コッポラが望んだ再編集版『ゴッドファーザー<最終章>:マイケル・コルレオーネの最期』意外にも多難だった製作現場

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ライター:松崎健夫
コッポラが望んだ再編集版『ゴッドファーザー<最終章>:マイケル・コルレオーネの最期』意外にも多難だった製作現場
『ゴッドファーザー』5 0 周年記念上映©2021 Paramount Pictures.

『ゴッドファーザー』公開50周年

1972年の劇場公開から半世紀。『ゴッドファーザー』(1972年)は、映画そのものを観たことがない者であっても「タイトルは聞いたことがある」という作品であり続けている点で偉大だ。この映画は50年という時代の流れの中で、マフィアを描く映画のジャンルとして踏襲され、劇中で実践された手法や技法が模倣されてきたという経緯がある。例えば、『コーサ・ノストラ』(1973年)や『グッドフェローズ』(1990年)、テレビドラマ『ザ・ソプラノズ/哀愁のマフィア』(1999~2007年)や『アイリッシュマン』(2019年)に至る後継作の数々は、『ゴッドファーザー』の存在無しには語れない。

『ゴッドファーザー』The Godfather: TM & © 1972 Paramount Pictures. All Rights Reserved.

他方、半世紀という長い歳月によって、これらの評価を実感することが現代の視点では分かり難くなっているという実情もある。それゆえ、リアルタイムで『ゴッドファーザー』シリーズに触れられなかった世代に対して、この映画がいかにエポックメイキングな作品であったかといういくつかの理由を、フランシス・フォード・コッポラ監督が『PARTⅢ』を再編集した『ゴッドファーザー<最終章>マイケル・コルレオーネの最期』を劇場公開するにあたって、老婆心ながら改めて知らしめたいと思うのである。

<ゴッドファーザー><マフィア>という言葉が世界共通語に

<ゴッドファーザー>という言葉は「広辞苑」にも記載されている。キリスト教における<代父>であるとしながら、補足として<マフィアなどの最高実力者・親分>と説明。この記述は、映画の影響によって為されたものなのである。それを裏付けるように、1976年にリバイバル公開された当時のチラシ裏面には、「<ゴッドファーザー>とは」という言葉の解説が掲載されていることを確認できる。<名付け親の意味で、家族や仲間たちが愛情をこめて呼ぶ最大の尊称。組織(マフィア)のボス>と説明されていることからも判るように、当時は<ゴッドファーザー>という言葉が、まだそれほど一般的ではなかったのだ。

『ゴッドファーザー』The Godfather: TM & © 1972 Paramount Pictures. All Rights Reserved.

同様に、<マフィア>という言葉もチラシの裏面で解説されている。<マフィア>の語源には諸説あるとしながらも、フランスに支配されていた13世紀後半のシシリー島で「Morte Alla Francia Italia Anela!(フランス人の死はイタリアの叫びだ!)」と住民たちによる反抗運動の合言葉の頭文字が由来だと記述。<彼らは自分たちの組織を(中略)マフィアとは絶対に呼ばない>とも説明されている。そんな言葉に対するこだわりは、『ゴッドファーザー』の脚本にも確認できる。撮影時、イタリア系アメリカ人の団体から「印象が悪くなる」「差別的だ」との抗議があったため、劇中には<マフィア>という言葉が使われていないのである。にもかかわらず、『ゴッドファーザー』をきっかけに<マフィア>という言葉が暗黒街組織の代名詞となったのは何とも皮肉なことだ。

『ゴッドファーザーPARTⅡ』The Godfather Part II: Copyright © 1974 by Paramount Pictures Corporation and The Coppola Company. All Rights Reserved.

勿論、ハリウッド映画で<マフィア>が描かれたのは、『ゴッドファーザー』が初めてではない。その源流は、1930年代に製作された『暗黒街の顔役』(1932年)などのギャング映画や、1940年代から1950年代に<フィルム・ノワール>と呼ばれた『暗黒街の弾痕』(1937年)などの犯罪映画群にある。夜景を中心とした暗めの画調でコントラストを際立たせた映像は、フリッツ・ラング監督をはじめとする「ドイツ表現主義」の映画人が、戦火を逃れてアメリカに亡命してきたことによるバタフライエフェクトがある。陰影の強いコントラストある映像は、「ドイツ表現主義」のもとで製作された映画の特徴のひとつだからだ。『ゴッドファーザー』の陰影ある映像は、斯様な映画史の教養に基づいた引用によるものなのである。

『ゴッドファーザーPARTⅡ』The Godfather Part II: Copyright © 1974 by Paramount Pictures Corporation and The Coppola Company. All Rights Reserved.

短期撮影、費用超過、クビ寸前……実は多難だった製作現場

マーロン・ブランド演じるヴィトー・コルレオーネの姿が映し出される映画冒頭。撮影監督のゴードン・ウィリスは彼の登場を印象付けるため、頭上から照明を当てることで、目が影で見えないという奇抜な映像を実践した。その技法がいかに画期的なものであったかは、現代の感覚では分かりづらいのだが、数多の作品で模倣され、教科書的なライティングとなっていることから推し量れるだろう。

『ゴッドファーザー』TM & © 1972 by Paramount Pictures. All Rights Reserved. Restoration © 2007 by Paramount Pictures Corporation. All Rights Reserved. TM, (R) & © 2014 by Paramount Pictures. All Rights Reserved.

