2020年No.1候補筆頭映画!『THE CROSSING~香港と大陸をまたぐ少女~』 ハリウッドに肉薄する中国映画の“いま”を考える

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ライター:谷川建司
2020年No.1候補筆頭映画!『THE CROSSING~香港と大陸をまたぐ少女~』 ハリウッドに肉薄する中国映画の“いま”を考える
『THE CROSSING ~香港と大陸をまたぐ少女~』©Wanda Media Co., Ltd

1997年の返還から一国二制度を謳ってきた香港を気づいたら完全に政治的に取り込んでしまい、ファーウェイやTikTokに象徴される技術力でアメリカとの政治経済的対立を鮮明にしている昨今の中国。――強固な日米同盟と同時に、アジアにおける隣人として必然的に中国と付き合っていく立場にある日本だが、新冷戦と呼ばれる米中関係の成り行きに思いをはせている内に、気が付いたら劇映画の分野ではすでに中国映画が、日本映画界をも巻き込んでハリウッド映画とは別の一極にまでなってきている!

『THE CROSSING ~香港と大陸をまたぐ少女~』©Wanda Media Co., Ltd

ハリウッドで研鑽を積んだジョン・ウーが起爆剤に!
【シネマ・タイムレス~時代を超えた名作/時代を作る新作~ 第11回】

筆者が日本ヘラルド映画に勤務していた1980年代ころには、中国映画というと陳凱歌(チェン・カイコー)の『黄色い大地』(1984年)、張芸謀(チャン・イーモウ)の『紅いコーリャン』(1987年)のような、素朴で力強く映像も美しく、しかしまだまだ洗練されているとは言い難い作品のイメージが強かった。一方で、香港映画界というとブルース・リー以来のクンフー映画や、その後のジャッキー・チェンのアクション・コメディと相場が決まっていて、筆者はそれらをあまり見ていない。

呉宇森(ジョン・ウー)の『男たちの挽歌』(1986年)が登場して香港映画の面白さが世界に改めて認識されたが、同作品が1987年に日本で公開されたときには、まだ誰もジョン・ウーのことなど知らず、日本公開に合わせて来日してもらった際にも、筆者がひとりで成田空港へ迎えに行き、心細げなウー監督を銀座のホテルまでチェックインさせたものだが、その後の彼のハリウッドでの活躍については改めて説明する必要もないだろう。

その後、中国映画第五世代と呼ばれるチェン・カイコーもチャン・イーモウも海外での仕事、あるいはハリウッド・スターを起用しての作品などで国際的に通用する映画作りのノウハウを身に付け、経験を積んで中国映画界のメインストリームに復帰したが、その頃には1997年の香港の中国への返還に伴って、香港の映画人たちの中国映画界との融和も進み、中国映画は新たな時代を迎えた。

そのターニング・ポイントになったのは、ジョン・ウーによる中国・アメリカ・香港・日本・韓国・台湾合作の『レッドクリフ PartI/PartII』(2008年/2009年)だが、これをきっかけに特に中国・香港合作というスタイルの作品に日本人俳優が絡むパターンが相次いで製作され、最新のハリウッド映画にも引けを取らないCG技術に、大陸的なスケールの大きさが相まってその存在感は着実に増してきた。

『The Crossing -ザ・クロッシング- Part I/Part II』が示してみせた可能性!

さて、2000年代の前半、中国の公文書館で中華民国期の資料を探しても「そんな資料はありません」と、あたかも中国の歴史は1949年の中華人民共和国建国とともに始まったのだ、というような意識に直面することが少なからずあったが、2011年の秋に日本中国文化交流協会の日本文化界訪中団の一員として各地を訪れた際にびっくりしたのが、蒋介石復権の兆し。――この頃から中華民国期もきちんと検証しようといったムードが高まった。

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ジョン・ウーが中国国内で空前の大ヒットを記録した『レッドクリフ』に次いで、日中戦争期から内戦の激化によって民国政府が台湾へと撤退していく時期を真正面から描いた『The Crossing -ザ・クロッシング- Part I/Part II』(2014年/2015年)を発表したのはそんなムードに後押しされてのことで、正直「中国映画もここまできたか!」と思わせるものがあった。

『The Crossing/ザ・クロッシング Part Ⅰ&Ⅱ』©Beijing Galloping Horse ・ All Rights Reserved.

