A24『LAMB/ラム』はホラーにあらず!?「シュールなファミリードラマなんだ」監督が語る物語の深層

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A24『LAMB/ラム』はホラーにあらず!?「シュールなファミリードラマなんだ」監督が語る物語の深層
『LAMB/ラム』©︎ 2021 GO TO SHEEP, BLACK SPARK FILM &TV, MADANTS, FILM I VAST, CHIMNEY, RABBIT HOLE ALICJA GRAWON-JAKSIK, HELGI JÓHANNSSON

『LAMB/ラム』はホラー/スリラーにあらず

『LAMB/ラム』は、“奇妙”という言葉が似合う作品だ。アイスランドの大自然の中、羊飼いの夫婦が“羊ではない何か”を育てる物語。売り文句はスリラーとなっているが、筆者の第一印象は「なんだか絵本みたい」である。

子供を亡くした夫婦イングヴァルとマリア。2人が羊の出産の介助をしていると“羊ではない何か”が生まれてくる。人に似た“それ”に深い愛情を感じた二人は、亡き子供と同じ名である“アダ”と名付け、育てることにする。アダとの幸せな時間を過ごす2人。その生活がイングヴァルの弟の来訪や、アダを産み落とした母羊の干渉、様々な出来事が夫婦を変えていく。そして、そこに偉大なる存在が現れるのだが……。

『LAMB/ラム』©︎ 2021 GO TO SHEEP, BLACK SPARK FILM &TV, MADANTS, FILM I VAST, CHIMNEY, RABBIT HOLE ALICJA GRAWON-JAKSIK, HELGI JÓHANNSSON

確かに不気味なプロットだし、最後に幸せが待っているようには思えない。しかし、本作からは全くホラー映画の香りがしない。“羊でも人でもない不思議な存在”に我が子の影を見いだし、“何か”を乗り越えようとする姿。アダを含む4人の登場人物の醸し出す、あくまでも牧歌的な雰囲気。それに対比するかのような大自然をバックにしたロケーション。もはやメロドラマのような雰囲気すら感じ取れる。だから筆者は、この『LAMB/ラム』という作品は“人ならざるもの”を通して、父や母、家族の本当の姿を描く絵本のような映画だと思ったのだ。

『LAMB/ラム』©︎ 2021 GO TO SHEEP, BLACK SPARK FILM &TV, MADANTS, FILM I VAST, CHIMNEY, RABBIT HOLE ALICJA GRAWON-JAKSIK, HELGI JÓHANNSSON

A24は罪深い配給/制作会社だ。「A24が贈る」と言うと、嫌でもホラー映画を連想させられてしまう。2010年代に入りアートハウス映画なるジャンルが誕生したが、その先駆者がA24である。アートハウス映画とは、ざっくりと「作家性優先作品」だ。昔の映画で言うならば、デヴィッド・リンチの『イレイザーヘッド』(1976年)やアンジェイ・ズラウスキーの『ポゼッション』(1981年)あたりが挙げられる。これでも一般受けする作品を例に挙げたつもりだが、もっと妙なアートハウス映画も存在する。一連のアリ・アスター作品等があまりにもポップであったため、アートハウス映画について少し勘違いされているように思える。

『LAMB/ラム』©︎ 2021 GO TO SHEEP, BLACK SPARK FILM &TV, MADANTS, FILM I VAST, CHIMNEY, RABBIT HOLE ALICJA GRAWON-JAKSIK, HELGI JÓHANNSSON

今回、筆者はA24がインディー精神を大切にしたアートハウス映画配給会社であることを前提に、『LAMB/ラム』に対する思いをヴァルディミール・ヨハンソン監督にぶつけてみた。

※以下、物語の内容に一部触れています。ご注意ください。

「ノオミは即“この作品を一緒に作りたい”と言ってくれた」

―ヨハンソン監督は、これまで特殊効果班(『プロメテウス』[2012年]『ローグ・ワン/スターウォーズ・ストーリー』[2016年]ほか)として数多く映画に関わってきました。今回、監督として『LAMB/ラム』を携わることになったきっかけは?

