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横浜流星に視線も心も釘付け! 映画『流浪の月』でも異彩を放ちまくる“恐るべき流星”の深淵をのぞく

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ライター:#加賀谷 健
横浜流星に視線も心も釘付け! 映画『流浪の月』でも異彩を放ちまくる“恐るべき流星”の深淵をのぞく
『流浪の月』©2022「流浪の月」製作委員会

横浜流星という俳優

2022年5月13日より全国公開中、広瀬すず&松坂桃李のW主演映画『流浪の月』。本作で主人公のひとり更紗(さらさ)の婚約者、亮を演じるのが横浜流星だ。こう言っては大げさに聞こえるかもしれないが、横浜は本作で前人未到の恐るべき演技力を発揮し、あきらかに異彩を放っている。

今回は「イケメンと映画」についての考察を続ける筆者が、2021年の横浜の大活躍を振り返りつつ、彼が探求する演技の深遠をのぞいてみたい。

記憶に新しい2021年のはまり役

横浜流星の活躍は、年を追うごとに大きな飛躍を見せている。特別背が高いというわけではないのに、極真空手によって丹念に鍛え込まれた引き締まった肉体の内部には、驚くべきパワーが潜んでいる。だからこそ彼が演じるキャラクターの存在感は、一回りも二回りも大きなインパクトを与える。

基本的には、もの静かでクールなキャラクターが似合う横浜。2021年の彼にとって、ふたつのはまり役があった。ひとつは、『あなたの番です 劇場版』で演じた“どーやん”こと二階堂忍。どーやんが見せる回し蹴りは、ドラマ版(『あなたの番です –反撃編-』:2019年、日本テレビ系)から引き続き、アグレッシブなアクション場面として見せ場をつくっていたし、何より愛する人を想うエモーショナルでかつ芯のある熱演が観客の胸を打った。あまり多くを語らず、まるで影のように世界の片隅に身を隠しているかのようなキャラクターなのに、他のどの役柄よりもキャラ立ちし、記憶に残る。

 

4月期放送のTBS火曜ドラマ『着飾る恋には理由があって』で演じたミニマリストのシェフ・藤野駿役もまた、横浜らしい奥ゆかしい好演が鮮やかだった。この、どーやんと駿という人物は2021年のはまり役であると同時に、2022年への布石ともなった。

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発売日:2021年10月13日(水)
価格:22,990円(税込)/20,900円(税抜)
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©TBSスパークル/TBS

「封じ手の美学」に感じるプライド

どーやんは劇場版でのキーパーソンであることに間違いないのだけれど、控えめでためらいがちな表情ばかり見せていた。奥ゆかしさを宿した瞳の輝きが、おそらく横浜の演技スタイルのスタンダードになっている。

そんな慎ましく、奥ゆかしい横浜の演技スタイルが間違いなく確立されたのが、映画『嘘喰い』(2022年)で演じた斑目貘ではないだろうか。迫稔雄による人気漫画が原作で、現実離れした天才ギャンブラー役なのだから、もっとシュールでアグレッシブな演技でよかったはずなのに、見事に抑制されていた。「封じ手の美学」とでも言ったらいいんだろうか。

エモーショナルになりすぎず、でも感情表現は豊かな抑制のきいた名演。班目貘役には、ひとりの俳優としてそこに存在する精神力の強さとプライドを感じずにはいられなかった。横浜は役柄に対して、いつでもまっさらな気持ちで臨み、誠実に向き合いながら、対話を重ねていく。リアリティのあるキャラクターは、そうして作り込まれる。ここまでストイックに役と向き合う若手俳優を筆者は他に知らない。

では、ストイックに抑制されたこの感情、今度は必然的に解放されるしかない。緊張と緩和の間で葛藤しながら、非常にシリアスな役柄を体現したのが『流浪の月』だ。

『流浪の月』©2022「流浪の月」製作委員会

板に付いたサラリーマン姿

『流浪の月』で、まず目を引くものがある。その身のこなしに、よく目を凝らしてみる。新鮮味のある横浜のスーツ姿。TBS「日曜劇場」初出演となったドラマ『DCU 〜手錠を持ったダイバー〜』(2022年)第5話の任務では、スーツをクールに着こなしていたけれど、スーツ姿を基本スタイルにするのは、多分、『シュウカツ』(2015年)の一篇「拡散」以来のはず。

主人公・家内更紗(広瀬すず)の婚約者である中瀬亮(横浜流星)は、ネクタイを緩め、額や長袖シャツの袖をめくった姿で帰宅する。額の汗が、夏の夜に帰ってくる通勤者の苦労をリアルに伝える。腕からも吹きでる汗がやけに大人の魅力を含んで官能的に映る。

