50人以上を殺害し一部を食した、旧ソ連時代最大の連続殺人犯『エヴィレンコ』推奨コメント到着!「緊張感に身を削られながら必死で見た」
アンドレイ・チカチーロをモデルにした連続殺人鬼をマルコム・マクダウェルが演じた映画『エヴィレンコ』(04)が、10月9日(金)より公開中。このたび、各界の著名人7名より推奨コメントが到着した。
50人以上を殺害した“アンドレイ・チカチーロ”
50人以上を殺害した旧ソ連時代最大の連続殺人犯であるアンドレイ・チカチーロを、『時計じかけのオレンジ』(71)のマルコム・マクダウェルが演じた本作。
主人公エヴィレンコ役を演じるにあたってマルコム・マクダウェルは、実際のチカチーロの映像を参考にし怪演。監督は、以前からマクダウェルと友人であり、本作が初監督作品となったデヴィッド・グリエコ。グリエコ監督は自らチカチーロの裁判を傍聴し、チカチーロの小説「Il comunista che mangiava i bambini(子どもを食べた共産主義者)」を94年に出版。これが話題となり、ベルナルド・ベルトルッチが映画化を希望したが、病に倒れ逝去。グリエコは自らメガホンを取ることを決意。資金難により製作が難航した際も、マクダウェルは「当然やるべきだ」とグリエコ監督に後押ししたほどの入魂作。「第50回ダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞」の新人監督賞ににノミネートを果たした。直接的な残酷描写を控えつつも、心理に迫ることで一層の恐ろしさをあぶり出している。
<コメント>
有田芳生(衆議院議員)
不気味な重奏低音が観る者の心をザラつかせる。とくに30分を過ぎたあたりにアップされる主人公「エヴィレンコ」の姿が、この作品の恐ろしさをストレートに表現している。1980年代に旧ソ連で実際に発生した子どもと女性を被害者とした連続殺人事件の再現だ。加害者の逮捕により55人が被害者だったことが明らかになる。ラストシーンで流れていく数々の写真は、映画に登場した精神分析医役以外は、おぞましくも実際の被害者だろう。
追い詰める検察官の手法もすごい。何よりもソ連が崩壊に向かう時代の頑固な「旧守派」と「ペレストロイカ(改革派)」の対立のなかに揺れる精神まで表現されている。しかし世界のどこでも、いつの時代にも発生する幼児殺害事件の数々の動機と手法をどう見るか。私は「北関東連続幼女誘拐・殺人事件」を取材し、国会で取り上げた経験から、この作品で犯人の資質について「催眠術」という言葉が使われたことに注目した。北関東の連続事件でも犯人は幼女の心を惹きつける能力を自然に駆使したからだ。
それにしても裁判の過程で、モンスター「エヴィレンコ」の精神は「正常」だと判断された。ならば大量殺人はいかに可能だったのか。この作品の監督デヴィッド・グリエコの祖父がファシズムと闘ったイタリア共産党の書記長(1934年から38年)だったジューロ・グリエコだったことも、社会主義社会への関心として背景にあるのだろう。ソ連のスターリン書記長の政策による虐殺や餓死は、最近の研究でも1000万人近いとされている。「社会主義」のもとでこれほどの犯罪が実行された世界で、55人の殺害が「正常」な精神でのことだとされたなら、世界の「異常」とはいったい何だというのだろうか。
石井光太(作家)
社会や家庭の環境が犯罪者を作り出すという理屈に基づくなら、この比類なき凶悪な殺人鬼を生み出した、戦中から冷戦時代にかけてのソ連の闇はどれだけ深いのだろう。こういう悪魔を誕生させては、恐れおののき、処刑するということをくり返しているのが人間の歴史なのだ。
白石和彌(映画監督)
とんでもなく恐ろしい。エグい描写がたくさんあるわけではない、恐ろしいのはマルコム・マクダウェルのその顔。何を考えてるのか分からないその目で、じっと見つめられて耐えられる者などいない。映画後半の刑事との圧巻のやり取りは映画史に残る凄まじいシーンだ。映画全編に響き渡る重低音のような緊張感に身を削られながら必死で見た。多くは語れないが、ラストカットを見た後の感情を言語化出来る人は果たしているのだろうか。
末廣末蔵(ジャンル映画大好きツイッタラー)
50人以上を惨殺したアンドレイ・チカチーロには、人間を惑わす何かがあったのだろう。この謎に対してマルコム・マクダウェルをキャスティングしたのは正に慧眼であった。
実在の連続殺人鬼をモデルとしながらも、民主化の波で崩壊に向かうソ連の動乱とその闇をも、その青い瞳にドス黒く湛える、エヴィレンコと言う新しい邪悪を誕生させたのだから。
このサディストを、時代の転換期に発生したウィルスであると唱える本作は、今の不確実な世界の危うさをも見透かしているのかも知れない。
辻田真佐憲(近現代史研究者)
エヴィレンコは、スターリニズムの残滓であり、その醜悪な化身である。人を操り、服従させ、未来を喰らう。そして時代に否定されるほど、その凶暴さをむき出しにしていく。だが、これはソ連崩壊だけの寓意だろうか。ソ連は滅んでも、「スターリン的なもの」までは滅びない。彼の内にいた「ライオン」は、いまを生きるわれわれの内にも潜んでいる。
山崎圭司(映画ライター)
理想国家の再構築<ペレストロイカ>が狼を解き放つ―。幼子を狙う“赤い人食い”を追う捜査陣が迷子になるなか、真犯人にまっすぐ向かってゆくショタ同性愛の精神分析医。社会が忌み嫌う劣情を抱えたふたりの咎人が急接近する妖しいスリル。一転、飢えた本能が丸裸になって襲い来る衝撃のクライマックス。変態怪優マクダウェル、還暦の燃えあがる狂演。奇抜なチョイ足し解釈で編み直す、ロシア史上最悪の怪物伝説!
ゆいちむ(映画好きOL)
50人以上を殺害した実在の連続殺人犯アンドレイ・チカチーロを題材としながら、本作が見つめるのは一人の怪物だけではありません。
思想にしがみつくエヴィレンコと、崩壊へ向かうソビエト連邦。
その姿が重なるにつれ、猟奇殺人の物語は、やがて国家そのものを映し出す寓話へと変わっていく。
犯罪映画の枠を超え、ひとつの時代の終わりまで映し出した異色作です。
『エヴィレンコ』© 2004 Pacific Pictures / Jean Vigo Italia / Cinestudio Luch. All Rights Reserved.
『エヴィレンコ』は全国公開中