ニートな二宮和也がポンコツロボと大冒険!『TANG タング』 VFXのロボと“共演”するニノの演技力

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ライター:関口裕子
ニートな二宮和也がポンコツロボと大冒険!『TANG タング』 VFXのロボと“共演”するニノの演技力
『TANG タング』©2015 DI ©2022映画「TANG」製作委員会

ニノ、ニートになる

『TANG タング』は、デボラ・インストールの「ロボット・イン・ザ・ガーデン」を原作に、二宮和也主演、三木孝浩が監督したロボットSFファンタジー。

――近未来。リモートワークが浸透したためか、どんな地域でも快適な生活が営めるようになっている日本。春日井健(二宮和也)の住んでいる地区もほとんどが庭付き一戸建て。空には荷物を運ぶドローンが行き交い、家庭内では家事ロボットが活躍している。

一軒一軒が広々と生活しているが、妻で弁護士の絵美(満島ひかり)と2人暮らしの健の家はそれ以上に広い。この古い家は、健が親から譲り受けたもので、一戸建てであるだけでなく、隣に牧場まで付いている。

『TANG タング』©2015 DI ©2022映画「TANG」製作委員会

そんな快適な住環境で暮らしながら、健はニートだ。家事も仕事もせず、ゲームに明け暮れている。その生活はまるでヒモのよう。かつては有望な研修医だった健だが、あることをきっかけに現在の状態から抜け出せなくなっていた。

健の家にはアナログなものが多い。ネジを巻く方式の柱時計もそのひとつ。でも、ネジを巻くのは絵美だけ。絵美が動かさなければ春日井家のものは止まったままだ。健がアナログ人間なものだから、春日井家では家事ロボットも導入していない。絵美はもちろん最新型の家事ロボットを欲しているが、健が苦手なので遠慮している。もちろん欲しいと口には出すが。

そんな春日井家の牧場にある日、小さくて古いロボットがやってきたことから、健の“旅”が始まる。

VFXのロボと“共演”する二宮の演技力

この“タング”と名乗る旧型のロボットは、VFXチームと造形チームの連携で創り出されている。物理的に存在する造形物としてのタングは、細部まで作り込んだ等身大のもの、大きさは同じだが簡易なもの(撮影で使うのはこれ)、腕などパーツだけのものと、3タイプ作られた。

俳優とやり取りする動くタングはVFXで描かれたもので、実際には存在しない。タングと芝居する俳優たちは、そこにいない相手に向かって演技をしているわけだ。

『TANG タング』©2015 DI ©2022映画「TANG」製作委員会

ちょこまかと走り回るタングを見守る健、隣の席で悪ふざけするタングに手を焼く健、可愛い表情で嫌々をするタングに気持ちを動かされる健。ほとんどがタング相手のシーンである二宮和也は、どのシーンもほぼ一人芝居をしているというわけだ。

スクリーンには、可愛いタングと連れ添って映っているので、観ているときは気づかなかったが、「あれは一人芝居なのか?」。そう考えると二宮の演技力は恐ろしい。何を考えて微笑んでいたのか? 何を思い出して泣いていたのか? それとも、一人芝居をする中で、彼にはタングが見えていたのか? その真意は分からないが、結論として彼の演技は物語の軸をより太いものとし、その表情で我々の心を動かすことに成功している。

二宮と満島が演じる夫婦関係に要注目

その一方で、演技プランに苦労したのは絵美を演じた満島ひかりだろう。もちろん彼女の演技は申し分ない。見えないタングを相手に、絵美が怒り、泣き、微笑む姿に心揺さぶられた。満島の計算された心象表現、二宮のサイエンスファンタジーに説得力を持たせる演技を目の当たりにすると、三木監督が最初から二宮と満島をキャスティングしたいと考えており、「断られたらどうしよう」と思っていたというのも分かる。

満島が苦労したのはそこではない。ロバート・A・ハインラインのSF「夏への扉」(早川書房刊)同様、『TANG タング』も主人公・健の1人語りで綴られるため、絵美の内面がほとんど描かれないからだ。

『TANG タング』©2015 DI ©2022映画「TANG」製作委員会

あるきっかけで自分の時間を止めてしまった健を何年も支えてきた絵美には、それなりの心情の変化があったはずだ。ただ私たちが絵美を目にするのは、すべてに無関心に見える健にイライラし、それをむき出しにしているところから。そして健がタングと旅に出てしまうと、彼女の気持ちに触れられることはさらになくなる。

『TANG タング』©2015 DI ©2022映画「TANG」製作委員会

心情が描かれないことで、夫婦なのにもかかわらず、絵美は健を“育てている”ように見えてしまう。また健にも忸怩たる思いなどなく、開き直っているように見えてしまうのだ。

健とタングの旅がこの作品のメインであり、そこを十分に描くために、絵美の心情は省かざるを得ないのは分かる。ただ他人との関係性なく、1人で生きている人間はほぼおらず、結婚しているキャラクターであればなおさら、個人の変化と同時に夫婦の変化も描いてほしいと感じた。

『TANG タング』©2015 DI ©2022映画「TANG」製作委員会

正解のない“未来”への途上を描こうとする実験性

近未来の日本として、福岡県が本作の舞台の一つになっていることに興味を持った。福岡県は、環境配慮型のグリーンデバイス半導体やロボット、IoT、宇宙ビジネスなどのデジタル産業推進のためのプラットフォームを設立し、レベルファイブなど大手ゲームメイカーが本社を構える場所。福岡にある、60年後に森になるビル「アクロス福岡」などの存在にも心惹かれた。

『TANG タング』©2015 DI ©2022映画「TANG」製作委員会

冒頭、この時代の日本人はどんなことを考え、どんな暮らしをしているのだろうという思いを抱いた。ちゃんと幸福感や充実感を感じているのだろうか? と。その答えを人物や物語で描く代わりに、こうして場所が醸す空気として描いたのだと理解できた。

いうなればこの映画は、“発展”という正解のない未来へ向かう途中を描く映画。その実験的な取り組みさえも愛おしく感じられた。

文:関口裕子

『TANG タング』は2022年8月11日(木・祝)より全国公開

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『TANG タング』

ある理由から、自分の夢も、妻・絵美との未来も諦めてしまった、ダメ男・春日井 健(かすがい けん)。ある日、健の家の庭に突然現れたのは、記憶を無くした迷子のロボット、タング。初めは時代遅れの旧式のタングを捨てようとする健だったが、タングが失った記憶には、世界を変えるある秘密が隠されていた。謎の追っ手が迫る中、大人とロボット、ふたりの迷子が大冒険の先に見つけた《人生の宝物》とは?

監督:三木孝浩
原作:デボラ・インストール「ロボット・イン・ザ・ガーデン」(小学館文庫)
脚本:金子ありさ

出演:二宮和也 満島ひかり
   市川実日子 小手伸也 奈緒
   京本大我 山内健司 濱家隆一
   野間口徹 利重剛 景井ひな
   武田鉄矢

制作年: 2022

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