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二宮和也が写真家・浅田政志を演じた理由とは? 中野量太監督が語る『浅田家!』撮影秘話!

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ライター:#関口裕子
二宮和也が写真家・浅田政志を演じた理由とは? 中野量太監督が語る『浅田家!』撮影秘話!
『浅田家!』©2020「浅田家!」製作委員会

写真家・浅田政志とは何者か? 二宮和也、妻夫木聡、菅田将暉ら共演『浅田家!』

二宮和也が、実在する写真家・浅田政志を演じる『浅田家!』。木村伊兵衛写真賞を受賞した家族写真集「浅田家」(赤々舎刊)、東日本大震災の被害にあったアルバムや写真の洗浄・返却にあたった人々を撮影した「アルバムのチカラ」(赤々舎刊)を原案にした、中野量太監督の新作だ。三重県津市に生まれた浅田政志氏が写真家になるまで、そして東日本大震災を経験し、改めて写真を撮る意味を見出そうとするクリエイターとしての浅田氏の矜持を、笑いと涙のうちに描く。実話をベースにオリジナル作品を生み出した中野量太監督に聞いた。

『浅田家!』©2020「浅田家!」製作委員会

「映画のスタイルとして、どんなに辛い状況を描いたとしても最後はどこか前向きなものを提示したい」

―今回のテーマは“家族”。プロデューサーの小川真司さん(『ジョゼと虎と魚たち』[2003年]『メゾン・ド・ヒミコ』[2005年])は、「“家族”を撮るなら中野監督だ」とオファーされたと伺いました。でも今回、その家族に加え、東日本大震災や写真(芸術)の持つ力などというテーマもあります。中野監督はそれらを、どう結びつけてオリジナル脚本を作るのだろうとワクワクしつつも、完成形を想像できませんでした。たぶん脚本作りは大変だったと思いますが。

そうですね、大変でした。でもなんと言っても浅田家の皆さんが魅力的だったんですよね。浅田政志さんの写真集「浅田家」(赤々舎刊)を見たとたん、こんな写真が生まれる背景には必ずドラマがある。それを撮りたいと強く思ってしまった。

同時に、東日本大震災の津波の被害を受けた写真やアルバムを洗浄して持ち主に返す活動をする人々を、2年間撮影した写真集「アルバムのチカラ」(赤々舎刊)にも衝撃を受けました。僕もクリエイターとして、ずっと東日本大震災については何かやらなければと思っていたので。でも僕は、映画のスタイルとして、どんなに辛い状況を描いたとしても最後はどこか前向きなものを提示したい。震災を描く場合、なかなかそうするのが難しく、この写真洗浄というモチーフを得てやっとその糸口が見いだせたというか。

アルバムのチカラ 増補版

僕は、知られていないことを伝えるのも映画の役割だと思っています。その意味でも、写真を洗浄する活動をした人たちがいたことは伝えるべきだし、浅田家を描くことで前向きな形にできると思った。浅田さんという興味深いキャラクターと、あの明るい家族。この人たちを通してならできると。だから僕の中では、“家族”と“東日本大震災”は離れたテーマではありませんでした。今回もオリジナル脚本ですが、脚本を執筆する前に東北や浅田さん家族を取材させてもらえたので、題材は豊富にありました。

『浅田家!』©2020「浅田家!」製作委員会

「詰めていった被写体との距離が写真に反映されていくのがたまらなく面白いんです」

―脚本は18稿まで粘ったそうですね。題材もありすぎるくらいだったのではと思いますが?

描けなかった題材もたくさんありますが、大枠はそんなに苦労していません。でも前半(浅田さんが写真家になるまで)と後半(震災が起きて以降)のバランスが難しく、最初はどうしても“転調”という感じになってしまって。どうすれば物語を一本の流れにできるのか、最後の最後まで悩みました。最終的に、浅田家と家族の話をちゃんと通しておけば、トーンが変わっても観客は着いてきてくれるだろうという結論に至ったんですけど。そういうバランスの難しさはありましたが、脚本を書くエネルギーというか、僕のやりたいという想いと題材は溢れるくらいありました。

『浅田家!』©2020「浅田家!」製作委員会

―最初に会ったときの浅田政志さんの印象は?

