南インド発「マラヤーラム語映画」入門に最適!『ジャパン・ロボット』はシュールで味わい深い田舎SF - BANGER!!!

南インド発「マラヤーラム語映画」入門に最適!『ジャパン・ロボット』はシュールで味わい深い田舎SF

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ライター:安宅直子
南インド発「マラヤーラム語映画」入門に最適!『ジャパン・ロボット』はシュールで味わい深い田舎SF
『ジャパン・ロボット』©Moonshot Entertainments

インド映画『ジャパン・ロボット』が2023年1月23日にテレビ初登場。CS映画専門チャンネル ムービープラスで放映されるものとしては初めてのマラヤーラム語作品についてご紹介します。

『ジャパン・ロボット』©Moonshot Entertainments

ラジニカーント『ロボット』へのケーララからの回答?

本作は2012年のアメリカ映画『素敵な相棒 フランクじいさんとロボットヘルパー』(原題:ROBOT & FRANK)からヒントを得たと言われているSFファンタジーです。老人とロボットという設定は同じですが、ストーリーは完全に別のものです。

こちらは南インド・ケーララ州の片田舎に住む偏屈老人バスカランとその息子スブラマニヤンの物語で、老人の妻はだいぶ前に他界しています。エンジニアとして高い教育を受けたスブラマニヤンは、父と同居で面倒を見続けて就職の機会を逸しています。このままではダメになってしまうと焦る彼は、日本企業のロシア拠点でのロボット・エンジニアとしての職をみつけ、父にはヘルパーを手配し、ロシアに渡ります。

『ジャパン・ロボット』©Moonshot Entertainments

残されたバスカランは気難しい男で、洗濯機やミキサーなどの機械を使う家事を許さず、そのせいでヘルパーも居つきません。最後の手段でスブラマニヤンが持ち込んだ自社製ロボットに対しても当然ながら激しい拒否反応を示しますが、やむなく共住するうちに、その頑なな心に変化が生じていきます。ラジニカーント主演の『ロボット』は、ロボットが進化して感情を持つにいたる過程を描きますが、本作はロボットと共生することで人間が変わっていく物語です。

『ジャパン・ロボット』©Moonshot Entertainments

南インド映画の中でも一味違うマラヤーラム語映画

ここで本作を生みだしたマラヤーラム語映画界についてざっと述べます。マラヤーラム語映画とは、インドの南西端のケーララ州で州公用語のマラヤーラム語で作られる映画作品で、観客は3500万人のケーララ州民とそこから国外に移住した人々です。

同じ南インド映画でも、タミル語映画を支えるタミルナードゥ州の人口7700万人、テルグ語映画の観客であるテランガーナ州+アーンドラ・プラデーシュ州の9200万人と比べて格段に少なく、これが良くも悪くもマラヤーラム語映画を特徴づけています。

想定観客の少なさはすなわち製作費が潤沢に取れないということで、世界を席巻中のテルグ語映画『RRR』や、ラジニカーントやヴィジャイが主演するタミル語の大作アクション映画とは全く別のスケールで映画作りがなされています。

『ジャパン・ロボット』©Moonshot Entertainments

ケーララ州で特筆すべきことは、インドでトップの94~97%と言われる識字率、それに支えられた新聞・出版業の隆盛、湾岸産油国への盛んな出稼ぎに由来する1人あたりGDPの相対的な高さ、大都会がなく地方分権的であること、左翼政党の勢力が強いこと(1957年に共産党が州の政権をとったことは、「世界初の民主的な選挙による共産党の政権獲得」と言われています)などです。

こうした土壌から生まれるマラヤーラム語映画は、比較的短尺で、文芸的な雰囲気を持ち、誇張を嫌う抑制的表現への志向性など、隣接するタミル語やテルグ語の映画界で盛んなヒーロー崇拝的な「マス映画」とは距離を保ったものが多いのです。ただしマラヤーラム語映画界もまた主演格男優を中心に回っていることは確かで、トップスターと見なされる8~10人ほどがいます。

『ジャパン・ロボット』©Moonshot Entertainments

しかしそのありかたも一味違い、作中では彼らによるアクションやダンスは必須ではありません。特に若手のスターたちは何か宗教的禁忌でもあるのかと思うほど踊りません。また全ての作品でではないものの、ネガティブな主役を嬉々として演じる傾向もあります。

『ジャパン・ロボット』©Moonshot Entertainments

圧倒的なアドレナリン誘発演出で度肝を抜いた『ジャッリカットゥ 牛の怒り』、ミニマルな舞台の中で中産階級の生活に潜むミソジニー(女性嫌悪)をあぶり出した『グレート・インディアン・キッチン』などは、映画祭出品を主目的とした芸術映画カテゴリーの作品でしたが、上記のスターたちが演じる一般向け娯楽作品にも、監督の作家性と上質な脚本を重んじる傾向があり、本作『ジャパン・ロボット』のように、人気者ではあってもカリスマ・スターではない演じ手の作品も時にヒットするのです。

自虐の笑い、さり気なく組み込まれる重要モチーフ

上に述べたようなケーララ州の特徴は本作の端々に見られます。主人公バスカランは田舎で質素に暮らす老人ですが、素朴なお人好しではなく、何かと辛辣な言葉を吐きます。そして大の新聞好きであるというのは出版・新聞王国ケーララならではです。新聞をよく読んでいるので日本を中国や香港と混同することもありません。

『ジャパン・ロボット』©Moonshot Entertainments

「日本では誰でも自由に愛を告白する」と言うロボットに対し「ここでは違う、レイプしてから火をつける」と返す屈折、そして別のシーンではロボットに「お前どんどん(下らない噂話が大好きな)ケーララ人になっていく」と口にするなど、自民族への批判的な目も持ちます。ヘルパーとして北インドからヒンディー語を話す女性が国内出稼ぎでやってくるエピソードには、湾岸マネーの流入でGDPが向上したケーララ州の状況もうかがえます。

『ジャパン・ロボット』©Moonshot Entertainments

高識字率に由来する均質的な観客を想定した映画作りでは、見る者を手取り足取り導くような親切な語りもありません。いわゆる「伏線回収」シーンにおいて伏線を再度見せるようなベタな演出は避けられるのです。老人の家にやってきたロボットはやがてクンニャッパンと呼ばれるようになるのですが、この名前の元の持ち主はほんの一瞬しか画面に映りません。それから、最終シーンでの息子スブラマニヤンの不思議な変貌も見落とせません。『ジャパン・ロボット』はのどかな語り口でありながら、なかなかに気が抜けない1本なのです。

『ジャパン・ロボット』©Moonshot Entertainments

文:安宅直子

『ジャパン・ロボット』はCS映画専門チャンネル ムービープラスで2023年1~2月放送

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『ジャパン・ロボット』

インド南西部に位置するケーララ州の片田舎。ある頑固老人の家に、ロシア経由で日本製ロボット“クンニャッパン”がやって来る。便利な機械を拒み続けていた老人の心は、そのお手伝いロボットの登場によって変化してゆく。やがて、ロシアに働きに出かける一人息子との関係にも影響が出始める。

監督・脚本:ラティーシュ・バーラクリシュナン・ポドゥヴァール
出演:サウビン・シャーヒル
   スラージ・ヴェニャーラムード
   ケネディ・シルド

制作年: 2019
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