穏やかに余生を過ごすおばあちゃんはソ連の元スパイだった!? 驚きの実話にヒントを得たジュディ・デンチ主演映画『ジョーンの秘密』

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ライター:野中モモ
穏やかに余生を過ごすおばあちゃんはソ連の元スパイだった!? 驚きの実話にヒントを得たジュディ・デンチ主演映画『ジョーンの秘密』
『ジョーンの秘密』© TRADEMARK (RED JOAN) LIMITED 2018

かつてスパイだったことを明かしたおばあちゃん(87歳)!

イギリスの平々凡々な郊外の町で穏やかに引退生活を送っている「おばあちゃん」が、かつてはKGBのスパイだった――1930年代末から40年代、核開発をめぐる情報戦に密かに関与したひとりの女性を描く『ジョーンの秘密』について、まず心に留めておきたいのは、これが「実話にインスパイアされた小説」の映画化だということだ。

『ジョーンの秘密』© TRADEMARK (RED JOAN) LIMITED 2018

現実に起こった事件のあらましはこうだ。1999年、KGB関係者が出版した本の中で、当時ロンドン南東の町で静かに暮らしていた87歳の女性メリタ・ノーウッドが、英国非鉄金属研究協会に勤務していた若き日に、イギリスの最高機密をソビエト連邦に流していたことが暴かれた。ノーウッドは既に高齢ということで起訴を免れ、2005年に亡くなった。『ジョーンの秘密』は、ジェニー・ルーニーがノーウッドの人生からヒントを得て執筆した2013年の小説 「Red Joan」を原作とする映画だ。監督は「キャッツ」や「レ・ミゼラブル」のオリジナル演出などで有名なイギリス演劇界の大物トレヴァー・ナン。シェイクスピア作品の舞台で彼と長きにわたって協働してきたジュディ・デンチが、ヒロインのジョーン・スタンリーを演じる。若き日のジョーンは、『キングスマン』シリーズ(2014年~)のソフィー・クックソンだ。

『ジョーンの秘密』© TRADEMARK (RED JOAN) LIMITED 2018

1938年、ケンブリッジ大学で物理学を学ぶジョーンは、同じ寮に住むユダヤ系ロシア人のソニア(テレーザ・スルボーヴァ)に出会う。ジョーンはエリート学生たちが集う共産主義の会合に招かれ、スペイン内戦の人民戦線支援活動などに参加するように。そのうちソニアの従兄弟のレオ・ガーリチ(トム・ヒューズ)と恋に落ちるのだが、レオはソ連へと去っていくのだった。

『ジョーンの秘密』© TRADEMARK (RED JOAN) LIMITED 2018

ケンブリッジをトップの成績で卒業したジョーンは、マックス・デイヴィス教授(スティーヴン・キャンベル・ムーア)に見込まれ、政府の研究機関に秘書として採用される。他国より先に核兵器開発を進めることが、彼らに課された秘密の職務だった。ジョーンは研究旅行先のカナダで再会したレオに情報を渡せと迫られる。自分は共産主義者ではないし、ソ連側につくことはできないと断ったものの、原子爆弾の圧倒的な破壊力をニュースで目にしたジョーンの心は揺れる。核技術の独占は権力の暴走を招き、人々を不幸にするだけではないか――そして彼女は平和を願う気持ちから、祖国を敵にまわす命がけの任務に身を投じることを決意するのだった。

『ジョーンの秘密』© TRADEMARK (RED JOAN) LIMITED 2018

許されざる国家反逆者か、核戦争を阻止した英雄か……英国史上もっとも意外なスパイ

重厚な歴史もの・スパイものというよりも、メロドラマ寄りの感触の映画である。1930年代末から1940年代のケンブリッジ大学とイギリスの研究機関を舞台に描かれる、賢く優秀な若い女性が直面する困難と葛藤の数々は、悲しいことに現代日本でもわりとよくある光景だ。ジョーンはケンブリッジを首席で卒業した秀才なのだが、女性だからという理由で正当に評価されない。それはもともとナメられているから諜報活動への関与を疑われないということでもある。ジョーンを理解し愛するデイヴィス教授が残念ながら妻帯者というのも、ありがちな話ゆえに胸が痛む。やや戯画的・図式的すぎるきらいはあるが、あたたかい色調で30~40年代を再現する衣装や美術も目に快く、この時代に興味のある人なら退屈せずに観ることができるだろう。

『ジョーンの秘密』© TRADEMARK (RED JOAN) LIMITED 2018

原作小説のインスピレーションの源となったメリタ・ノーウッドは、映画のジョーンとは異なり、強い信念をもって共産主義を支持していたそうだ。父親はラトビア人で母親はイギリス人。彼女が6歳の時に亡くなった父親は、ロシアの10月革命の影響が色濃い社会主義新聞を発行していた。彼女はケンブリッジに進学するエリートだったわけではなく、サウサンプトン大学でラテン語や論理学を学んだものの1年でドロップアウトして秘書の仕事に就いている。1958年にソ連から赤旗勲章を授与されたが、年金の受け取りは拒否した。そんなノーウッドの実際の人生はフィクション以上に興味深く感じられる。

『ジョーンの秘密』© TRADEMARK (RED JOAN) LIMITED 2018

広島と長崎に原爆が落とされた夏から75年。日本において戦争の記憶を語り継ぐ試みがクローズアップされる機会の多いこの季節。映画と歴史は「力に溺れて命を粗末に扱う人間のとてつもない愚かさと残酷さを忘れるな」と私たちに呼びかけている。

文:野中モモ

『ジョーンの秘密』は2020年8月7日(金)よりTOHOシネマズシャンテほかロードショー

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『ジョーンの秘密』

突然MI5に逮捕され、スパイ容疑で告発されたジョーン。仲間や家族を裏切ってまで、彼女は何を守ろうとしたのか――ジョーンをそこまで突き動かしたものとは?

制作年: 2018
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