コッポラ再編集『ゴッドファーザー<最終章>』リリース記念! ~人はなぜマフィアやギャングを描いた映画に惹かれるのか?~

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ライター:谷川建司
コッポラ再編集『ゴッドファーザー<最終章>』リリース記念! ~人はなぜマフィアやギャングを描いた映画に惹かれるのか?~
『ゴッドファーザー<最終章>:マイケル・コルレオーネの最期』
販売元:NBCユニバーサル・エンターテイメント
価格:1,886円+税
発売中
TM & Copyright © 1990 by Paramount Pictures. All Rights Reserved. FROM ZOETROPE STUDIOS TM, ® & Copyright © 2014 by Paramount Pictures. All Rights Reserved.

ギャングを描いた映画はギャングの隆盛期に人気コンテンツとなった!?

1930年代のワーナー映画が量産した一連のギャング映画――エドワード・G・ロビンソン主演の『犯罪王リコ』(1930年)、ジェームズ・キャグニー主演の『民衆の敵』、二人が共演した『夜の大統領』(いずれも1931年)――は大好評のうちに観客に支持され、彼らを一躍トップ・スターの座に押し上げた。また、ユナイト映画で巨匠ハワード・ホークスが手掛けたポール・ムニ主演の『暗黒街の顔役』(1932年)も古典的名作だ。

実は、『犯罪王リコ』『民衆の敵』『暗黒街の顔役』の三作の主人公は、いずれも実在のギャング、アル・カポネをモデルとしている。カポネが活躍したのは1920年からの禁酒法の時代で、彼が最終的に脱税のかどで刑務所に入ったのは1931年の10月だから、一連の映画はまさに同時代の(アンチ)ヒーローの旬の話題をいち早く映画化した作品だったことになる。その後、カポネなどギャング側ばかりを主人公として描くことに対しFBIから映画会社に横やりが入り、キャグニーは一転してギャングを取り締まるFBI側に立った『Gメン』(1935年)に主演したのは有名な話。

なぜ犯罪者である彼らは人々から認められてしまうのか?

なぜ、ギャングやマフィアを描いた映画というのは魅力的なのだろうか? 筆者が親しい友人であった故デニス・ホッパーは、かつて、なぜアメリカ映画では常にアウトロー的な立場の主人公が観客に支持されるのか、についての自説を筆者に話してくれたことがあった。彼自身、観客に最も強い印象を残したのは『ブルーベルベット』(1986年)、『スピード』(1994年)といった作品の悪役だったが、ホッパーに言わせると、それはアメリカ人の心の闇なのかもしれない。

映画という“神話”においては、奇妙なことに犯罪者っていうのはオーケイなんだ。その方がより刺激的だからね。だけど、俺には大多数のアメリカ人の精神は混乱しているように思える。ゴッドファーザーだろうが、マフィアだろうが、映画の主人公になってしまう。彼らは闇の世界の犯罪者であるにも関わらず、世間の人々に認められてしまうんだ。人々がそれを認めてしまうってことは恐ろしくもあり、驚くべきことでもある。

だが、ホッパーの演じた悪役はともかく、ゴッドファーザーやマフィアに関して言えば、その理由は明らかだ。移民国家アメリカという国の成り立ちを考えた時に、新天地に住み始めた英語を喋れない移民たちにとって、言葉の通じない行政や警察権力に頼るよりも、自分たちの言葉で相談に乗ってくれる地域社会のボスのほうが遙かに頼れる存在であることに疑う余地はない。……たとえ、それら地域社会のボスたちが表向きの顔とは別に、裏社会でマフィアと呼ばれる犯罪組織によって権力を掌中に収めていたことがわかっていたとしても。

移民国家ゆえの同胞とファミリーへの絶対的信頼

アル・カポネことアルフォンス・カポネがギャングとして活躍したのはシカゴだったが、元々はイタリア系移民の両親のもと、ニューヨークに生まれている。……ニューヨークで闇の世界の大物としてのし上がっていったイタリア系移民というと、すぐに思い浮かぶのは作家マリオ・プーゾが創出した“ゴッドファーザー”ことヴィトー・コルレオーネだろう。

『ゴッドファーザー PART I <デジタル・リストア版>』
販売元:パラマウント  価格:1,886円+税
発売中
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自身もイタリア系アメリカ人であるフランシス・フォード・コッポラ監督が描いたコルレオーネ・ファミリーの物語(トリロジー)は、マリオ・プーゾの原作と、エドワード・G・ロビンソン演じる偉大な父とその息子たちが、どう父の跡を継いでいったかを描いた『他人の家』(1949年)をベースとしている。『ゴッドファーザーPART Ⅱ』(1974年)では、幼きヴィトーが故郷シチリアで両親を殺され、単身、新天地ニューヨークにやってきて、やがて青年となり、イタリア系移民の集まるリトル・イタリーで街のボスを倒し、代わって自らが街の人々のよろず相談を引き受ける様子が、マイケルの物語と並行して描かれていた。

