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須藤蓮「人と対峙するのって命を削る」 渡辺あや脚本『逆光』で監督&主演に挑んだ理由とは?

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ライター:#関口裕子
須藤蓮「人と対峙するのって命を削る」 渡辺あや脚本『逆光』で監督&主演に挑んだ理由とは?
須藤蓮

須藤蓮、主演作でメガホンを握る

須藤蓮といえば、老朽化した京都の学生寮<近衛寮>を巡る大学と寮生との攻防を描いた京都発地域ドラマ『ワンダーウォール』(2018年)のキューピー役が印象に強い。NHK連続テレビ小説『なつぞら』(2019年)では夕見子の恋人・高山役、NHK大河ドラマ『いだてん〜東京オリムピック噺〜』(2019年)では吹浦忠正役と、空気の温度や湿度を変える俳優として記憶に残っている。

須藤蓮

そんな須藤が初監督を務める映画『逆光』は、1970年代の尾道を舞台にした作品。オリジナル企画だ。2017年から俳優活動を始めた須藤の監督作。なぜいま監督・主演を試みたのか? そして、なにを送り出したいと思ったのか? まだ現役の大学生でもある須藤監督に話を聞いた。

『逆光』©2021『逆光』FILM.

「文化の香りがする尾道が、すごく心地よかった」

―尾道を舞台にされたのは、『ワンダーウォール 劇場版』(2020年)が尾道映画祭で上映されるはずだったことと関係はありますか?

はい。2020年3月、尾道映画祭に呼んでいただいていたんですが、新型コロナウイルスの影響で中止になってしまいまして……。でもすごく楽しみにしていたので、その後行われた上映会にうかがったんです。

須藤蓮

―初・尾道の印象は?

まだ映画を撮るつもりはなかったんですが、個人商店が並ぶ商店街に活気があるなと思いました。エネルギーが停滞していないというか。僕は東京出身、東京育ちなんですが、東京って町に誇りを持つという感覚に欠けているような気がするんです。でも尾道にはそれを強く感じたし、よそ者を受け入れてくれる度量の深さもあった。港町だからだと思いますが、すごく心地よかったんです。

『逆光』©2021『逆光』FILM.

―確かに町に対する誇りという感覚はあまりないですね。

僕、映画祭に参加するのは初めてだったんです。漫画家の新井英樹さん、林海象さんなど他にも監督がいらしていて刺激的だったし、町も面白かった。町の方々とクリエイターが交流できる場なんかも新鮮で、1泊の予定が3、4泊となり。「みはらし亭」というカフェに併設されているゲストハウスなんて1泊3500円で泊まれるんですよ(笑)。大抵、田舎に行くと1日いれば十分という気になるんですけど、尾道は逆でした。『ワンダーウォール』のときに泊まった京都と同じ。文化の香りのする町へ行くと、ついつい連泊したくなるんです。

『逆光』©2021『逆光』FILM.

「渡辺あやさんの『ワンダーウォール』との出会いが僕の出発点」

―本作の企画・脚本は、『ワンダーウォール』の脚本家である渡辺あやさんです。なぜ、再び渡辺さんと組まれることになったのでしょう? いずれにしても須藤さんの中で『ワンダーウォール』の存在は大きいんだなと感じました。

大きいです、ものすごく。あまりに大きすぎて語り出すと時間が足りない(笑)。僕が俳優を志したきっかけは、経済効率ばかり考えている自分に嫌気がさしたからなんです。勉強して社会的成功を収めて幸せになろうと考える自分に。

渡辺さんが書いた『ワンダーウォール』は、そんな考え方とは正反対。古びた学生寮を守ろうとする若者たちの在り方は、そのまま自分自身の問題意識と重なりあって、フィクションではなくなっていったんです。いま僕が考えていることの出発点はだいたいそこっていうくらい、すごく大きな出会いになりました。

須藤蓮

―今回、なぜ監督をしようと思ったのでしょうか? コロナ禍との関連は?