更紗が台所で夕飯の支度をしていると、テーブルに置いてある枝豆をスーツ姿のままひとつ、またひとつとむさぼり食う。すると、今度はベルトを緩め、ズボンを脱いで椅子にかけて、シャワーのお湯を出し始める。亮の日常はだいたいこんな感じなのだろう。だけど流星くん、やけにサラリーマン姿が板についたものだなと思う。しかも、なかなかシャツまでは脱いでしまわないのもいい。こんな横浜流星、見たことがない……。

『流浪の月』©2022「流浪の月」製作委員会

どの俳優よりも忘れがたく決定的な表情

ただ、どうやら亮の性格がおかしいことがすぐに分かる。もう一人の主人公・佐伯文(松坂桃李)が過去に起こしたという“誘拐事件”の記憶を引きずる更紗のことを気遣うようでいて、その実まったく思い遣っていない、とんだエゴイストが亮という人物だ。風呂に入り、食事を済ませ、ベッドでスマホをいじっている横顔がブルーライトに照らされ、長いまつ毛が美しく揺らめく。その一方で、やけに処理されていないことが目に付くすね毛が気になる。これまで横浜が演じたキャラクターで、ここまで細部が気になった人物はいない。その意味でも亮役は、やはり異質である。

『流浪の月』©2022「流浪の月」製作委員会

相手の唇に激しく舌を絡ませる、強引で大胆なキスを演じたこともなかった。更紗に性行為を拒否され、脱ぎ捨てたTシャツをふてくされたように着て、枕元の明かりを消す瞬間の殺気を帯びた視線に、思わず鳥肌が立った。この男、なにかやるなと思っていたら、やはりDV男だった。しかも自分のエゴを受け入れてもらえないことへの怒りを爆発させる暴力行為。幼稚極まりない。だが、そんな最低な男を演じる横浜に意外性を感じつつ、さすがの演技力も再確認させられる。単に最低男に見せるのではなく、様々な葛藤が渦巻く内面を深く堀り下げながらも、それをストレートに表には出していないのだ。『嘘喰い』よりもさらに内面的で、内省的で、精密な演技にまで研ぎすまされている。

更紗のことを初めて殴る瞬間、亮の怒りを伝えてぐらぐら微動するガラス扉の音が何とも不気味に聞こえる。その音を合図に、ある瞬間に沸点に達し、抑え込まれていた感情が爆発する。この抑制から解放までのダイナミックなスケール感のある繊細な演技。さらに家を飛び出した更紗を文のマンションのエントランスで見つける場面が怖い。彼女をドアに抑えつけ、激しく感情をむき出しにするのだけれど、一瞬ふと静まり右頬を涙が伝う瞬間がある。怒り、悲しみ、虚無の感情を混ぜこぜにしながら、それをひっくるめて表出する迫真の表情。これは正直、全編を通じて最も忘れがたく決定的な表情だった。

「もういいから」というか細い声音

横浜は、常に期待に応える俳優だと思う。深田恭子と共演した2019年のTBS火曜ドラマ『初めて恋をした日に読む話』のユリユリ役によって大ブレイクを果たして以来、彼の勢いはとまらない。

プレッシャーと不安に押しつぶされそうになることだって絶対にあるはずなのに、それでも決して折れない。『流浪の月』の亮役は、そんな横浜の有り余る才能を存分に発揮した挑戦的な演技だった。更紗を追う亮の人生に取り返しがつかなくなったとき、彼の口から最後に、「もういいから」というか細い声色が聴こえてくる。蚊の鳴くような声なのに、魂から叫びを発している姿を見て、横浜の才能に改めて惚れ惚れした。

『流浪の月』©2022「流浪の月」製作委員会

彼は俳優として、一体どこまで化けるつもりなのか。あのか細い声音の先に感じる薄ら寒さ。亮役を超える役柄に出会ってしまったら、もうほんとうに前人未到の域に到達してしまいそうな気がする。その姿を見てみたいと思いつつ、恐ろしくも思う。それが、横浜流星という俳優だ。

文:加賀谷健

『流浪の月』は2022年5月13日(金)より全国公開中

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『流浪の月』

雨の夕方の公園で、びしょ濡れの10歳の家内更紗に傘をさしかけてくれたのは19歳の大学生・佐伯文。引き取られている伯母の家に帰りたがらない更紗の意を汲み、部屋に入れてくれた文のもとで、更紗はそのまま2か月を過ごすことになる。が、ほどなく文は更紗の誘拐罪で逮捕されてしまう。それから15年後。“傷物にされた被害女児”とその“加害者”という烙印を背負ったまま、更紗と文は再会する。しかし、更紗のそばには婚約者の亮がいた。一方、文のかたわらにもひとりの女性・谷が寄り添っていて……

監督・脚本:李相日
撮影監督:ホン・ギョンピョ
原作:凪良ゆう

出演:広瀬すず 松坂桃李
   横浜流星 多部未華子
   趣里 三浦貴大 白鳥玉季 増田光桜 内田也哉子
   柄本明

制作年: 2022