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カルト人気作や新鋭監督作を初上映!「映画批評月間」セレクターが語る日本映画の未来

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ライター:#BANGER!!! 編集部
カルト人気作や新鋭監督作を初上映!「映画批評月間」セレクターが語る日本映画の未来
アルテ・フランス・シネマのディレクターのオリヴィエ・ペール氏

アンスティチュ・フランセ日本「映画批評月間」セレクター、オリヴィエ・ペール

フランス語講座やフランス発の文化、思想、学問を発信するフランス政府公式機関「アンスティチュ・フランセ日本」主催の「映画批評月間」第2弾が、2020年3月6日より京都での開催を皮切りに、2020年3月12日(木)~4月19日(日)までアンスティチュ・フランセ東京を中心に、ユーロライブ、kino cinéma横浜みなとみらい、横浜シネマ・ジャック&ベティ、京都の出町座や同支社大学寒梅館、大阪のシネ・ヌーヴォで特集上映が開催中だ。

「第2回 映画批評月間 ~フランス映画の現在をめぐって~」

「映画批評月間」は、フランスの映画媒体、批評家、専門家、プログラマーと協力し、最新のフランス映画を紹介する企画で、今回のセレクションを託されたのが、アルテ・フランス・シネマのディレクターのオリヴィエ・ペール氏。ペール氏は、フランスの映画博物館「シネマテーク・フランセーズ」でキャリアをスタートさせ、映画批評家としても活動し、カンヌ国際映画祭「監督週間部門」やロカルノ国際映画祭のディレクターを務め、若手監督の作品や実験的な映画を精力的に紹介してきた人物。現在は独仏テレビ局<アルテ>の映画部門で、フランスをはじめ世界中の映画作家の作品を支援し、共同製作を行っている。

映画界の最前線で活躍するペール氏に、これまでの輝かしいキャリアや、日本映画に精通する氏だからこそ感じる日本映画界の現状、そして「2019年ベスト アルテ共同製作作品」「セルジュ・ボゾン特集」「ジャン=ピエール・モッキー特集」の3つのテーマで上映される特集について、それぞれの魅力やおすすめ作品についてたっぷり語って頂いた。

アルテ・フランス・シネマのディレクターのオリヴィエ・ペール氏

カンヌやロカルノでキャリアを積んだディレクターが“映画祭”の意義を語る

―オリヴィエさんのように映画祭のディレクター、映画の評論、映画製作・配給など、多岐にわたって関わる方は映画界でも稀有な存在なのではないでしょうか?

私はとてもチャンスに恵まれてきたと思いますし、様々な角度から映画に関わることができています。まず、シネマテーク・フランセーズ(映画遺産の保存を目的とした仏パリの博物館)に務めたことをきっかけに、映画史を学ぶことができました。シネマテーク・フランセーズは歴史を学ぶだけでなく、新しい作品との出会いの場にもなっていました。私にとっては“職場”であり、“学校”のような存在でもあったのです。

そこで出会った方からお誘いを受けて、1990~2000年の間に「レ・ザンロキュプティーブル」というフランスのカルチャー誌で、新作やクラシック映画の批評活動をしていました。私自身、優れた批評家という自負はないのですが、映画に対しての自分の思考や好みがはっきりとありますし、今までの経験を通じて質の良い映画を見極める力を培ってきたとも思っています。その結果として、カンヌ国際映画祭やロカルノ国際映画祭では“批評的な視点”のもとに、作品のセレクションができました。

―映画祭のディレクターを務める際、どういった基準で作品のセレクションを行っていますか?

映画祭は大衆に気に入られる作品を上映するだけでなく、新たな才能を発見する場でなければいけないと思っています。必ずしも多くの人に認められない、リスクのある作品だとしても、自分たちが良いと思った作品であれば、強く押し出す必要があります。私がディレクターを務めたカンヌ国際映画祭やロカルノ国際映画祭は、最初から多くの人に受け入れられる作品も大事ですが、冒険をしている作品や芸術性がある作品も組み込むことで、多様性を見せるべき映画祭だと思っていました。映画をセレクションするのは批評的な観点であって、批評の力によって人々がどう受け取るか、その方向性を考えるのがディレクターの役目だと考えています。

―カンヌ国際映画祭「監督週間部門」は、確かな作家性を持つ監督たちが世界に羽ばたいていく登竜門的な部門でもあります。一方で、アレハンドロ・ホドロフスキーなど巨匠の新作を上映するなど、作家との関係をとても大切にしていますね。監督週間部門は映画業界において、どんな役割を担っていると思いますか?

