『1917 命をかけた伝令』が示してみせた大きな可能性
『007 スカイフォール』(2012年)、『007 スペクター』(2015年)の監督として知られるサム・メンデスが第一次世界大戦を題材に撮った『1917 命をかけた伝令』。撤退したと見せかけてイギリス軍の攻撃を待ち伏せしているドイツ軍の情報を、攻撃に掛かろうとしている大隊に知られる任務を与えられ、1600名の大隊の兵士たちを死なせないために危険な戦場を進んでいく二人の若いイギリス兵を描いている。
トム・ブレイク(ケイト・ウィンスレットの甥っ子のように見えるディーン=チャールズ・チャップマン)とウィリアム・スコフィールド(ケヴィン・ベーコンの遠い親戚のように見えるジョージ・マッケイ)の二人の若い兵士が、狭い塹壕の中を、そして累々たる死体が放置されたままのぬかるんだ窪地の中を進んでいく様子は、手持ちカメラで撮影することで観客が二人と共に進んでいくような臨場感に満ちている。それが全編ワンショットで撮られていることで、さらに物語の中への没入感を得られる仕組みだ。
ワンショット映画の醍醐味を再発見
もっとも、実際にはロングショットを複数回に分けて撮影し、それを編集で繋げて“ワンショット映画”のように見せているのだという。――たとえば、ドイツ軍の地下基地の中に仕掛けられていたブービートラップでウィリアムが生き埋めになるシーンや、ドイツの狙撃兵との相撃ちで気を失ったウィリアムが目覚めると日が暮れている、といったシーンが、カメラポジションは繋がっているもののショットとショットの繋ぎ目なのだろう。
その意味では、ヒッチコックが70年以上も前に『ロープ』で試みたのと同じ手法ということになるが、もちろん最新の機材で撮影し、最新のデジタル技術で繋いでいるので違和感は全くなく、完全にワンショットで撮られているように見える。
この作品が高い評価を得て、幅広い観客層にアピールしたことによって、“ワンショット映画”の醍醐味が再発見されたといっても過言ではないだろう。特に、いつどこから銃弾が飛んでくるかもしれない戦場の真っ只中で、地べたに這いつくばって進んでいく主人公たちの緊張感というものが、リアルな臨場感をもって観客に疑似体験されていく構造が、あたかもVRのような映画体験となって若い観客たちにアピールしたことは見逃せない。