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ボンドの敵か味方か?『007』歴代“ボンド・ガール”で別格なのはこの女性だ!

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ライター:#谷川建司
ボンドの敵か味方か?『007』歴代“ボンド・ガール”で別格なのはこの女性だ!
UNITED ARTISTS / Allstar Picture Library / Zeta Image

ボンドをめぐる女性たちから時代相を見て取る!
【シネマ・タイムレス~時代を超えた名作/時代を作る新作~ 第9回】

『007』シリーズについてあれこれ書くのもそろそろ終わりにしようかとも思ったが、重要な“Unfinished Business”が残っていた。今回は、“ボンド・ガール”に焦点を絞って、ボンドの愛した女性たち/観客が愛したボンド・ガールたちについて考察してみよう。

初期ボンド・ガールの鉄壁のパターン「敵側にいたのにボンドの魅力に抗えず寝返る女性」

先ず、“ボンド・ガール”とは何か? ――この問いへの答えは人によって異なるかもしれない。英国イオン・プロダクションによる『007』シリーズで、主人公ジェームズ・ボンドの周りを彩る美しい女性たち――そんな漠然としたイメージを持つ人が多いと思うが、その場合のボンド・ガールは画面にちょっとしか映らない端役も含めて、ボンド映画に出演した女優たちすべてを指す。だが、そういう拡大解釈のボンド・ガールというのは、二代目ジョージ・レーゼンビーの『女王陛下の007』(1969年)、そして三代目ロジャー・ムーアになってからの作品群のプロモーションとして、多くの美女に囲まれたジェームズ・ボンドの写真がパブリシティに使われるようになって以降のボンド・ガールのイメージだ。

一方で、初代のショーン・コネリー時代のボンド・ガールというと、だいたいヒロインという立場になるメインの女優と、役柄はヒロインほどではないもののストーリー上でボンドに絡んでくる二番手、三番手の女優たちまでを指す、というニュアンスだった。

最初の『007/ドクター・ノオ』(1962年)だとメインがハニー・ライダー役ウルスラ・アンドレスで、二番手がシルヴィア・トレンチ役ユーニス・ゲイソン、『007/ロシアより愛をこめて』(1963年)は敵であるロシア側の女スパイ=タチアナ・ロマノヴァ役ダニエラ・ビアンキがヒロインで、あとはジプシー・キャンプのシーンに出ている端役の女優たち、『007/ゴールドフィンガー』(1964年)では三番手シャーリー・イートン、二番手タニア・マレットがそれぞれ非業の死を遂げ、最終的にボンドの敵オーリック・ゴールドフィンガーの部下だったプッシー・ガロアことオナー・ブラックマンがヒロインの座に収まる形だった(それにしても物凄い役名だ!)。ショーン・コネリー復帰作『007/ダイヤモンドは永遠に』(1971年)もまた、メインがジル・セント・ジョン、二番手がラナ・ウッドというパターンだった。

ちなみに、栄えある最初のボンド・ガールは『ドクター・ノオ』のユーニス・ゲイソンだ。ボンドは彼女とのベッドでのお楽しみがいよいよこれからというところで仕事により中断を余儀なくされ、次作『ロシアより愛をこめて』でも再び登場したシルヴィア=ゲイソンと“やりかけのコト(Unfinished Business)”を完遂させようとするのに、またしてもMに呼び出されてしまう、というオチだった。

さて、これらコネリー期の『007』シリーズの女優のうち、ダニエラ・ビアンキ、シャーリー・イートン、オナー・ブラックマンの役柄はボンドの性的魅力に抗えず、ボンドの敵から味方へと寝返るものだった。――このパターンを仮に“古典的ボンド・ガール”と定義するならば、その頂点に君臨する不滅の女優は誰が何と言おうともダニエラ・ビアンキだ! 黒のチョーカーだけを身につけてベッドへと誘うロシアの女スパイ=タチアナだが、演じているビアンキはミス・ローマに選ばれたイタリア美女。……筆者が愛用している自転車はイタリアの“ビアンキ”なのだが、実は先代の愛車には“ダニエラ”という愛称を付けていたことを白状しよう。

