満島ひかりの明智小五郎が還ってきた!『シリーズ江戸川乱歩短編集Ⅳ 新!少年探偵団』でアヴァンギャルドな乱歩世界を再構築

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ライター:関口裕子
満島ひかりの明智小五郎が還ってきた!『シリーズ江戸川乱歩短編集Ⅳ 新!少年探偵団』でアヴァンギャルドな乱歩世界を再構築
満島ひかり

満島ひかり×江戸川乱歩

満島ひかりさんを核に、これまで3シリーズ9本が映像化されている『シリーズ江戸川乱歩短編集』。2021年3月23日(火)からNHK BSプレミアムにて3夜連続で放送される新シリーズは、乱歩が少年少女向けに執筆した人気連作「少年探偵団シリーズ」となる。映像化されるのは、「怪人二十面相」(佐藤佐吉監督)、「少年探偵団」(渋江修平監督)、「妖怪博士」(古屋蔵人監督)の3作品。

江戸川乱歩作品を演じる面白さ、3人の個性的な監督との仕事、そして演じる明智小五郎の魅力について満島ひかりさんに聞く。

※作品完成前のインタビューとなります。

明智小五郎は善でも悪でもない孤高の天才……と同時にひどいやつ(苦笑)

―今回の3作品を含め、12本の江戸川乱歩作品を演じてこられたわけですが、役を通して改めて気づいた乱歩の“言葉”の魅力からうかがえますか?

いつ読んでも言葉が新鮮でとにかく飽きません。犯罪の解決方法や推理の仕方が一つひとつチャーミング。たぶん、わざと完成させず余白を残したようにも思える文章は、読む私たちにイマジネーションを与えてくれるし、まったく押し付けてきません。その絶妙にオシャレで軽い感じが魅力的なんです。

乱歩の文体や、描く世界は淫靡で恐ろしさもあり、ファンタジーでかっこよくてバカバカしく、ダサさもある。読者を経て、演じ手になって乱歩の言葉と関わる機会をいただけたことで、ますますそのすべてに感動してしまいます。不思議ですが、乱歩の言葉には人間が生きることを肯定する力があると感じるんです。江戸川乱歩さん自身もとても魅力的な人だったんだろうなと思います。

―「少年探偵団シリーズ」は、乱歩が少年少女向けに書いた作品です。語りかけるような言葉で書かれているのもこれまでとも少し異なりますし、物語も、いま子どもだったら夢中になってしまいそうな内容です。

3夜目に放送の「妖怪博士」の撮影で、少年探偵団の一人を演じた男の子が、事件を解決する明智を目の前で見て「かっこいい! すげー!」と盛り上がっていました(笑)。その子は、台本を読んで対決シーンを楽しみにしていたようで、その興奮がものすごく嬉しかった。今までの9作よりわかり易くなっているはずなので、子供たちにも気に入ってもらえるといいな。もちろん怪奇な部分もありますが、ゾクゾクさせてくれるのも、乱歩から子供たちへのギフトなのかなと思います。

―少年探偵団を演じた子が率先して楽しんでくれているなんて嬉しいですね。

特に、小林少年役の髙橋來くんとは、かつて親子を演じたことがありまして。もうすでに気持ちの通った関係なので、お互い信頼し合って自然にいられました。最高のキャスティングです。画面を見ながら「かっこい〜」とか、「さすが満島さん!」とか言ってくれるのでかわいくてかわいくて(笑)。

―明智小五郎という探偵を演じる面白さは?

明智小五郎は、光でも闇でも、善でも悪でも、私がやることによって女でも男でもない、つかめない宇宙です……それと同時にいいやつで、超ひどいやつです(笑)。固定概念にとらわれることなく存在できるのは、演じていて楽しいです。

―満島さんを明智小五郎役に据えて、江戸川乱歩シリーズの映像化を考えられたのは、そういったところを狙ったものなのかなと思いました。

プロデューサーの淵邉恵美さんとは、以前、淵邉さんが手掛けられた『太宰治短編小説集』の中の一本「カチカチ山」で兎の役を演じたのが始まりです。そのときに淵邉さんから「ひかりちゃん、何かやりたい役ある?」と聞かれたので、「明智小五郎ですかね」(笑)と難しいだろうと思いながら答えたら、企画を通してくださった!

