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嵐のあとにかかる虹【前編】尊敬しあう5人それぞれの想い~アラフェス2020 『ARASHI’s Diary -Voyage-』

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ライター:#関口裕子
嵐のあとにかかる虹【前編】尊敬しあう5人それぞれの想い~アラフェス2020 『ARASHI’s Diary -Voyage-』
◎ARASHI’s Diary -Voyage-

嵐の去ったステージには、大きな虹がかかっていた

歌い終わった嵐のメンバーの顔は、淡く美しい光に包まれていた。本来は青、赤、緑、黄色、紫で構成される“嵐”だが、今は誰もが白い衣装に身を包んでいる。自身のカラーばかりでなく、すべての色を“反射”させているのだ。

「Love So Sweet」を歌い終えた5人はアウトロが流れる中、ステージ奥へと続く階段をあがっていく。途中で立ち止まると「本当にどうもありがとう」と振り返り、左ポケットに侍のようにマイクを差し、空いた手をつないだ。その手を高く掲げるが「俺たちの名前はなんだ?」という、いつものコールはない。微笑みながらカメラを見つめ、無言でフェードアウトしていった。

「This is 嵐 LIVE 2020.12.31」は、こうして終了した。彼らは“自分の色”を探しに、新たなるスタート地点へと向かったのだ。嵐の去ったステージには、大きな虹がかかっていた――。

ここでは、『ARASHI’s Diary -Voyage- リミテッドシリーズ』の第18話から第23話、そして2020年12月31日に行われた休止前最後のライブ「This is 嵐 LIVE 2020.12.31」に触れながら、アイドルとは何か? 休止に向けて嵐がファンに残したものは何か? を考えていきたい。

第18話:11月3日へ

2020年11月3日に開催された「アラフェス2020 at 国立競技場」と、同日発売の17枚目のオリジナルアルバム『This is 嵐』の制作が同時進行する様子が描かれる第18話「11月3日へ」

『ARASHI’s Diary -Voyage-』を見てつくづく思うのは、アイドルとは記憶力がよくなければできない仕事だということ。番組への出演ほか様々な仕事をこなしながら、歌、振り付け、ダンスのフォーメーションなどを“記憶”していかなければならない。2020年11月3日のライブ「アラフェス2020」で披露したのは41曲、『This is 嵐』のために撮影されたミュージックビデオ(MV)7曲分。それらを「アラフェス2020」のセットリストが決まった8月末から、思い出しとリバイス、同時に『This is 嵐』の新たなるMVの撮影に入るのだ。テレビ出演時にはライブバージョンと異なるダンスやフォーメーションもあるだろう。常人には不可能なボリューム。よくぞ、と思う。

この第18話には『This is 嵐』収録曲「Whennever you call」のMV撮影で、松本潤がダンスの入りを間違える場面がある。メンバーいちミスが少ないと言われる松本だが、間違えることもあるんだと正直ホッとする。それを櫻井翔がおどけながら止め、二宮和也が「ただの疲れです」と茶化すと、スタジオがソフトな笑いに包まれる。これが嵐なのだ。

二宮が「疲れ」だと言うように、ライブの総合演出的立場の松本の仕事量は当時、尋常ではなかっただろう。『ARASHI’s Diary -Voyage-』からそれが伝わってくる。

第21話:JUN’s Diary

紹介する順番は前後するが「JUN’s Diary」には、そんなプロデューサーとしての松本潤の姿が描かれる。二宮はこう言う。「『コンサートの演出は松本さんが担当しているんですよね』『ああ、そうですね』で片付けられるレベルじゃないといつも思っているし、(松本の仕事を正確に伝えられないことに)我々がイライラしちゃう」と。

一方、コンサート終わりに松本から夕食に誘われるも、翌日AM7時起きのため断った大野はこう証言する。「昨日何時まで飲んでたのって聞いたら“4時”って。すごい男だなと思った(笑)」。遊ぶときは徹底して遊ぶ。もちろん松本の朝も早いはずだ。

松本はかなりストイックなタイプなのだと思う。若い頃から映画、演劇、ダンス、コンサート、美術、写真などを積極的に鑑賞し、教えを乞いたい人には自らアクセスし、きちんと頭を下げた。最初にそれを目の当たりにしたときは意外に思った。二十歳そこそこなのに、すごいなと。そうして彼が見聞きしてきたものが血肉になっているのは現在、一目瞭然だ。

ただしスイッチが入ってしまうと過剰に集中し、寝る間も忘れるタイプなのではないか。しかも彼はパフォーマーだ。プロデュースだけに没入できるわけではない。寝食を忘れてものづくりをしながら、いつパフォーマンスを行ってもいいように自身のコンディションを保持していくのは至難の業だ。それをこなすところが、“キング”“MJ”などと呼ばれる所以なのだろう。

証言者の1人として登場したONE OK ROCKのTakaは、ここ2~3年で一番会っていたのが松本だという。国内外問わず地道にライブを行うところからスタートし、いまや世界中にファンを持つようになったONE OK ROCK。そんな経験を積んできたTakaは、嵐として世界へ出ようとする松本に、どうアドバイスをすべきか迷ったと明かす。時間も、コネクションも、語学力すら欠けている状況でのスタートだったからだ。

