サイコホラーアニメ『PERFECT BLUE』を世界のアニメファンが観られたのは、“海外セールス素人”のおかげ!?(1/2)

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ライター:BANGER!!! 編集部
サイコホラーアニメ『PERFECT BLUE』を世界のアニメファンが観られたのは、“海外セールス素人”のおかげ!?(1/2)
Blu-ray&DVD『パーフェクトブルー』
発売元:マッドハウス
販売元:NBCユニバーサル・エンターテイメント
ロジャー・コーマン監督も大絶賛し、アニメーションで本格的な現代サスペンスに挑んだ『PERFECT BLUE』。本作は日本公開よりも早く海外映画祭で様々な賞を受賞し、世界21ヶ国での販売ライセンスを獲得した。初監督作品である本作が世界中で大絶賛され、“世界の今敏”に押し上げた当時の海外セールス担当・中垣ひとみさんに話を伺った。世界中で話題となったきっかけ、ファンタジア映画祭までの道のりとは?ロジャー・コーマン監督とのエピソードは(2/2)で詳しくお伝えします!(ちなみに中垣さん、普段はバリバリの関西弁なので脳内変換して読んでいただけると臨場感増します)

海外セールス展開も、私が売れば経費削減になる!

『パーフェクトブルー』©1997 MADHOUSE

-まず、『PERFECT BLUE』で海外セールスを担当されたいきさつを教えてください

1996年にレックスエンタテインメントという会社の国際部のジェネラル・マネージャーとして働きはじめました。アニメーション映画の企画・製作・配給を事業とする新しい会社です。国内はもちろん、日本の高品質なアニメーションは世界にマーケットがあり、会社として国際的なビジネス展開を目指していました。

『PERFECT BLUE』はレックス社で初の長編アニメーション映画です。当時アニメーションとしては新しいジャンルであったサイコホラーに挑んだ、鬼才、今敏氏の初監督作品でした。

当初、『PERFECT BLUE』はOVA(オリジナルビデオアニメ)としてスタートしましたが、完成間近に急遽、劇場映画としてリリースすることになったんです。今監督とMAD HOUSEの皆様のご尽力で、息をのむストーリー展開と監督独特の映像美に満ちた、あまりに素晴らしい作品が仕上がってきたからです。

ただ、新しい会社の第1作目でしたので、海外展開については知名度も経験値もない白紙の状態で。私も含めてほぼ全員素人集団(笑)でしたね。

-海外映画祭ではまずファンタジア映画祭に出品しましたよね

作品完成前に、『PERFECT BLUE』のビデオグラム/TV権を買ってくれた会社さんがありました。これも不思議な話で、実は私が別の雑誌の営業でお邪魔したんです。その当時の上司が「『PERFECT BLUE』のラッシュ(10分程度の紹介映像)も置いてこい」と言うので、「そういえばこんな作品も作ってるんですよ~、よろしくお願いします!」という程度で置いて来ました。当時、レックス社の東京支社は新橋(本社は大阪)でしたが、帰り道の10分程度の間、私が新橋の事務所に到着する前にラッシュをご覧になった先方から「『PERFECT BLUE』のビデオグラム/TV権を買いたい」と連絡があったことを覚えています。

そこで先方から「ファンタジア映画祭(1996年からカナダ、モントリオールで開催されているジャンル映画を対象とした映画祭)というものがある」と聞いて、そんなのあるの?じゃあ出してみよう、となったのが最初ですね。

その時、実は海外セールス権も欲しい、と言われたのですが、社長と話をして「でも、作品を誰よりも大切に思う社内の人間が担当するのが何よりです!私は英語でビジネスができるし、私が売ればマージンも必要ないので経費削減にもなりますよ!」と言って、担当することにしてもらったんです。「絶対渡すもんか。私が売る!」と(笑)。初めてのことで何も知らないのに、ひとりで売る!なんて無謀ですよね(笑)。

結局、「ファンタジア映画祭に出品するんだし、(映画祭に)行ってきたら?」ということになって、私ひとりが現地に行くことになりました。

完成試写の時、映画祭の締め切りは過ぎていた

日本公開時のパンフレットやノベルティ

―初めて『PERFECT BLUE』の作品全体を見たのはいつごろだったんですか?

1997年7月半ばから開催された第2回ファンタジア映画祭に出品するということで、制作のデッドラインが設定されました。ただ、今さんも初監督作ということで、すごく気合が入っていたため、本当に社内試写のギリギリまで手を加えていました。だからこそ素晴らしい作品が出来たのですが、ファースト・カット・ヴァージョンの完成社内試写が、映画祭の1週間前。19:00スタートの予定だったのに、始まったのは25:00!ささいなカットまで本当にこだわられていました。試写が始まるまで、いらしてくださった皆様に「すみません!もうちょっとお待ちください!!」と、6時間お待ちいただいて(笑)

-映画祭への参加が決まった時、日本での評判や公開は?