しかし、公開当時は「俳優の目を見せないのは邪道」とウィリスの撮影技法は同業者からの批判に晒されたのである。第45回アカデミー賞で『ゴッドファーザー』は、作品賞をはじめとする9部門(5枠ある助演男優賞のうち、アル・パチーノジェームズ・カーンロバート・デュヴァルの3名が同時に候補となる快挙)のノミネートを果たす最有力候補。ところが撮影賞の候補から漏れてしまったことは、当時の評価を物語っている(因みに、その批判に対する反省と謝罪は、第81回アカデミー賞でゴードン・ウィリスへの名誉賞授与によって為された)。

『ゴッドファーザー』The Godfather: TM & © 1972 Paramount Pictures. All Rights Reserved.

マリオ・プーゾのベストセラー小説の映画化、「アメリカで今世紀最大の興行収入」と称された空前の大ヒット、アカデミー賞では作品賞・主演男優賞・脚色賞の主要3部門を受賞。『ゴッドファーザー』は大きな期待を伴って“超大作”として劇場公開された作品だったが、製作当初は期待された作品というわけではなかったという経緯もある。撮影期間はわずか62日間、製作費は650万ドル。上映時間と撮影規模を考慮すると、それほど余裕のある撮影現場でなかったことを窺わせる。事実、フランシス・フォード・コッポラは、製作費の超過を理由に監督を降ろされかけている。

『ゴッドファーザーPARTⅡ』The Godfather Part II: Copyright © 1974 by Paramount Pictures Corporation and The Coppola Company. All Rights Reserved.

危機を悟ったコッポラは、アル・パチーノ演じるマイケル・コルレオーネが初めて人を殺める場面を先行して撮影。そのラッシュを製作陣に見せることで、撮影の続行の許を得たという逸話がある。それでも撮影に余裕はなく、影武者を使って別班が後から撮影したショットをいくつもの場面で使っていることを述懐している。例えば、父ヴィトーの狙撃を報じる記事をマイケルがニューススタンドで発見する場面。新聞記事の挿入カットを撮影したのは、『スター・ウォーズ』(1977年)を手掛ける遥か以前のジョージ・ルーカスだった。

『ゴッドファーザー』The Godfather: TM & © 1972 Paramount Pictures. All Rights Reserved.

アカデミー賞作品賞をシリーズで連続受賞の快挙!

1974年には続編となる『ゴッドファーザーPARTⅡ』(1974)を製作。その後のマイケルの姿(後日譚)と若き日のヴィトーの姿(前日譚)とを平行に描くという複雑な時系列による物語構成もまた、後進の作品に大きな影響を与えた。アカデミー賞では作品賞・監督賞・脚色賞・助演男優賞(今作でも5枠のうち、マイケル・V・ガッツォリー・ストラスバーグロバート・デ・ニーロの3名が同時候補となり、デ・ニーロが受賞)・作曲賞・美術賞に輝いた。1作目が作品賞を受賞した作品で、続編も作品賞に輝いた事例は、現在(2022年)に至るまで他にない。そもそも、映画のタイトルを『PARTⅡ』とする表記は、この映画から始まった記念碑的なものなのである。

『ゴッドファーザーPART II[デジタル・リストア版]』© 2022 BY PARAMOUNT PICTURES CORPORATION. ALL RIGHTS RESERVED.

また『ゴッドファーザー』シリーズには、コッポラの妹であるタリア・シャイアをはじめ、親族の多くがエキストラで出演。『PARTⅡ』ではコッポラの実父カーマイン・コッポラが音楽を担当、『ゴッドファーザーPARTⅢ』(1990年)にはコッポラの甥っ子にあたるニコラス・ケイジが製作総指揮に参加。今や人気映画監督となったソフィア・コッポラは、『PARTⅢ』でマイケルの娘役を降板したウィノナ・ライダーの代役を担って賛否を呼んだが、そもそも彼女は第1作の洗礼式場面に“乳児”として出演している。製作現場においても“家族”が重要なポジションにあったことは、『ゴッドファーザー』がマフィアを描いた映画ではなく、家族を描いた映画として半世紀にわたって愛され続けた由縁。シリーズに流れる“家族の絆”というテーマを唯一無二なものにしながら、より強靭なものにさせているのである。

『ゴッドファーザー<最終章>:マイケル・コルレオーネの最期』『ゴッドファーザー<最終章>:マイケル・コルレオーネの最期』

文:松崎健夫

【出典】
・「ザ・ゴッドファーザー」ハーラン・リーボ著 (ソニーマガジンズ)
・「広辞苑 第七版」(岩波書店)
・「現代映画用語事典」(キネマ旬報社)
・1976年リバイバル公開『ゴッドファーザー』チラシ

『ゴッドファーザー』『ゴッドファーザーPARTⅡ』『ゴッドファーザー<最終章>:マイケル・コルレオーネの最期』はCS映画専門チャンネル ムービープラス「伝説の超大作!ゴッドファーザーSP」で2022年2月放送
TOHOシネマズ日比谷・梅田にて3日間限定上映(2月25日[金]、26日[土]、27日[日])
※『ゴッドファーザー<最終章>:マイケル・コルレオーネの最期』は劇場初公開

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