やっぱり長く映画業界にいると、自分の映画を撮ってみたくなるものだよ(笑)。それで今回、自分のやってみたいことを詰め込んで作ったのが『LAMB/ラム』なんだ。

『LAMB/ラム』©︎ 2021 GO TO SHEEP, BLACK SPARK FILM &TV, MADANTS, FILM I VAST, CHIMNEY, RABBIT HOLE ALICJA GRAWON-JAKSIK, HELGI JÓHANNSSON

―主演のノオミ・ラパスさんがプロデューサーとして名を連ねています。<ファンゴリア>の記事によると、ラパスさんに出演を依頼した際、監督ご自身のスケッチブックを持って行って見せたとのことですが……。

<ファンゴリア>を読んだのかい? 君はよく知っているね! ノオミのエージェントに出演を依頼したのだけど、長いこと反応がなくてね。別のキャストを探さなくてはならないかな? と思っていたところに、彼女から直接会って話したいと返答がきて、「やった!」となったんだ。でも僕はシャイだし、口下手だから(笑)。そこで思いを伝えるために、いままで描き貯めたイメージの断片のスケッチを持っていたんだ。

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―イメージの断片、というと?

なんでもさ! 僕のドローイングとか、印象深かった絵画を切って貼り付けたもの、画像とか……コラージュというか。『LAMB/ラム』の原型となる雰囲気と言ったらいいかな?

―ラパスさんの反応はどうでしたか?

ノオミはとても興味を持ってくれて、即「この作品を一緒に作りたい」と言ってくれたよ。その瞬間から彼女と私、そして『LAMB/ラム』の深い関係が始まったんだ。彼女は多忙だったから、アイスランドに来てくれたのは撮影開始の前日だったけど、電話で頻繁に意見交換をしたね。

『LAMB/ラム』©︎ 2021 GO TO SHEEP, BLACK SPARK FILM &TV, MADANTS, FILM I VAST, CHIMNEY, RABBIT HOLE ALICJA GRAWON-JAKSIK, HELGI JÓHANNSSON

「必要な情報は全て映像として映し出されている」

―そうして作られた『LAMB/ラム』ですが、私はホラー映画というよりも、絵本やフォークロアというような印象受けました。監督としてはどうお考えですか?

フォークロアか。なるほど、そうかもしれないね。僕はシュールな要素のあるファミリードラマと思って制作したんだ。それから、ホラーと受け取られる部分があることは認めるよ(笑)。

『LAMB/ラム』©︎ 2021 GO TO SHEEP, BLACK SPARK FILM &TV, MADANTS, FILM I VAST, CHIMNEY, RABBIT HOLE ALICJA GRAWON-JAKSIK, HELGI JÓHANNSSON

―ファミリードラマとおっしゃいましたが、最近のドラマ映画は台詞が多く説明過多な作品が多いと私は思っています。ところが『LAMB/ラム』は台詞が非常に少なく、行間を読む心地よさがありました。いっそ台詞は不要なのではと思ったほどです。

それはとても意識したところだよ。いま君が言ったように説明が多すぎて、まるでラジオドラマのような映画が多いと僕も思う。映像もクローズアップが多すぎると思っているし。

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―しかし台詞を少なくし、映像で観客に行間を読ませるという行為は勇気のいることだと思います。監督は劇場という空間で生じる、映画と観客との信頼関係を信じていますか?

そうだね、僕はそれこそが“映画体験”だと思っているよ。『LAMB/ラム』は、必要な情報は全て映像として映し出されている。でも、それは絶対に見つけ出さなければならない情報ではなくて、観客それぞれの“気づき”の糧のようなものだよ。さっき君は「台詞は必要ないと思う」と言ったよね。正直なところ、映画が完成したいまでも「まだ台詞が多いな」と感じることがある。次回作では、もっと台詞を削ってみたいね。

―素晴らしいお考えだと思います。それこそが映画だと思います。

映画って凄いよね。“絵”もそうだけど、グローバルな言語だよ。

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「いくつか短編を作っているんだけど、全部悲劇だよ(笑)」

―『LAMB/ラム』は台詞も少ないですが、登場人物も少ないですよね。その中で私は、アイスランドのロケーション、たとえば背後に映る雄大な山々も“キャラクター”として扱っているような気がしました。

そのとおり! 脚本にも書いてあるんだよ。自然がキャラクターの一部のように“振る舞う”が如く、とね!

