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マーベル映画級のVFXが炸裂するインド発SFアクション『ブラフマーストラ』の新たな神話世界「アストラバース」を解説

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ライター:#松岡環
マーベル映画級のVFXが炸裂するインド発SFアクション『ブラフマーストラ』の新たな神話世界「アストラバース」を解説
『ブラフマーストラ』© Star India Private Limited.

“ブラフマーストラ”とは?

日本でのインド映画公開作には、憶えにくいカタカナ書きタイトルが付くことがある。『マニカルニカ』とか『ジャッリカットゥ』とか、窓口でチケットをお求めになる時に言うのがちょっと大変だったのでは、と思う。今回の作品も少々難度が高く、『ブラフマーストラ』と正確に発音するには、何度か練習が必要だ。

そして、『ブラフマーストラ』とは何のこと? と多くの人が疑問に思うに違いない。これは「ブラフマ」+「アストラ」からなる言葉で、「ブラフマ神の武器」という意味だ。サンスクリット語で「Brahma(ブラフマ神)」と「astra(武器)」が連結すると、「Brahma」の語尾の「a」と「astra」の語頭の「a」がくっついて長母音の「アー」になるため、『ブラフマーストラ』になった、というわけである。

『ブラフマーストラ』© Star India Private Limited.

インド人のうち約8割が信仰するヒンドゥー教は多神教で、文字通り八百万(やおよろず)の神々がおり、その上それぞれの神の名も一つではなく、別名が山ほどあってややこしい。その中で主要な神々は各自専用の乗り物動物を持ち、象、牛、白鳥、クジャク、ガルダ等に乗って現れる。得物とする武器も千差万別で、形状もまちまちだ。――と聞くと、「それって、ゲームの世界?」と思う人も多いだろう。

ゲーム世界では10年ぐらい前から、インド神話は盛んに素材にされてきたのだが、それを初めて全面的に映画に取り込んだのが、『ブラフマーストラ』なのである。主人公はシヴァ。ヒンドゥー教の三大神のうちシヴァ神の名を持つ彼が、同じく三大神であるブラフマ神の武器と出遭うことで能力を目覚めさせ、闘いを繰り広げていく物語だ。

『ブラフマーストラ』© Star India Private Limited.

最強の神器をめぐる戦い

ムンバイに住むシヴァ(ランビール・カプール)は人気DJ。彼は秋のお祭りシーズンに神像の前で出遭ったイーシャ(アーリヤー・バット)に一目惚れし、次に会った時には彼女を家に誘う。そこは身寄りのない子供たちが暮らす家で、シヴァ自身も両親がいなかった。

『ブラフマーストラ』© Star India Private Limited.

ところがその晩、なぜかシヴァは意識の中で猛烈な攻撃を受けてぐったりしてしまう。デリーに住む科学者(シャー・ルク・カーン)が襲われて死に至ったシーンを、幻視体験してしまったのだ。襲ったのは、黒服を着た女ジュヌーン(モウニー・ロイ)と2人の手下たちだった。

シヴァには、次に襲われるのがベナレスに住む芸術家(ナーガールジュナ・アッキネーニ)だとわかり、彼に知らせるためイーシャと共にベナレスに赴く。すると案の定ジュヌーンらが姿を現し、シヴァは芸術家と共に闘ううちに、芸術家らが守ろうとしているのが「ブラフマーストラ」と呼ばれる最強の武器だと知る。

ブラフマーストラは現在3つに割れた欠片となっていて、それを巡る闘いが繰り広げられているのだ。ブラフマーストラを守る人々はブラフマーンシュ(ブラフマの分身)と呼ばれ、そのトップにはグル(師)と呼ばれる老人(アミターブ・バッチャン)がいた……。

『ブラフマーストラ』© Star India Private Limited.

ハリウッド顔負けのVFXと“これぞボリウッド”なダンス&ソング

冒頭にアニメーションを使って、ブラフマーストラとブラフマーンシュのことが簡単に説明される。そしてすぐに、デリーの夜景を背景にした高層マンションでの、シャー・ルク・カーンと黒服の男たちとの闘いになるのだが、久々のシャー・ルク・カーンを愛でている暇もなく、かなり激しいアクションシーンが展開していく。

『ブラフマーストラ』© Star India Private Limited.

熾烈なアクション、高度なCGとVFXを使った、幻想的かつ迫力のあるイメージ処理、そして華のある主役たちが繰り広げる、予測不可能なストーリー展開――これはハリウッドのマーベル映画か? と思ってしまうような作品である。インド映画としては初めて、全米映画ランキング初登場第2位を記録したのも納得だ。しかしその一方で、インド映画にしか入れ込めない要素もちゃんと入っているところが、さすがのボリウッド映画である。

『ブラフマーストラ』© Star India Private Limited.

