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杉野遥亮「明るい役って難しい」 最新作『やがて海へと届く』 空っぽの身体に役を取り入れる演技メソッドとは

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ライター:#SYO
杉野遥亮「明るい役って難しい」 最新作『やがて海へと届く』 空っぽの身体に役を取り入れる演技メソッドとは
杉野遥亮

俳優・杉野遥亮の2022年

2017年の俳優デビュー作『キセキ -あの日のソビト-』(松坂桃李、菅田将暉、成田凌、横浜流星らと共演)から、約5年。スターダムを駆け上がる杉野遥亮の出演最新作『やがて海へと届く』が、4月1日に劇場公開を迎える。

『やがて海へと届く』©2022 映画「やがて海へと届く」製作委員会

岸井ゆきの、浜辺美波と共演した本作は、喪失と再生をテーマにしたミステリアスなヒューマンドラマ。5年前に失踪した女子大生・すみれ(浜辺)と親友・真奈(岸井)、すみれの元恋人・遠野(杉野)が織りなす人間模様を、『わたしは光をにぎっている』(2019年)の中川龍太郎監督がポエティックな風景描写やアニメーション(こちらの制作はWIT STUDIO)を織り交ぜて描き出した。

現在、映画・ドラマ・舞台と引っ張りだこの杉野だが、作品の中では、そんな“事情”などどこ吹く風。人物のバックグラウンドまで感じさせる静かなる熱演を披露している。「当時はあっぷあっぷでした」と吐露する杉野に、演者としてのサバイバル術を聞いた。

杉野遥亮

追い込まれた状態だからこそ生まれた演技

―『やがて海へと届く』の撮影時を「あっぷあっぷだった」と振り返っていらっしゃいましたが、複数作品の撮影が並ぶ過密スケジュールの中で、どう「演じる」を成立させたのでしょう?

どうしても作品を縫って撮影しなければならないときにどう乗り越えたかということで言うと、むしろ「そこに作品があるならば、乗り越えられないわけがない」と思っていました。

確かに、「こんなこと初めて」というくらい複数作品が続いていた状況で、自分が一つひとつの作品とちゃんと向き合えるのか不安でした。でも、いざ作品に入ると自然と切り替えることができたんです。作品ごとに世界観もロケーションも全く違いますし、役の心情や置かれている設定もすべて別々。たくさんのヒントやサポートがありましたから。

『やがて海へと届く』で言うと、僕自身があっぷあっぷな状態だったからこそ、遠野という役にすっと入り込めたのかな、という気もします。

『やがて海へと届く』©2022 映画「やがて海へと届く」製作委員会

―役が置かれた状況や心情とリンクするというか……。

そうですね。自分自身がすっきりした状態で「この役はこうです」と提示するうえでは足りない要素はあったかもしれないけれど、そういう状況にいた自分が演じたからこそできた遠野なんだ、とは感じています。

台本を読んだときには、自分でもつかめない、ミステリアスな人だと感じていました。ちょっと物事を俯瞰で観るタイプなのかなと考えて演じていたところもあったのですが、実際に出来上がった作品を観ると「そうか、すみれ(浜辺美波)の失踪を頭でわかっていても心がついていっていないのかもしれない」とか「真奈(岸井ゆきの)に言うことで自分を説得しているんだ」という部分が見えてきて。演じている瞬間には意図していなかったけれど、あっぷあっぷの自分だったからそうなったのかもしれないし、観たときにそう受け取れるものになったと感じて、「映画って面白い!」と改めて思いました。

演じているときも「あっちかな、こっちかな」と中川龍太郎監督と一緒に試行錯誤はしていました。演技の方向性として、色々なベクトルがあり得るだろうなということを中川監督に提示していたので、その整理されていなかった感じが境界をあいまいにさせて、うまく作用したのかなと感じました。

『やがて海へと届く』©2022 映画「やがて海へと届く」製作委員会

―中川監督との初タッグはいかがでしたか?

人の心をちゃんと捉えようとしている方だと感じました。もちろん風景描写の美しさは中川監督の作品の特徴かと思いますが、僕たち演じる側からすると「人の心を扱う/表現する」立場のぶん、中川監督はそこをしっかりと切り取ってくださると思いました。

作品によって、枠の中に自分を当てはめることを優先させる演技もあれば、心を解放することを優先する演技もある。自分は今、後者の方をより魅力的に感じているので、中川監督の現場は心地よいなぁと感じていました。今回は1週間弱の参加だったので、もっとご一緒できたらと思っています。

杉野遥亮

常に元気で。自分の状態を役に投影させたくない

―「心の解放」は、ご自身が映画などを観るときも重視しているところなのでしょうか。

そうですね。メッセージを受け取るというより、エネルギーをもらう感覚で映画を観ることが多いです。『グレイテスト・ショーマン』(2017年)と『天気の子』(2019年)はソフトを買って持っていて、よく家で流しています。それだけで元気をもらえるんです。あとは『ONE PIECE』(1999年~)! 最近の『ONE PIECE』のオープニングは観ているだけでアガります。