―背後の山々があまりにも雄大かつ巨大で、私は畏怖を感じました。トラッキングショット(レールを引いて登場人物を追いながらカメラを横にスライドさせていく撮影方法)でも、背景の山が大きすぎて動かないんですよね。そこで「あ、山が大きすぎる。怖い!」と思ってしまいした。

本当に君は、私の言いたかったことを聞いてくるね。ロケーションには本当に恵まれてね。美しく、雄大で、それでいて脅威すら感じる山がそこにあった。僕の狙い通りの映像が撮れたんだ。

『LAMB/ラム』©︎ 2021 GO TO SHEEP, BLACK SPARK FILM &TV, MADANTS, FILM I VAST, CHIMNEY, RABBIT HOLE ALICJA GRAWON-JAKSIK, HELGI JÓHANNSSON

―『LAMB/ラム』は悲しいドラマでもあります。この悲劇は避けられなかったのでしょうか?

実はね、僕はいくつか短編を作っているんだけど、全部悲劇だよ(笑)。ただ『LAMB/ラム』については、マリア(ノオミ・ラパス)が罰を受ける話ではないということは言っておきたい。

―なるほど。私は悲しいドラマながらも、マリアにとっては子を失った悲しみを乗り越える良い機会になったと考えています。

そう。彼女は強いから大丈夫だよ。これから先もね!

『LAMB/ラム』©︎ 2021 GO TO SHEEP, BLACK SPARK FILM &TV, MADANTS, FILM I VAST, CHIMNEY, RABBIT HOLE ALICJA GRAWON-JAKSIK, HELGI JÓHANNSSON

「ところで“○○○の✕✕”が出てくることには気がついたかな?」

―ところで『LAMB/ラム』では、とある人物のオリジナル・ミュージックビデオ(MV)が流れます。このMVは『LAMB/ラム』のために撮影されたものでしょうか?

僕はMVを撮るのが夢でね。ずっと叶わなかったから「いっそ自分で撮ってみようか……」と思って撮ったんだ。

―いつかアイスランドの宝、ビョークのMVを撮れたらいいですね。

それはいいね……。ところで、君は『LAMB/ラム』を随分細かいところまで観ているようだから、逆に質問して良いかな?

―ど、どうぞ!

『LAMB/ラム』には“ネズミの剥製”が出てくるんだ。気がついたかな?

―ネズミですか?? うーーーん、そこまでは……。

(笑)。『LAMB/ラム』の撮影では、僕の弟が現場でずっと羊の面倒を見てくれていたんだ。彼は剥製の技術を学んでいてね、ちょっとしたお礼のつもりで彼の作ったネズミの剥製をセットに紛れ込ませておいたんだ。どこかは言わないから、もう一回観て、探してみてよ!

―お気に入りの映画なので、何回でも観ます! このネズミの話はインタビュー記事に載せますね。

(笑)。よろしく頼むよ!

ヴァルディミール・ヨハンソン監督

 

――この取材前に「監督は寡黙な方なので」と聞いていた。しかしヨハンソン監督は、作品について掘りさげれば掘りさげるほど饒舌に話してくれる、気さくな映画監督であった。そんな彼が紡ぎ出した不思議な“ファミリードラマ”を、ぜひ皆さんも楽しんで欲しい。

取材・文:氏家譲寿(ナマニク)

『LAMB/ラム』は2022年9月23日(金)より全国公開

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『LAMB/ラム』

山間に住む羊飼いの夫婦イングヴァルとマリア。

ある日、二人が羊の出産に立ち会うと、羊ではない何かが産まれてくる。

子供を亡くしていた二人は、"アダ"と名付けその存在を育てることにする。

奇跡がもたらした"アダ"との家族生活は大きな幸せをもたらすのだが、やがて彼らを破滅へと導いていく—。

監督:ヴァルディミール・ヨハンソン
脚本:ショーン・シグルドソン ヴァルディミール・ヨハンソン

出演:ノオミ・ラパス
   ビョルン・フリーヌル・ハラルドソン
   ヒルミル・スナイル・グドゥナソン

制作年: 2021

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