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『スター・ウォーズ』インスパイアな中世ビジュアル!? A24『グリーン・ナイト』監督が明かす“オタク的”製作エピソード

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ライター:#斉藤博昭
『スター・ウォーズ』インスパイアな中世ビジュアル!? A24『グリーン・ナイト』監督が明かす“オタク的”製作エピソード
『グリーン・ナイト』© 2021 Green Knight Productions LLC. All Rights Reserved

ここ数年、映画ファンにとって作品チョイスのひとつの条件になっているのが、ある映画会社の名前。それは、A24。

アカデミー賞にも絡む傑作を大量に送り出してきた実績もさることながら、『ヘレディタリー/継承』(2018年)、『ミッドサマー』(2019年)といったインパクト大の作品が日本でもスマッシュヒット。2022年の後半は、そのA24作品が日本でも公開ラッシュになっているなか、同社らしい強烈な味わいを伴って、その世界に没入させてくれるのが、『グリーン・ナイト』だ。

『グリーン・ナイト』© 2021 Green Knight Productions LLC. All Rights Reserved

「間違いなく私はオタクです(笑)」

14世紀の叙事詩を基にした冒険ファンタジー。アーサー王の甥、ガウェインが、クリスマスに現れた緑の騎士(=グリーン・ナイト)に首斬りゲームを持ちかけられ、その騎士の首を切り落としたことで、一年後のクリスマスに旅に出ることになる。幻想的で奇怪な世界に引き込まれる一作。

『グリーン・ナイト』© 2021 Green Knight Productions LLC. All Rights Reserved

監督はデヴィッド・ロウリー。『A GHOST STORY/ア・ゴースト・ストーリー』(2017年)はシーツを被った幽霊が妻を見守る不思議なラブストーリー、『さらば愛しきアウトロー』(2018年)はロバート・レッドフォードの俳優引退作としてコミカルな味もある犯罪劇、そして今後は、ジュード・ロウがフック船長を演じる『ピーター・パン&ウェンディ(原題)』が控えるなど、その監督作はジャンルも、テイストもバラエティに富みすぎ! いったい本人は自身の作家性、方向性をどう考えているのか。ロウリー監督は次のように説明する。

たしかに私の監督作は、バラバラなイメージですよね。その点は自分でも認識しています。ただ私自身としては、同じストーリーを多くの角度から繰り返している感覚なんですよ。そうやって別方向に枝分かれした作品が、映画作家としての一貫性を打ち破っているのかもしれません。どうやったら自分の作家性を構築できるのか。じつはつねに私は考え続けているものの、どうも変化を止められないみたいですね(笑)。

『グリーン・ナイト』© 2021 Green Knight Productions LLC. All Rights Reserved

では今回の『グリーン・ナイト』は自身のキャリアで、どのように位置付けされるのか。本作はロウリー監督が中世の冒険物語に思いを巡らせていたとき、自宅で大切に保管していた『ウィロー』(1988年)のアクションフィギュアを目にしたことがきっかけで、脚本が書かれ始めたという。なんとなく“オタク”な要素が感じられるロウリー監督だが……。

はい、間違いなく私はオタクです(笑)。子供時代に最も影響を受けた映画監督は、ジョージ・ルーカスとティム・バートン。私の監督作には彼らのテイストを発見できると思いますよ。大人になるにつれ、アート系の作品、海外の映画などにも夢中になりましたが、ハリウッド大作への愛も衰えず、今回の『グリーン・ナイト』で、私はその両者、つまりマニアックな味わいとエンタメとしての面白さを合体させようと試みました。

「『スター・ウォーズ』の世界からインスパイアされたと言ってもいい」

ロウリー監督は、『A GHOST STORY/ア・ゴースト・ストーリー』でもA24と組んでおり、その信頼関係から「心から作りたい映画」に挑むことができたようだ。主人公のガウェインは、緑の騎士との約束を果たすため、壮絶な旅に出る。当然のごとくガウェインには、監督自身が投影されているはずだ。

私はつねに主人公に自分を投影しています。それこそが脚本を書く出発点ですね。そして、ある段階で監督として客観的に作品に向き合うわけです。今回、特に私が重なるのは、母と息子の関係かもしれません。私は大人になりたがらない子供でした。今もそんな側面があります(笑)。そんな私を見るに見かね、責任感をもたせ、成長させるよう仕向けたのが母親です。今回、ガウェインと母親の関係を脚本で書いているとき、明らかに私と母を重ねていました。

『グリーン・ナイト』© 2021 Green Knight Productions LLC. All Rights Reserved

アーサー王の甥なのに、一人前の騎士になれず、どこか頼りないガウェイン。息子の自堕落な生活を叱咤する母。その関係にはロウリーの思いが強く込められ、演じたデヴ・パテルもガウェインの心の弱さを名演している。キャストでいえばもう一人、オスカー俳優のアリシア・ヴィキャンデルが、ガウェインの恋人エセルと、彼が旅先で立ち寄る謎めいた屋敷の奥方の2役を演じ、映画を観ているこちらの心をざわめかせる。