刺青の“兄ちゃん”(笑)。人との距離感が面白い方で、すっとこちらの内側に入ってくるけど、ガツガツはしていない。何回も会っているうちにだんだん掴めてきました。どうしても浅田さんがどのように写真を撮っているのか見たくて、仕事も見学させてもらいました。雑誌の表紙のために吹奏楽部の子たちを撮影する仕事だったんですが、彼らは素人ですから「撮るよ!」と言ってもなかなかノッてこない。それをやる気にさせる方法が本当に面白くて。まず撮って、「こんなふうに写るんだよ。でももっとこうしたほうが面白くなると思わない?」と見せる。そのうちみんなノってきて、最後最高の一枚を撮りあげる。詰めていった距離が写真に反映されていくのがたまらなく面白いんですよ。浅田さんの家族論ともいえる「家族写真」もそうやって撮影されていったんだなと思いました。

『浅田家!』©2020「浅田家!」製作委員会

―家族をテーマに掲げ、そういう演出をされる浅田さんを、中野監督は近しく感じられたんじゃないですか?

めっちゃそう思いました! 映画ってスクリーンの中だけじゃなく、その外側に広がる世界をいかに想像させるかが醍醐味じゃないですか。直接写していないものまで無限に想像させることができたら、ハリウッド大作にも負けないものになる。写真もそうだと思うんですよ。僕が最初に浅田さんの写真を見て、「ここには絶対ドラマがある」と思ったように。浅田さんの写真は外に広がったイメージまで含めて作品。たぶんそこが面白いんですよね。

『浅田家!』©2020「浅田家!」製作委員会

「二宮和也さんは馴染むんですよね、映画の世界に。それに憂いというか寂しさも背負っている」

―今回のキャスティングはどのように決まったのでしょうか?

政志は、素晴らしい作品を撮りますが、人としてダメなところはすごくダメなんです(笑)。でもそのダメな部分も魅力的で、みんな手伝いたくなるし、応援したいと思ってしまう。結果を出せる、人たらし。政志はそれを醸せる人じゃないとできない。すっごくイケメンな候補の方もいましたが、今回はお断りしました。

―イケメンなだけじゃなく、人たらし感が必要だと?

はい。二宮和也さんは以前から好きでした。馴染むんですよね、映画の世界に。それに憂いというか寂しさも背負っている。やっぱり二宮さんしかいないと思って、オファーを出しました。決まったときは「もらった!」と思いました(笑)。そこからはバランスを考えて、そんな弟をしっかり支えるお兄ちゃんに妻夫木聡さん、お父さんに平田満さん、お母さんに風吹ジュンさんと、家族のピースをはめていきました。

『浅田家!』©2020「浅田家!」製作委員会

―本来、妻夫木さんは主演を張る方。この役を受けようと思ったのは、中野監督と仕事をしてみたかったということでしょうか。

どうなんでしょう。先ほどもお話したように、いつか東日本大震災を撮りたいと思っていましたが、僕としてはそれを悲劇ではなく、人間喜劇にしたかった。今回やっとそれが可能になったわけですが、妻夫木さんはそこにノってくれたのもあるのかなと思っています。

―母親のように政志の面倒をみる幼馴染で恋人未満の川上若奈を演じられたのは黒木華さん。二宮さんとは『母と暮せば』(2015年)以来、2度目の共演ですよね。

今回、『横道世之介』(2012年)じゃないですけど、主人公自身ではなく、周りの人々の視点から政志という人間を表現したかったんです。その一番の語り部が、華ちゃんが演じた若奈。期待して、裏切られて、ダメでいいかげんなやつなんだけど協力してしまう。

