マット・デイモンにインタビュー!『スティルウォーター』娘を想う“石油採掘労働者”は「父親だから演じられた」

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ライター:佐藤久理子
マット・デイモンにインタビュー!『スティルウォーター』娘を想う“石油採掘労働者”は「父親だから演じられた」
『スティルウォーター』© 2021 Focus Features, LLC.

“肉体労働者”マット・デイモンが仏マルセイユを彷徨う

『最後の決闘裁判』(2021年)で驚くべき演技を見せたマット・デイモンが、またしても新鮮な役柄に挑んだ。その新作は、『スポットライト 世紀のスクープ』でアカデミー賞作品賞を受賞したトム・マッカーシー監督による『スティルウォーター』。異国の地で投獄された娘の無実を信じて奔走する、無骨な父親に扮する。

『スティルウォーター』© 2021 Focus Features, LLC.

言葉の通じない国にひとり乗り込む勇ましさはジェイソン・ボーンのようだが、本作の主人公ビル・ベイカーはいたってふつうの男だ。オクラホマで石油採掘に従事し、アメリカを一歩も出たことがない。そんな彼が、フランスのマルセイユに留学中に投獄された娘(アビゲイル・ブレスリン)のために、危険も顧みず調査に乗り出す。せつない父親になりきったデイモンの姿を見て、俳優として新たなフェイズに到達したことを実感させられる。

飾り気のなさ・明朗快活、誠実で知的なマット・デイモンはカンヌでも大人気

撮影:まつかわゆま

2021年のカンヌ国際映画祭で取材に応じてくれた彼に、本作の経験、父親としての心情、さらにコロナ禍で思うことについて語ってもらった。

『スティルウォーター』© 2021 Focus Features, LLC.

「メディアや政治家は、僕らが互いに嫌い合うように扇動しているのではないか」

―子育てをないがしろにしてきた罪悪感を抱く、不器用な父親をあなたが演じるのを観て、とても新鮮で感動させられました。主人公ビル・ベイカーを演じるにあたって、石油採掘の労働者についてリサーチされたと思いますが、どんなことを感じましたか。

まず実際オクラホマに行ってリサーチできたことは、本当に良かったと思う。彼らはとても協力的で、色々なところを見学することができただけでなく、家族とバーベキューをしたりするプライベートな時間にも招いてくれた。彼らは何百キロも離れたところまでトラックを運転し、石油を掘りに行く。とてもハードな仕事だ。

ビルというキャラクターの外観はすべて、僕が彼らと一緒に過ごして観察したことから得た。着古したジーンズにボタンダウンのシャツ、頭にはキャップ。みんな同じような格好をしている。肉体労働だから体つきもみんな似て、がっちりと逞しい。リサーチの間のすべての経験を、この役に注ぎ込んだつもりだ。

『スティルウォーター』© 2021 Focus Features, LLC.

―彼らの政治的な信条は、おそらくあなたとは異なりますよね。その点はいかがでしたか。

たしかに政治的信条は僕とは一致しない。彼らはリベラル派の政治家は偽善的だと思っている。でも実際彼らと行動を共にして、メディアや政治家は、僕らが互いに嫌い合うように扇動しているのではないかと思えた。映画で彼らのようなキャラクターを誠実に描くという信念のもとに出会って、とてもオープンに接してもらえたよ。

―一方、ビルは映画のなかで、娘の存在ゆえに大きな心の旅を経験し、変わっていきます。あなた自身も父親でいらっしゃいますが、この役を演じる上で父親としての経験が何か役立ったことはありますか。

具体的なことはわからないけれど、20年前だったらこういう役が精神的に演じきれなかったことは間違いない。十分に理解できなかったかもしれないし、役に共感できなかっただろう。それは父親としての経験を積んで、年を経たからこそ可能になったと思う。

『スティルウォーター』© 2021 Focus Features, LLC.

「たとえ悲しみがあっても、彼は世界と繋がることができた」

―映画の最後にビルは、「すべてが以前とはもう異なる」と語ります。このエンディングをどう解釈するかは意見が分かれるところですが、あなたはどのように感じられましたか。

人によって受け止め方は異なると思うけれど、僕は素晴らしいエンディングだと思う。それまで自分の周りの世界しか知らなかった彼は、すごく狭い視野しか持っていなかった。マルセイユが地図でどこにあるのかも知らなかった。でも彼はそんな場所に赴いて、想像もしていなかったような出会いをする。

『スティルウォーター』© 2021 Focus Features, LLC.