―満島さんが演じることによって明智が“何者でもない存在”となったことは、直接コミュニケーションをとることが難しくなり、リアルとバーチャルのあわいが日常化された現代の感覚によりフィットする気もします。

イメージよりも笑えるところがあるし、意外と軽くもある。とは言え、乱歩作品の映像化なので、規制もあるテレビでの放送で、どこまで映像化できるんだろうと思っていました。でも淵邉プロデューサーは本当に面白い方で、キャスティングも、選ばれる監督たちも、明るく挑戦的なんですよね(笑)。

森山未來くん演じる怪人二十面相と“ダンスで会話する”シーンがあります

―それでは3作品それぞれについてうかがいます。まず佐藤佐吉監督の第1回「怪人二十面相」から。

「怪人二十面相」はとにかくキャストが豪華です。団時朗さんはかつて怪人二十面相を、嶋田久作さんはかつて明智小五郎を演じたことのある乱歩作品の大先輩たちです(笑)。

―明智トリオですね。

そうなんですよ(笑)。そして本作では、2人の怪人二十面相が登場します。森山未來くんと仲本工事さん。最初の打ち合わせで監督の(佐藤)佐吉さんが「俺、怪人二十面相ってマスクで顔を変えるんじゃなくて、たぶん骨格矯正が得意な人だと思っとるんや」とまた変なことを言い出したんです。クイクイっと骨格を直して、最後に顎をクッとハメたら違う顔。でも骨格矯正をしすぎて、顔の痛みで笑っているように見えると(笑)。たぶん、映画『ジョーカー』へのオマージュもある気がします。

―面白いですね。他にはどんなことをおっしゃっていましたか?

佐吉さんは、「少年探偵団」シリーズには、“明智小五郎の母性がうかがえる”とも言っていました。でもそれを人前で全開にできないから、明智は少年たちが「先生大好き!」と慕ってくるのを「はいはい」とクールにあしらっている。けれど実は愛おしさが募っていて、意味のない暗号とか作って、子どもたちをその気にさせて。でも結局面倒な仕事を押しつけている(笑)。明智に垣間見える母性を、怪人二十面相が笑っていると。

「怪人二十面相」

―これまでの佐藤監督作品との演出的な変化はありましたか?

今回の佐吉さんは、脳みそがとろけていました(笑)。情報もキャストも多いうえ、みんな現場でいろいろなアイデアを出すから脳みそが追いつかないって(笑)。いつもなら佐吉さんから「おーい、何やってるの?」と来てくださるんですが、今回は「俺、何やってるか分からん」とフラフラされてました(笑)。

―情報過多な作品なんですね。

そうですね(笑)。佐吉さんは、普段から俳優も脚本も、監督もやられていますから、だいぶ繊細でいろいろな受け止め方をしちゃうんだと思います。初めてのことに取り組んで多くをキャッチする子どもみたいになっていました。

―今回、佐藤監督のご出演はないんですか?

出演されていますが、どういうふうに出るかは内緒です(笑)。楽しみにしてください。佐吉さんの冒険心とピュアな性格にはいつも癒されます。「お勢登場」(2018年に放送した同シリーズ「満島ひかり×江戸川乱歩」)のときは、「人生で一番驚いた顔をして」と言われてした顔を思いもよらない場面で使ったり、そのときは明智ではなく女性のお勢を演じていたので「なんか違和感があると思ったら、俺、満島ひかりを女として撮ったの初めてや!」って言いだしたり(笑)。今回は明智役なので違和感なさそうでした。

―演出は身体的なものも含むんですか?

はい。今回は、森山未來くんが演じる怪人二十面相とダンスで会話するシーンがあります。特別な場面になっていると思います。

―それは面白い! お2人ならではの演出ですね

後半は仲本さんが二十面相で、やはり体がきくし面白いしで、ちょっとクラシカルな笑いの感じで撮っていました。

明智小五郎や天草四郎を演じさせようと思わせる何が、私の中に潜んでいるんだろう(笑)

―次は、渋江修平監督の第2回「少年探偵団」について。

渋江さんはもう、アイデアの湧き出る泉のようで、最初の打ち合わせの際に、「怪人二十面相は20人いるんだと思います」って言ってました(笑)。なので、怪人二十面相役は村杉蝉之介さんなんですが、「カット!」がかかると、「次のおじさん入りまーす」って同じ格好をした別のおじさんが現れるんです。お芝居が終わってまたカットがかかると更に別なおじさんと演技する、みたいな感じで、お客さんがどんどん入れ替わっていくシステムのホステスさんの気分でした(笑)。

