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マット・デイモンVSアダム・ドライヴァー『最後の決闘裁判』はリドリー・スコット渾身の実話ミステリー!

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ライター:#稲垣貴俊
マット・デイモンVSアダム・ドライヴァー『最後の決闘裁判』はリドリー・スコット渾身の実話ミステリー!
『最後の決闘裁判』© 2021 20th Century Studios. All Rights Reserved.

巨匠が魅せる映画的ストーリーテリングの真髄

かつて、こんな出来事が本当にあったとは。

いまだ真相不明、フランスにおける最後の決闘裁判を映画化した『最後の決闘裁判』。ある暴行事件の真相をめぐる<実話ミステリー>を、巨匠リドリー・スコット監督がストーリーテリングの技巧を尽くし、2時間33分という長尺ながらダイナミックかつスピーディに語りきった渾身作だ。

出演はマット・デイモンアダム・ドライヴァージョディ・カマーベン・アフレックという実力者たち。この顔ぶれでなければ実現しえなかった、恐るべき密度のサスペンスに仕上がっている。

物語の舞台は中世のヨーロッパ。しかし、この作品で描かれているのは、どれも現代社会で今まさに起こっていることだ。リドリー・スコットは徹頭徹尾、この事件を「今の出来事」として捉えた。

『最後の決闘裁判』© 2021 20th Century Studios. All Rights Reserved.

3つの視点、深まる謎

14世紀、フランス。妻子に先立たれ、家の地位と権力を守るため戦地に臨む騎士ジャン・ド・カルージュ(マット・デイモン)のもとに新たな花嫁がやってきた。その女性マルグリット(ジョディ・カマー)は地主の娘。結婚に際して、カルージュには持参金と土地が贈られる。

ところがどういうわけか、カルージュが譲り受けるはずだった土地の一部は、彼の友人で宮廷家臣のジャック・ル・グリ(アダム・ドライヴァー)の手に渡った。カルージュは、これを主人のピエール伯(ベン・アフレック)に訴え出るが敗訴。もともとカルージュを厄介者と見ていたピエール、そして友人だったル・グリとの溝は深まっていく。

『最後の決闘裁判』© 2021 20th Century Studios. All Rights Reserved.

ある日、遠征から帰ってきたカルージュはマルグリットから、ル・グリに暴行されたとの話を聞かされる。カルージュは激昂するが、目撃者はおらず、ル・グリは身の潔白を主張。最後に残されたのは「決闘裁判」という選択肢だった。勝者には正義と栄光が、敗者には死と汚辱が待つ。しかしカルージュが負ければ、マルグリットさえも生きたまま火あぶりの刑となる……。

「リドリー・スコット版『羅生門』」とは本作の宣伝文句だが、ある事件を複数の視点から描くこと、その中心に性的暴行があることは、黒澤明監督『羅生門』(1950年)との大きな共通点。カルージュ、ル・グリ、マルグリットの三人が一連の経緯をどう受け止めたのか、誰が嘘をついたのかがミステリーの核である。そしてもちろん、決闘の行方がどうなるのかということも。

『最後の決闘裁判』© 2021 20th Century Studios. All Rights Reserved.

暴行事件の先に現れる「巨大な謎」

作品の性質上、物語の展開にこれ以上踏み込むことはよそう。しかし『羅生門』と『最後の決闘裁判』に、ある大きな違いがあることについては触れておきたい。複数の視点から事件の真相に迫るという構造は同じだが、本作の場合、真実に近づくほどに、なぜか判然としない部分が増えていくのだ。

たとえば、なぜカルージュが手にするはずだった財産や権力はル・グリに渡ったのか。なぜ、カルージュの訴えは退けられたのか。なぜ、二人は決闘裁判に及ばねばならなかったのか。そして、なぜマルグリットは危険な決闘裁判を承諾したのか。『最後の決闘裁判』は暴行事件そのものだけでなく、その周辺に散らばったいくつもの謎にも接近していく。なかなか解けないのは、むしろこちらの謎のほうだ。

『最後の決闘裁判』© 2021 20th Century Studios. All Rights Reserved.