―黒木さんはそんな若奈をどう思っていたんでしょうね? 若奈が、自分との未来を政志に追求したときもあいまいな答えでした。

どうだったんですかね? ただ黒木さんとは、若奈をただ尽くす人ではなく、彼女自身のやりたいことをやるために自立している人物、として共有しています。でも政志のダメさを愛しちゃったことは、若奈の最大の弱点なのかもしれません。おっしゃるとおり、2度目の共演なので、現場でも和気あいあい。黒木さんは、二宮さんの顔を見て「良い顔してんな~」なんて、ふざけてました(笑)。

『浅田家!』©2020「浅田家!」製作委員会

―写真洗浄のシーンには菅田将暉さんも登場されますが、一瞬、分からないくらい溶け込んでいましたね。

そうですね(笑)。菅田さんは、小野のモデルになった人と実際はあまり似ていないのに、いつの間にか似てしまっている凄さがあります。

「実際の浅田さんは子どもが寄ってくるような人。二宮さんが演じることで、そこに人としてのキュートさや深さが生まれると信じていた」

―中野監督ならではの演出に、作品世界との接点をクランクイン前に作っておくというのがあります。『湯を沸かすほどの熱い愛』(2016年)のときには、宮沢りえさんをはじめとする家族に事前にグループメールで距離を縮めてもらい、『長いお別れ』(2019年)のときは蒼井優さん、竹内結子さん、松原智恵子さんに、山﨑努さん演じるお父さんの誕生会を開いてもらうという演出をされました。今回はどんなことを?

今回どうしてもやりたかったのは、浅田さんの出身地であり、舞台である三重県津市に家族のキャストを全員連れて行って、本物の家族に会わせることでした。これだけはやらせてほしいとプロデューサーにお願いしましたが、これ、結構大変なことだったようです(苦笑)。

―そうですよね(笑)。

二宮さんだけスケジュールが合わなくて単独でしたが、全員、現地で家族に会ってもらうことができました。モノマネをしてもらうためではなく、自分が演じようとしている家族がどんな町に住み、どんな空気を吸って、どんな親子関係にあるのかを知ってほしかった。知った上で芝居を考えてくださいと。ひとりで三重県の浅田家を訪ねた二宮さんが、小ぶりな食卓でご家族と話をされているのは、なんだか不思議な光景でした。

妻夫木さんたちは、夜、ご家族と中華料理を食べに行ったんです。円卓ではそれぞれ演じる役の方の隣に座って話され、皆さん演じるうえで「とてもよかった」と言ってくれました。特に妻夫木さんは、お兄ちゃんと直接連絡を取り合うくらい仲良くなって。いろいろ聞いていたんだと思います。

―二宮さんは浅田さんと直接お話しされて、どんなことを感じ取られたんでしょうね?

どうでしょうね。実際の浅田さんって、子どもが寄ってくる人なんですよ。刺青入ってるし、一見こわもてなんですけれど。小野のモデルになった方も、最初はそう思っていたみたいです(笑)。そんな政志の主人公像を、当初、脚本を読んだ数人が不安に思って、「こんなダメでいいかげんな主人公でいいのか?」とさんざん言われました。でも二宮さんが演じることで、そこに人としてのキュートさや深さが生まれると信じていたので、僕は「大丈夫です!」と言っていました。主人公の魅力は文字だけでは伝わりにくいかったみたいです。

―キャスティングが創造する力ですね。浅田さんに限らず、本当にダメなんだけど憎めない人たらしってたくさんいますよね。中野さんご自身はいかがですか?

