ヨーコは解散の原因じゃなかった!『ザ・ビートルズ:Get Back』は未発表映像満載のドキュメンタリーかつ最上の青春映画

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ライター:石津文子
ヨーコは解散の原因じゃなかった!『ザ・ビートルズ:Get Back』は未発表映像満載のドキュメンタリーかつ最上の青春映画
『ザ・ビートルズ:Get Back』©2021 Apple Corps Ltd. All Rights Reserved.

ピージャクに感謝!

ザ・ビートルズが正式に解散してから50年。ピーター・ジャクソンが監督したドキュメンタリー映画『ザ・ビートルズ:Get Back』が3部作、7時間48分の長編としてディズニープラスで独占配信された。正月休みに、1日ずつ、もしくは一気に、ぜひともこの極上の音楽映画であり、青春映画を観ることをおすすめしたい。

『ザ・ビートルズ:Get Back』©2021 Disney ©2020 Apple Corps Ltd.

本作のベースになっているのは、1969年1月に約1カ月かけて行われた<ゲット・バック・セッション>の様子と、伝説のルーフトップ・コンサートだ。当初、『ザ・ビートルズ:Get Back』は劇場公開される予定だったが、あまりに長くなったことやコロナ禍もあり、ディズニープラスでの配信となった。監督は『ロード・オブ・ザ・リング』『ホビット』シリーズ(2001~2003年/2012~2014年)のピーター・ジャクソン。なんと57時間以上の未発表映像と150時間以上の未発表音源をもとに、ピージャク(ピーター・ジャクソンのことね)が、3年間かけて復元・編集したという。とにかくよく作ってくれた。ありがとう、ピージャク。

なぜそんなに大量の映像が残っていたか。1966年8月以来、ザ・ビートルズはライブ活動を停止していたが、メンバーはバラバラになりかけていた。そこで「原点に戻ろう=Get Back」とポール・マッカートニーが声をかけて、ライブとアルバム、そしてテレビ番組を発表しようという企画を立ち上げたためだ。

音楽ドキュメンタリーであり最上の青春映画

1970年には同じ映像をもとに、マイケル・リンゼイ=ホッグが監督した映画『ビートルズ/レット・イット・ビー』と、同名のサウンドトラック・アルバムが発表されているが、すでにその時点でビートルズは事実上解散していた。冬のロンドンの陰鬱な天気と、16ミリ・フィルム撮影の粗さのせいか『ビートルズ/レット・イット・ビー』の約80分の映像はどこか寒々しく、4人の不協和音が強調されているように感じられたものだ。と言ってもDVDなどは出ていないため、昔テレビで観た印象なのだが(80年代半ばまでは時々、放送されていたと記憶している)。

しかし、「想像しなかったような親密さで、ザ・ビートルズを知ることになる」というピージャクの言葉通り、解散に向かう険悪なムードを予想して本作を観ると、驚くことだろう。もちろん喧嘩をしたりもするのだが、全然、4人はまだまだ親密だし、解散をしようとは思っていなかったことがよくわかる。ただし、マネージャーだったブライアン・エプスタインの突然の死により、父親のようなまとめ役がいなくなり、いわば4人兄弟がバラバラになりつつあることも映し出される。なんというか、くっついたり、離れたり。その中で、名曲の数々が生まれていく。

『ザ・ビートルズ:Get Back』©1969 Paul McCartney. Photo by
Linda McCartney.

ザ・ビートルズは、1962年のデビュー以来、英国から世界を席巻、元祖スーパーバンドとなった。だが、まだみんな20代の若者だ。この映画の時点で、ジョン・レノンとリンゴ・スターは28歳、ポール・マッカートニーが26歳、ジョージ・ハリスンに至ってはまだ25歳なのだ。その彼らの生身の姿と声が収められているのだから、青春映画としても最上のものと言える。

“ゲット・バック・セッション“は当初、テレビ収録を想定していたため、映画撮影所であるトゥイッケナム・スタジオで始まるが、慣れない環境で、4人はなかなか落ち着かない。特にジョンとジョージだ。二人はしょっちゅう遅れてくる。第一部の前半はちょっと間伸びした感じがするのは、そうしたことも関係しているが、ここを越えると、セッションも映画もグッと盛り上がってくるのだ。

「ヨーコがアンプに座ってたから解散したなんて言われたら、50年後も笑われるぞ」

「元いた場所に戻ってこいよ」と呼びかける「ゲット・バック」の歌詞は、ポールの気持ちそのものだったろう。ポールはエプスタインの代役として、なんとかバンドを引っ張っていこうとするのだが、それが裏目に出て、メンバーから反発を食う。特にジョージの心がバンドから離れていて、第一部の最後にポールやジョンとぶつかり、脱退を言い出す。それをメンバーみんなで説得に行く(ここはカメラは入れなかった)というのが、なんというか若者らしくて、痛ましいというより愛おしくなってしまう。そりゃあジョージも、天才で完璧主義(と自分では気づいていない)のポール兄さんに子供扱いされ、ギターの弾き方にあれこれ言われたら、「もうやめる」って言いたくなるよね。

