ヘイトシンボルにされた“あのカエル”を救え!『フィールズ・グッド・マン』はネットミームの闇を追うチルでダークなドキュメンタリー

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ライター:BANGER!!! 編集部
ヘイトシンボルにされた“あのカエル”を救え!『フィールズ・グッド・マン』はネットミームの闇を追うチルでダークなドキュメンタリー
『フィールズ・グッド・マン』©2020 Feels Good Man Film LLC

なぜカエルが極右思想のシンボルに?

映画『フィールズ・グッド・マン』のポスタービジュアルで微笑むこのカエル、どこかで見たことはないだろうか? 日本では「ブサカワというか……なんだか気味の悪いカエルだな」くらいの認識かと思うが、実は彼、故郷アメリカでは極右思想のシンボルとしてネット上で拡散されまくってしまった悲劇のキャラクターなのだ。

『フィールズ・グッド・マン』©2020 Feels Good Man Film LLC

本作のテーマである“カエルのペペ”は、漫画家のマット・フューリーによる「ボーイズ・クラブ」というコミックの主人公。マットが雑多なリサイクルショップで働いていた20代の頃に蓄積したアイデアを形にした、とてもユル~い作品だ。なおタイトルの“フィールズ・グッド・マン”は、“気持ち良い男”ではなく「イイ感じだ~」みたいな意味。

『フィールズ・グッド・マン』©2020 Feels Good Man Film LLC

コミック内でペペが発したこの言葉を、あるSNSユーザーが筋肉自慢投稿に添えたことから一時的なネットミーム(=バズりネタ)になるが、これはインスタがネット世界を制覇する以前、まだmyspaceが主戦場だった00年代初頭の話だ。では、いつどんなきっかけでペペが人種差別主義者やオルタナ右翼のアイコンになってしまったのか? 本作は、その顛末を時系列に沿って丁寧に紹介していくドキュメンタリーである。

『フィールズ・グッド・マン』©2020 Feels Good Man Film LLC

日陰者たちのアイコンから公式ヘイトシンボルへ

ペペが本格的にネトウヨのおもちゃになってしまったのは、例の陰謀論を焚き付けたことでも知られるネット掲示板、4chan(&そこから派生した8chan)だ。キモかわいいペペをベースに、時事ネタを盛り込んだ差別的・暴力的な二次創作が次々と生み出され、じわじわとインターネットを侵食。政治的な言動を避けてきたマットの放任主義と、全てを受け入れるようなペペのレイドバックした雰囲気が、極端な社会不安を引き寄せてしまった部分も否めない。

『フィールズ・グッド・マン』©2020 Feels Good Man Film LLC

ネットの片隅で罵り合い、ときに慰めあっていた日陰者たちのアバターとなっていったペペ。やがてインスタの登場により個人の投稿が即ビジネスにつながる時代が到来すると、一部のセレブリティやリア充ぶりを見せつけるユーザーがペペを“つまみ食い”しはじめ、これに対しインセル(※非モテ男=不本意な禁欲主義者)ら古参ネット民たちが憤慨。内面に燻っていた差別心を呼び覚まされた彼らの怒りのアイコンとして再びペペが利用されはじめ、二次創作の連鎖(=N次創作)によって醜悪かつ過激なヘイト活動に発展していく。

『フィールズ・グッド・マン』©2020 Feels Good Man Film LLC

さらにペペは、大統領選に立候補したドナルド・トランプともリンク。すでにネット世界における嘲笑・冷笑行為のシンボルとなっていたダーク版ペペは、トランプが見せる根拠のない“ドヤ顔”との相性も抜群だった。そうしてアメリカが抱える様々な暗部を背負わされた結果、ペペは鉤十字などと並ぶヘイトシンボルに認定されてしまう。さすがにマットも様々な対抗策に打って出るが、時すでに遅し。せめて歪んだ形で商用利用される(なかには子ども向けの商品もあった)ペペを救おうと、知的財産侵害に対する戦いを始めるが……。

『フィールズ・グッド・マン』©2020 Feels Good Man Film LLC

人気キャラ、生かすも殺すもヒト次第

ペペおよび本作は、当然ながら海の向こうに限ったお話ではなく、日本でも(リアル/電脳を問わず)跋扈する差別主義者たちの危険な思想を考察するヒントになるはずだ。陰謀論を信じ込み、なぜか遠く離れた日本からトランプを救世主と仰ぎ支持を公言する人々の思慮の浅さも(間接的に)暴いてみせる。彼らが掲げるトランプ支持の根拠は(実家の地下室からヘイトクライムを称賛し煽っていた)2016年当時の4ちゃんねらーと同レベルであり、苦笑してしまうほど盲目的で短絡的なものだ。

『フィールズ・グッド・マン』©2020 Feels Good Man Film LLC

破壊を求める扇動者たちの道具にされ、権力者からは不都合な事実の隠れ蓑にされてしまったペペ。ここ日本にもカネのニオイを嗅ぎつけられたことで死亡宣告日より先に目が死んでしまった哀れなワニがいたが、なんとペペは海を超えて、香港民主化運動に参加する勇敢な人々により、偶然にも第二の命を授けられることになる。分断が進む現代社会に光を見出すことはなかなか難しいが、近い将来ペペは希望のシンボルとして復活し「一緒にチルしようぜ」と呼びかけてくれることだろう。フィールズグッド、メーン!?

『フィールズ・グッド・マン』©2020 Feels Good Man Film LLC

『フィールズ・グッド・マン』は2021年3月12日(金)よりユーロスペース、新宿シネマカリテにて公開

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『フィールズ・グッド・マン』

マット・フューリーの漫画「ボーイズ・クラブ」は、チルでハッピーなキャラクターたちが繰り広げる若者のリアルな日常を描き、カルト的な人気を博した。しかし、その主人公ぺぺが放ったセリフ「feels good man(気持ちいいぜ)」が全ての始まりとなる。

いつからか掲示板やSNSには、このセリフと共に“ネットミーム”として改変されたぺぺが溢れだした。そして2016年アメリカ大統領選時には、匿名掲示板「4chan」でオルタナ右翼たちが人種差別的なイメージとともにぺぺを大拡散。挙げ句にADL(名誉毀損防止同盟)からヘイトシンボルとして正式認定される始末。マットの思いとは裏腹にぺぺの乱用は加速し続け、なんとトランプ大統領の誕生に一役買うまでになり……。

制作年: 2020
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