その一つは、言わずと知れたソング&ダンスシーンだ。オープニングからすぐの秋祭りを言祝ぐ「Dance Ka Bhoot(ダンスの霊)」はゴージャスで楽しいし、半ば過ぎにシヴァが火を自在に操れるようになった時BGMで流れる「Deva Deva(デーヴァ・デーヴァ/おお神よ)」も印象に残る。

だが極めつけは、ベナレスに行ったシヴァとイーシャが街の小路や寺院、ガンジス川などを巡りながら歌う「Kesariya(サフラン色の君)」で、現在人気トップの歌手アリジート・シンの甘い歌声が耳から離れなくなる。アリジート・シンと作詞を担当したアミターブ・バッターチャーリヤは、先日挙行された“インドの「キネ旬」”こと<フィルムフェア>誌の映画賞で最優秀男性歌手賞と作詞賞を受賞したほか、ジー・シネ・アワード(ボリウッド作品を対象とした映画賞)でも同じタイトルを獲得している。

二つめは、シヴァとイーシャの「愛はすべてに勝る」という信念である。これこそが本作のテーマと言ってもよく、シヴァの隠された特殊能力を目覚めさせていくのはイーシャへの愛情、という設定もインドならではだ。ご存じの方も多いように、シヴァとイーシャを演じたランビール・カプールとアーリヤー・バットは、実生活でも夫婦である。

本作の撮影が始まった2018年に付き合い始め、映画のインド公開日である2022年9月9日の数ヶ月前、4月14日に結婚式を挙げ、そして公開約2ヶ月後の11月6日に女児が誕生した。公開されるとたちまちヒット街道を驀進し、ついには2022年ヒンディー語映画興収第1位を獲得したのも、この実生活と劇中のラブストーリーのシンクロが影響したと思われる。

そして三つめは、劇中に出てくるシヴァの母アムリタの存在である。シヴァが1歳の時に亡くなった母の役には、当初ディーピカー・パードゥコーンが予定されていたらしいが、本作の中ではシルエット処理の登場で、顔は明かされていない。その母が残した形見が、本作では大きな意味を持つ。インド映画には母の存在は不可欠で、『バーフバリ』二部作もそうだったが、最近のヒット作はほとんどが「母」ファクターを内包しているのだ。

実は『ブラフマーストラ』は三部作となる予定で、本作は『ブラフマーストラ・パート1:シヴァ』が原題である。『パート2』はシヴァの母アムリタと、父と思われる人物デーヴァの物語になるのでは、と予測され、2026年完成という『パート2』に早くも熱い視線が集まっている。

『ブラフマーストラ』© Star India Private Limited.

ラージャマウリ監督も宣伝協力! 若手気鋭監督への期待

現在39歳という若いアヤーン・ムカルジー監督は、ハリウッド映画とインド映画を見事に融合させて、新しい神話世界を誕生させた。この新たなる神話世界を「アストラバース」と呼ぶらしいが、これもマーベル映画を意識してのネーミングだろう。

昨年のインド公開時、南インドでの公開にあたっては、『バーフバリ』『RRR』のS.S.ラージャマウリ監督がプロモの場に登場して宣伝に一役買った。アーリヤー・バットが『RRR』にもヒロインとして出演している縁もあるのだろうが、何よりも神話世界を映画に取り込んだアヤーン・ムカルジー監督の手腕を評価してのことだろう。

今回もラージャマウリ監督がプロモに登場、その映像はYouTubeで見ることができる。「アストラバース」を誕生させた『ブラフマーストラ』、新たなる神話映画の誕生を、日本のスクリーンで目撃してほしい。

文:松岡 環

『ブラフマーストラ 』は2023年5月12日(金)より新宿ピカデリーほか全国ロードショー

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『ブラフマーストラ 』

ムンバイに暮らす天涯孤独の青年シヴァは、見知らぬ科学者が何者かに襲われる不思議な幻視を見る。その理由を探るうちに、古代ヴェーダの時代から秘密裏に受け継がれる神々から授かった武器“アストラ”と、その中でも最強とされる“ブラフマーストラ”の存在を知らされるシヴァ。ブラフマーストラが目覚めることで世界は地獄と化す…。しかも彼は、それらの武器を守護する役割を担っていた人物の息子であり、偉大なる火の力を宿す救世主だった! 果たしてシヴァは自らの運命を受け入れ、世界を救うことができるのか…。

監督:アヤーン・ムカルジー
脚本:アヤーン・ムカルジー フセイン・ダラール
音楽:タヌジ・ティク プリータム・チャクラボルティー

出演:ランビール・カプール アーリヤー・バット
   アミターブ・バッチャン シャー・ルク・カーン
   モウニー・ロイ ナーガールジュナ・アッキネーニ

制作年: 2022