日本での公開より、海外で売るほうが早かったですね(※注 ファンタジア映画祭のころ、まだ監督は日本で映像の手直しをしていた。日本公開は1998年2月)。当時、ファンタジア映画祭はまだ2回目だったので、学生ボランティアのように若い方々が運営しているような時代だったんです。映画祭側も大変協力的で、「ワールドプレミアをこの映画祭でやるからお願い!協力して!」と頼み込んで、いろいろと力を貸してもらいましたね。地元のTVで映画祭が取り上げられたら『PERFECT BLUE』のトレーラーを流してくださったり、雑誌などの取材でも日本の最新劇場アニメのワールドプレミア、ということでアピールしてくださいました。

実はファースト・カットが出来上がった時点で、ファンタジア映画祭のフィルム送付の締切が過ぎてしまっていたんですよね。航空便で送ったらさらに遅くなる。じゃあ持っていったほうが早い!という話になって、えーー!?私が持っていくの!?って(笑)。私が映画祭に行く時、当時はまだフィルム缶だったのですが、25キロもあるフィルム缶と、大きなスーツケースを両手に持って行ったんですよ!

しかも、モントリオールに到着したらフィルム缶は出てきたのですが、私のスーツケースが出てこない!「えー!私のスーツケースはー!!?」と空港で大騒ぎしたんですが(笑)、まぁ、フィルムだけはちゃんと来た。こういうところも作品の持つ運ですね。

-初監督作品なので、今敏という監督を世界中で誰も知らないですよね?どうやってアピールしたんですか?

当時、『AKIRA』や『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』などは既に海外で大きな話題になっていたんですね。今さんは大友(克洋)さんの映画作品の脚本・美術設定・レイアウトとして参加されていて、強い信頼関係を築いていらしたので、「大友克洋の秘蔵っ子、今敏初監督作品」とアピールをしました。

それに当時も(現在とは程遠いとはいえ)日本のアニメーションには必ずファンがいたし、「大友さんの~」という言葉はとても強かった。ファンタジア映画祭からはじまり、最終的に売れる地域とはほぼ全て交渉しましたが、評判の悪い国はなかった。映画としての作りがしっかりしていたんですよね。そこも今さんの天才的なところです。

上映時の長蛇の列を見て涙が溢れた

綺麗にまとめられたファンタジア映画祭当時の写真。右上が劇場に出来た長蛇の列

―話をファンタジア映画祭に戻しますが、現地での印象は?

海外でセールスする、と意気込んでいましたが、実はそれまでアニメなんてほとんど見たことがなかったです。仕事を始めて勉強したので、今はもちろんすぐにその素晴らしさは分かりますよ!当時、何か見てたかな……「宝島」は好きでしたね。まだ主題歌も歌える(と、軽く口ずさむ)。あ、「天才バカボン」も!でも本当にその程度しか見たことがありませんでしたから(笑)。

それでも完成試写を見て、作品の緊迫感やインテリジェンスはとても感じました。でも当時、私の中でこの素晴らしさがわからなかった。だって、アニメの知識の蓄積がなかったので、比べられるものがなかったから。だから、映画祭もスクリーニング当日までは不安でしたよ。本当にお客さん来てくれるのかしら……って。だけど初日、劇場に行ったらシアターの周りにずらーーーーーっと人が並んで、劇場から3ブロック以上も大行列が出来てたんです!その人たちを見たとき、本当に嬉しくてね。涙が溢れてきました。しかも入場できなかった人が多数いたため、急きょ2度続けての上映になりました。さらにご覧になった方が、上映後、「素晴らしかった」と声をかけてくださったり、サインを求めてきたりしたんです。私、監督でもないのに!(笑)私はたったひとりで来ていたから、人だかりになってしまって(笑)こんな反応があったのはこの作品にパワーがあるからですし、今敏が天才だったからに他なりません。

ファンタジア映画祭ベストフィルムの表彰盾

こちらとしては“出品すること”が目的と思っていたのに、最終的に観客の投票で選ぶ「ベストフィルム」に選ばれ、改めて素晴らしい作品だと実感したのが本音です。先ほどお話したように、私はアニメに関しては本当に当時は素人でしたからね(笑)

賞をいただいて、表彰盾も頂いたのですが、実はここに入っている画像は、作品本編のヒトコマを使用した仮のポスター画像です。まだ日本用のポスタービジュアルもできていない時期だったので(笑)

ロジャー・コーマン監督が惚れた『PERFECT BLUE』、南阿佐ヶ谷の机の上からベルリン映画祭へ!(2/2)

『PERFECT BLUE』

今敏の初監督作で、世界中の映画祭で絶賛されたサスペンス・アニメーション。アイドルグループを脱退し、新人女優として第一歩を踏み出した霧越未麻。しかし、自分の意向とは裏腹に舞い込む過激なグラビアやTVドラマの仕事に戸惑いを隠せないでいた。そんな中、何者かから彼女を「裏切り者」と罵るファックスが届き、彼女の関係者を標的とした殺人事件が続発する…。

制作年: 1998
監督:
キャスト:
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  • アニメ
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