おそらくあらすじからも察せられるように、本作のテーマのひとつは性差・格差などの構造的暴力である。したがって、この物語を「#MeToo」時代のもの、格差の拡大が続く現代を暗喩するものとして読むことは可能だ(製作陣にその意図はあることも明らかだろう)。また、現代のポリティカル・コレクトネスに照らして、中世の歴史や価値観を再考するものと理解することもできる。

しかし本作のクリエイターは、決してその範疇だけにとどまる映画を創ってはいない。決闘裁判への道筋に浮かび上がるのは、むしろ常識的な倫理観から外れた、「なぜ差別・暴力は生まれるのか?」という巨大な問いかけだ。これは、「なぜ人間は差別・暴力を求めるのか?」という問いかけにも等しい。

『最後の決闘裁判』© 2021 20th Century Studios. All Rights Reserved.

キャスト&スタッフの超絶技巧に酔う

作品のカギを握ったのは、脚本家であるマット・デイモンとベン・アフレック、『ある女流作家の罪と罰』(2018年)の女性作家ニコール・ホロフセナーだ。マルグリットの視点はニコールが執筆し、演じるジョディ・カマーの意見も反映された。三人の脚本家が三人の視点を扱い、原作にないマルグリットの視点を付与したことで、現代的な問題意識とともに、中世から現代まで変わらない<人間の謎>が物語にもたらされたのである。

監督のリドリー・スコットは、事件をめぐるサスペンスと人間模様、巨大な主題を、息詰まる心理劇とアクションのスペクタクルを往復しながら炙り出した。社会的メッセージや哲学的テーマだけに回収されない、極上のエンターテインメントを希求する演出の切れ味は、長年さまざまなジャンルとストーリーを描いてきたからこそなせる技。『デュエリスト/決闘者』(1977年)のほか、『グラディエーター』(2000年)、『悪の法則』(2013年)などの過去作も彷彿とさせる。

『最後の決闘裁判』© 2021 20th Century Studios. All Rights Reserved.

また出演者たちは、物語が進むにつれて複雑化する人物の内面を濃密に演じきった。カルージュ役のマット・デイモンがにじませる怒りと葛藤、アダム・ドライヴァー演じるル・グリの迷いのなさと狡猾さ、マルグリット役のジョディ・カマーが見せる強さと脆さ。ピエール伯役のベン・アフレックによる怪演も見逃せない。同じシーンでも視点が変われば演技が変わり、人物の印象も変わる、細やかな演じ分けにも注目だ。

最後に特筆すべきは、彼らをとりまく世界を形づくった撮影と美術だろう。撮影監督のダリウス・ウォルスキー、美術監督のアーサー・マックスはリドリー・スコット作品の経験者。中世ヨーロッパの雄大な世界を精密に作り上げることで、作品に圧倒的なリアリティを与え、これが主要人物たちだけのものではない、より大きな世界の物語であることをはっきりと示した。

『最後の決闘裁判』© 2021 20th Century Studios. All Rights Reserved.

そのことを象徴するのは、物語のクライマックスとなる「決闘裁判」のシーンだ。カルージュとル・グリの戦いは大勢の市民たちによって見守られ、そこでは映画の観客もまた観衆の一員となったかのよう。ラストにおいて、いよいよ中世ヨーロッパと現代が直接つながるのだ。カルージュ、ル・グリ、マルグリットの身に起きることは――冒頭にも記したように――この現代社会で今まさに起こっていること。その光景は映画館で確かめていただきたいが、それは、ともすれば現代の人々が積極的に関わっていることなのである。

文:稲垣貴俊

『最後の決闘裁判』は2021年10月15日(金)より全国公開

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『最後の決闘裁判』

中世フランス──騎士の妻マルグリットが、夫の旧友に乱暴されたと訴えるが、彼は無実を主張し、目撃者もいない。​真実の行方は、夫と被告による生死を賭けた“決闘裁判”に委ねられる。それは、神による絶対的な裁き── 勝者は正義と栄光を手に入れ、敗者はたとえ決闘で命拾いしても罪人として死罪になる。そして、もしも夫が負ければ、マルグリットまでもが偽証の罪で火あぶりの刑を受けるのだ。 果たして、裁かれるべきは誰なのか?

制作年: 2021
監督:
出演: