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嵐はアイドルを超えて「生きる醍醐味」になった ~『ARASHI’s Diary -Voyage-』最終話が映し出す旅の終着地~

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ライター:#関口裕子
嵐はアイドルを超えて「生きる醍醐味」になった ~『ARASHI’s Diary -Voyage-』最終話が映し出す旅の終着地~
Netflixオリジナルドキュメンタリーシリーズ『ARASHI’s Diary -Voyage-』Netflixで全世界独占配信中

泣いても笑っても最終話『We are ARASHI』

Netflixオリジナルドキュメンタリーシリーズ『ARASHI’s Diary -Voyage-』の最終話である第24話『We are ARASHI』が2021年2月28日に配信され、1年2カ月にわたり嵐を追い続けた旅が終わった。

撮影開始から考えると2年以上。「Journey」ではなく「Voyage」と定義されたその旅は、デビュー時に乗り込んだ船の目的地を、5人が決めた日から寄り添い、着岸までを見つめるものとなった。

全国1億人弱が嵐の姿を見納めた2020年末

『We are ARASHI』は2020年12月15日から31日までの彼らを、2021年現在から振り返る。私たちはすでに、下船した彼らがそれぞれの道を歩み始めたのを知っているのに、その2週間強の姿を見せることにどんな意図があるのか改めて考えてみた。

ドキュメンタリーに表示される日づけが、生放送のない日の彼らがコンサートの準備に没頭していることを明らかにする。会場である東京ドームに“出勤”し、それぞれの“仕事”をこなす姿はこれまでと変わらない。カメラは、そんな5人がコンサートのクオリティをあげるべく努力する姿を坦々と写し取っていく。

嵐は休止直前の12月、冠番組を含む15のテレビ番組に出演。加えて個々の仕事の収録などもある中、毎週水曜夜にはファンクラブに向けてラジオ風ネット番組もこなした。ドキュメンタリーには、そんな状況下、コンサートの練習でやや疲れた様子の彼らも映し出される。ちなみに12月の出演番組では、日本全国のリアルタイム視聴到達人数9339.2万人(推計/ビデオリサーチ調べ)を記録している。1億人弱がこの期間に改めて嵐の姿を見納めたことになる。

「こんなに“行きたくないドーム”を初めて経験した」

29日、撮影スタッフから“今の気持ち”を聞かれた大野智は語っている。

「ステージを見たとき、これが最後のステージかという感覚があったし、『PIKA★★NCHI DOUBLE』の映像を背負ったときにはグッときた。当時のステージにリンク(XRを用いた仮想空間でのパフォーマンス)していたから、超思い出した。昔のPV、こんな感じだったなと。今日を入れてあと2日半だけど、いい意味で一週間ぐらいに感じるんだろうな。ふつうに生きてればあっという間だけど、いろいろ考えるだろうから。これまでも、これからの人生でも味わわない境地にいるんだろうね」――これは相葉も同様だったようだ。

櫻井は、「昨日、こんなに行きたくないドームを初めて経験した。玄関を出たくないというか。着いちゃえばやることはひとつだから。本番に向けてのリハーサルという。アジア各国の方が、ありがとうのメッセージをまとめてくれていて、国内ももちろんだけどそのメッセージにジーンとした。なんというか(その日が)来てほしくないというのもちょっとある。でもずっと前に立てたゴールテープ。さあ、それを切るぞという思いもある」

二宮は、「特別な日だからね。今ここで起きていることをみんなで共有することが重要な日。それができないと意味がないと、スタッフの人たち含めてやっているから、まずはそこかな。“届ける”という。自分の感情論は終わってからじゃないかな。分からないよね。そればっかりは」と言う。

その後、カメラは退出した二宮が控室に戻っていく後ろ姿を捉えている。これは一般的にカメラマンが自身の感情表現として使う手法。二宮の発言に、これまでとは異なる言葉以上の何かを感じ取ったのか、またはこのときの言葉を踏まえLIVEの際の二宮を振り返ってみてほしいというメッセージなのか。

本人たちも受け止めきれない、非現実的な“ラスト”ライブ

30日、コメント撮りの直前までスタッフとミーティングを重ねていた松本は、「明日は全く別もんだろうね。一発しかないし。カメラのアングルやスイッチのタイミングはノリで変っちゃうだろうけど、百戦錬磨というか、カメラマンもスイッチャーもずっとやってきたチーム。このチームじゃなければこんなスピード感ではできないし、ここまで粘らないと思う」と、まずはライブ全体を俯瞰した感想を述べる。