監督週間部門は、1968年という革命的な時代に作られました。カンヌ国際映画祭の公式セレクションと平行して開催されていますが、独立した部門です。映画祭の公式セレクションが、どちらかというと決まりきったラインナップになる傾向にあるので、監督週間部門はそれを補足するような立場でありつつ、反旗を翻すかのようにアヴァンギャルドな作品を紹介する場にもなっています。少数の意見で作品を選ぶことができるので、とても自由度があります。巨匠の作品、ジャンル映画、有名監督の処女作を紹介するなど、自分たちが信じる作品を上映することができるんです。

日本映画が世界に進出するためには? 他国との共同製作が重要な鍵

―オリヴィエさんがロカルノ国際映画祭のディレクターを務めた際は、アメリカのインディ映画や日本映画に注目され、独自のセレクションを披露したことが話題となりました。ヨーロッパの作品だけでなく、世界に視野を広げた理由は?

カンヌ国際映画祭「監督週間部門」のディレクターを2004~2009年にわたって6年間務め、とても幸せな時間を過ごすことができました。そろそろ新しい挑戦をする時期だと思っていたタイミングで、ロカルノ国際映画祭のディレクターのオファーがあり、引き受けることになったんです。その時期のロカルノ国際映画祭は、まさに低迷期で、方向性を見失っていました。まず私は、「この映画祭がどういう意図で生まれ、どんな意義を持っているのか?」という、映画祭が持つアイデンティティについて深く考えました。ロカルノ国際映画祭の立ち上げの頃は、三大映画祭(カンヌ、ベルリン、ヴェネチア国際映画祭)で発見されていない作家や、注目されていない国から新たな才能を発掘するなど、さらに大きな映画祭へと橋渡しをしていく存在だったんです。私がディレクターに就任してからは、率先して新しい才能を発掘することにしました。

『リベルテ』©DR

そこで、今まで注目されていなかったアメリカのインディー映画や、日本をはじめ様々な国の作品に目を向けるようなりました。ロカルノ国際映画祭では、例えば『カラー・ホイール』(2011年)の米国人監督アレックス・ロス・ペリー、『サウダーヂ』(2011年)の富田克也監督、そして「映画批評月間」の上映作品として選んだ『シノニムズ』(2018年)という作品を手掛けたイスラエルのナダヴ・ラピド監督や、『リベルテ』(2019年)のスペイン人監督アルベルト・セラといった監督を発掘して紹介することができました。

『シノニムズ』© 2018 SBS FILMS – PIE FILMS – KOMPLIZEN FILMS – ARTE FRANCE CINEMA

ナダヴ・ラピド監督は『ポリスマン(英題)』(2011年)という作品で才能を見出され、アルテ・フランス・シネマと共同製作した『シノニムズ』が第69回ベルリン映画祭で最高賞に当たる金熊賞を受賞しています。アルベルト・セラ監督も、アルテ・フランス・シネマと共同製作した『リベルテ』で第72回カンヌ国際映画祭「ある視点部門」の審査員特別賞を受賞しました。ロカルノ国際映画祭でそういった才能ある監督たちを発掘できて、彼らの次のステップに導けたことを嬉しく思っています。

―ロカルノ国際映画祭では、青山真治監督(『東京公園』[2011年])、富田克也監督(『サウダーヂ』[2011年])、三宅唱監督(『Playback』[2012年])など、日本映画との出会いもありました。当時の日本映画の印象と、その後の変化についてどう感じられていますか?

日本の若い作家が映画を作ることが、長い間、困難な状況にあることは知っています。若い作家が自らの価値を高めるには映画祭で高い評価を受けることがとても重要で、作品に注目が集まることで世界への足掛かりになり、海外での配給に繋がっていくと思います。私の後にロカルノ国際映画祭のディレターを務め、今年からベルリン国際映画祭のディレクターに就任したカルロ・シャアトリアンも、私の遺志を継いで日本映画にずっと目を向け続けてくれました。そのおかげで、2015年に『ハッピーアワー』(最優秀女優賞)の濱口竜介監督が発掘されて、彼の最新作『寝ても覚めても』は2018年開催の第71回カンヌ国際映画祭のコンペティションに選出されました。彼はロカルノ国際映画祭で才能が見出された結果、ヨーロッパで上映される機会も増え、映画が批評され、広く認知されるようになりました。黒沢清監督や河瀨直美監督の作品がフランスや海外で公開されていったのは、やはり映画祭の力が根底にあると思います。

