北村匠海「すごく愛されていた」撮影現場を語る!『とんび』阿部寛演じる破天荒な父と町の人情に育てられた家族の物語

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ライター:関口裕子
北村匠海「すごく愛されていた」撮影現場を語る!『とんび』阿部寛演じる破天荒な父と町の人情に育てられた家族の物語
北村匠海

北村匠海インタビュー

重松清原作「とんび」は、運送会社で働く不器用で一途な男ヤスと彼の家族を、昭和の瀬戸内に生きる人々の温かさや大らかさとともに描いた作品。これまでも2回ドラマ化されているが、映画化は初。

『とんび』©2022 『とんび』 製作委員会

瀬々敬久監督には本作を“いま観るべき映画”にするという思いがあった。そのためにイメージしたのは、荒くれ者の車夫の松五郎と、病死した陸軍大尉の未亡人と幼い息子との交流を描いた「無法松の一生」。原作では描かれていない、ヤス(阿部寛)の死までを描くことにしたのは、彼の“一生”をかけた家族への不器用な愛を息子であるアキラ(北村匠海)に見届けさせ、肯定させる必要があったからだという。

令和版『とんび』を現代の観客に伝える役目を担った、アキラ役の北村匠海さんにお話をうかがった。

北村匠海

「阿部寛さんの存在感を肌で感じてみたかった」

―監督の瀬々敬久さんはこの作品を、あの時代はよかったという回顧ではなく“いま観るべき作品”にしたいと映画化を企画されたそうです。北村さんがアキラ役を引き受けたいと思ったポイントを教えてください。

この映画では、父親であるヤスから息子アキラへ、そしてアキラから次の代へと命のバトンがつながっていきます。それと同じように、「とんび」という小説も、幾度となく映像化されてきました。繰り返し映像化されるのは、たぶん「とんび」にはいつの時代にも通じる普遍的なメッセージが込められているから。今回ご縁があってアキラ役のお話をいただき、そんな作品を令和の世に僕が演じられるのは嬉しいし、阿部寛さんともぜひお芝居させていただきたかったので、この作品に参加したいと思いました。

『とんび』©2022 『とんび』 製作委員会

―アキラを演じるにあたり、瀬々監督から伝えられたことは?

「とんび」は重松さんの自伝的小説だと聞きました。でも瀬々監督はあくまで「北村匠海が演じるアキラでいい」とおっしゃったので、そこは大事にしました。原作は演じることが決まってから拝読しましたが、重松さんの小説は、読んでいると画や表情が浮かぶくらい感情がしっかり書かれていますよね。まるで脚本を読んでいるかのような感覚があったので、僕はそこに乗っかっていこうと思いました。

『とんび』©2022 『とんび』 製作委員会

―阿部さんとは以前から共演されたいという思いがあったんでしょうか?

そうですね。阿部さんは物静かなイメージでしたが、作品に対する熱量や役者としての存在感が半端じゃなくある方だと思いました。子どもの頃からずっとテレビや映画で拝見していたので、それを肌で感じてみたいという気持ちはありました。

『とんび』©2022 『とんび』 製作委員会

―共演されてみていかがでしたか?

阿部さんからは『とんび』という作品への愛をすごく感じました。本当に大黒柱のようで、誰よりも現場にいて。息子としても、自分自身としても、阿部さんに支えられている感覚というか、ヤスの大きさを感じました。

アキラは、自分が父親になって子どもと接していく中で、ヤスと自分が重なる瞬間がたくさんあったと思うんです。アキラが、どう子どもと接していいか分からなくなる場面には、演じていてヤスとの血のつながりを感じました。海を見ながら海雲和尚(麿赤児)がヤスにかけた温かい言葉のように、アキラは町のみんなに育てられた子ども。そして、アキラにとってヤスは父であり、自分でもある。呑んだくれている父を見て、そのダメさにどこか自分を重ねてしまう感覚があったと思います。

北村匠海

「撮影現場にもアキラを囲む、すごくいい時間が流れていた」

―ヤスとアキラは、時代が大きく変化した昭和30年代以降の日本の過渡期に生きる親子です。特に、アキラの高校時代から令和に至るまでを演じた北村さんは、台本を読んで、そのイメージをどんなふうに作られたのでしょうか?

