人気漫画原作映画×佐藤寛太
累計800万部超を誇る「ギャングキング」などで知られる漫画家・柳内大樹による同名漫画を実写映画化した『軍艦少年』が、2021年12月10日(金)から全国公開される。Yuki Saito(『古都』[2016年]ほか)がメガホンを取る本作で主演を務めるのは、『ハイロー』シリーズのテッツ役でもお馴染みの佐藤寛太。さらに加藤雅也、大塚寧々、赤井英和ら豪華ベテラン俳優陣が脇を固める。
『軍艦少年』©2021『軍艦少年』製作委員会
本作は、『007 スカイフォール』(2012年)のロケ地候補となり、2015年に世界文化遺産に登録された長崎県長崎市の「軍艦島」(端島)で撮影が行なわれた。特有の空気感を醸し出す軍艦島を望む町で、ケンカに明け暮れる日々を送る主人公・海星と、その家族の反目と愛の絆が描かれる。
今回は「LDH」をこよなく愛する筆者が、劇団EXILEの最年少メンバーでもある佐藤寛太さんにインタビューを敢行。漫画原作の本作でリアルな人物像を体現した佐藤さんの海星役への想いや、ハリウッド映画からの影響、今後の展望を聞いた。
佐藤寛太
「漫画が好きだからこそ読者の気持ちもわかる」
―柳内大樹さんの原作漫画を読まれた感想はいかがでしたか?
「ヤングキング」などを読んでいましたし、柳内さんの漫画は大好きです。他の作家さんでも例えば「呪術廻戦」など、ジャンルを問わず普段から漫画は好きでよく読んでいます。
昔ヤングマガジンで描いてた『軍艦少年』という漫画の実写化になります😊
— 柳内大樹(漫画家)オフィシャルアカウント (@daijuyanauchi) August 31, 2021
これを機会にもっとたくさんの人達に読んでもらえたら嬉しいです🙇♂️ https://t.co/lMeo25WMCN pic.twitter.com/8wj6Sbk2jW
―2010年代から日本映画界では漫画実写化ブームが続いていますが、2次元の漫画キャラクターを3次元の生身で演じるのは難しくないですか?
僕は毎週「週刊少年ジャンプ」を親が買ってくれる家庭で育ったので、むしろ漫画原作の方が役のイメージが掴みやすいですね。普段から漫画を読んでいるぶん読者側の気持ちも分かるので、原作に寄せようと思うこともあれば、原作と実写を別ものと考えてもらおうと思う時もあり、作品によって違います。
―『軍艦少年』では、漫画の世界をすんなり表現できたわけですね?
今回はリアルな人間描写が多いので、ファンタジー作品より、自分にとって身近な物語だった部分はあるかもしれないですね。
佐藤寛太
「大塚さんと加藤さんの包容力のおかげで、のびのび演じられた」
―主人公・海星の役作りで一番意識されたのは、どんなところですか?
海星は朴訥で不器用で、素直なキャラクターです。それがすごく響いたので、すんなり役に入れました。アクションシーンもあるので、普段から趣味でやっているキックボクシングのトレーニング量を増やしたり、身体が大きく見えるように鍛えたりはしましたが、何かを演じようというよりも、原作を読んだときの素直な感動を、映画を観ていただく皆さんにも感じてもらえるように演じました。
『軍艦少年』©2021『軍艦少年』製作委員会
―Yuki Saito監督とは、どのようにやり取りされましたか?
監督とは撮影に入る前から役についてお話したんですが、僕が原作を読んで感動したことを話すと、それ以上に言葉にして何か仰ることはなかったです。監督は、そんな僕の演技を自然に撮ってくださったと思います。
―佐藤さんはとにかく綺麗な瞳の演技が印象的ですが、大塚寧々さん演じる母親の絵を描く場面の、お2人のクローズアップの切り返しはとても美しい瞬間でした。あの瞬間、特に意識されたことは何かありましたか?
ありがとうございます(笑)。身近な人が亡くなる経験をすると、その瞬間を大事にしようという感覚を持つと思うんです。それが大塚さんとのシーンで心掛けたことでした。わずかな時間ではあったんですが、そのシーンひとつひとつ、まだ生きている母の姿を自分は一生覚えていよう、そんなつもりで撮影現場にいようと。それが、そういった形で美しいシーンとして伝わったのであれば嬉しいです。
『軍艦少年』©2021『軍艦少年』製作委員会
―佐藤さんご自身のお母様と、何かお話されたりはしましたか?
割と普段から月に1~2回は実家に電話するような仲なので、改まって聞くということはなかったです。でも撮影が終わった後で、やっぱり家族の話なので、両親は元気かなとか実家に帰りたいなとか、そういう気持ちにはなりました。
佐藤寛太
―カレーを食べる高校生時代の回想シーンなどは、家族団らんの雰囲気がとても出ているように感じました。本作で大塚さんと加藤雅也さんと親子役で共演されて、いかがでしたか?
