どう撮影した? 全編ワンカットで顔のアップも広大な風景も! サム・メンデス監督が語る『1917 命をかけた伝令』

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ライター:小西未来
どう撮影した? 全編ワンカットで顔のアップも広大な風景も! サム・メンデス監督が語る『1917 命をかけた伝令』
『1917 命をかけた伝令』サム・メンデス監督© HFPA

「撮影監督ロジャー・ディーキンスと一緒に、カメラと役者との“振付”を考えていった」

全編ワンカット映像で、西部戦線での一幕をリアルに描いた『1917 命をかけた伝令』。地獄のような戦場を駆け抜け、明朝までに最前線にいる味方に作戦中止の命令を届ける2人の英兵士の姿を描く。

第92回アカデミー賞で作品賞・監督賞、撮影賞をはじめ10部門にノミネートされた本作についてサム・メンデス監督に話を聞いた。

『1917 命をかけた伝令』©2019 Universal Pictures and Storyteller Distribution Co., LLC. All Rights Reserved.

―どういう経緯で、全編をワンカットで描くことにしたのですか?

観客には主人公2人と一緒に歩き、一緒に呼吸をして欲しかった。つまり、感情的な選択なんだ。2人との繋がりを感じてもらうためのね。

『1917 命をかけた伝令』©2019 Universal Pictures and Storyteller Distribution Co., LLC. All Rights Reserved.

2時間の映画1本をリアルタイム進行で描くというアイデアが浮かんだとき、どうやって観客を引きつけ続けられるか考えた。編集点があるたびに、観客とキャラクターとのあいだの距離は遠のいてしまうからね。それで、観客と主人公たちのあいだの距離を限りなく減らすために、ワンカットにしようと考えたというわけだ。どんな映画をやるときも、スタイルとコンテンツとの最良の結婚を考える。本作では、この物語を伝えるためにはワンカットが最良のやり方だと思ったんだ。

『1917 命をかけた伝令』©2019 Universal Pictures and Storyteller Distribution Co., LLC. All Rights Reserved.

ただ、彼らの感情の変化をしっかり描くためにはアップにしなければいけないし、同時に彼らが横断する土地もワイドショットできちんと描かなくてはいけない。破壊し尽くされた広大な大地のなかで、彼らの小ささを描く必要があるからね。考え得るかぎりで、おそらく最悪なのは、初めから終わりまでカメラが主人公の背後に張りついているだけの演出だ。そんな映画にはしたくなかったから、撮影監督のロジャー・ディーキンス(『007 スカイフォール』『ブレードランナー2049』ほか)とは、どこで主人公に接近し、どこで引くのか、ワンシーンごとに考えていった。つまり、カメラと役者との振付を考えていったんだ。

「技術的な正確さと感情のリアルを高いレベルで融合させる難しい撮影だった」

―もっとも苦労したのはどの場面ですか?

もっとも不安だったのは、赤ん坊が出てくるシーンだね。戦争がありとあらゆる人々に影響を及ぼしていて、この映画では母親を亡くした赤ん坊との遭遇が描かれる。本物の赤ん坊を登場させようと思ったのは、ブロードウェイで舞台劇『ザ・フェリーマン』をやった経験があったからだ。毎晩、舞台に赤ん坊を登場させていたんだが、一度も泣かず、完璧だった。あまりにもおとなしいので、プレビュー公演で見た評論家はロボットだと思ったほどだ。その後の公演では、赤ん坊を持ち上げて、本物であることを観客に見せるようになったほどだよ。

とにかくその経験があったので、『1917 命をかけた伝令』では本物の赤ん坊を登場させることにした。そして、あのアイヴィーという赤ちゃんは、魔法のように素晴らしかった。(伝令兵の1人を演じた)ジョージ・マッケイが手を伸ばすと、アイヴィーが指を握ってくれた。あのときほど、カメラがミスらないことを祈ったときはなかったね。あんなテイクは二度と起きない。あれは7分程度のテイクで、もしカメラオペレーターが6分45秒でつまづけば、はじめからやりなおさなくてはいけなかった。実際、その前のテイクで彼は躓いていたしね。でも、そのおかげで、この素晴らしい瞬間を収めることができたんだ。技術的な正確さと、感情のリアルを高いレベルで融合させなければいけない、極めて難しい撮影だった。おかげで、現実を記録したかのようなリアリティがあると思う。

『1917 命をかけた伝令』サム・メンデス監督© HFPA

「歴史に忠実でドライな戦争映画をやるつもりはさらさらなかった」

―過去あらゆる戦争映画があるなかで、あえていま新作を放つ意義は何ですか?

いい質問だね。それにはいくつかの答えが考えられる。いまのわたしたちは自分中心的な社会で暮らしている。だが、かつては自分よりもっと大きなもののために、自らを犠牲にする世代がいた。自由を得るため、ひとつのヨーロッパを作るため、子供により幸せな人生を提供するため……。理想主義に過ぎないと言われるかもしれないが、ストーリーテラーとして理想を描くことができないなら、存在価値がないんじゃないかと思う。

『1917 命をかけた伝令』©2019 Universal Pictures and Storyteller Distribution Co., LLC. All Rights Reserved.

―なるほど。

また、戦争や戦争の物語のなかでは、人々が限界に追いやられる。生と死の境界線が限りなく近くなるから、そこで人間であるとはどういうことか、というテーマに向き合うことができる。あるとき、主人公はすべてを諦めて、河に飛び込む。その後、死体だらけの場所で目ざめて、どうして自分は生かされたのか、自問する。

『1917 命をかけた伝令』©2019 Universal Pictures and Storyteller Distribution Co., LLC. All Rights Reserved.

僕はこの物語を通じて、普遍的なものを伝えたかったんだと思う。愛や友情、故郷……。トラックで乗り合わせた若い兵士の1人は言っていたよね。彼らが闘うのは、母国のためですらない。自分よりもっと大きなものがあるからだ、と。僕もこの映画に同様の感情を抱いている。だからこそ歴史に忠実で、ドライな戦争映画をやるつもりはさらさらなかったんだ。

『1917 命をかけた伝令』©2019 Universal Pictures and Storyteller Distribution Co., LLC. All Rights Reserved.

取材・文:小西未来

『1917 命をかけた伝令』は2020年2月14日(金)より全国ロードショー

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『1917 命をかけた伝令』

第一次世界大戦真っ只中の1917年のある朝、若きイギリス人兵士のスコフィールドとブレイクにひとつの重要な任務が命じられる。それは一触即発の最前線にいる1600人の味方に、明朝までに作戦中止の命令を届けること。

進行する先には罠が張り巡らされており、さらに1600人の中にはブレイクの兄も配属されていたのだ。戦場を駆け抜け、この伝令が間に合わなければ、兄を含めた味方兵士全員が命を落とし、イギリスは戦いに敗北することになる。

刻々とタイムリミットが迫る中、2人の危険かつ困難なミッションが始まる……。

制作年: 2019
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