IT男子のスマホ撮影ムチャ旅ドキュメンタリー『オーストリアからオーストラリアへ ふたりの自転車大冒険』

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ライター:髙橋直樹
IT男子のスマホ撮影ムチャ旅ドキュメンタリー『オーストリアからオーストラリアへ ふたりの自転車大冒険』
『オーストリアからオーストラリアへ ふたりの自転車大冒険』 © Aichholzer Film 2020

香港人200万人の叫びが詰め込まれた『時代革命』

2021年、コロナ禍が続く中で開催された「TOKYO FILMeX」で最も強烈な映画体験になった作品は、中国と香港では上映禁止となっている『時代革命』(2021年)だった。2019年から2020年、香港の人口の約四分の一、最大で200万人もの人々が参加したといわれる“反政府デモ”とは何だったのか。香港に生きる人々の勇気と誇りと不屈の精神が画面から滲み出る。

『時代革命』

驚愕させられたのは、監督はキウィ・チョウとクレジットされてはいるものの、撮影も、編集も、そして出演者も、すべては抗議活動に参加した当事者である“香港人”だということだ。彼らが手にしたスマートフォンで撮影された眼前にある現実が、デジタル映像から伝わってくる。命を賭けた激しい闘いが記録され、生々しい鼓動が皮膚感覚で伝わってくる圧巻の152分だった。

万難を配して『時代革命』の上映を実現してくれたTOKYO FILMeXの功績を讃えたい。

アフガン難民の過酷な逃避行をスマホで記録『ミッドナイト・トラベラー』

スマホで撮影された映画といえば、タリバンから死刑を宣告され国外に亡命せざるを得ない状況に追い込まれた映画監督ハッサン・ファジリと3人の家族の軌跡を綴った『ミッドナイト・トラベラー』(2019年)も忘れてはならない。アフガニスタンからヨーロッパへ、監督と妻、長女が持つ3台の携帯電話によって撮影された過酷な3年間の旅の記録。先行きが見通せない中で、家族のつかの間の憩いや、マイケル・ジャクソンのミュージック・ビデオを見ながらダンスに興じる姉、突然始まる排他的な行動に泣きっ面になる次女の姿などが入り交じる。

『ミッドナイト・トラベラー』©2019 OLD CHILLY PICTURES LLC.

『時代革命』と『ミッドナイト・トラベラー』に共通するのは、次に何が起こるか全く予想できない、当事者だけが見つめた生々しい瞬間が連鎖して皮膚に突き刺さるような体験をもたらすということ。そして、スマートフォンがあれば良質なドキュメンタリーが生み出せることを示してくれたのだ。

地球横断『オーストリアからオーストラリアへ ふたりの自転車大冒険』

“オーストリアからオーストラリアへ”自転車で移動する。思いつくのは簡単だけれど、実行するとなるとそうはいかない。映画『オーストリアからオーストラリアへ ふたりの自転車大冒険』はダジャレのようなアイデアから始まった、青年ふたりの旅の記録である。アンドレアとドミニクはIT関係の仕事をする“普通の男”だ。

『オーストリアからオーストラリアへ ふたりの自転車大冒険』 © Aichholzer Film 2020

普段はデスクでPCの画面と睨めっこする。仕事柄リサーチに優れた彼らは、アイデアを具現化させるために2年もの時間をかけて綿密な旅程を組んだ。ヨーロッパからロシアに北上し、砂漠地帯を抜けてチベットの山脈地帯からインドの雑踏を抜け、中国からタイ、マレーシアを経てシンガポールへ。その後、空路でバースへと飛び、オーストラリア大陸を横断、最終目的地ブリスベンに至る。その距離なんと18,000km!

『オーストリアからオーストラリアへ ふたりの自転車大冒険』 © Aichholzer Film 2020

自転車大冒険をとらえたのは小型カメラ3台とドローン、そしてスマートフォン

ふたりは準備期間に、もうひとつのプロジェクトを進めた。旅の記録を撮影し映画化するプランだ。このアイデアも「言うは易し、行うは難し」である。

『オーストリアからオーストラリアへ ふたりの自転車大冒険』 © Aichholzer Film 2020

デジタルの技術が進化し、撮影機材は驚くほど軽量化されている。ふたりが用意したのは、小型カメラ2台と防水型デジタルカメラにドローンにバッテリーなどの機材で10キロを越える。さらに野宿用のテント、生命線である水と食料、現地調達を前提とする必要最小限の衣類などを携行せねばならない。この冒険を楽しめなければ苦行となって全身にのしかかる。

『オーストリアからオーストラリアへ ふたりの自転車大冒険』 © Aichholzer Film 2020

軽やかにペダルをこぎ始めたふたりの旅は、3台のカメラとドローン、そしてスマートフォンによって撮影された。11ヶ月に及んだ旅が終わり、再就職したふたりは、編集に約2年の歳月を費やして作品を完成させた。大冒険の中身はここでは触れない。まさに身体を張った珍道中、何か起こった時に一番頼りになるのはスマホ。ドローンの見事な映像もさることながら、ふたりに寄り添った携帯電話が記録した映像にこそ面白さが詰まっている。その顛末を映画館の大きな画面でお楽しみいただきたい。

『オーストリアからオーストラリアへ ふたりの自転車大冒険』 © Aichholzer Film 2020

文:髙橋直樹

『オーストリアからオーストラリアへ ふたりの自転車大冒険』は2022年2月11日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、UPLINK吉祥寺ほか公開

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『オーストリアからオーストラリアへ ふたりの自転車大冒険』

ドローンと4Kカメラを積み込み、オーストリアからオーストラリアまで自転車で走破する旅に乗り出したアンドレアスとドミニク。赤の広場やステップ砂漠、ヒマラヤ、カラコルム山脈などの絶景を通り抜け、ロシア、カザフスタン、中国、パキスタン、インドなどユーラシア大陸を横断し目的地へ。

初日から豪雨と暴風に襲われ、灼熱、水・食料の枯渇、日射病、虫、友情の危機…未経験の困難が二人を待ち受ける。好奇心と情熱に突き動かされたふたりは、果たして最終目的地オーストラリアのブリスベンまで到達できるのか―⁉

制作年: 2020
監督:
  • BANGER!!!
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