物語は、日中戦争で名を馳せた将軍・黄暁明(ホアン・シャオミン)とその妻の韓国人女優ソン・ヘギョ、戦争に行った同郷の恋人を探して上海に出て街娼をしながら台湾行きの船賃を稼ぐ章子怡(チャン・ツィイー)と彼女に思いを寄せて戦争を生き残る佟大為(トン・ダーウェイ)、日本の敗戦で生き別れとなった日本人女性・長澤まさみを想い続ける台湾人医師・金城武、という三組の男女の複雑に交錯する運命を描いており、中国・香港の合作に日本人俳優が加わった(ほかに黒木瞳が特別出演)壮大なドラマ。

『The Crossing/ザ・クロッシング Part Ⅰ&Ⅱ』©Beijing Galloping Horse ・ All Rights Reserved.

ハリウッド仕込みのジョン・ウーの演出のテイストは、一言でいえばPartIは『プライベート・ライアン』(1998年)、PartIIは『タイタニック』(1997年)なのだが、つまりは1980年代にはせいぜい単館ロードショー扱いだった中国映画が、内容的には安全パイだった三国志を経て、ハリウッド製のマーベル・コミック物にひけをとらない、メインストリームの大劇場に相応しい作品を生み出せるまでになったということ。

『The Crossing/ザ・クロッシング Part Ⅰ&Ⅱ』©Beijing Galloping Horse ・ All Rights Reserved.

どちらかというと敗れて台湾へと逃れる立場の者たちの視点で描いた同作が中国国内ではあまり好意的に受け入れられなかったのは、中台関係の現状を反映しているから仕方ない。だが、中国・香港合作に日本人俳優が絡むという枠組みは、その後も程耳(チェン・アール)監督による中国版『ゴッドファーザー』(1972年)の趣の傑作『羅曼蒂克消亡史』(2016年:なぜか日本未公開)でも再現され、中国の葛優(グォ・ヨウ)やチャン・ツィイー、香港のジリアン・チョン、日本の浅野忠信らが熱演を繰り広げ、日中戦争を挟んでのチャイニーズ・マフィアの興亡を描いてゾクゾクさせられた。

『THE CROSSING~香港と大陸をまたぐ少女~』は今のところ2020年のベスト1作品!

さて、ジョン・ウーの『The Crossing -ザ・クロッシング- PartI/PartII』とは直接の関係はないが、中国映画の新作に『THE CROSSING~香港と大陸をまたぐ少女~』という作品があり、これが1997年の香港映画『メイド・イン・ホンコン/香港製造』(※2017年にリバイバル公開)以来の大傑作!

『THE CROSSING ~香港と大陸をまたぐ少女~』©Wanda Media Co., Ltd

――物語は、香港と接する大陸側の都市・深圳に住み、香港の高校に越境通学する少女ペイ(黄堯/ホアン・ヤオ)が、ひょんなことから新型iPhoneを大陸へ密輸するグループに関わりを持ち、簡単にお金を稼げることから深みにはまっていく様を描いていく。基本線としては、親友と一緒に日本へ旅行するためのお金を稼ぎたかったのに、密輸グループにその親友のボーイフレンドが関わっていたことから親友との間に亀裂が生じてしまう、という孤独な少女の青春ドラマだが、同時に大陸側と香港との経済格差や、中国側に取り込まれていくプロセスの真っ只中にある香港の隙間にうごめく闇の商売といった、今日的なテーマを扱った社会派ドラマでもある点がミソ。

『THE CROSSING ~香港と大陸をまたぐ少女~』©Wanda Media Co., Ltd

監督はこれが初の作品となる白雪(バイ・シュエ)という女性で、瑞々しい感性が満ち溢れていて今後の期待の星という感じなのだが、筆者がこの作品を見たいと思った理由は、製作総指揮をチェン・カイコーやチャン・イーモウと同じく中国映画第五世代の代表格である『青い凧』(1993年)の田壮壮(ティエン・チュアンチュアン)が務めていたから。彼は北京電影学院で後進の育成に当たっていて、バイ・シュエはそこの卒業生だから、弟子筋にあたるのだろう。前述の、2011年に日本文化界訪中団の一員として訪中した際に、筆者は団長の篠田正浩監督と一緒にティエン・チュアンチュアンを訪ねて交歓したのだが、バイ・シュエはまさにその時に同学院の大学院修士課程に在籍していたはずだ。

『愛しの母国』『愛しの故郷』二部作公開の意味するところとは?