シリーズ中で何人いる? ボンドとベッドインしなかった女性たち

ロジャー・ムーア版でのボンド・ガールたちというのは、ある意味でコネリー版でのヒロインたちのコピー、またはヴァージョン・アップ。たとえば『007/死ぬのは奴らだ』(1973年)での涼し気な顔立ちの美女ソリティア=ジェーン・シーモアは敵の側から寝返る点で典型的な“古典的ボンド・ガール”だし、ムーア版最大のヒット作『007/私を愛したスパイ』(1977年)でバーバラ・バックが演じたロシアの最強の女スパイ=アニヤ・アマソヴァは、そのコードネームの“トリプルX”が手紙に「愛してます」の意味で記すXXXであることから明白なように、タチアナ・ロマノヴァのパワーアップ版だ。ともあれ、ユーモアあふれる英国紳士としてのムーア=ボンドは、常に女性たちをベッドへ誘うことを己への義務であるかのごとく振る舞っていたのが懐かしい。

続いてティモシー・ダルトンのお目見えとなった『007/リビング・デイライツ』(1987年)でのヒロインはマリアム・ダボ。――これは全くの主観だが、チェロ奏者役のマリアム・ダボはセックスを感じさせないという点でオードリー・ヘプバーン的なヒロインだった。そして、生真面目なボンド=ダルトンはもちろん彼女をベッドに誘ったりはしない。

品行方正なボンドというのはシリーズにとって大きな路線変更だったが、五代目ピアース・ブロスナンの時代になると、手当たり次第に美女を陥落させる女ったらしのボンドという存在は最早社会通念的に許されなくなってきた。せっかくロジャー・ムーア的な洗練されたイメージを引っ提げてボンド役に就任したブロスナンだが、彼の時代のボンド・ガールは基本的にボンドと対等の存在だ。

『007/トゥモロー・ネバー・ダイ』(1997年)でのウェイ・リンことミシェル・ヨーは中国の最強女スパイ、『007/ダイ・アナザー・デイ』(2002年)でウルスラ・アンドレスを彷彿とさせる水着姿でさっそうと登場した“ジンクス”ことハル・ベリーは米国家安全保障局所属の諜報員、という具合で、どちらもボンドに対して全く引けを取らない強い女性であり、あくまでも共通の敵に対してボンドと共に戦うバディという位置付けだった。

現ボンド役のダニエル・クレイグの相手役となったボンド・ガールだと、『007/慰めの報酬』(2008年)のオルガ・キュリレンコが圧倒的にいい。元ボリビアの諜報員で、幼い頃に両親を殺された復讐心に燃える彼女は、『007/ゴールドフィンガー』で姉の復讐に燃えるタニア・マレットに近い設定だが、単にボンドに助けられるだけの存在ではなく、彼の孤独な魂を理解し慰める、ボンドにとってのある種のソウル・メイトにまで昇華していく存在で、その点が遙かに現代的、かつタフな女性だった! もちろん、彼女も軽々しくベッドインなどはせず、ボンドに与えるのはキスだけだ。

ボンドと対等な女性たち、そして手強い敵の女戦士(フィメール・ヴィラン)たち。

一方で、ボンド・ガールの中には、ボンドの敵として登場し、敵のまま倒されていく悪女(female Villains)と言うべき者たちもいる。その走りは『007/サンダーボール作戦』(1965年)のスペクターNo.12=フィオナを演じたルチアナ・パルッツィだろう。このフィオナという悪女は、ボンドとベッドで甘い時を過ごした後で、指令によって平気でボンドを殺そうとする(結局は自分が死ぬ事になる)というものだが、全身を黒い革のバイクスーツに包んで、ミサイル搭載のバイクを駆ってターゲットを仕留めるという悪女ぶりは、後にモンキー・パンチが描いた峰不二子のプロトタイプでもある。

このフィオナの役は、同作品のリメイクにあたる『ネバーセイ・ネバーアゲイン』(1983年)ではバーバラ・カレラ演じるファティマ・ブラッシュという役にヴァージョン・アップされたが、ボンドに「今迄に寝た女のうちでファティマが一番良かった」と遺書を書かせようとして墓穴を掘り、壮絶な爆死を遂げるというナルシストとして描かれていた。