人って18歳くらいからあまり変わらないんじゃないかと感じることもあり、アキラは年齢を意識することなく演じました。高校時代は、立ち方やエモーショナルさ、思春期ならではの爆発の仕方、感情の幅の大きさなど、少し学生らしさを強調したかもしれません。でも親であるヤスとぶつかった後、アキラは妙に達観していくので、むしろ年齢を意識しなくてもいいのかと思いました。

『とんび』©2022 『とんび』 製作委員会

―北村さんは高校時代以降のアキラを演じているので、子ども時代の撮影が終わってからの、途中参加となりました。それまで撮影された部分の空気感などを、どのようにキャッチアップされたのでしょうか?

あのときは『にじいろカルテ』(2021年/テレビ朝日系)というドラマを撮っていたのでギリギリまでロケに合流できず、子ども時代のアキラの撮影は見る機会がありませんでした。原作を読んだのは、そのためでもあります。でも、すべては脚本に詰まっていると思っていたので、繰り返し脚本を読みました。

途中からではありましたが、撮影が概ね順撮りだったこともあって、僕が入るまで阿部さんはずっと子ども時代のアキラと過ごし、2人の関係性はできている。現場の空気もできあがっているはずなので、そこに自然と飛び込んでいけば大丈夫だろうなと思っていました。僕の撮影は終盤2週間くらいだったので、ある意味飛び込んでいくしかなかったというか(笑)。

それが正解だったと感じたのは、みなさん口を揃えて、「本当にアキラは大きくなって」と言ってくださったこと。アキラとして愛されている感じがリアルにありました。完成した映画を観たときも、すごくいい時間が流れていたんだなと思いました。

北村匠海

「子役をやっていたから、現場を俯瞰で見る癖がついたのかも」

―備後市としてロケを行った商店街や町も、キャラクターとして雄弁に物語に語っていました。実際の商店街をベースにしたロケセットだそうですね?

実際にある商店街(浅口市金光町の商店街)に昭和の街並みを作り、営業しているお店も使わせていただきながら撮影しました。人がいっぱいいて、町に活気があって……実際には知らない昭和の空気に触れられたような気がしました。だいぶ時間は経っていますが、大人になったアキラがヤスの馴染みの居酒屋に出向くシーンにも、まだ昭和の匂いが残っている。僕は平成9年生まれなので昭和の景色は知りませんが、なんだか懐かしさを感じました。

『とんび』©2022 『とんび』 製作委員会

―撮影期間は2週間ほどとのことですが、いかがでしたか? 北村さんは、撮影現場ではスタッフの方の仕事をよく見ているし、話しもされるとうかがいました。

役者と近いところで仕事される方々ということもあると思いますが、今回はヘアメイクさんやスタイリストさんと短い時間ながら仲良くさせていただきました。

俳優って何だろう? と思うことがたまにあります。芝居をする仕事なので、気を遣っていただくこともあります。でも僕のスタンスは、「本当にそこは全然お気遣いなく」。俳優部も映画を作る部署の一つだと思っています。

北村匠海

―いつ頃からそう考えられているんですか?

子役時代からかな? 状況を引いて見る、現場を俯瞰で見るというか。子役をやっていたからかもしれません。

『とんび』©2022 『とんび』 製作委員会

―高校時代のアキラには、ときにドキッとさせられるほどの息づかいを感じる瞬間がありました。演技で深く役に入り込むという感覚はいつくらいから?

ありがとうございます。芝居の中で完全に“自分じゃない”瞬間を経験したのは、たぶん12歳くらいです。そこから芝居が楽しくなっていったのかも。『鈴木先生』(2011年/テレビ東京系)というドラマだったんですが、お芝居をしている感覚を通り越して、役そのものが自分自身になる瞬間がありました。「芝居であって芝居じゃない」という演じ方は割と現代的なやり方なのかもしれません。かなりディープなドラマでしたが、初めて心の底から戦い、言い争い、泣けたんです。芝居に対する感覚は、そこから変わっていきました。

―そのとき“北村匠海自身”は、どこからそれを見ているんですか?

俯瞰、ですかね。入っているのに、どこか冷静な自分がいるんです。それがどこかでパンッと主観的になる。それがまさに「自分じゃない瞬間」なのかもしれません。

北村匠海

「一番大事にしているのは、人との出会い」

―阿部寛さんはもちろんですが、麿赤児さん、薬師丸ひろ子さん、安田顕さん、濱田岳さん、宇野祥平さんなどお芝居の巧い方たちが勢ぞろいした本作では、刺激を受けることもありましたか?

みなさん、その場所を生きているお芝居をされる方だなあと。「その場所を生きる」「その時代で呼吸をする」のは僕も役者をやる上で大事にしていることなので、現場に入るまではあまりガチガチに演技プランを固めないようにしています。今回は特にみなさんが既に『とんび』の世界の空気感を作り上げていたので、それを大事にしました。

でも、みなさん芝居をしていないところでは演技の話なんてしないんですよね。阿部寛さんとして、北村匠海として、会話していた。芝居が始まったときにスイッチが入る。そこで生みだされる力を感じました。

北村匠海

―アキラは重要な役ですが、前半はナレーションだけで北村さんご自身は登場しません。フィルモグラフィを見ると主演作も多いですが、必ずしも主演にこだわっているわけでもない感じがしました。北村さんの作品選びのポイントは?

すべては人との出会いだったり、脚本や役との出合い。一番大事にしているのは“出会い”ですね。例えば最近、面白かったのは『ミステリと言う勿れ』(放送中/CX系)で演じた役。

―第11話に登場する寄せ木細工博物館のキュレーター役ですね。彼はいろいろな意味で面白いキャラクターでした!

主人公ではないですが、役者として遊びがいのあるキャラクターだったのもあって楽しかったです。

役選びは1年通してのバランスかもしれません。主演としていろいろ背負う役と、役者として「これは」と思う役とのバランス。主演作品では多くの場合、話題性みたいなものも一緒に背負うのでその覚悟も含めてやらせていただくんですが、そういう前提を一切度外視して選ぶ、運命のような作品もあります。いずれにしても、「これじゃなきゃ」と固執する必要はないかなとは思っています。

―『とんび』の阿部さんの役は高倉健さんを彷彿とするキャラクターでしたね。高倉さんの演じてきた不器用な男の役には実子設定はあまりありませんが、子どもとの物語が作られていたなら、どんなドラマになったのかと気になっていました。不器用だとされた昭和の男性が子どもをどう思い、また子どもがそれをどう受け止めていたのか、描く作品は少ないので。もし健さんが令和に生きていたなら、作られるべきは明かされることのなかった“家族”の感情についての物語なのかもしれないと思った次第です。

確かに。父は、僕のお祖父ちゃんを思い出して泣けたと言っていました。時代の変化によって、家族の感情の表し方も変わっていきます。そこにはいつの時代にも響く普遍的な感情があるけれど、表現はされなかった。昭和であっても平成であっても、令和であっても、息子から見る父と父から見る息子という関係性は、“愛”であることは変わらないというか。ヤスのように不器用な人を現実社会で見たことはありませんが(笑)、だからこそヤスが不器用ながらアキラに向き合おうと努力する“愛”は、いろいろな人に届くのかなと思います。

北村匠海

取材・文:関口裕子

撮影:落合由夏

『とんび』は2022年4月8日(金)より全国公開

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『とんび』

日本一不器用な男・ヤスは、愛する妻・美佐子の妊娠にも上手く喜びを表せない。幼い頃に両親と離別したヤスにとって、“家族”は何よりの憧れだった。時は昭和37年、瀬戸内海に面した備後市。アキラと名付けた息子のためにも、運送業者で懸命に働くヤスだったが、ようやく手にした幸せは、妻の事故死によって脆くも打ち砕かれる。悲しみに沈むヤスだったが、人情に厚い町の人々に叱咤激励され、彼らの温かな手を借りてアキラを育ててゆく。

時は流れ、高校3年生になったアキラは、東京の大学を目指し合格を勝ち取る。だが、別居の寂しさを素直に伝えられないヤスは、「一人前になるまで帰って来るな!」とアキラを突き放す。そして昭和63年、久々に再会したヤスと大人になったアキラだったが──。

監督:瀬々敬久
脚本:港岳彦
原作:重松清

出演:阿部寛 北村匠海
   杏 安田顕 大島優子
   麿赤兒 麻生久美子
   薬師丸ひろ子

制作年: 2021

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