だがTakaは「コンサートもそうだし、アメリカで何かやってみたいと言うのもそう。ある種、嵐のプロデューサーの目線でいろいろなものをクリエイトしている。表に立つ人(パフォーマー)と、それを客観的に見なきゃいけない人は、本来ならば別であるべき。それを一手に引き受けたところから、物事を見つめて、進行させて、実現していくのって、相当、体力と哲学がなければできないと思う。そういう意味ではブルーノ・マーズの楽曲提供とか、すごいことやってんなと純粋に思うよね」と肯定的にサポートした。

「よく家で電話越しに怒ってたもんね。潤の独特のキング気質で」とTakaが言うと、「いやいや、“繊細”じゃ!(笑)。あんたの方がジャイアンだよ」とツッコむ松本。Takaは「キングで、乱暴で、繊細。だから、みんな集まってくるんだね。大丈夫? って」と松本を総括した。

第19話「NINO’s Diary」で語っているように、二宮は嵐のメンバーが20歳になるたびに曲を作ってお祝いしてきた。最後にハタチになったのは松本。二宮作曲のバースデーソング「A-FRENDS 松本バージョン」には、「大人な松潤に期待度抜群♪」という一節がある。「松潤とかMJって呼ばれてるけど、君は“もともと松本なんだよ”と5分7秒かけて聴かせた歌。いまとなって響く曲だね」と二宮が言う通り、メンバーは当時から松本のポテンシャルが分かっていたのだろう。松本自身、まだ自分の立ち位置を掴みかねていただろうに。

相葉雅紀は言う。「松本潤は松本潤を知らない。そこがかわいい」と。また櫻井は『木更津キャッツアイ』(2002年)の話が来た時に、「松潤から『翔くん、これでひとつ当ててきてよ』と言われたのが、すごく印象的だった」と振り返る。

「20歳そこそこでグループやってるんだから、本来そんなの嫉妬しかないのよ。“俺が行きてー”が普通だと思う。でも彼は背中を押した。これは嵐を象徴するエピソードだと思っていて、たぶんグループみんながそうなんだよね。……でも不思議なもので、5人で撮影するとき、立ち位置が決まってないと必ず松本はセンター入るんだけどね(笑)」

第19話:NINO’s Diary

多くの人の言葉で綴られる松本の「JUN’s Diary」と比べ、二宮和也の第19話「NINO’s Diary」はほぼ主観のモノローグ。各々のエピソード回の構成はおそらく本人の意向によるものと思われるが、「NINO’s Diary」は二宮自身がドキュメンタリーの監督のように余分なく構成要素を用意したのではないか。風間俊介に「世の中の見方がすごい」と言わせたが最後、他者に語らせない。だが、一カ所だけ隙を作った。その内容次第で、そこを「NINO’s Diary」の核に提供しようとしたのではないか。もしくは鉄壁の二宮を切り崩すために、監督の原田陽介が用意したのか。それが後半の長いひとり語りだ。

ハイボールを片手に、二宮は約21年分の嵐としての記録の詰まったMacBookを前に、手掛けた曲について紐解いていく。

二宮が作曲した「ファイトソング」は、『Gの嵐』(日本テレビ:2005年~)の応援歌として作られた。ストックの中に使えそうな曲があり、それを「もっとノリノリにしていけば応援歌っぽくなるんじゃないかと、メンバーに聴いてもらった」という。

曲作りを始めたのは「すぎやまこういちさんがドラクエのテーマソングを5分で作ったと言っているのに衝撃を受けた」からなのだそう。正確に言うと、「それまでの40年あまりの音楽人生があったから5分で作れた」ということらしいが、「ゲーム好きだったし、ゲーム音楽を作ろうと、最初ピコピコやっていたんだけど、やっぱ入口はバンドだと思ってギターを弾き始めた。でも曲ができても友だちがいないから、今度はベース弾いて、ドラム叩いて、デジタルで補填して……。ほんと、友だちがいたらバンドになっていたと思う」と明かす

初めて作詞、作曲、アレンジまで全て手掛けたのは、松本と歌った2003年の「もういない…ない」。「(未CD化のため)お金にはなっていないけど、歌えるってことがラッキー。それだけで生活できた」と語る。

2011年の「エナジーソング ~絶好調超!!!!~」も二宮作曲だ。絶大な人気を誇る曲だが、二宮は自分のことではなく、櫻井と相葉について語る。「『エナジーソング ~絶好調超!!!!~』のデモを投げて、2日後くらいにラップ入りで返ってきたんだけど、櫻井翔って天才なんだなと思った。タイトルは相葉くんが『“エナジーソング”がいいんじゃない? すごいエネルギー感じるじゃん』っていうから、『う、うん、そうだね。エナジーソングだね』となった(笑)。今となったら“エナジーソング”以外考えられないんだけど、そのときはこの人ホントぶっ飛んでんなと思った(笑)」と。