ピアース・ブロスナンのお披露目となった『007/ゴールデンアイ』(1995年)の悪女は、ファムケ・ヤンセン演じるゼニア・オナトップという殺し屋(この役名もまた凄いと思いませんか?)で、男に跨ってその太股で相手を絞め殺すという強烈な悪女だった。また『007/ワールド・イズ・ノット・イナッフ』(1999年)でのエレクトラことソフィー・マルソーは自身を誘拐したテロリストのレナードの情婦となったストックホルム症候群の気の毒な悪女で、ボンド自身に撃ち殺されるのも哀れだった。

こういった悪女(female Villains)の系譜で言うと、その存在感が圧倒的だったのは、やはり『007/美しき獲物たち』(1985年)でのクリストファー・ウォーケンのボディガード的存在だった“メイデイ”ことグレイス・ジョーンズだろう。鍛え抜かれた痩身の褐色の肢体に短く刈り込んだ髪型の彼女は、ファッション・モデルとして故アンディ・ウォーホルのミューズ(女神)となり、その後女優、また歌手として活躍を続けているのはご承知の通りだが、そのサイボーグ的な外見と、最後にはボンドに協力して基地を爆破すべく自爆を遂げるという義侠心も相俟って、歴代ボンド・ガールの中でも最も異色、かつ最も印象に残る悪女だった。

ジェームズ・ボンドが心の底から愛した女性とは一体誰か?

さて、ボンドが単なるお遊びではなく、心の底から愛した女性というと意外と限られている。原作の順番で言うと『007/カジノ・ロワイヤル』(2006年)でエヴァ・グリーンが演じたヴェスパー・リンドはボンドが真剣に結婚を考えた女だが、結果的にはボンドを裏切り、そしてボンドの目の前で死ぬ。その愛と裏切りと失望のすべてを乗り越えたからこそボンドはスパイとして非情に徹したプロフェッショナルとなり得た訳で、その意味でヴェスパーとはボンドにとっての女性の原体験だったのだ。――ヴェスパーの死に際して、ボンドは(フレミングの原作でも映画版でも)たった一言、「ビッチは死んだ」と言う。

ボンドが生涯で唯一度、本当に愛して結婚までしたのは『女王陛下の007』(1969年)の“トレイシー”ことテレサ・ディ・ヴィチェンゾであり、このトレイシーを演じたのがダイアナ・リグだ。もちろん、ボンドは『007は二度死ぬ』(1967年)でも浜美枝演じるキャシー鈴木と結婚式を挙げているが、これはあくまでもスペクターのアジトを探るための偽装結婚だった。

さて、後のピアース・ブロスナン時代以降のボンド・ガールはミシェル・ヨー、ハル・ベリー、オルガ・キュリレンコと、ボンドと同等の能力を持つパターンが多いが、実はトレイシーこそ精神的にボンドと全くイーブンで、スキーやカーアクションでも身体能力の高さを示してボンドと対等なパートナーとなった最初の女性だった。……言うまでもなく、彼女はボンドと結婚式を挙げた直後にブロフェルドとイルマ・ブントによって射殺されてしまう。その意味で、ダイアナ・リグは歴代の全てのボンド・ガールの中でも別格中の別格の存在で、後にロジャー・ムーア扮するボンドが『007/ユア・アイズ・オンリー』(1981年)のプレタイトル・シークエンスの冒頭で、その命日にバラの花束を持って墓参りをしていた姿も印象に残る(2020年9月11日にダイアナ・リグの訃報が世界を駆け巡った。ご冥福をお祈りいたします。トレイシーよ安らかに)。

さて、三代目の“M”を『007/ゴールデンアイ』から『007/スカイフォール』(2012年)までの7作品で演じたジュディ・デンチを“ボンド・ガール”などと呼んだら罰が当たるというか、すぐにライセンスをはく奪されそうだが、ジェームズ・ボンドを取り巻く女性たちの中でとりわけ大きな存在という意味では彼女の右に出る者はいない。

デンチは英国映画演劇界の至宝の一人だが、“M”役の退任後も目が離せない活躍ぶりだ。新作『ジョーンの秘密』(2018年)では、若い頃にスパイだった英国人女性――ただし、原爆の情報をソ連KGBに渡していたスパイ――という役で、イアン・フレミングが『007』シリーズで描いた戦後すぐの世界情勢の中でのスパイの実態、そのスパイが生き抜いてきた人生の軌跡をリアルに演じてみせた。ボンド映画ファンも必見の作品だ!

文:谷川建司

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