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映画の今、世界の今「“ダーティハリー”が登場した背景:前編」越智道雄

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ライター:#越智道雄
映画の今、世界の今「“ダーティハリー”が登場した背景:前編」越智道雄
『運び屋』©2018 VILLAGE ROADSHOW FILMS (BVI) LIMITED, WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC
クリント・イーストウッド監督/主演最新作『運び屋』が2019年3月8日(金)に日本公開決定! 御年88歳、まさに枯れ知らずなイーストウッド不動の代表作『ダーティハリー』を、アメリカ政治・文化の第一人者、越智道雄氏が考察する【前編】

マカロニ・ウエスタンの歴史的背景

©2018 VILLAGE ROADSHOW FILMS (BVI) LIMITED, WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC

2018年、88歳を迎えたクリント・イーストウッドは今も現役監督、そして俳優として最前線を走っている。自らの監督作で主演もつとめる最新作『運び屋』が、全米で12月14日、日本では来年3月に公開されることでも話題を集めている。今回、俳優としてのブレイクポイントとなった『ダーティハリー』登場をめぐる背景を推察する。

イーストウッドは『ローハイド』(1959)で売り出したように、元来は西部劇役者である。ところが公民権運動が黒人から他の少数派に拡大された1960年代、アメリカ白人開拓者らが騎兵隊と組んでインディアンの土地を奪った西部劇の重要な背景が強い批判に晒され、ハリウッドの西部劇は一挙に衰退した。アメリカやアフリカ大陸への侵略で英国に後れをとらなかったのは同じ西欧のフランスぐらいで、ドイツや他の東欧諸国は国家統一に遅れ、また国力自体が脆弱で植民地強奪に出遅れた。結果、これらの国々でアメリカ渇望が凝り固まって国産の西部劇が生まれ、特にドイツの作家カール・マイが書いた少年用の西部劇小説は未だに愛読されている。私も映画『荒野の決闘』(1946)の舞台トゥームストーンを訪れたとき、観光バス3台を連ねて大挙押し寄せたドイツ人観光客を見た。多くは30~40代だったから、少年時代にマイの西部劇小説を読んで育った世代と見られる。

他方、英仏より先に「覇権国家」となって一足先に中南米を植民地化したスペインとポルトガル、ローマ帝国の流れを汲むイタリアは1960年代以降も西部劇の量産を続けた。これが名高い「マカロニ・ウエスタン(以後MW)」で、舞台はメキシコをはじめ中南米である。母国で廃れた西部劇に代わって、イーストウッドはMWに起死回生の場を見いだす。パッとしない悪役俳優だったリー・ヴァン・クリーフ(姓から分かるようにオランダ系)もMWで蘇る。彼が登場した最初のMW作品『夕陽のガンマン』 (1965)では、彼はアメリカ映画ではありえない「豪傑扱い」として演出され、あまりの豪傑ぶりに惚れ込んだイーストウッドが映画の終わり近くで「パートナーにならないか?」ともちかけるのに対して、ヴァン・クリーフは薄笑いを浮かべて断る。事実、以後のMWでは2人は敵対する敵役として登場する。

MWでは、先住民で白人入植者らに激烈な抵抗を見せたサパタのような民族的英雄類型は登場せず、スペイン系の土着人が悪役を務める。私自身メキシコのレストランですら英語が通じず当惑させられると同時に、グリンゴ(白人またはアメリカ人)に対する彼らの敵意の痛烈さがグリンゴの言語である英語を操るインディアン(私)への敵意を煽ったのを思い知らされた。つまり、南米では最下級のインディオ(私)が英語を操る光景にはレストランの従業員らは立腹したのである。

イーストウッド自身、1980年代に入ると監督/主演を務めた『ブロンコ・ビリー』(1980)で西部劇へのこだわりを見せた。この映画はバッファロー・ビルが組織した「ワイルド・ウエスト・ショー」という、西部劇ショーとして欧米を席巻した故事に似たストーリーを使った設定。ビルのショーこそ西部劇映画の草分けであり、インディアンと騎兵隊や開拓者らの戦闘シーンは後生の映画以上に呼び物だったが、舞台裏では白人とインディアンらは商売仲間として仲良く共存していた。その後、イーストウッドは『ペイルライダー』(1985)や『許されざる者』(1992)など、印象的な出来映えの西部劇映画の製作に関与している。

<中編へ続く>

『運び屋』は2019年3月8日(金)より全国ロードショー

『運び屋』公式サイト
『ダーティハリー』シリーズ5作品CS映画専門チャンネル ムービープラスにて12月放送
『荒野の用心棒』ほか「2ヶ月連続!特集:イーストウッド×ウエスタン」CS映画専門チャンネル ムービープラスにて12月、1月放送

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