『ゴッドファーザー PART Ⅱ <デジタル・リストア版>』
販売元:パラマウント  価格:1,886円+税
発売中
Copyright © 1974 by Paramount Pictures and The Coppola Company. All Rights Reserved. Restoration Copyright © 2007 by Paramount Pictures Corporation. All Rights Reserved. TM, ® & Copyright © 2014 by Paramount Pictures. All Rights Reserved.

ヴィトーにとって、同じイタリア移民の妻と4人の子供(プラス実子同様に育てた孤児のトム・ヘイゲン)という自身の家族(ファミリー)を護ることと、自身を頂点とする組織(ファミリー)を護ることは等価値であり、そのベースには同胞への絶対的信頼というイタリア人特有の価値観があった。

また、『ゴッドファーザー』(1972年)と『ゴッドファーザーPART Ⅱ』とを編年形式に再編集した『ゴッドファーザー・サガ』(『ゴッドファーザー テレビ完全版』:1977年)では、若き日のヴィトー(ロバート・デ・ニーロ)がハイマン・ロススタイン少年を発掘するシーンが描かれていたが、後年、ロス(リー・ストラスバーグ)はマイアミをベースとした大物となり、父の跡を継いだマイケル(アル・パチーノ)と対立していく。『PART Ⅱ』ではヴィトーはロスのことを常に一目置いてはいたが、けっして信用はしていなかった、という事実が語られるが、それもロスが同胞ではなくユダヤ人だったからだ。

『グッドフェローズ』が描いたイタリア系マフィアの掟とは?

同じことは、やはりイタリア系アメリカ人監督マーティン・スコセッシが『ゴッドファーザー』と同時代のイタリア系マフィアの実態を実話ベースで描いた『グッドフェローズ』(1990年)でも、物語の鍵となっていた。

『グッドフェローズ』
Blu-ray ¥2,381+税/DVD ¥1,429 +税
ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント
©2015 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.

『グッドフェローズ』の主人公ヘンリー・ヒル(レイ・リオッタ)は、ニューヨークのイタリア系マフィア五大ファミリーの一つに属するポール・シセロ(ポール・ソルヴィノ)のもとで、兄貴分ジミー・コンウェイ(ロバート・デ・ニーロ)、血の気の多い兄弟分トミー・デヴィート(ジョー・ペシ)と共に頭角を現していくが、やがて3人の中で一番問題行動の多いトミーが年長のジミーを差し置いて幹部に昇進することが決まる。

『グッドフェローズ』©2015 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.

実は、ヘンリーは母親こそイタリア系だが父親がアイリッシュであるため純粋なイタリア系とはみなされず、ジミーもまた“アイリッシュ・マン”であるため、どんなに才覚があっても組織の中では信用されず、二人が幹部に昇進することは絶対にありえないのだ。……つまり、イタリア人の同胞たちへの愛と信頼は、組織の中においては逆に言うと“同胞以外は絶対に信頼はしない”という掟となっているのだ。

幻に終わった『ゴッドファーザーPART Ⅳ』と注目の『ゴッドファーザー<最終章>』

『グッドフェローズ』と同年公開の『ゴッドファーザーPART Ⅲ』(1990年)では、前作のマイケルのパートで描かれた20年後の1979年を主たる時代とし、ラスト・シーンは、そこから更に十数年後、年老いたマイケルが孤独に死んでいく姿が描かれていた。

『ゴッドファーザー PART Ⅲ <デジタル・リマスター版>』
販売元:パラマウント  価格:1,886円+税
発売中
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その後、コッポラとマリオ・プーゾは、『ゴッドファーザーPART Ⅳ』製作の可能性を検討したが、ブーゾの死去によってコッポラはこのアイディアを封印した。伝えられていたところでは、『PART Ⅳ』はマイケルの跡目を継いだヴィンセント(アンディ・ガルシア)のその後の物語と、『PART Ⅱ』で描かれていた1925年までのヴィトーのパートの続き部分とが、ちょうど『PART Ⅱ』がそうだったのと同じようにクロス・カッティングで描かれるという構想で、その中年期のヴィトーを再びデ・ニーロが演じることになっていたという。

映画は三部作で打ち止めとなったが、小説ではプーゾの正当な後継者という立場でマーク・ワインガードナーが著わした「ゴッドファーザー・リターンズ」(ソニー・マガジンズ:2006年刊)が日本でも刊行され、第1作のラスト・シーンから『PART Ⅱ』の間の部分の物語が描かれた。

さて、2020年は『PART Ⅲ』製作30周年で、これに合わせて、コッポラは再編集を施した『The Godfather Coda(原題)』としてアメリカで劇場公開、日本では『ゴッドファーザー<最終章>:マイケル・コルレオーネの最期』のタイトルでBlu-rayが発売された。

この〈最終章〉、『PART Ⅲ』より3分ほど短く、アル・パチーノの言によれば「ソフィア・コッポラが演じたメアリーの位置づけがよりくっきりした」との触れ込みだったが、少なくとも筆者にはそれは感じられなかった。というか、『PART Ⅲ』が公開されたときに、降板したウィノナ・ライダーに代わって急遽メアリー役となったコッポラの実の娘に批判が集中したのだが、筆者にはかえって素人っぽいソフィアのほうが役の柄に合っていて元々悪くないと思っていた。

『ゴッドファーザー<最終章>:マイケル・コルレオーネの最期』
販売元:NBCユニバーサル・エンターテイメント
価格:1,886円+税
発売中
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『ゴッドファーザーPARTⅢ』と『ゴッドファーザー<最終章>』はどう違うのか?

両作の最も大きな違いは、ファースト・シーンとラスト・シーンが変わったこと。

【※以下、ネタバレ注意】

『PART Ⅲ』では、廃墟となったタホ湖の屋敷跡の映像や次兄フレドーをそのタホ湖で殺害した時の映像を背景に、マイケルが2人の子供たちに手紙を書くシーンから始まり、バチカンの大司教によるマイケルの叙勲セレモニー、受賞記念パーティへと続いていたが、<最終章>ではマイケルがバチカンの財テク失敗の尻拭いと引き換えに、バチカンが決定権を持つコングロマリッド企業インモビリアーレの支配権を獲得すべく大司教と交渉するシーンから始まり、叙勲セレモニーはカットされてパーティへと続く。

ラストも、『PART Ⅲ』の椅子から崩れ落ちて孤独に死ぬ終わり方から、<最終章>では死んだ娘メアリーとの思い出に浸って回想するマイケルの姿を映して映画が終わる。『PART Ⅲ』でマイケルが回想していたのはメアリーだけでなく、最初の妻アボローニャ、2人の子供をもうけた妻ケイとそれぞれダンスする、人生の様々な時期の幸せな瞬間だった。

つまり、『PART Ⅲ』では過去の映像のインサートによって前二作との連続性が強調される編集だったのに対して、<最終章>ではそれ単独の作品としてのまとまりを良くする方向で改変されたといってよく、確かにリズムはずっと良くなった。要は好みの問題でしかないが、孫と遊んでいて倒れるという人として最も幸せな死に方をしたヴィトー(マーロン・ブランド)と対照的に、孤独に死を迎え犬だけがそれを見ていた、という『PART Ⅲ』の終わり方のほうが、筆者は『ゴッドファーザー』トリロジー全体の締めくくり方としては相応しいように思える。

アル・カポネの晩年を描いた怪作『カポネ』!

新作のギャング/マフィア映画にも注目作がある。『インセプション』(2010年)、『ダークナイト ライジング』(2012年)の曲者俳優、トム・ハーディが晩年のアル・カポネを演じた『カポネ』(2020年)だ。

カポネ役は前述のロビンソン、キャグニー、ムニ以降も、ロッド・スタイガー(『暗黒の大統領カポネ』:1959年)、ジェイソン・ロバーズ(『聖バレンタインの虐殺/マシンガン・シティ』:1967年)、ベン・ギャザラ(『ビッグ・ボス』:1975年)、そしてロバート・デ・ニーロ(『アンタッチャブル』:1987年)と曲者・大物俳優揃いだが、今回のトム・ハーディはある意味これまでで一番すごい。

『カポネ』は脱税での逮捕後、アルカトラズ刑務所収監中に梅毒の悪化で認知症の症状が出てきた晩年のカポネの壮絶な姿を描いており、ベッドで排泄してしまうなど末期症状に陥ったカポネがオムツ姿にガウンを纏い、錯乱してマシンガンを撃ちまくるのだが、その姿は壮絶を通り越してシュールですらある。

文:谷川建司

『ゴッドファーザー』シリーズ、『グッドフェローズ』はHuluほか配信中
『カポネ』は2021年2月26日(金)より新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国公開

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