フランス女性に出会って、恋をして、彼女は彼を未知の世界に招く。彼女だけでなく、その9歳の娘も彼に心を開き、彼が自分の娘とは持てなかったような美しい関係を築く。これまで娘を構ってこなかったことに痛みや罪悪感を持っていた彼に突然、新しい世界が開ける。だから彼にとって、以前と同じように世界を見ることはもう不可能なんだ。

僕にとって、これは希望のあるエンディングだ。たとえ悲しみがあっても、彼は世界と繋がることができた。彼にとって理解することは痛みを伴うものだけれど、でも理解できるほどに彼は賢い。

『スティルウォーター』© 2021 Focus Features, LLC.

―世界が自分の想像とはまったく違ったということを受け入れるのは、誰にとっても困難だと思いますが、年齢に関係なく受け入れることは可能なのだ、と考えますか。

この映画は、まさにそれを言おうとしているのだと思う。彼は映画の最初で欲しいと思っていたものを手に入れる。でも手に入れたとき、彼はべつの人間になっている。彼がその未来に望むものも、また異なるものだ。映画の冒頭、旅立つ前の彼が竜巻の被害を受けた家を片付けているけれど、あれは彼自身のその後の人生のメタファーなんだ。

『スティルウォーター』© 2021 Focus Features, LLC.

―あなた自身は、マルセイユでの撮影経験にどんな印象を受けましたか。

幸い僕はビルとは異なる立場でマルセイユに行くことができたから(笑)、とても楽しかったし、すぐに街の雰囲気に浸ることができた。初めてマルセイユを訪れたけれど、4ヶ月滞在して大好きな街のひとつになったね。

マルセイユには特別なヴァイブがある。異なる文化の融合があり、つねに動いているんだ。他のコート・ダジュールの街とはまったく異なる。ちょっとボストンを彷彿させられたよ。なんというかエネルギーの坩堝で、自分が何を考えているかなんて誰も気にかけていない雰囲気がある(笑)。トム(・マッカーシー監督)にも言ったんだけど、僕がもっと若くてフランス人だったら、絶対マルセイユに住むと思う。

『スティルウォーター』© 2021 Focus Features, LLC.

「孤立するということが、人間にとっていかに健全でないかを学んだ」

―2020年からずっと映画界はコロナ禍により振り回されてきましたが、あなたはこの時期をどのように過ごされましたか。

僕は多くの人よりずっと恵まれていたと思う。ロックダウンになったとき、美しい島で撮影中で、そのあと一旦ロサンゼルスに戻ったけれど、撮影が再開されて2ヶ月半、島で過ごすことができた。2021年の初頭はオーストラリアで撮影して、その時点では向こうの状況はずいぶん緩かったから、家族を呼んでリラックスして過ごすことができて、とてもラッキーだったよ。

―ご家族と過ごす時間が増えて、自分自身に対する新しい発見などはありましたか。

自分について? それはよくわからないなあ(笑)。でも、これまでにないほど家族と密な時間を過ごせたのはたしかだ。コロナ前に娘が15歳になって、その年齢は友だちと過ごすことが多くなる年頃だから、妻と「ようやくゆっくりできるね」なんて話していたんだ(笑)。でもコロナになって逆に、子供とも親密な時間を過ごすようになった。

それで思ったのは、人間というものはいかにお互いを必要としているか、人と繋がることが大切か、ということ。それは家族や近親者だけじゃなく、社会的な繋がりも含めてだ。そして孤立するということが、人間にとっていかに健全でないかを学んだよ。

取材・文:佐藤久理子

『スティルウォーター』は2022年1月14日(金)よりTOHOシネマズ シャンテ、渋谷シネクイントほか全国公開

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『スティルウォーター』

妻亡きあと男手ひとつで育てた娘が留学先のマルセイユで殺人事件に巻き込まれ、無罪を訴えるも刑務所にいれられてしまう。父はなれない土地で無実の証拠を探し続け、あるフランス人シングルマザーの助けを得て真実へと一歩近づいていくのだが…。

制作年: 2021
監督:
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