当初、監督する気はありませんでした。実は『逆光』より前に、『blue rondo』という作品を、渡辺さん脚本、主演が僕で準備していたんです。僕は監督を含むスタッフを連れてくる予定だったんですが、紆余曲折ありまして撮れる人がいなかった。そんなとき渡辺さんから「おまえ、やれ」と言われて、考えたらすごく体が楽になった。でも監督しようと思ったことがないので、カット割りも絵コンテもできない。ただ俳優の演出だけは自信がありました。それでカット割りを考えてくれる人を探して、本来『blue rondo』を撮るはずだった時期に『逆光』を撮ったんです。

『逆光』©2021『逆光』FILM.

『逆光』が立ち上がった理由は、男女4人くらいの群像劇ならロケーションも限られているので、自主映画でも撮れるんじゃないかという逆算からです。尾道に知り合いもできたし、ロケをするにもいいんじゃないかと。2020年はコロナで『blue rondo』の撮影が飛んだり、『ワンダーウォール 劇場版』の劇場公開が延びたり、いろいろあってだいぶ心が荒んでいたので飛びついてしまいました(笑)。

「役者として生半可な気持ちで向き合えないようなものにしたかった」

『逆光』はこんな話だ。東京の大学に進学した晃は、憧れている先輩・吉岡(中崎敏)を帯同し、旧家だろう尾道の実家に帰る。ひと夏をともに過ごそうと考える晃の態度には、吉岡への慕情がにじみ出る。そんな晃の思いにのらりくらり応えない吉岡。吉岡の退屈しのぎにと声をかけた幼なじみの文江と変わり者のみーこは、やがて晃の心を乱す存在になっていく……。

『逆光』©2021『逆光』FILM.

―主人公・晃と、彼が傾倒する先輩・吉岡、幼なじみの文江は、ある作家でつながっています。三島由紀夫ですが、なぜ三島だったのでしょう?

もともと三島由紀夫が好きだったんです。

―三島作品の中でも、なぜ「反貞女大学」だったんですか?

僕が好きな三島作品で、渡辺さんが読んだことのないものを島根のご実家に送ったんです。「反貞女大学」はいまなら怒られるだろう内容ですが、本当に面白いし、普遍的。その塩梅が絶妙なのでおすすめしたら、あの箇所をあげてくださったんです。

反貞女大学 (ちくま文庫)

―「しかし恋愛というものは社会と正面衝突しなければ本当の恋愛ではなく~」のくだりですね。

はい。同性愛という設定はその前に決めていたので、そうなると、この台詞は主人公の気持ちを代弁するものになるんじゃないかと。

『逆光』©2021『逆光』FILM.

―愛する対象を同性にしたのは?

同性愛設定は僕ではありません。ですので、そんなに深い背景はなく、ただ富山えり子さんと中崎敏くんをキャスティングし、どんな話にするかと考えたときにふっと出てきたものではあります。当時、僕が『君の名前で僕を呼んで』(2017年)に嵌まっていたのもあるかも。役者として生半可な気持ちで向き合えないようなものにしたかったというか。

須藤蓮

「役者としての自分が望む監督でありたいと思った」

―実際に撮影されてみて、いかがでしたか?

これまで、ここまでの共同作業をしたことがなかったので、人と対峙するのって命削るな、と思いました。しかも映画作りって、お互いむき出しじゃないですか。ノリでできることじゃないと痛感しました。人と何かを作るということは、喜びと同時にものすごく産みの苦しみがある。一人一人とちゃんと向き合えたかどうかでも作品のクオリティは変わると思います。例えば、ヘアメイクさんと僕が対峙できなかったら、そこのクオリティが下がってしまう。そういう、人と向き合うときに要する精神的な体力を維持するのが一番大変でした。一方で、それは一番楽しいところでもあるんですけど。

『逆光』©2021『逆光』FILM.

―吉岡役に中崎さんをキャスティングされた理由は? 中崎さんとも『ワンダーウォール』で共演されていますね。

単純に人としてめちゃくちゃ面白くて素敵で魅力があるのに、まだ発見されていないというところでしょうか。中崎さんを多くの方に発見してほしいという欲求が、僕の中にあるんです。

『逆光』©2021『逆光』FILM.

―それは俳優としての自分の在り方とも重なりますか?