系統としたら……(笑)。やっぱり、いろいろ似ているんですよね、政志と。2人兄弟の次男坊で、実家では兄が母の面倒を見ていて、僕は好き勝手やっている。母ちゃんが政志の頬をバンと叩いて、「あんたは好きなことやりなさい! 時々、家族を喜ばしてくれたらそれでいいから」というのは僕の心の声でもあります(苦笑)。

『浅田家!』©2020「浅田家!」製作委員会

「浅田家は今まで描いた中で、一番まっとうな家族なんじゃないかと思っているんです」

―写真洗浄パートの皆さんにはどんな演出をされたんですか?

災害ボランティアを演じた渡辺真起子さんと菅田さん、二宮さんには、事前に写真洗浄を体験してもらいました。泥だらけの写真を用意し、実際に行っていた浅田さんたちボランティアスタッフを招いて指導していただいた。あれは大きかったと思います。

―津市を訪れた手ごたえは?

ありました。僕は撮影前に3回ほどうかがいましたが、津は海辺の町でもある。たぶん浅田さんは、東日本大震災の被災地を訪ねたとき、海に近い地元も思い浮かべたんじゃないかと思いました。浅田さんにとって海は、故郷であり穏やかなものだった。でも東北で、その海が暴れ、取り返しのつかない事態を巻き起こしたのを目の当たりにした。その対比も含め、津の海を見せたいと思いました。

―映画の中の浅田家は個性的ですが、実際もそうなんですか?

ええ。特に家が個性的で、玄関には様々な看板や置物、家の中には柱時計や提灯がたくさん架かっている。お父さんはとにかく収集魔なんだそうです。昔は屋根の上にウルトラマンが乗っていたとか(笑)。

―政志がたびたび海を眺めに行く防波堤も津で撮影されたんですか?

はい。浅田家のすぐ近くで、実際に浅田さんが遊んでいた場所だそうです。津市では防波堤、専修寺、津新町駅、消防署なども撮影しました。

『浅田家!』©2020「浅田家!」製作委員会

―本作では、長年のテーマである「家族とは?」の核心に、どの程度たどり着きましたか?

浅田家は今まで描いた中で、一番まっとうな家族なんじゃないかと思っているんです。浅田さんのお兄さんに「なぜ苦労してでも政志さんの撮影を手伝うのか?」と聞いたら、「両親が喜ぶから」と。これを聞いたとき、この家族は一見超変わっているけど、すごくまとも。自分の人生を楽しみながらも、親は子どもを、子どもは親を喜ばせたいと考えている。まだまだ家族の在り方についての答えは見えないし、きっと一生見えないと思います(笑)。

取材・文:関口裕子

『浅田家!』は2020年10月2日(金)より全国東宝系にて公開

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『浅田家!』

幼いころ、写真好きの父からカメラを譲ってもらった政志は、昔から写真を撮るのが大好きだった。そんな彼が、家族全員を巻き込んで、消防士、レーサー、ヒーロー、大食い選手権……。それぞれが“なりたかった職業”“やってみたかったこと”をテーマにコスプレし、その姿を撮影したユニークすぎる《家族写真》が、なんと写真界の芥川賞・木村伊兵衛写真賞を受賞! 受賞をきっかけに日本中の家族から撮影依頼を受け、写真家としてようやく軌道に乗り始めたとき、東日本大震災が起こる―― 。

かつて撮影した家族の安否を確かめるために向かった被災地で、政志が目にしたのは、家族や家を失った人々の姿だった。

「家族ってなんだろう?」
「写真家の自分にできることは何だろう?」

シャッターを切ることができず、自問自答をくり返す政志だったが、ある時、津波で泥だらけになった写真を一枚一枚洗って、家族の元に返すボランティア活動に励む人々と出会う。彼らと共に《写真洗浄》を続け、そこで写真を見つけ嬉しそうに帰っていく人々の笑顔に触れることで、次第に《写真の持つチカラ》を信じられるようになる。そんな時、一人の少女が現れる。

「私も家族写真を撮って欲しい!」
それは、津波で父親を失った少女の願いだった―― 。

制作年: 2019
監督:
脚本:
出演: