草笛光子「私、いま生き直している」不朽の名作『犬神家の一族』角川映画祭にて4K美麗映像で復活上映!

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ライター:椎名基樹
草笛光子「私、いま生き直している」不朽の名作『犬神家の一族』角川映画祭にて4K美麗映像で復活上映!
草笛光子

草笛光子、市川崑と『犬神家の一族』を語る

市川崑監督による日本映画界不朽の名作『犬神家の一族』(1976年)が、角川映画45周年記念企画「角川映画祭」にて4K修復版の美麗映像で上映される。石坂浩二が金田一耕助を演じる市川監督による横溝正史シリーズ第一作にして、記録的ヒットを達成した、その後の角川映画を形作ることになる金字塔的作品だ。

「角川映画祭」©KADOKAWA

そんな『犬神家の一族』で犬神梅子を演じ、市川監督による横溝正史シリーズ6作(『悪魔の手毬唄』[1977年]『獄門島』[1977年]『女王蜂』[1978年]『病院坂の首縊りの家』[1979年]『犬神家の一族』[2006年:リメイク版])に出演しているのが、女優・草笛光子。現在も映画、テレビ、舞台にと現役で活躍する大女優は、2021年10月に88歳を迎えたばかり。銀幕デビューから70年弱、日本映画界を知り尽くした草笛さんに、市川監督や『犬神家~』への想いを聞いた。

『⽝神家の⼀族』©KADOKAWA1976

「市川先生からの出演依頼は、いつも普通ではない」

―角川映画祭で『犬神家の一族』の4K版が上映されます。

ひさしぶりに観させていただきました。懐かしかったですね。すごい力があってずっしりと重たい良い映画です。

―撮影中のエピソードで、どんなことが印象に残っていますか?

いつも撮影所に角川映画の方が代わる代わる必ずいらしていました。お一人だけ色が違うのよ。ネクタイ締めてて(笑)。

―すごく豪華なキャストですよね。

そうですね。改めて観ると、そうそうたるメンバーが集まっていますよね。腕のある方ばかり。しかも皆さん愛嬌があるでしょ。だからこういう素晴らしい作品ができたのだと思います。警察署長役の加藤武さんなんて、その最たるもの。でも、みんな先に逝ってしまって。さみしいですね。

『⽝神家の⼀族』©KADOKAWA1976

―犬神家3姉妹の長女・松子役、高峰三枝子さんとの思い出はありますか?

私は小学生になる前から三枝子さんの歌ばかり口ずさんでいたので、「私、あなたの歌を小さい時から歌っていたんですよ」ってご本人に言ったら、「あらそう?」って(笑)。

高峰さんが亡くなったとき、最後のお化粧を私がさせていただいたんです。『犬神家の一族』で共演中に高峰さんが私のお化粧がうまいとおっしゃって、「私が帝劇に出る時、あなたがお化粧してね」っておっしゃったんです。だから旅先で高峰さんが亡くなったニュースをテレビで見て、「ああ、お化粧して差し上げなきゃ」と大急ぎで東京に戻ってお化粧道具を持って、高峰さんのお家に行きました。口紅つけて頬紅つけて……すごく綺麗でした。

『⽝神家の⼀族』©KADOKAWA1976

―草笛さんが演じられた三女の梅子は、色っぽい悪女の役でした。

市川先生に「出るよね」って言われましたから。市川先生の出演依頼って普通じゃないんですよ。いつもそう。最初に『ぼんち』(1960年)という映画に誘われた時は、東宝撮影所の食堂でした。先生がふらっといらして「今度、大映でこういうのを撮るんだけど、出てくれるか?」。それだけ(笑)。

『⽝神家の⼀族』©KADOKAWA1976

「いい役者さんとご一緒できるのは幸せなこと。宝をもらえたみたいなもの」

―市川崑監督の作品は画が美しく、構図もお洒落で感心します。

その頃、私『必殺』シリーズ(1975年ほか)をやっていたのですが、夜に先生から電話がかかってきて「今やってる、あの『必殺』さ、なんていうカメラマン?」って。『必殺』のカメラマンは画作りがうまかったのでそれを見ていらして、「あれはどうやって撮っているんだ? 何メートルぐらい離れて撮った?」なんて訊かれました。画作りにとても敏感な方です。

(『犬神家の一族』の出演者が一同に座敷に介する写真を指しながら)これが撮影初日でした。みんなが集まって「では始めます」っていう時に、先生が「今日はこれでおしまい。みんな帰って。明日やります」とおっしゃったの。襖の絵の金色が本物に見えないから、塗り直すためにその日は解散になった。こだわりが素敵だなと思いました。

『⽝神家の⼀族』©KADOKAWA1976

―こだわりの強い作品になりそうだと感じたんですね。

このシーンの撮影の時、三國連太郎さんは亡くなって横になっていたんですが、あまりにもきれいな死に顔だったので「三國さん、そのお化粧どうやったの?」と訊いたら、「女の人のストッキングを切って顔に貼って、その上からドーランを塗ると、こういう感じになるんだよ」と教えてくださった。勉強になりましたね。三國さんはすごく凝る方でしたから、自分で死人メイクまで考えられて。いい役者さんとご一緒できるのは幸せなこと。この組に入れたってことは、宝をもらえたみたいなものです。

『⽝神家の⼀族』©KADOKAWA1976

―市川監督の演出は厳しいのでしょうか?

私は市川先生の作品に入って、映画出演が面白くなりました。先生のおかげです。『金田一耕助』シリーズでは回を重ねる度にだんだん個性の強い役になっていきました。お婆さんになったりね。それで、ある時の舞台挨拶で「私はだんだん汚い役になりまして」と言ったら、あとで「あのな、それはきれいな女優が言うことだよ」と笑っておっしゃいました。

その後、金田一耕助シリーズの最後の作品『犬神家の一族(リメイク)』(2006年)の衣装合わせの時に「今までいろいろな役をやらせたけれど、ごめんなさいね。汚い役やらせちゃって」って謝られたんです。私、ドキっとしたんですよ。涙が出そうになるのをぐっと我慢して「いえ、いいんですよ、そんな……」と言ってごまかしました。ふだん、そんなことを仰る先生ではないですから。先生とお会いしたのはその時が最後でした。

『⽝神家の⼀族』©KADOKAWA1976

―梅子の着物の着方に特徴がありますね。

先生には、映画の中のキャラクターの作り方とか、敢えて崩す方法を教わりました。私が着物をきっちり着ていたら先生が来て、襟元を引っ張って崩すんです。「こんなのいやだわ」と言ったら、先生が「いいの、これで!」とおっしゃって、ぐずぐずに着物を着させるんです。でも、それが不思議な色気になる。日本人形は襟がぐずっとしてるでしょう?「あれだよ」って言われました。

『⽝神家の⼀族』©KADOKAWA1976

旅周りの役者役の時は、先生に「金歯を入れていいかしら?」って提案したんです。私が幼いころ疎開先でこっそり見た旅回りの役者さんが、口を大きく開けた時に金歯があったような記憶があったので金歯を入れて良いか伺ったら、しばらく考えて「いいよ」って。それが『獄門島』(1977年)。それでニタッと笑うと、ちゃんと金歯を撮ってくださる。提案すれば市川先生はそれを必ず膨らませてくださるから、それが嬉しくてやっていたようなものです。その時の金歯はまだ持っていますよ。

―三國連太郎さんといい、役者さんはそこまで考えて作品に関与してるんですね。

私、生意気にも高峰三枝子さんが演じた松子が自死する時の衣装に「(市川監督が選んだピンク色の柄が入った着物に対して)先生、悪いけどこれは違うと思います」って提案しました。「もっと茶とか黒とか、暗めの無地のお着物に、高い帯をビシッと締めたほうが松子さんらしいですよ」と言ったら「ほお……そうか」と仰って、「みんな、高峰さんの衣装、全部やり直し」って受け入れてくださった。

『⽝神家の⼀族』©KADOKAWA1976

―市川監督も草笛さんの衣装のセンスを信頼されていたんですね。

それはわかりませんが、私は思ったことを言っちゃうから。でも先生も煙草をくわえ、しばらく考えて「いいよ」と受け入れてくださいましたね。割と裏で活躍してたのね、私(笑)。

私、メイクは自分でしています。メイクさんはうまいけれど、役者ひとりひとりの役どころまでは分けられない。キャラクターは最後は“眉毛”で決まりますね。キャラクターを考えて考えて作り上げるところが役者の面白いところですから。

『⽝神家の⼀族』©KADOKAWA1976

―『犬神家の一族』は記録的な大ヒットとなり、反響もすごかったのではないですか?

あまりそういうことには敏感じゃないし、気にしないほうです。ただ、つい先日観せてもらって、やっぱりすごい作品だと思いました。観終わった後、体に力が入りましたね。素晴らしい作品なのが嬉しくて。それと、言葉が一つ一つ全部聞こえました。私たちは伝える仕事だから、言葉を疎かにしてはいけない。『犬神家の一族』は言葉の最後の最後まで聞こえた。うれしかったですね。

『⽝神家の⼀族』©KADOKAWA1976

―今回お話を聞かせていただいて、草笛さんと市川崑監督の関係の深さを実感しました。

先ほども申し上げましたが、私は市川組に入って、映画の面白さを知りました。そこで学ばせていただいたことは、今でも私の宝物です。

『⽝神家の⼀族』©KADOKAWA1976

「わがままいっぱいでも、自由に羽ばたいて過ごしたい」

―石坂浩二さん演じる金田一耕助について、市川崑監督は天使のようで魅力的だと言ったそうです。これは“人間の感情に流されず、俗っぽさがない”という意味なのですが、草笛さんは石坂さん演じる金田一耕助をどんなふうに見ていらっしゃいますか?

金田一耕助というのは、私たちの線の外の人のような気がしますね。私たちは普通の人間を作って普通の生活を見せているけれど、あの方は特別な存在。色で言えば“色なし”。

『⽝神家の⼀族』©KADOKAWA1976

―市川監督と同じですね。

現場では石坂さんは、しょっちゅう市川先生のご飯を作ってましたね。「今日は鍋にしますか?」「すき焼きにしますか?」なんておっしゃっていて、「いいなぁ、私も誘ってくれないかしら」と思っていました(笑)。

―『犬神家の一族』は角川映画の第一作であり、その後、角川映画は日本映画界を席巻していくわけですが、角川映画に対する印象を聞かせてください。

毎日毎日、現場にネクタイの人がいる、それでやっとわかってきたわけ。“角川映画”だって(笑)。

『⽝神家の⼀族』©KADOKAWA1976

―これからやりたいことや、挑戦したいお仕事などを教えてください。

私は、いま生き直しているの。88歳ですから「明日、私、目が覚めなかったらこれでおしまい」って思うから、毎日毎日言いたいことは言い、やりたいことはやる。そうやってわがままいっぱい自由に羽ばたいて過ごしていたいですね。

人生ですから、できなかったこともいっぱいあります。癪に触わることもいっぱいあります。死にたいと思って、死にに行ったこともある。死ねなかったこともある。結婚もしたし離婚もした、嫌な思いもしてきたけれど、楽観的なのかそういうことはとっとことっとこ忘れてしまうのね。いまは“わがままな光子ちゃん”で生きています。

草笛光子

取材・文:椎名基樹

『犬神家の一族』4Kデジタル修復版はテアトル新宿、EJアニメシアター新宿ほか全国順次開催「角川映画祭」で2021年11月19日(金)より上映

テアトル新宿11月20日(土)12:35上映回に草笛光子さんトークショーあり(※チケット完売)

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『犬神家の一族』4Kデジタル修復版

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制作年: 1976
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