その後やっとパフォーマーの顔を見せ、「セットリストを並べているときや、どういう動きで、どういう灯りでと想像しているときに、感情の波があってグッとくるとき、フラットに聞けるときがある。スイッチが入ったらグッと来続けちゃうんじゃないかな。3年くらいこの日を想像して動いてきたから、ある種、自分の中では答え合わせというか。まあ、そんな想定を軽く超えるだろう気はするけど。どんな感じかマジで分からない。想像つかないね」と語った。

そんな「This is 嵐 LIVE 2020.12.31」当日、それぞれの送迎車で東京ドームに入る。一様に口数は少ないが、櫻井は最後のあいさつで言おうとしていたことを間違えて凹む夢を見たと明かし、車中でその場面のイメージトレーニングに励む。

一番饒舌なのは大野だ。「一個一個、考えてはいるんだけどね。ちゃんと目覚ましかけて起きるのも、マネージャーの電話を受けるのも、これが最後かとは思うんだけど、しっくりこないんだよね。気持ちにハマり切れていないというか、まだ現実だと思えていないんだろうね。でも早かったなあ、今日まで。なんかねえ、瞬間移動ぐらい早かった。あと12時間もないのか、早っ。不思議と気持ちいいんだろうな。ついたぞ。じゃあ、がんばりますか」とドームに入っていく。

「不思議と気持ちいい」と予想するのはライブを終えたときの気持ちで、やれることは尽くしてこの日を終えたという充実感からくる言葉なのだろう。

休止はしても、この先も“嵐”は同じ時を共有して生きている

『We are ARASHI』が伝えたかったのは、嵐が“やり切って”休止を迎えたということなのだろう。休止を決めた時点から「This is 嵐 LIVE」というラストライブまで、新型コロナウイルスの蔓延という不測の事態の中でもやりたかったことを余さずやり、それらの意味と楽しさを、言葉を尽くしてファンに伝え、共有する努力をした。だから現時点での悔いはない。そう伝えたかったのではないか。

また松本は、コロナにおいても、年が明けるということにおいても、歌詞の引用であるが“明けない夜はない”と信じ、自分たちもその同じ環境と時間に生きているという主旨の発言をする。休止はしても、この先も“嵐”は同じ時を共有して生きている。だが、そうやっていったん前進を止めたエネルギーは、新たなる人々へ受け継ごうと思う。そう言うかのように、彼らはラストライブのステージへとあがり、バックを務めるジャニーズJr.らと円陣を組んで見せた。

ジャニーズの後輩への伝承の一つと言ってしまえばそれまでだが、それ以上に大きな視点。我々は個人を超越した大きな何かとつながっているという考えが、彼らの脳裏にあるのではないかと感じた。

嵐はアイドルグループを超越した“生きていく醍醐味”

イギリスの哲学者バートランド・ラッセルは、著書「幸福論」の中でこう言う。「何ものにも縛られることなく、宇宙が与えてくれる景色や喜びを楽しみ、死の恐怖を思い煩うこともないのは、後の世代と切り離されていないというふうに感じているからだ」。

――死を恐れないとまでは言いすぎだが、例えば自然のなかでふと、連綿と続く生命の流れの中にいることを意識し、生きる醍醐味や幸せを感じることはないだろうか? 大げさかもしれないが、嵐というグループから、そんなふうに超越した“何か”とゆるくずっとつながっていこうというメッセージがあるように感じるのだ。

「This is 嵐 LIVE」で、“♪声を重ねよう 終わりのない そんなメロディーズ 時を超え 何度だって響く The music never ends”と彼らが歌う「The Music Never Ends」は、まさにそれを意識させる。ここの歌唱で珍しく二宮の声が乱れたような気がし、次の場面で松本としっかり寄り添っていた姿が印象に残った。

彼らは21年をかけて“嵐”というアイドルの存在を、もちろん需要による幅は持ちながらも、そこまで昇華させたのだと思っている。大げさすぎると感じるかもしれないが、「嵐という幸福論」で始まった連続性のある寄稿の結びは、これ以外思いつかない。

文:関口裕子

Netflixオリジナルドキュメンタリーシリーズ『ARASHI’s Diary -Voyage- 』はNetflixで独占配信中

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『ARASHI’s Diary -Voyage- 』

デビューから20年、国民的アイドルへと成長した嵐。新たな門出を迎え、さらなるチャレンジに取り組む5人の素顔に迫り、その魅力を世界に届ける。

制作年: 2019
出演: