※ 本ページはプロモーションを含みます。
掲載日:2026年10月11日(2026年10月11日時点の情報)文=BANGER!!!編集部
※本記事の情報は2026年10月11日時点の情報です。最新情報は公式サイトにてご確認ください。
「ありえない」と先に言っておけば、傷つかずに済む。この題名は、35歳の防御の姿勢そのものだ。
『35歳、今さら恋とかありえない』は、蜜柑子の漫画を原作にした恋愛ドラマである。監督は八十島美也子、脚本は奈良さわ。フリーライターの木元茉莉子を入来茉里が、板前の森原功毅を石黒英雄が演じる。DMM TVの独占配信で、7月6日に始まり、毎週月曜の深夜に更新されてきた。夏から配信が続いてきた作品なので、連休にまとめて追いかけるだけの話数がすでに溜まっている。
一夜から始まる、という順番の怖さ
物語は、茉莉子が森原と過ごした一夜から動き出す。出会って、惹かれて、時間をかけて、という順番が逆になっている。
20代の恋愛ドラマなら、これは勢いの話として描けるだろう。35歳だと意味が変わる。翌朝に考えることが多すぎるのだ。相手は本気なのか。自分は何を期待しているのか。期待して外れたら、立ち直るのにどれだけかかるか。若い頃なら一週間泣けば済んだことが、いまは仕事にも生活にも響くと分かっている。
だから茉莉子は「今さら」と言う。あれは謙遜でも照れでもなくて、損得の勘定だと思う。恋をして失うものと得るものを天秤にかけ、失うほうが重いと見積もっている。その見積もりが正しいのかどうかを、ドラマは一話ずつ揺さぶっていく。
35という数字の選び方も巧い。30歳の節目はもう越えた。40歳はまだ先に見える。周りの友人たちの暮らしは、それぞれの形に固まりはじめる頃だ。自分だけ何も決めていない気がする。けれど決めていないことを、自由と呼べなくもない。茉莉子の「今さら」には、その宙ぶらりんの居心地の悪さと、そこに慣れてしまった気楽さの両方が入っている。
書く仕事の女と、黙って手を動かす男
二人の職業の置き方がうまい。
茉莉子はフリーライターだ。言葉で食べている。仕事では他人の気持ちを整理して文章にできるのに、自分のこととなると言葉が出てこない。フリーという立場には、自分の腕ひとつで立っている誇りと、明日の保証がない不安が同居している。35歳まで一人でやってきた人にとって、誰かに寄りかかることは、積み上げた自尊心を一度崩すことに近い。恋が怖いというより、頼ってしまう自分が怖いのだろう。
森原は板前で、言葉より手が先に動く仕事をしている。説明しない男は、こういう物語では都合よく謎めいて描かれがちだ。石黒英雄がこの役をどう立たせるかが、作品の出来を左右すると私は見ている。黙っているのが余裕なのか、不器用なのか。その差を芝居で出せる俳優だと思うので、期待している。
入来茉里には、強がっている人の目の揺れを見せてほしい。平気なふりをして帰る背中、連絡を待っていないふりをする指先。この種のドラマの説得力は、そういう小さな動きに懸かっている。
登場人物の少ない恋愛ものは、沈黙と視線の置き方で決まる。派手な事件が起きないぶん、二人きりの場面をどれだけ保たせられるかに演出の腕が出る。八十島美也子監督がそこをどう撮っているかも、確かめたい点のひとつだ。
主題歌はTRiDENTの「Candle」。小さな火という題が、35歳の恋の温度によく合っている。大きく燃え上がるのは怖い。けれど消してしまうのも惜しい。
配信版という選択について
DMM TVで配信されているのは、地上波版より表現の幅を広げた特別バージョンだと、公式に案内されている。どこがどう違うのかまでは明かされていないので、ここで憶測は書かない。
ここで言っておきたいのは、この作品の芯は刺激の強さにはない、ということだ。触れ合う場面は、茉莉子が鎧を一枚ずつ下ろしていく過程として置かれている。体の距離が先に縮まり、心があとから追いつこうとして足をもつれさせる。観るべきはその、追いつけなさのほうだ。
向かない人と、深く刺さる人
弱点も書く。
大人の恋愛を正面から描く作品なので、親密な場面が物語の中に入っている。そうした描写が苦手な人、家族と一緒に観るつもりの人には向かない。一人の夜に観るドラマである。
話の運びも、漫画原作の恋愛ものらしい甘さを持っている。偶然が重なり、すれ違いが起き、誤解が解ける。現実はこんなにうまく転がらない、と冷めてしまう人はいるだろう。骨太な人間ドラマを期待すると肩透かしになる。
それでも私が推すのは、茉莉子の臆病さの描き方に嘘がないと感じるからだ。年齢を重ねた人の恋が、若い頃より軽くなることはない。失敗の記憶が増えたぶん、踏み出す一歩はむしろ重くなる。その重さを、甘い物語の形でちゃんと扱っている。
勧めたいのは、茉莉子と同じ年頃で、恋の話題になると冗談で流すようになった人。仕事はそれなりにやれているのに、ふとした夜に空白を感じる人。かつてそうだった人にも。
連休の夜、ひとりで
昼間に観る作品ではない、と思う。予定を終えて、部屋の灯りを少し落としてから再生するのがいい。夏から毎週積み重ねてきた分を、連休の二晩か三晩に分けて追える。何話まで出ているかは、作品ページで確かめてから始めてほしい。
DMMは第1話の編集版をYouTubeで無料公開した。合うかどうか迷う人は、そちらで二人の空気を確かめてから決めればいい。
この配信版が観られるのはDMM TVだ。独占配信で、地上波版より表現を広げた特別バージョンはここにある。月額は550円(税込・Webブラウザから登録した場合)で、アプリ経由の登録は650円。初回登録の人は14日間無料、期間内に解約すれば料金は発生しない。
「ありえない」と言い切った人が、その言葉をいつ取り下げるのか。見届ける側も、少しだけ自分の防御を点検することになる。
※本記事は2026年10月11日時点の情報です。配信状況・料金・配信期間は変更される場合があります。最新の情報は各公式サイトでご確認ください。