「嵐の作品に自分の名前が載っかってしまうのには嬉しさもあるけど、責任もある」という二宮。嵐とは彼自身でもあるのに、二宮の認識は若干異なるらしい。そんな彼が「自分の中で一番」と言うのが、作詞作曲を手掛けた「どこにでもある唄。」だ。東日本大震災の年、自分の中で“明日”という日の価値が高くなってしまった頃、「動かなきゃいけないと思って作った」曲。いつもなら感謝できることがそう思えず、また書いた歌詞を嘘くさく感じ、何を書いていいか分からず、書きあげるのに25日を要した。「難産だね」といとおしそうに呟く。

そんな二宮が笑いながらも涙を拭ったように見えたのが、「これ大好きなんだよね」という、ひたすら動かない大野智の動画を見せたとき。なぜここで涙を流すのか。通り一遍のものを許さない流れも含めて二宮は面白い。こうしてギュッと観客を惹きつけておきながら、そのままで終わらせない。

「僕は嵐の二宮和也。明日も笑えたらいいじゃん。5人でさ、皆でさ」と優等生のようなエピローグで物語を締めてみせる。してやられたというか、手の中に掴みかけた何かを、確かめる間もなく逃した気分。この異色エピソードには、二宮の演出家的色合いが強く感じられる。

いずれにしても、個性が出た5人それぞれのエピソードには、『ARASHI’s Diary -Voyage-』の本流とは異なる面白さがある。

第20話:7年ぶりの国立競技場

新しくなった国立競技場で行われた「アラフェス2020 at 国立競技場」。事前収録された同ライブは、ファンクラブ限定の1部、誰もが参加できる2部の構成で配信された。第20話「7年ぶりの国立競技場」には、リハーサルから収録までが収められている。

ライブのリハーサル当日、松本は「明日できる感じが俺はしない」と言いつつ、舞台構成や中継車を確認して回る。他メンバーは、カメラの絡み方を確認。無観客ゆえ、これまでのライブと異なりカメラだけが観客との接点だという認識を、いま一度強くしているようだ。二宮も「うちわがないからリアルな感じがしない。みんなにうちわを送ってもらえばよかった、ジャニーズ事務所宛てに。『貸してください』って(笑)」と改めて無観客を噛みしめる。

この回では、なかなか機会のないライブ本番の舞台裏を見ることができる。5人が、他メンバーのソロ・パフォーマンスや、このために再結成(!)された<大宮SK>を眺めつつ、「お、やった!」「もう疲れてる(笑)」などと口にしながらメンテナンスを受けている姿は本当に楽しそうだ。カメラはほぼ意識されていない。ドキュメンタリーにとって重要なことだが、こんなふうになるまでに、どのくらいの月日を要しただろう。皆が帰宅した後、ひとり残った松本が収録した映像を確認して安堵の色を覗かせる様子が見られるのも、制作チームの努力と年月の賜物だろう。

11月3日は5人もファンと共にライブ「アラフェス2020」の生配信を鑑賞、その様子も配信された。SNSに寄せられたライブの感想に、リアルタイムにコメントしていく。事前収録ゆえに叶わなかったファンサービス的な意味合いもあるのだろう。同時に、12月31日「This is 嵐 LIVE 2020.12.31」をさらに充実させるため、配信映像に視聴者がどのような印象を抱くかも確認したのではないか。

この回あたりから毎回、原田監督はメンバー全員に「This is 嵐 LIVE 2020.12.31」に向かう想いを定点観測的に聞き始める。

「『This is嵐』というアルバムを引っ提げての最後のライブ。集大成をやるわけじゃないのが、僕の中ではちゃんと前を向いている気がする。ずっと歩いていれば、ゆっくりでもまた合流できるんじゃないかと思っているんだろうな」(相葉)

「楽しみ切った先なら、どこかで楽しくやっているんだろうなと思ってもらえるだろうから、楽しみ切るのが俺の中では重要。優先順位は高いよね。現状、同じ環境で、同じことでわいわいできる人たちと、今度いつ合流するのか、いつ会えるか分からないわけだから、楽しんでおかないともったいないし」(二宮)

「今まで培ってきた5人の空気感だったり、いろいろなものを届けようとするんじゃないかな。……泣くかも知らんけど、想像できないんだよね」(大野)

「見て見ぬふりを続けてきたし、感じないようにしてきたから全然分からない」(櫻井)

共通しているのは、誰もがこの時点では“分かっていない”ということだけ――。

【後編】へ続く

第24話(最終話)『We are ARSHI』Netflixで独占配信中

文:関口裕子

Netflixオリジナルドキュメンタリーシリーズ『ARASHI’s Diary -Voyage- 』はNetflixで独占配信中

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『ARASHI’s Diary -Voyage-』

デビューから20年、国民的アイドルへと成長した嵐。新たな門出を迎え、さらなるチャレンジに取り組む5人の素顔に迫り、その魅力を世界に届ける。

制作年: 2019
出演: