ヤクの売人の“最後の仕事”描く『ナイトライド 時間は嗤う』
『ナイトライド 時間は嗤う』(2021年)の主人公バッジ(モー・ダンフォード)は、最後のひと山を当てて裏社会から抜け出し、恋人とのまっとうな暮らしを手に入れようとするドラッグ・ディーラー。もちろん、過去に数多の映画で描かれてきたように、「これが最後の大仕事」と決めて挑む仕事が目論見通りにいくはずはない。
闇金業者から10万ポンドもの大金を借りてブツを仕入れ、倍の値段で売り抜けようというバッジだったが、弟分のヘマで、ブツを積んだトラックを盗まれてしまい、闇金業者からは返済を迫られて刺客を送られるというピンチに陥る。
臨場感、そして観客が焦燥感を共有できるメリットを示した犯罪映画
映画は、まさしく94分のワンショットで、この運命の一夜を必死に切り抜けようと車で奔走するバッジの姿を観客に同時体験させるのだが、毎日、11時間のリハーサルを1週間続けて、6週間で6テイク撮影したのだという。実際、様々なアクシデントに見舞われながらの撮影だったそうだが、だからこそ尚更、観客もまた予測不可能なスリリング体験を、カメラの設置されている助手席で共有することになる。
“ワンショット映画”は、大抵は限られた空間や限られた登場人物という制約の中でしか描かれ得ないが、逆にその分、現実感を得られるわけだし、製作する側の立場で考えれば極めて低予算で製作することができるというメリットもある。その醍醐味は、予測不能な展開を映画の中の主人公と一緒に疑似体験させられる臨場感にこそあるのだから、あとはいかにスリリングな物語を展開させるか、というアイディア勝負となってくる。その意味で、本作のようなクライム・アクションというジャンルはうってつけなのだ。