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「どうせ死んでしまうなら、誇らしくありたい」Netflix『ミッドナイト・クラブ』 若者たちが語る絶望のおとぎ話

「どうせ死んでしまうなら、誇らしくありたい」Netflix『ミッドナイト・クラブ』 若者たちが語る絶望のおとぎ話
Netflixシリーズ『ミッドナイト・クラブ』独占配信中

末期ホスピスで催される異常な集会

「誇らしく生きられなくなったら、誇らしく死しぬべきだ」 ニーチェ

余命僅かな若者が集うホスピス<ブライトグリフ>。ここでは毎夜、入院患者が図書室に集まり、怪談話に花を咲かせていた。

この不思議は集会の名は「ミッドナイト・クラブ」。クラブへの入会条件はただ一つ。「死んだら、幽霊になってあの世からみんなに呼びかける」こと。

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変わり者ばかりが集まるクラブでの会話は、その様は、生き生きとしてみえ、燃え尽きようとする命を互いに分け与えているかのよう。個性的な患者たちが紡ぐ物語は、どれも魅力的だ。

分身を作る悪魔、いじめ、連続殺人鬼、陰謀論、自殺、タイムスリップ……。

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新入りの甲状腺ガン患者のイロンカは、同室の骨肉腫のアーニャや他の患者との人間関係に悩みながらも、次第に打ち解けていく。だが、イロンカがブライトグリフに入所を決めたのは、「過去、ここのホスピスに入所したことで末期がんが消え、完治した患者がいる」との噂を聞きつけてのことだった。

ところが、完治した患者について調べていくうち、彼女は「ミッドナイト・クラブ」の異常な起源を知ることになる……。

“憂鬱”なメインストーリーと“健康”なサイドストーリー

「ついにやりやがったな」と思った。Netflixシリーズ『ミッドナイト・クラブ』の時代設定は1994年。80年代リバイバルブームが一段落し、ようやく90年代の出番というわけだ。何故、今作は90年代が舞台なのか? それは原作がアメリカのYA(ヤングアダルト)小説家、クリストファー・パイクが1994年に発表した同名小説(未翻訳)だからだ。

The Midnight Club (English Edition)

やたらとノーテンキでハッピーな雰囲気が漂っていた80年代とは違い、90年代は暗く切なかった。世界の方々で起こる内戦、蔓延る世界滅亡論。映画はバッドエンドを迎えるサイコスリラーが台頭。音楽も心の内側にめり込んでいくグランジ/オルタナが流行り、ヒップホップ界に至ってはリアルで殺し合いまで起こる始末。まさに「世紀末」という様相。『mid90s ミッドナインティーズ』(2018年)でも描かれていたが、精神的に不安さを抱えた時代だった。

そんな時代を体現したのが『ミッドナイト・クラブ』だ。登場人物は、死を約束された少年少女。つまり21世紀どころか数ヵ月持つか持たないかの状態。それなのに彼らは、毎夜、何かにすがるように語り合う。そこはかとない絶望、何かにすがりたい気持ち……これこそが90年代なのであるといえる。

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えげつない設定だけでも正直つらい。しかも、毎夜語り合う物語をサイドストーリーとしてオムニバス形式で描き、毎回違う物語が楽しめるのだが、タチの悪いことに“入院患者が、健康な役を演じている”のだ。メインストーリーとサイドストーリーを関連付け、各々のキャラクターの心やバックボーンを描き、感情移入させようというわけだ。

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主人公や同室のアーニャらが元気な様をサイドストーリーで描いておきながら(とはいっても悪魔に取りつかれた殺人者であったり、悪魔に魅入られる不幸なバレリーナだったりするが……)、話が終われば、苦痛にさいなまれる末期患者。このギャップがとにかくシンドイのだ。

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この憂鬱な気持ちを加速させるのが音楽だ。90年代の音楽はメッセージ性が強い。デュラン・デュランでさえ「Ordinary World」や「Come Undome」で世間を泣かせた時代なのに、ノトーリアス・B.I.G.の強烈なリリック、サウンドガーデンの陰鬱なオルタナ感……。ここまでエモーショナルに音楽を使った作品は、Netflixでは過去に無かったのではなかろうか?

病気やマイノリティの扱いについても、90年代をしっかりと踏襲している。たとえばエイズ患者のスペンサー。彼が出血した場合の処置、あるいは罹患した理由、カミングアウト後の家族との軋轢はまさに、多様性が認められ、エイズが不治の病ではなくなった今では考えられないだろう。

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本作の制作はマイク・フラナガン。(彼は全話脚本、第1話と2話の監督も兼ねている)『オキュラス/怨霊鏡』(2013年)、『サイレンス』(2016年)等、ベタたスラッシャー/ジャンプスケアをこなし、ベッドの上のみで物語が進行するスティーヴン・キング原作の『ジェラルドのゲーム』(2017年)でキングを驚嘆させ、『ドクター・スリープ』(2019年)の監督に抜擢されたのは記憶に新しい。

マイク・フラナガン監督 Netflixシリーズ『ミッドナイト・クラブ』独占配信中

さらにNetflixのリミテッドシリーズ『ザ・ホーンティング・オブ・ヒルハウス』(2018年)では、本編と全く関係のない幽霊を映像に仕込み、視聴者を失禁直前に追い込んだ映像の魔術師でもある。それだけはなく『真夜中のミサ』(2021年)では、宗教・信心にまで言及した。今、最高のホラー監督の一人として地位を確立している人物だ。

『ミッドナイト・クラブ』は、そんなフラナガンの集大成ともいえる作品だ。映像マジックや巧みなストーリーテリングに加え、人生の終わりとその向こうにあるもの、さらに心の動きを巧みにあやつり、彼のフィルモグラフィーにおいて最も感情的な作品となっている。シリーズ化の予定もあるとのことで、今後のフラナガンの動向に注視したい。

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また、卵巣がん患者のナツキ役に日本人俳優のアヤ・フルカワが抜擢されている。これまではチョイ役ばかりだったが、ようやく大役を手に入れられたというわけだ!

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加えて、院長役を『エルム街の悪夢』(1984年)のヘザー・ランゲンカンプが演じている。こちらも往年もファンは注目である。

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文:氏家譲寿(ナマニク)

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『ミッドナイト・クラブ』

終末期患者のホスピスで、夜な夜な集まり不気味な話を語り合う8人の若者たち。次に死ぬ者は向こう側の世界から仲間に合図を送ろうと約束を交わすが…。

製作総指揮:マイク・フラナガン リア・フォング トレヴァー・メイシー
原作:クリストファー・パイク
脚本:マイク・フラナガン リア・フォング ジュリア・ビックネル

出演:イマン・ベンソン イグビー・リグニー
   ルース・コッド ヘザー・ランゲンカンプ アナラ・シモン

制作年: 2022