杉野遥亮

―「ワノ国編」に入ってからさらにギアが上がりましたし、1000話の演出もアツかったですよね。

はい。先ほどの「乗り越える」もそうですが、どこか精神論みたいなところもあるじゃないですか。だからこそ“心意気”があふれる『ONE PIECE』を観て自分に喝を入れたり、勇気や自信を与えてもらっていて。『グレイテスト・ショーマン』も歌の力だったり、画面からあふれてくる理屈じゃない部分に感化されて「よし、自分も頑張ろう」と思えるんです。

最近よく思うのは、自分の気分が落ちたりしたら元も子もないということです。表現に対してピュアでいたいから、気持ち的にすっきりした状態で臨みたい。僕自身の気分や状態を役に投影させたくないんです。だから今のマインドとして、常に元気な状態でいられるように心がけています。

―なるほど。コンディションのキープにも映画を活用しているのですね。

そうですね。最近だと『ローマの休日』(1953年)や『マイ・フェア・レディ』(1964年)を観たんですが、そこで「あぁ自分はこういうものを欲しているんだな」と気づくこともあります。

特に最近は「明るくなる」「気分が晴れる」といったような、心に何かが起きるものに惹かれる気がします。『やがて海へと届く』もそうですが、物語が持つ力――ほとばしっているものを無意識にキャッチしているんだと思います。

『やがて海へと届く』©2022 映画「やがて海へと届く」製作委員会

どんな世界観でも、「生きる」ことに変わりはない

―杉野さんは『羊とオオカミの恋と殺人』(2019年)、『直ちゃんは小学三年生』(2021年)、『恋です!〜ヤンキー君と白杖ガール〜』(2021年)『東京リベンジャーズ』(2021年)など、キャラが立った役どころにも多く挑戦されてきた印象があります。

そういう風に考えたことはなかったですが、例えば『羊とオオカミの恋と殺人』のときは、まず主演としてオファーをいただけたことにとにかくワクワクして「よし、やるぞ!」という感じでした。自分が魅力的だなと思えた人物や作品が、結果的にそうなっているのかもしれません。

『やがて海へと届く』に関しては、まずこの世界観に対して「とても素敵だな。この中に入りたい」という気持ちが先行していました。そこから遠野という役と向き合っていきました。

『やがて海へと届く』©2022 映画「やがて海へと届く」製作委員会

―となると、近作から見るとテイストが異なる作品ではあれど、演じる際の方法論や意識に違いはなかったのでしょうか。

作品によってテンポやリズムなどは違うし、沿うあり方は異なると思いますが、世界観を自分に取り入れるという意味ではどの作品も違いはない気がします。『恋です!〜ヤンキー君と白杖ガール〜』でも『やがて海へと届く』でも、その世界観の中で「生きる」だけなので、意識的に何かを変えることはしていません。服を着るのと同じような感覚です。

―なるほど。着る“母体”は変わらず、着る“服”が変わる。

はい。その世界観に合った服をバッと着るときに、僕という人間は同じでも気持ちは服に合わせて変わりますよね。現場や作品の空気感を感じて、そこに合わせて生きていくというか。『恋です!〜ヤンキー君と白杖ガール〜』の世界観の中に遠野のような人物がいたら、やっぱり沈むと思うんです。

―確かに。だからこそ、先ほどお話しされていた「常に元気でいる」が重要になってきますね。服を変えるときに違った方向に引っ張られたり、引きずったりしないようにも。

それはあります。特に、明るい役って難しいなと自分の中では思っていて。自分が暗い状態のときに無理して明るくしても、周りには伝わってしまうんです。だからこそ、自分がすっきりしていたり整っている状態、空っぽの状態をキープしたいですね。僕自身が空っぽであれば、そのぶん役の情報が入る余地は増えますから。

『やがて海へと届く』©2022 映画「やがて海へと届く」製作委員会

―俳優デビュー作『キセキ -あの日のソビト-』から約5年。その方法論は徐々に組みあがってきたのでしょうか。

まだまだ試行錯誤している部分はありますが、ようやくちょっと軸が見えてきたなとは思っています。通用しないときが来るまでは、このやり方を貫くつもりです!

杉野遥亮

 

取材・文:SYO
撮影:町田千秋

『やがて海へと届く』は4月1日(金)よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国公開

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『やがて海へと届く』

引っ込み思案で自分をうまく出せない真奈は、自由奔放でミステリアスなすみれと出会い親友になる。しかし、すみれは一人旅に出たまま突然いなくなってしまう。あれから5年―真奈はすみれの不在をいまだ受け入れられず、彼女を亡き者として扱う周囲に反発を感じていた。ある日、真奈はすみれのかつての恋人・遠野から彼女が大切にしていたビデオカメラを受け取る。そこには、真奈とすみれが過ごした時間と、知らなかった彼女の秘密が残されていた…。真奈はもう一度すみれと向き合うために、彼女が最後に旅した地へと向かう。本当の親友を探す旅の先で、真奈が見つけたものとはーー切なくも光が差すラスト、誰しもの心に寄り添う感動作が誕生した。

監督・脚本:中川龍太郎
原作:彩瀬まる

出演:岸井ゆきの 浜辺美波 杉野遥亮
   中崎敏 鶴田真由 中嶋朋子
   新谷ゆづみ 光石研