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誰だって未来のために立ち上がれる!『私たちの青春、台湾』は社会派ドキュメンタリーながらホロ苦い青春の1ページとして共感度大

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ライター:#斉藤博昭
誰だって未来のために立ち上がれる!『私たちの青春、台湾』は社会派ドキュメンタリーながらホロ苦い青春の1ページとして共感度大
『私たちの青春、台湾』© 7th Day Film All rights reserved

多くの日本人が愛する台湾の今

新型コロナウイルスによって海外への渡航が制限され、とくに一般の旅行となるとまだまだ全面解禁には時間がかかりそう。そんな状況で、多くの人から「早く行きたい!」という声を聞く場所が台湾だ。

いまや台湾は多くの日本人、特に若者の間で人気ナンバーワンの海外旅行先となっている。東日本大震災の際の支援など日本に対する温情もあり、日本人にとって台湾の好感度は圧倒的。政治問題で何かとぎくしゃくする近隣他国と比べると、親しみを持てる地域として群を抜いているのではないだろうか。

このたびの新型コロナウイルスにしても、徹底した対策で早い時期に感染拡大をくいとめたことで、台湾の蔡英文政権への評価は高まったし、同じく中国との一国二制度を敷いている香港の混乱ぶりを考えれば、台湾の今後にも不安がよぎりつつ、日本と台湾の双方への愛情関係が長く続くことを祈るばかりだ。

カリスマ性とは無縁でも、確固とした信念さえ持っていれば誰もが立ち上がれる

『私たちの青春、台湾』というタイトルは、そんな台湾を愛する人々の心をくすぐるにちがいない。原題もほぼ同じ意味。しかし、その甘くノスタルジックな響きとは裏腹に、この映画が描くのは台湾の未来を変えようとした若者たちの学生運動だ。2014年3月、台湾の立法院(日本でいえば国会議事堂)が、学生や市民によって占拠。そこに端を発する大きなムーヴメントは「太陽花学生運動=ひまわり運動」として世界中に報道された。

『私たちの青春、台湾』© 7th Day Film All rights reserved

その旗手となったのが、陳為廷(チェン・ウェイティン)という青年。中国からの台湾の独立を強く訴え、路上では歌まで熱唱する彼の姿を、この『私たちの青春、台湾』は追っていく。そしてもう一人の主人公が、中国からの留学生、蔡博芸(ツァイ・ボーイー)。10万人以上のフォロワーをもつというブロガーの彼女が、陳為廷に共鳴。台湾の民主主義や学生運動についても積極的に発信するという、大陸出身者としてはタブーとされる行為にも躊躇せず、進んで運動に参加していく。

『私たちの青春、台湾』© 7th Day Film All rights reserved

劇中には、香港での雨傘運動に始まる反政府デモで有名になった、黄之鋒(ジョシュア・ウォン)や周庭(アグネス・チョウ)らも登場。彼らと陳為廷の交流からは、同じ志をもった若者同士の絆に胸が熱くなりつつ、それぞれのスタンスの違いが現実を浮き彫りにして心を締めつけたりもする。しかも、台湾と香港の若者たちがいくら団結しても、中国には無力だという現実も突きつけられ、虚しさが漂うばかり……。

『私たちの青春、台湾』© 7th Day Film All rights reserved

ただ彼らの姿を観て素直に感じるのは、リーダーとして若者たちの前面に立ち、(少なくとも自分たちにとって)まっとうな意思を貫くのは「どこにでもいそうな若者たち」ということ。カリスマ性などとは無縁でも、確固とした信念さえ持っていれば誰もが立ち上がるきっかけがあると勇気づけられるはずだ。

『私たちの青春、台湾』© 7th Day Film All rights reserved

ガチな社会派ドキュメンタリーでありながら、国や文化を超えた青春物語として感情移入させるパワーがある

映画は2017年、陳為廷らの活動を「過去のもの」として振り返る映像から始まる。太陽花学生運動では、300人以上の学生が立法院に侵入。立法院の外にも数万人が集結した。台湾の歴史上でも類をみないこの事件は1ヶ月近く続き、陳為廷による学生運動は成功したかと思われた。しかし、台湾の民主主義におけるさまざまな課題も噴出。政治家をめざした陳為廷、そして大陸と台湾の間で翻弄される蔡博芸の、その後のちょっぴり痛々しい運命までこの映画はとらえていく。一連の日々を振り返るというスタイルが切なさを増すのだ。

『私たちの青春、台湾』© 7th Day Film All rights reserved

こうしていろいろ書いているとガチな社会派ドキュメンタリーのようでもあるが、作品全体から伝わるのは、ホロ苦い青春の1ページというムード。陳為廷の言動は時に極端でついていけない部分もあるかもしれないが、価値観が異なる土地に来て、そこでの考え方や仲間によって新たな一歩を踏み出そうとする蔡博芸の成長には、国や文化を超えた青春の物語として感情移入させるパワーがある。その意味で、映画のタイトルはぴったりなのだ。

『私たちの青春、台湾』© 7th Day Film All rights reserved

台湾の若者たちのパワーや、向き合う現実をこの映画から知ることで、新型コロナウイルスが落ち着いて台湾を旅する機会が訪れたとき、その風景はちょっぴり違った印象を放っているかもしれない。

『私たちの青春、台湾』は2020年10月31日(土)よりポレポレ東中野ほか全国順次公開

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『私たちの青春、台湾』

2011年、魅力的な二人の大学生と出会った。台湾学生運動の中心人物・陳為廷(チェン・ウェイティン)、台湾の社会運動に参加する人気ブロガーの中国人留学生・蔡博芸(ツァイ・ボーイー)。やがて為廷は林飛帆(リン・フェイファン)と共に立法院に突入し、ひまわり運動のリーダーになった。“民主”が台湾でどのように行われているのか伝えたいと博芸が書いたブログは、書籍化され大陸でも刊行される人気ぶりだ。

彼らが最前線に突き進むのを見ながら、「社会運動が世界を変えるかもしれない」という期待が、私の胸いっぱいに広がっていた。しかし彼らの運命はひまわり運動後、失速していく。

ひまわり運動を経て、立法院補欠選挙に出馬した為廷は過去のスキャンダルで撤退を表明。大学自治会選に出馬した博芸は、国籍を理由に不当な扱いを受け、正当な選挙すら出来ずに敗北する。

それは監督の私が求めていた未来ではなかったが、その失意は私自身が自己と向き合うきっかけとなっていく―

制作年: 2017
監督:
出演: