中国映画の名匠たちに続け！ベタなのに涙があふれ心も暖まる恋物語『僕らの先にある道』

台湾出身の女優レネ・リウが自身の原作を自ら映画化し監督デビュー！

ここ最近、なぜか中国の映画をよく観ていました。ビー・ガン監督『ロングデイズ・ジャーニー この夜の涯てへ』（2018年）やフー・ボー監督『象は静かに座っている』（2018年）など、魅力的な長回しやライティング、台詞も少なめで、どこか僕の大好きなツァイ・ミンリャン監督やアピチャッポン・ウィーラセタクン監督作品を感じさせる作品たちでした。

そんな中国づいていたことで思い出した作品が、Netflixで配信しているレネ・リウ監督の『僕らの先にある道』（原題：『後来的我們(Us and them)』）。台湾出身で女優だったレネ・リウ自身が執筆したエッセイの映画化であり、彼女の初監督作品だそうです。

Netflixオリジナル映画『僕らの先にある道』独占配信中

中国では劇場公開され大ヒットした（女性監督による中国語映画として記録的な興行収入を収めた）そうで、割と自分の中では話題で、近い人にも薦めていたんです。あまりにもひっそりと存在している作品なんですが、それはそれで作風に合ってるなって思う部分もあったり。

物語は、2007年旧暦の大晦日に北京から遥江に向かう長距離列車で出会ったジエンチン（ジン・ボーラン／井柏然）とシャオシャオ（チョウ・ドンユイ／周冬雨）が、2018年の旧暦正月前に北京へ向かう飛行機で再会するという構成で、過去と現在の答え合わせをするかのように進む。

Netflixオリジナル映画『僕らの先にある道』独占配信中

ジエンチンはゲームクリエイターになるため北京にいるけど、お金はないのに見栄張りだし、友達と呑んではくだを巻いて、ずっと時間が停滞している。都会に出てきたものの鬱屈とした日常の中にいる典型的な若者像を描いており、シャオシャオは北京で一旗上げるためにセルフブランディングを徹底し、何がなんでも金持ちになろうと奔走している。

Netflixオリジナル映画『僕らの先にある道』独占配信中

彼女の過剰なくらいのフランクさは、ジエンチンの常識からは逸脱しており、特別な存在として映る。彼女の器用さへの嫉妬は、いつの間にか好意に変化して、彼女の求めるものを手に入れられる男になろうとする。衝動的に発生した恋は、愛情に変化する過程で相互理解が不十分になっていき……という、こうやって説明してても少女漫画よろしくのベタベタなわけです。

じわっと心が暖まる、わかりやすい設定の中に光る予定調和の良さ

わかりやすく恋に落ちて、わかりやすく別れて再会する、テンプレートのような設定には食傷気味。それでも見れちゃうのは、大袈裟ではない丁寧な作り込みを感じる部分が多くあるからだと思う。

Netflixオリジナル映画『僕らの先にある道』独占配信中

演者の心の機微が伝わってくる表情、台詞の間の取り方。集合住宅の一室で時間を過ごす彼らの空撮映像では、他の部屋に住む人々の生活が映し出され、自分以外にも平等に時間が流れているという、当たり前だけど忘れがちなことを思い出させる。そうして映像に客観性を持たせることで、他人を慮ることを表しているようにも感じた。

Netflixオリジナル映画『僕らの先にある道』独占配信中

しかも、予定調和の良さってあるんですよ。気持ちいいとこで、ちゃんと気持ち良くなれるというか。どこかで見たことがある、聞いたことがあるからという理由だけで、比較対象である名作や旧作を賞賛するためのツールのように語られがちだけど、それだけじゃもったいないなと。

Netflixオリジナル映画『僕らの先にある道』独占配信中

ジエンチンが作っていたゲームのストーリーが前振りになっていたり、それを過去と現在の対比として描き、過去の台詞や何気ないシーンが現在の2人に有機的に作用している描写など、魅力的な演出も多い。そして終盤、シャオシャオがジエンチンの父から貰った手紙を読み上げる際に語られる真実に、あっさり泣かされてしまう。

Netflixオリジナル映画『僕らの先にある道』独占配信中

なんとか“意味のある時間”を過ごそうとする人も多い中、意味のない時間を過ごすことにもっと積極的になった方がいい人も多い気がしている。ちょうど世間もこんな感じだし、本作を見てみてはどうでしょうか。「なんかよかったな」だけでもいいんですよ。あとからじわじわーっとした感覚が心に残る作品です。

Netflixオリジナル映画『僕らの先にある道』独占配信中

文：巽啓伍（never young beach）

『僕らの先にある道』はNetflixで独占配信中