『クライ・マッチョ』イーストウッド、91歳にして“死の影”を超えた真の開拓者! 新たな境地を見出した集大成

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ライター:石津文子
『クライ・マッチョ』イーストウッド、91歳にして“死の影”を超えた真の開拓者! 新たな境地を見出した集大成
『クライ・マッチョ』© 2021 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved

クリント・イーストウッドが、1971年に『恐怖のメロディ』で監督デビューしてから50年。監督40作目となるのが新作『クライ・マッチョ』だ。久々にカウボーイ姿を見せつつも、91歳にして死の影を超え、新たな境地を見出した。彼こそが真の開拓者だ。

『クライ・マッチョ』© 2021 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved

マッチョであることと真の強さは関係ない

西部開拓時代にタイムトリップして、名前を問われ、「クリント・イーストウッド」と名乗るのは、『バック・トゥ・ザ・フューチャーPART3』(1990年)の主人公マーティ(マイケル・J・フォックス)だ。これに対して相手(宿敵ビフの先祖)は「なんておかしな名前だ」と言い返す。想像するに、なんとなく弱々しい名前なのだろう。少なくともマッチョな名前ではない。もちろん、マーティは1985年を生きる高校生だから、西部劇スターであるクリント・イーストウッドをマッチョな男の象徴だと思っていて、100年前の西部でその名を名乗ったのだが。

この名乗りは、イーストウッドも喜んで了承したそうだが、とはいえ長年マッチョの代表のように思われていることに対しては、どこか居心地の悪さも感じていたのだろう。そして、91歳にしてその看板に偽りあり、ということを正式に表明したのだ。監督、主演、製作した新作『クライ・マッチョ』では、「マッチョは過大評価されすぎだ。人はすべての答えを知った気になるが、老いと共に、無知な自分を知る。気づいた時には手遅れなんだ」というセリフが象徴的だ。

『クライ・マッチョ』© 2021 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved

マッチョであることと、人間の真の強さとは関係ない、ということを旅を通して老カウボーイが少年に教える。『クライ・マッチョ』は、言ってみればそれだけのとてもシンプルな映画だ。だがシンプルだが滋味深いスープのように、心に沁み入ってくる。こんなにあたたかい映画をイーストウッドが作るとは!

『クライ・マッチョ』© 2021 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved

“死の匂い”がしないイーストウッド映画

イーストウッドが演じるのは、落ちぶれたかつてのロデオスター、マイク。妻子を亡くしテキサスで孤独に暮らす老人だ。彼は元の雇い主である牧場主から、「別れた妻とメキシコで暮らす息子ラフォを連れ戻してほしい」と頼まれる。ほぼ誘拐に近い依頼に戸惑いつつも、かつて受けた恩義もありマイクはメキシコへ向かう。しかし探し出した14歳のラフォは、母の豪邸ではなく、“マッチョ“と名付けたニワトリと闘鶏をしながらストリート暮らしをしていた。2人は母親の手下やメキシコ警察に追われながらも、国境を目指す。

『クライ・マッチョ』© 2021 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved

イーストウッドが作る映画には暗い影がいつもあった。死の影だ。少年との旅の原型である『センチメンタル・アドベンチャー』(1982年)では余命の限られた歌手を自ら演じて歌ったし(相棒は実の息子カイル・イーストウッド)、馬に乗った死の天使『ペイルライダー』(1985年)しかり、痛切すぎる『ミリオンダラー・ベイビー』(2004年)しかり、『パーフェクト・ワールド』(1993年)、『グラン・トリノ』(2008年)しかり。

『クライ・マッチョ』© 2021 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved

だが齢90を超えて撮った『クライ・マッチョ』からは、死の匂いはしてこない。まるでイーストウッド作品の集大成にも見える映画だが、今までにない明るさとあたたかさがある。1980年、50歳の時に撮った『ブロンコ・ビリー』のような陽気な長閑さとはまた別だ。ちなみに『クライ・マッチョ』の時代設定は1979年から80年にかけてであり、まさにその『ブロンコ・ビリー』を手がけていた頃に持ち込まれた脚本だった。

この映画にこめられたやさしさ、そして強さに励まされる

脚本を気に入ったものの、その頃、まだ枯れるどころかバリバリのフェロモン出しまくりだったイーストウッドは、当時60代だったロバート・ミッチャムを主演に据え、自分が監督することを考えた。だが、それは実現せぬまま40年の時が過ぎた。つまり、マイクは60代、せいぜい70前後の年回りというわけで、イーストウッドはようやく90にして自分も枯れた味が出せると踏んだ、とも言える。

『クライ・マッチョ』© 2021 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved

もちろん犯罪スレスレの行為のためマイクとラフォの旅はタフなものになるのだが、マイクは老いてはいるが女性にはモテまくるし、動物にもモテモテ。おそらくこのモテモテ設定は元の脚本に、『グラン・トリノ』のニック・シェンクがイーストウッドに合わせて書き加えたものなのではないだろうか。あくまで想像だけれども。2人の女性のうち1人がヤバめなのは、『恐怖のメロディ』(1971年)へのオマージュと思えなくもない。一方、時代設定を変えなかったおかげで、スマホが出てこないのも功を奏している。今だったら簡単に追手に見つかってしまうだろう。

『クライ・マッチョ』© 2021 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved

そして足止めをくった町では牧場で荒馬を飼いならし、一稼ぎする。なんと『許されざる者』以来、30年ぶりに馬に乗るイーストウッドの姿が拝めるのだ。文字通り、拝みたくなるではないか。もちろん私のようなイーストウッド崇拝者でなくとも(よければCS映画専門チャンネル ムービープラスの「映画館へ行こう」2022年1月号をご覧あれ。イーストウッド愛を爆発させてきた)、『クライ・マッチョ』を観た人は、この映画にこめられたやさしさ、そして強さに励まされることだろう。幾つになっても人生は再スタートできることを、ユーモアを交えて教えてくれる。4人の孫娘を育てる酒場の主人マルタを演じた、メキシコの女優ナタリア・トラヴェンとイーストウッドの相性もとても良い。

『クライ・マッチョ』© 2021 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved

『ダーティハリー』(1971年)のように銃をぶっ放すこともないし、追手と戦う時もポンコツだ。しかし、悠然と馬に乗り、女性とダンスを踊るだけで、そこに映画の歴史が、そしてマイクという男の歴史が見てとれる。

未曾有のパンデミックの中で、この愛の映画を撮り上げたイーストウッドには感謝しかない。

『クライ・マッチョ』は2022年1月14日(金) 新宿ピカデリーほか全国公開

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『クライ・マッチョ』

アメリカ、テキサス。ロデオ界のスターだったマイクは落馬事故以来、数々の試練を乗り越えながら、孤独な独り暮らしをおくっていた。そんなある日、元雇い主から、別れた妻に引き取られている十代の息子ラフォをメキシコから連れ戻すという依頼を受ける。犯罪スレスレの誘拐の仕事。それでも、元雇い主に恩義があるマイクは引き受けた。男遊びに夢中な母に愛想をつかし、闘鶏用のニワトリとともにストリートで生きていたラフォはマイクとともに米国境への旅を始める。そんな彼らに迫るメキシコ警察や、ラフォの母が放った追手。先に進むべきか、留まるべきか? 少年とともに、今マイクは人生の岐路に立たされる――。

制作年: 2021
監督:
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