母と父と息子という設定の初共演でしたが、大塚さんも加藤さんも、初めから優しい雰囲気で包んでくださいました。劇中では決して多くない家族団らんのシーンですが、映画全体の中で印象づけたいなと思っていました。当たり前のようだけれど貴重な、とても幸せな家庭に育ったんだということ。海星もそうですし、自分自身もそう。映画の中のひとつのシーンとして大事にしたかったんです。お二人の包容力によって、のびのび演じさせていただけたことにすごく感謝していますし、本当に家族といる時みたいに親父に対して軽口をきいたり……そんな家族の空気感でした。
―LDHでは、HIROさんから「親孝行」を説かれるようですね。
HIROさんのお言葉には頭が上がらないです(笑)。
『軍艦少年』©2021『軍艦少年』製作委員会
「無理に演じようとするんじゃなく、感じたことを大事にできたら」
―海星はケンカが強い一方で、絵の才能もあったりする繊細なキャラクターです。佐藤さんも絵を描かれたりはしますか?
一度絵を描く役をいただいて、その役を通して描くことが好きになりました。今でもたまに、特に何かを表現しようとかではなく、ふとした時に絵を描きます。画材が揃ってるんですよ。ほんとに全然ヘタなんですが、好きな漫画のシーンとか、モデルさんや俳優さんなど人物を描くことが多いです。
佐藤寛太
―映画に登場する絵も佐藤さんが?
あれは柳内さんが描かれたんです。
―映画のために描きおろされたんですね。
素晴らしいですよね。グッときます。その絵の良さもあって、あのシーンは柳内さんのファンの皆さんも必見だと思います。
佐藤寛太
―山口まゆさん演じる結が、海星の描いた母の絵を見て涙するシーンが印象的でした。佐藤さんが思う、誰かをグッとさせる作品とは、どんなものだと思いますか?
僕自身はヒューマンドラマが好きなんですが、映画でも漫画でも小説でも、観る/読むタイミングによって、同じ人間でも感動する度合いは全然違いますよね。フィクション作品なら、その中で生きている人たちに自分が近いと感じられることで感動するんだろうなと思います。気持ちの面で、すごく親しみやすくて心の距離の近さがあるなら、宇宙人が主役の話でも感情移入してしまう。僕は演じる側ですが、無理に何かを演じようとか頑張ろうとするんじゃなく、感じたことを大事にできたらいいなと。それはエンタメだと自分の力不足もあって難しいんですが、観る側としては“登場人物との心の近さ”に感動させられます。
『軍艦少年』©2021『軍艦少年』製作委員会
「仕事と趣味の時間のバランスは、自分にとって一番大事なこと」
―この人の演技には感情移入してしまう、という俳優さんはいますか?
僕は『アベンジャーズ』シリーズ(2012~2019年)が好きなんですが、最近観た『エターナルズ』(2021年)のアンジェリーナ・ジョリーは凄いなと思いました。贔屓目なしに、彼女が演じる役にはグッとくるというか、一瞬で人の心を掴む力があるなと思います。
―そういったハリウッド映画はお好きですか?
もともと海外作品が好きで、トム・ハンクス主演の『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』(2011年)を観て俳優を目指したんです。
―トム・ハンクスの表情がとても感動的ですよね。
でも、実はトム・ハンクス派じゃなかったんです(笑)。子役のトーマス・ホーンが自分の年齢に近かったこともあって感情移入しました。彼は他に一作出演しただけで俳優を辞めてしまったんですが、あの素晴らしい演技を見て、自分も挑戦したいと思いました。当時は中学生だったので、まだトム・ハンクスを認知していなかったです。今ではもちろん尊敬する俳優さんですが、やっぱり“ウィルソン”(『キャスト・アウェイ』[2000年])での演技が印象的ですね(笑)。
―今後、演じてみたい役はありますか?
20歳くらいの時は色々と考えていましたが、今はまず、頂いたお仕事を頑張りたいと思っています。
『軍艦少年』©2021『軍艦少年』製作委員会
―これから30歳へ向けて、俳優としての展望を教えてください。
趣味の時間も大事にしたいです。仕事と趣味の時間のバランスは、自分にとって一番大事なことかもしれないですね。俳優ですから、どこかで学んだ何かが作品に影響することはありますし、趣味が仕事に活かされることがあると思うんです。とにかく仕事ばかりという時期があってもいいですが、僕は好きなことがたくさんあるので、若いうちにやっておきたいなと。人柄は経験の積み重ねから作られるので、今は25歳の自分を磨いていきたいです。
佐藤寛太
取材・文:加賀谷健
撮影:落合由夏
『軍艦少年』は2021年12月10日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国公開
『軍艦少年』
長崎・軍艦島の見える街で暮らす、地元の高校に通う海星と小さなラーメン屋を営む玄海。最愛の母を亡くして喧嘩に明け暮れる息子と幼馴染の妻を亡くして酒に溺れる父は互いに反目し、いがみ合っていた。そんなある日、海星は父と母が生まれた軍艦島に二人の大切な物がある事を知る。一方、玄海は妻が祀られた仏壇に一通の知らない手紙がある事に気付くが……。
制作年: | 2021 |
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監督: | |
出演: |
2021年12月10日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国公開