―どんなふうに仕上がっているのか楽しみですね。

少年探偵団の少年たちも全員おじさんで、少年なんて一人もいないんです(笑)。少年役は嶋田久作さん、片岡哲也さん、三遊亭歌武蔵師匠なんかが演じられていて、すごいデカい少年たちがスライディングしたりして明智先生のところへ集まってきてポーズを決めるんです(笑)。皆、気を抜くとおじさんに戻ってしまうので、ときどき渋江さんに「おじさんに戻ってますよ!」と指摘されていました(笑)。

渋江組は毎回、撮影中に何しているか分からないことがあるんです。CGを使ったりもするので一番仕上がりを想像しにくいというか。今回は、怪人二十面相の口が文字になって動くと聞いていますが。できあがったのを見て驚くこともよくあります。

―面白いですね。

「少年探偵団」は、おじさんたちが多いので、明智が可愛くなりすぎないよう、ヘアメイクの星野加奈子さんと相談して、瞳孔が開いて見えるように目の下に赤いラインを引いたり、涙のかわりにキラキラのグロスを付けたり、やや悪魔的にしました。明智が負ける話なので、ちょっとムキになって見えたらいいかなと。

「少年探偵団」

―渋江さんとは、南島原市のブランディングムービー「突撃!南島原情報局」でも組まれていますね。大変楽しく拝見させていただきました。この「突撃!南島原情報局」でも男性、天草四郎を演じられていますが、明智小五郎や天草四郎を満島さんが演じることで生じるキャラクターは本当に魅力的です。こんな感じのキャスティングが重なるのはどんな意図なんでしょうね?

ありがとうございます。なんなんでしょうね。でも役って、やろうと思ってやれるものでもないですよね。そういう役をやらせようと思わせる何かが、私の中に潜んでいるんだろうって思います(笑)。

渋江さんも佐吉さんも、場を解放して、アイデアなど何でも言える状態を作ってくれるのがありがたいです。明智みたいな性格の渋江さんとは、すぐ仲直りしますが、たまに兄弟喧嘩のようなことも(笑)。「他の組では僕の現場よりいい芝居しないで」とか、「佐吉組を先にやって、お芝居作ってからこっち来てほしかった」なんてかわいいことも言うんです(笑)。

「突撃!南島原情報局」

アヴァンギャルドに、奇をてらうくらいじゃないと乱歩にならない

―第3回「妖怪博士」の古屋蔵人さんとは初めてのお仕事でしたね。ツイッターに「満島さんが常にアドリブかましまくるので、監督していてホントたのしかった!」とつぶやかれていました。

メールでも「めっちゃ楽しかった」といただきました。古屋組はスタッフみんな仲が良いんですよね。男子が戯れながら撮影しているというか(笑)。例えば、アメ車好きな男の子がビンテージ車を改造しながら大事に乗っているような、そんな現場でした。古屋さんからは撮影に入る前に、スマートでカッコいい俳優さんの映像を見せてもらったので、モテる男風なのかなと解釈し、髪の下の方だけを金色に染めてピアスつけて、イケイケな明智にしました。

―他の2作品とはまた違う感じですね

キャスティングも渋くて最高なんです。躍り狂う麿赤兒さんとか、個人的にお芝居が大好きな菅原永二さんの場を切り裂く声とか。当たり前の芝居なのにイケてるんですよ。ユニークなお芝居をされる善雄善雄さんや、「普通の見た目じゃいや」って作品を楽しんでくれたYOUさんのかわいさもすてきです(笑)。古屋組、楽しみ。

―古屋監督は二十面相をどういうふうに位置づけられていたのでしょうか?

古屋さんは、明智と二十面相の戦いを、格好よく正統派に撮っていたと思います。明智の日常を、映像のカットを繋いで描くシーンがあって、古屋さんらしい場面になっているんじゃないかな。怪人二十面相からの手紙をアメ車が出した煙の中で読んだのも、2人の戦いはまだ始まったばかりだと言う感じが見えて、クゥーかっこいいぜ! となる予感がしています。

―アヴァンギャルドな明智小五郎ですね。

ヘアメイクや衣装など、視覚的要素はアヴァンギャルドなくらいにしても、成り立っちゃうのが乱歩作品の強さです。乱歩の描く、恐ろしくも美しい、バカバカしくも色香が漂う世界で、”明智宇宙”を進み続けていられることは、なんとも幸せなことだと思います。なぜか、奇をてらうくらいじゃないと乱歩にならない。

古屋組のラストあたりでは、エンディング曲も歌っています。二十面相からの手紙を読んだあとに、荒井由美さんのデビュー曲「返事はいらない」を(笑)。無事にレコーディングは終わっています(笑)。

「妖怪博士」

二十面相と明智が恋愛のような駆け引きをわちゃわちゃやっているだけなのかも(笑)

―3つの明智を演じられたわけですが、それぞれいかがでしたか?

甲乙つけがたいですね、それぞれに面白くて。

―まるで『ローマの休日』(1953年)のアン王女の台詞ですね(笑)。

これまでは犯人によって明智像を変えていましたが、今回はただ一人の宿敵・怪人二十面相との対決なので、明智自身は非常にシンプルでした。同じ敵をあらゆる方法で、楽しいお芝居の役者さんたちが演じられるので、撮影中は気持ちよく翻弄されていた感じでしょうか。明智を慕う少年探偵団もいるので、その面ではやや省エネモードでいられてラッキーだったかな(笑)。このシリーズを印象付けているスタイリストさんが変わったこともあって、今回の小五郎さんは爽やかで飄々とした感じ。名探偵感も高めになっております。

―明智と二十面相はいったいどんな関係なんだと思いますか? そんなに明智に固執しなくてもいいのに、と思うところも(笑)。

恋愛みたいなものかもしれませんね。怪人二十面相は明智が大好き(笑)。そう考えると、運命の相手である明智と恋愛のような駆け引きをわちゃわちゃやっているだけなのかも(笑)。明智も、今までみたいに犯人を小馬鹿にする感じとは違って、少し本気になっちゃってる(笑)。推理も結構丁寧にしているし、かわいい関係ですよね。

満島ひかり Hikari Mitsushima
1985年に鹿児島県で生まれ、沖縄県で育つ。1997年に音楽ユニット「Folder」でデビュー。2009年の映画『愛のむきだし』で鮮烈なインパクトを残し、その後も俳優・音楽・執筆・ナレーションなど、唯一無二の存在で活躍。「シリーズ江戸川乱歩短編集」には2016年から主演としてかかわり、今回は第4弾となる。

取材・文:関口裕子

『シリーズ江戸川乱歩短編集』は2021年3月23日(火)よりNHK BSプレミアムにて3夜連続放送

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『シリーズ江戸川乱歩短編集Ⅳ 新!少年探偵団』

第1回「怪人二十面相」
変幻自在の愉快犯・怪人二十面相と名探偵・明智小五郎、記念すべき初対決の幕が開く!
変装を得意とする正体不明の怪盗・怪人二十面相。明智の留守を任された助手・小林少年の前で次々と盗難事件が起きる。帰国した明智はおとりとなって二十面相と対決。最後は、少年探偵団の子らにも助けられ、見事勝利を収めるが……

第2回「少年探偵団」
「呪いの宝石」の言い伝え。立ちはだかる謎の数々に、明智小五郎と少年探偵団が挑む!
東京中で「黒い魔物」の噂が広がっていた。次々と起きる少女誘拐事件。篠崎家の宝石と愛娘にも黒い影が忍び寄る。「呪いの宝石」の言い伝えは事実なのか?そして、黒い魔物の正体とは!?

第3回「妖怪博士」
怪人二十面相による復讐劇!
怪しい老人の後をつけて奇妙な洋館に忍び込んだ少年探偵団員の相川泰二は、老人に見つかってしまう。奇怪な風貌の老人・蛭田博士は何か説明の出来ないような力を持っている様子で、屋敷にも恐るべき仕掛けがあった……!

制作年: 2021
監督:
出演:
  • BANGER!!!
  • ドラマ
  • 満島ひかりの明智小五郎が還ってきた!『シリーズ江戸川乱歩短編集Ⅳ 新!少年探偵団』でアヴァンギャルドな乱歩世界を再構築