からない話で、妄想に近いんだけどさ。映画祭でグランプリ獲ったりとかね。そういうのが全部吹っ飛んじゃった。はるかにこっちの方が面白いっていう(笑)。

だから自分はエンタテインメントをやる資質があるんだってことに気がついたっていうかね。楽しくてしょうがなかったの。人を笑わせることがこんなに面白いのかって。まあ<タツノコプロ>ですね、「ヤッターマン」とかをやってて。最初に監督をやった「うる星やつら」も基本的にそういうドタバタのギャグものだから、楽しくてしょうがなかった。楽し過ぎたっていうくらい。エスカレートしていくわけですよね、どんどん破壊的になってっちゃったっていうか。

それが原因で、逆に仕事が難しくなったりとか。それが「ビューティフル・ドリーマー(『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』1984年)」ってことなんだけどさ。言っちゃえば、そういう流れなんですよ。

「映画っていうのは、裏切るものなんだ」

『白馬城の花嫁』(1961年)は、小学校4年生ぐらいの時に家出したおふくろに連れられて観た映画なんですよ。でも、今の今まで「白馬城の若君」だと思い込んでた(笑)。人間の記憶って本当にいい加減だっていうかね。特に僕は妄想が激しい人間なんで、記憶の中でいろんなことをねつ造していることは間違いない!(笑)

これはお笑いの巨匠というか名匠のね、沢島忠っていう偉い監督さんの作品。今となっては信じがたいけど、ミュージカル映画なんですよ。今どきミュージカル映画なんてね、三池さんの『愛と誠』(2012年)くらいしか思いつかないけど(笑)、昔はいっぱい作ってた。美空ひばりだけじゃなくて、歌って踊ってっていう、日本映画の一大ジャンルだったんですよ。

なぜこれを選んだかっていうと、子ども心に“映画ってのは裏切るものなんだ”っていう記憶があるんですよ。なんでかっていうと、美空ひばりの楽しいミュージカル映画だと思ってたんです。貧しい娘がね、山の彼方に見える白い美しいお城から、白馬にまたがった若殿様が自分を迎えに来るっていうシンデレラストーリー、それぐらいの前知識で観たんですよ。いつになったら迎えが来るんだろう? ってさ、ずっとドキドキして待ってるわけ。

実はこれ結構シリアスな映画なんですよ。結局一人っきりになった娘が江戸に出てきて散々苦労してね、出会った男がやくざのチンピラ、っていうか泥棒だったかな?「この人が自分の若様だ!」って、実際には泥棒なんだけど、まあ色々あって美空ひばりは死んじゃうんですよ。で、恋人だった若者が、美空ひばりが演じた娘のふるさとに旅していくと、そのお城はとっくに廃城になっているんですよ。そこでわんわん泣いて、男泣きに泣いて終わるっていうさ。哀切っていうか「人生ってこんなもんよ」っていうさ。はっきり言って文芸映画に近いですよ(笑)。ものすごくヘヴィーな映画なんです。

子どもだからさ、全然そういうラストを予想していないわけですよ。いつになったら白い馬に乗った若様が出てくるんだろう?って。最後は、その若様と一緒になってお姫様になって……っていうハッピーエンドを期待して観てるわけじゃないですか。全然違うんだよね……最後は悲劇だから。しかも、かなりひどい悲劇。悲惨と言ってもいい。

トラウマ映画が『ビューティフル・ドリーマー』『パト2』につながった

映画をネガティブな形で体験したのがこれ(『白馬城の花嫁』)で、なんでこんな酷い目に遭わされなきゃいけないんだ!? って思った気持ちだけは覚えてる。生まれて初めてそういう不条理感に包まれたっていうか、わかりやすく言っちゃうと“映画に裏切られた”っていう。映画って基本的にすごく楽しいものだっていう、ドキドキワクワクしに行くんもんだっていうさ。なんでこんなひどい仕打ちされるのか分からないっていうね。

今回の「人生のベスト5」っていうのは、「自分の人生に関わった5本」っていうつもりで選んだんです。これは間違いなく、堂々とランクインする(笑)、自分にとってトラウマになった映画ですね。映画に裏切られたっていう。さすがに中学生にもなればね、映画っていったって色々あるんだよっていうさ。悲劇もあれば、ドタバタもあればね、それは自分で選んでいくものなので、何も知らずに観た自分が悪かったんだっていうか、余計な期待を持った自分が悪かったんだぐらいのことは分かるんだけど。

裏切られたっていうか……逆ですよね。僕なんか、学生のころから自分の想像を裏切るような映画を観たいと思ってきたから、良いほうに変わっちゃったっていうかね。期待を裏切られたけど、実はそっちのほうが良かったっていう。裏切るっていったって色々あるんだっていうかね。想像した映画と違ってました、だけど意外に面白かったでしょ? っていう。基本的にそういうスタンスで作ってきた。いつもそう言われてきた。それは「ビューティフル・ドリーマー」だったり「パト2(※『機動警察パトレイバー2 the Movie』1993年)」だったりとかね。

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