ティエン・チュアンチュアン同様、チェン・カイコーやチャン・イーモウもまた後進の育成に力を注いでいる。そんな二人がまさしく新世代の中国人映画作家たちを牽引して製作にかかわった2作品、『愛しの母国』(2019年)、『愛しの故郷(ふるさと)』(2020年)が早速、都内で先行ロードショー公開されることになった。

『愛しの母国』 ©2019Huaxia Films

『愛しの母国』はチェン・カイコーが総合監督を務め、彼自身を含む7名の監督たちがそれぞれに中華人民共和国の建国から核実験の成功、香港の返還、北京オリンピックの開催など、今日に至るまでの歴史的瞬間にスポットを当てたエピソードを描いたオムニバス作品。第6話にはティエン・チュアンチュアンも主人公の叔父さん役で俳優として出演している。

姉妹編の『愛しの故郷』のほうはチャン・イーモウが製作総指揮を務め、7名の監督たちが描く5つの物語を紡いだやはりオムニバスの作品だが、『愛しの母国』が真正面から中国の現代史を見つめた感動作なのに対して、こちらは肩の凝らないホーム・コメディの趣で、そのあたりのテイストの違いがチェン・カイコーとチャン・イーモウの個性の違いのようで面白い。

『愛しの母国』は中華人民共和国建国70周年記念映画として製作された作品、『愛しの故郷』はその姉妹作品として製作された今年公開の新作で、つい先月、2020年10月1日より中国本土で公開された大ヒット作品。驚くべきは、ひと昔前であれば中国が国家のオフィシャルな映画として製作するようなものは共産主義国ならではのコチコチに硬いものになっていたであろうところを、世界での活躍を経て指導者の立場になったチェン・カイコーやチャン・イーモウの薫陶を受けた若い世代の映画作家たちは、実に軽やかにエンターテインメントとして楽しめる作品に仕上げていること。

『愛しの故郷』©BEIJING JINGXI CULTURE&TOURISM CO.,LTD /CHINA FILM CO.,LTD

ジョン・ウーやティエン・チュアンチュアンも含めて、世界的に通用する映画作りを実践してきた世代が築いてきたノウハウや経験値を受け継いだ中国映画界は、香港映画界の才能をも取り込んで今後ますます世界市場を席巻し、そこに日本の映画人たちも否応なしに関わっていくことになるのは間違いなさそうだ。

『THE CROSSING ~香港と大陸をまたぐ少女~』©Wanda Media Co., Ltd

文:谷川建司

『THE CROSSING~香港と大陸をまたぐ少女~』は2020年11月20日(金)より公開

『愛しの母国』は2020年10月30日(金)より、『愛しの故郷』は11月6日(金)よりグランドシネマサンシャインほか全国順次公開

『The Crossing -ザ・クロッシング- Part I/Part II』はCS映画専門チャンネル ムービープラスで2020年11月放送

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『THE CROSSING~香港と大陸をまたぐ少女~』

香港出身の父と中国大陸出身の母を持つ16歳の高校生ペイは、毎日深センから香港の高校に通っている。

香港で家庭を持ちながらトラック運転手として働いていた父親ヨンと出稼ぎに出ていた母親ランが出会い、ヨンは愛人としてランと親しくなりペイを授かる。景気も悪くなると、ランはヨンを香港に残しペイを連れて深センに2人で暮らす。母は麻雀で生計を立て、父は香港で別の家族を持ちながらトラック運転手をしている。ランは日々、友人との麻雀で生計を立てている。

家族がバラバラで孤独なペイにとっての心の拠り所は、親友ジョーと過ごす時間。2人は北海道旅行を夢見て、学校で小遣い稼ぎをしていた。ある日家に帰る途中、香港と深センの間でスマートフォンの密輸グループに巻き込まれるが、すぐにお金を稼ぐことができると知るとペイはお金欲しさに親友ジョーの彼氏ハオにお願いして密輸団の仲間に入り、危険な裏の仕事に手を染める。

制作年: 2018
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