最初から1人2役とは考えていませんでした。アリシアに会って、できるだけ彼女を長く出演させたいと思ったのです。エセルと奥方は、それぞれの映し鏡のような役どころで、ガウェインにとって必要な女性の両面を表現しています。でもその両面はあくまでもガウェインに向けたもので、脚本の流れを重視しており、そこに私の“女性観”は反映されていません(笑)。

『グリーン・ナイト』© 2021 Green Knight Productions LLC. All Rights Reserved

ちなみにロウリー監督の妻であるオーガスティン・フリッゼルは俳優で監督、プロデューサー(初の長編監督作『Never Goin’ Back / ネバー・ゴーイン・バック』が2022年12月16日に日本公開)。今回の『グリーン・ナイト』では冒頭のナレーションで、彼と妻の声がミックスされた音源が使われていたりする。そしてこの『グリーン・ナイト』は、やはりビジュアルのアピール力が半端じゃない。舞台は一応、中世なのだが、どこか時空を超えた幻想的な美しさ、不気味さが全編に漂い、プロダクションデザインの最高の仕事を実感させてくれる。

歴史的に正確な美術を求めたわけではなく、SFやファンタジーのジャンルを意識しました。一応、舞台はイギリスですが、あえてイギリスの文化や建築からは離れて、『スター・ウォーズ』の世界からインスパイアされたと言ってもいいでしょう。これまでの映画で観たことのない中世のビジュアルを模索した感じですね。とにかくこの映画では、あらゆる点で、ひとつの時代、ひとつのスタイルに収まらない絵を作り出したかったのです。

『グリーン・ナイト』© 2021 Green Knight Productions LLC. All Rights Reserved

「一時は撮影中に“確実に死ぬ”と感じたりもした」

人間の言葉を話すキツネや、荒野に吊るされたガイコツなど、ガウェインが道中で遭遇する奇々怪々な物たちの中で、ひときわインパクトを放つのが、彷徨う巨人だ。その映像には明らかにロウリー監督のこだわりが見て取れる。

私は巨人が大好きなんです。そびえ立つキャラクターに本能的に惹かれます。ですから脚本に登場させたのですが、そこに私のジェンダーについての意識も込めようと決めました。そもそもアーサー王の伝説は男らしさを強調しており、今の時代では批判もされるでしょう。本作の巨人は、過去の価値観に囚われた世界を置き去りにして、遠くへ旅立つ存在にしました。それでちょっと女性的な外見なんです。おそらく巨人には服も髪の毛も必要ないと考え、あのようなデザインに行き着きました。私の坊主頭もヒントにして(笑)。

彼らがどこへ向かい、どう子孫を残すのか、想像を巡らせる意味で、巨人のシーンには私の思いが凝縮されています。視覚的な美しさはもちろん、本作のテーマも伝えていますから。いつか巨人を中心に、本作の新たなチャプターとして映画を撮ってみたいですね。

『グリーン・ナイト』© 2021 Green Knight Productions LLC. All Rights Reserved

気温の低いアイルランドの荒野でのロケなど、過酷を極める撮影だったことをデヴィッド・ロウリー監督は吐露する。

最悪の体調でした。最初はひどいインフルエンザにかかり、一度は回復したものの、再び感染し、体内に膿瘍ができて手術が必要とされる状態でした。それでも撮影を続け、一時は確実に“死ぬ”と感じたりもしたのです。とにかく生き残ることだけを考えながら映画を撮ったプロセスは、過酷で残酷な運命をたどったガウェインに似ていたかもしれません。

『グリーン・ナイト』© 2021 Green Knight Productions LLC. All Rights Reserved

監督の壮絶な体験を想像しながら観れば、『グリーン・ナイト』の世界にますますどっぷりと没入できるかもしれない。

『グリーン・ナイト』メイキング © 2021 Green Knight Productions LLC. All Rights Reserved

文:斉藤博昭

『グリーン・ナイト』は2022年11月25日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほか全国公開

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『グリーン・ナイト』

アーサー王の甥であるサー・ガウェインは、正式な騎士になれぬまま怠惰な日々を送っていた。クリスマスの日。円卓の騎士たちが集う王の宴に、まるで全身が草木に包まれたような風貌をした緑の騎士が現れ、恐ろしい首切りゲームを持ちかける。その挑発に乗ったガウェインは、緑の騎士の首を一振りで斬り落とすが、彼は転がる首を自身の手で拾い上げると「1年後に私を捜し出し、ひざまずいて、私からの一撃を受けるのだ」と言い残して去ってゆく。それは呪いと厳しい試練の始まりだった……。1年後、ガウェインは約束を果たすべく、未知なる世界へと旅立ってゆく。

監督・脚本:デヴィッド・ロウリー

出演:デヴ・パテル アリシア・ヴィキャンデル
   ジョエル・エドガートン サリタ・チョウドリー ショーン・ハリス
   ケイト・ディッキー バリー・コーガン ラルフ・アイネソン

制作年: 2022