また、政府レベルの問題ではありますが、日本とフランスで映画の共同製作協定を結ぶことが、日本人監督の世界進出の大きな足掛かりになると思います。外国との共同制作が、世界で活躍する機会を広げてくれるはずですから。プロデューサーや若い作家には、映画祭で共同製作をテーマにしたワークショップが行われているので、他国のプロデューサーと交流を持って、共同製作していけるよう積極的に参加して欲しいですね。つまり「映画祭」と「他国との共同製作」が、日本映画を世界に広めていく上での鍵になってくるでしょう。

日本の映画ファンに知られざる名画を届ける「映画批評月間」の注目ポイント

―「映画批評月間」特集上映については、どんな想い込めてセレクションを行いましたか?

権利上の問題で上映できない作品もありましたが、まずは自分自身が誇りをもって関われたもの、そして、その中でも特に好きな作品を選びました。アルテ・フランス・シネマは、観客を驚かすような新しい才能を発掘したいという想いを持っていますし、巨匠たちの新しい試みや文化的な多様性を大切にしています。

『アリスと市長』© 2019 Bac Films Distribution All rights reserved

アルテ・フランス・シネマの共同製作作品については、アルベルト・セラ監督の『リベルテ』のような実験的な作品、エリック・ロメール、クロード・シャブロル、フランソワ・トリュフォーなどが目指した作家主義的ながらも大衆に受け入れられる作風の『アリスと市長』(2019年)のニコラ・パリゼール監督、フランス映画は女性監督の活躍が目覚ましいので『君は愛にふさわしい』(2019年)のアフシア・エルジ監督、『カブールのツバメ』(2019年)のザブー・ブライトマン監督など女性監督の作品などを混ぜ合わせて上映します。

『君は愛にふさわしい』(配給: 東北新社 / STAR CHANNEL MOVIES)©2008 REZO FILMS

女優として活躍していたアフシア・エルジ監督の処女作『君は愛にふさわしい』は、予算のない中ゲリラ的に撮影され、昔のヌーヴェルヴァーグのように自由なスタイルで生まれた作品です。彼女はアブデラティフ・ケシシュ監督(代表作:『アデル、 ブルーは熱い色』[2013年])の『クスクス粒の秘密』(2007年)で女優として見いだされました。俳優と密にコミュニケーションを取るケシシュに手法を学び、『君は愛にふさわしい』では俳優たちを見事に演出しています。若い女性の立場から、女性の恋愛や性、欲望について描いた作品で、現代の女性についてリアルな描写で描かれています。

―カルト的な人気を誇る作家、ジャン=ピエール・モッキーとセルジュ・ボゾンの特集上映も開催されます。二人の監督を選んだ理由は?

日本でも知られているフランスの巨匠の作品ではなく、日本で注目を浴びていない作家を紹介しようと思いました。モッキー監督はコメディ映画の監督として有名で、大衆に向けていながらもエキセントリックな作風で、とても面白い作品を生み出しています。

『赤いトキ』©M. Films

ボゾン監督は、モッキー監督の後継者と言える作風で、2000年代に出てきた監督の中でも最も興味深い監督です。フランス映画の伝統を受け継ぎながらも、とても実験的な作品を作ります。カンヌ国際映画祭「監督週間部門」のディレクターを務めていた際に、彼の『フランス』(2007年)という作品をセレクションしたこともあり、その時から親しい関係でもありますし、最新作のイザベル・ユペール主演『マダム・ハイド』(2017年)は、アルテ・フランス・シネマが支援した映画です。

『マダムハイド』© 2017 LFP-Les Films Pelléas – Frakas Productions – ARTE France Cinéma – Auvergne-Rhône-Alpes Cinéma

今回ご紹介した作品は、どれも個人的にもとても好きな作品なので、ぜひ多くの方にご覧に頂けると嬉しいです。

「第2回 映画批評月間 ~フランス映画の現在をめぐって~」は2020年3月6日(金)から4月19日(日)まで京都・大阪・東京・横浜で開催

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