はい。こんなに頑張っているのに誰も認めてくれないという、しょうもないメンタリティーで役者をやって、チャンスがもらえるのを待っていた。その姿勢がまずダメなんですよね。今回、自分が監督することになったとき、せめて役者としての自分が望む監督でありたいと思いました。それには、まず自分が出たいと思う作品を撮らなければいけない。そして俳優とは丁寧に、一人一人ちゃんと向き合わなければと覚悟して臨みました。

須藤蓮

―俳優であることで役者の気持ちがわかる反面、伝える難しさもあったのでは?

僕、自分が芝居できない自覚がすごくあるので、かなり役者をリスペクトしています。役者さんへの嫉妬はありません。

―富山さんには小津安二郎的な演出を感じました。

小津が大好きなので、みーこの「ピカで死んだよ」という場面あたりも小津の影響が出ています。僕の小津好きを渡辺さんは、ああいうふうに脚本に取り入れてくれました。天才ですよね。

富山さんは以前、舞台で共演したときからすごい方だと尊敬していました。今回はそんな富山さんの、人として好きな部分を引き出したいと思ったんです。三枚目役も本当にうまいんですが、今回はそれを封印していただき、富山えり子を美しく描くことに注力しました。そこがこの作品の良し悪しを決めるポイントだと。中崎くんと僕の愛憎は描ける自信がありましたが、富山さんのパートは緊張しました。

『逆光』©2021『逆光』FILM.

「自分のむき出しの部分をさらして役者と対峙していくのが監督」

―『ジョゼと虎と魚たち』(2003年)で脚本家デビューし、NHK連続テレビ小説『カーネーション』(2011年)や『メゾン・ド・ヒミコ』(2005年)などを書かれてきた渡辺さん。そして小川真司プロデューサーとのお仕事はいかがでしたか?

渡辺さんは、僕が“こうなりたい”と思う理想の大人。ああいうクリエイターになりたいと思っています。小川さんは、さらに俯瞰で観てくれる存在。とても信頼できる大人たちに意見をいただきながら作れたのは、ものすごく安心感がありました。逆に2人と向き合う怖さも。なかなか厳しい方々なので(苦笑)。

須藤蓮

―『ピンポン』(2002年)、『ジョゼと虎と魚たち』、『ノルウェイの森』(2010年)、『陽だまりの彼女』(2013年)、『トイレのピエタ』(2015年)、『ナラタージュ』(2017年)、『浅田家!』(2019年)など代表作がある小川さんとは、どの段階で合流されたんですか?

ほぼ完成してからです。試写を一緒に観たときは、マジで緊張して吐きそうでした(笑)。小川さん、観終わったあと何も言わないんですもん。マジ怖〜! って(笑)。役者のときはそんなに怖いと思ったことはありませんでしたが、監督として向き合うと超怖いですね。

『逆光』©2021『逆光』FILM.

―監督と役者、むき出しなのはどちらでしたか? 須藤さんの演じた晃が、3人の友人が醸成した暑く蒸した空気から抜け出せずにいる演出は、人として胸が痛くなる感じで見事でした。

ありがとうございます。それでもむき出しなのは全然、監督だと思います。役者をやるとつい内にこもってしまいますが、そうしても役者は許される。でも監督には自分の時間なんてないですからね。そうして次々、自分のむき出しの部分をさらして役者と対峙していく。痛いなと思いました。それでもまた次を撮りたい、挑戦していたいとは思っています。

須藤蓮

取材・文:関口裕子

『逆光』は2021年7月17日(土)より広島県尾道市で先行公開後、全国順次公開予定

 

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『逆光』

1970年代、真夏の尾道。22歳の晃は大学の先輩である吉岡を連れて帰郷する。 晃は好意を抱く吉岡のために実家を提供し、夏休みを共に過ごそうと提案をしたのだった。先輩を退屈させないために晃は女の子を誘って遊びに出かけることを思いつく。幼馴染の文江に誰か暇な女子を見つけてくれと依頼して、少し変わった性格のみーこが加わり、4人でつるむようになる。 やがて吉岡は、みーこへの眼差しを熱くしていき、晃を悩ませるようになるが……。

制作年: 2021
監督:
脚本:
音楽:
出演: