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「呪いあれ~!!」Netflixが“伊藤潤二のホラー世界”に真正面から挑んだアニメ『マニアック』の独自アレンジを解説

「呪いあれ~!!」Netflixが“伊藤潤二のホラー世界”に真正面から挑んだアニメ『マニアック』の独自アレンジを解説
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伊藤潤二とアニメ

笑いと恐怖の境目を行ったり来たり、不条理で不気味。しかし、抗しがたい美しさを持った物語を紡ぎつづける漫画家、伊藤潤二。彼の漫画は、映画にアニメと幾度もその魅力の映像化が試みられてきた。だが、いずれも「映画やアニメ作品単体としてのデキ」はよかったものの「伊藤潤二の作品」と考えると「?」が付いてしまう。

そもそも漫画の“画”を動かすのは難しいのだが、伊藤潤二の作品に至っては、それが顕著なのだ。彼の漫画に触れたことがある方々は承知のことと思う。1コマ1コマを動かすようには描かれておらず、キメのコマの連続になっている。故に、それを動かしてしまうと持ち味が失われてしまうのである。

伊藤潤二傑作集(1) 富江(上) (朝日コミックス)

執拗なまでの点描、異様なスクリーントーンの使い方、トライポフォビアやメガロフォビアをはじめとする“生理的嫌悪”を隆起させるフラクタルな構図、“限局性恐怖”を刺激する重層的表現。一方、美しいものは、性別分け隔てなく美しい。そんな超絶的な画力に馬鹿々々しさと怖さ、笑いと嫌悪の絶妙なバランスのストーリーが加わって、混然一体となり形成される伊藤潤二ワールドは、簡単に“動かす”ことを是としないのだ。

そんなわけで、Netflixアニメ『マニアック』の企画を聞いたとき「いつも通りだろうな」と思っていたが、それは杞憂に終わった。

「これ、いいじゃないか」と。

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アニメとして“動かして楽しい”作品をチョイス

押切、富江、双一、ひきずり兄弟と伊藤潤二ワールド定番の愛されキャラを網羅。伊藤潤二入門にはちょうどいいセレクトだ。その他の単発作品も“極度にキツい”作品は外し、ポップさを協調。キメのコマがグロ画像と同等に扱われている不遇の名作「グリセリド」(過去アニメ化済み)や「ご先祖様」等ではなく、『四重壁の部屋』といった新しめの作品をはじめ、『墓標の町』『耐えがい迷路』『首のない彫刻』など、アニメとして“動かして楽しい”作品を選んでいるのが好感触だ。

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さらに原作の「キメのコマ」にとらわれることなく「アニメならこうする」と思われる作り込みが行われているのも興味深い。なかでも『黴(かび)』のアレンジはなかなかだ。

海外出張から帰ってきた男、赤坂。彼は出張中、学生の時の担任・吊木一家に自宅を貸していたのだが、家に戻ってみると彼らの姿はなく、家は“黴”だらけ……この黴の正体はなんなのか?

原作に存在した吊木の詳細設定を削除。黴という色味がきつそうな素材を、あえてシンプルな白黒映像を持って表現し、作品に漂う不気味さに深みを持たせている。

また、伊藤潤二のおハコである“富江”シリーズも、よく考えられている。富江というと「ヤバい」がファンの共通認識。伊藤潤二は、ほぼ同一パターンで富江のエピソードを幾度も描き続けているが、どの富江も惨殺され、おぞましい姿で蘇る。これが淡々と繰り返されるからだ。しかも富江は、伊藤潤二作品随一の美しさである。

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伊藤潤二といえば「富江」

今回アニメ化された『富江・写真』は、シリーズ屈指の血しぶきが上がる物語だ。赤を強調する色合いや、画角も物語に合わせて写真同等にし、映像でしか行えない独特の表現を試みている。原作の富江の美しさは、アニメでは到底表現できるわけがない。それ故のアレンジだ。初めて映像で満足のいく富江を観られた様な気がする。

一方『首吊り気球』や『首のない彫刻』のような、不条理でシュールな死を扱った物語はあえてストレートに描き、巨大顔面気球や、襲い掛かる彫刻等の原作のキメのコマをうまい具合にはめ込んでいるのも見事だ。

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また、声優陣の演技も一風変わっている。伊藤潤二の漫画には携帯電話など現代的な機器は登場しないため、いわゆる“昭和味”が濃い(SFに登場する様な奇妙な機械は出現するのだが)。そのせいか、声優の演技はいわゆる昔の洋画の吹替のような感覚があるのだ。

もちろん効果音や劇伴も同じく、特に第一話の『ひきずり兄弟』と最終話『双一の愛玩動物』に顕著。奇妙なバランス感覚は、見事に伊藤潤二ワールドをアニメで表現しえたと言えるだろう。特に最終話に登場する双一の愛ネコ、ギャロンことコロンの描き方の古臭さは完璧である。

なんだ、やればできるんじゃないか!

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伊藤潤二氏は、最近のインタビューで創作ネタに困っていると語っていた。この際、アニメの分野にもガッツリと進出してみてはいかがだろうか? ホラーでなくても、「猫日記よん&むー」あたりから猫好きを潤二ワールドに引き込むとか、素敵だと思うのだが……。

文:氏家譲寿(ナマニク)

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