とはいえ、ポール兄さんにしてみれば、頭の中に完璧な音楽が流れてしまい、それを再現したくなって、メンバーに弾いてほしいと思ってしまうのだろう。ベートーヴェンみたいなものだ。だがジョンとジョージは、徐々に徐々に仕上げていくタイプだから、やり方が合わないのだ。ジョンがポールと喫茶室で話しあうシーンは音声だけだが、二人の違いが如実に出ていてすごく面白い。ジョンは自由で気まぐれな天才で、ポールにはない発想があるのだ。だからポールはジョンと一緒にセッションすると、一気に化学反応が生まれて曲が傑作になることもわかっている。「トゥ・オブ・アス」を二人が作り出す様子は、鳥肌ものだ。

ポールはどんな楽器も弾きこなし、鼻歌から「ゲット・バック」、「レット・イット・ビー」といった歴史に残る名曲が次々と生まれちゃう天才で、なおかつ学級委員で風紀委員も兼ねているくらい真面目だ。スタジオにも毎日、時間通りにやってくる。遅刻をしないのはリンゴも同じ。この二人は頼れるメンバーなのがよくわかる。リンゴって、本当に良いやつだよなあ。いつもニコニコして気配りしつつ、ペースを崩さない。まるで彼のドラムそのものだ。好きなメンバーはそれぞれいるだろうが(私は8歳の頃からポールのファン)、リンゴが嫌いな人はいないだろう。当時、リンゴが一番人気だった、というのがよくわかる。これに対して、ジョージがちょっといい加減そうなエリック・クラプトンに頼るようになり、彼のことばかり話すのがおかしい。そして、慣れない映画スタジオでのセッションをやめ、彼らが所有するアップル・コア本社ビルのスタジオに移動すると、キーボードのビリー・プレストンが加わり、俄然、バンドの調子も上がってくる。

『ザ・ビートルズ:Get Back』©2021 Apple Corps Ltd. All Rights Reserved.

ジョンはジョンで、いつもちょっとラリっているような感じで(この時期、彼はヨーコの流産などが原因で、ドラッグにのめり込んでいたと言われている)、当時はまだ恋人だったオノ・ヨーコが一緒じゃないと何もできない。映画『ビートルズ/レット・イット・ビー』より、ヨーコへの依存ぶりがよりわかる感じだ。セッションの最中でも、どんな時もヨーコが隣にいて、まるでライナスの毛布状態だ。ポールがヨーコに少し嫉妬しているのも感じ取れる。だが長年、ヨーコが解散の原因だったと言われ、ポールやヨーコがいくら否定してもその説が消えなかったが、今回、はっきりそれは否定される。第二部の頭、スタッフがヨーコについて意見を言うと、ポールは二人を庇うのだ。「ヨーコがアンプに座っていたから解散したなんて言われたら、50年後も笑われるぞ」と言い、さらに「ジョンとヨーコは恋をしているんだ。離れられるわけないよ。だから僕らが歩み寄らなければ」とまで言う。ポールにはジョンが何かに夢中になったら、しばらくはどうにもならないことを、よーーーくわかっているのだ。そして、ジョンが愛情に常に飢えていることにも。ここは個人的に、最もグッと来てしまった。

ジョンがマネージャーのアレン・クラインとの出会いを興奮して語る様子も収められている。この男こそがポールとの仲を引き裂くのだが、それはまた別の話。

そして第三部は、結果的に最後のライブとなってしまったルーフトップ・コンサートが42分間も収められている。『レット・イット・ビー』では警察に止められ数分で止めたように見えるが、実際には「ドント・レット・ミー・ダウン」は2回、「ゲット・バック」は3回も演奏しており、案外と長い時間粘っていたこと、写真家リンダ・イーストマン(後にポールと結婚)の娘ヘザーが、ヨーコのモノマネをしたり、ヨーコとリンダが親しげに話していたり、実はコンサートの後、俄然みんながやる気を取り戻している様子など、意外な映像がどんどん出てくる。

ザ・ビートルズのファンでなくても、第一級の音楽ドキュメンタリー、そしてくどいようだが生々しい青春映画として楽しめること請け合いだ。

文:石津文子

『ザ・ビートルズ:Get Back』はディズニープラスで独占配信中

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『ザ・ビートルズ:Get Back』

時空を超えた《ライブ・ビューイング・ショー》。不朽の名曲「Get Back」(原点回帰/復活)に込められた意味とはいったい何なのか。未公開映像を含む7時間超の貴重なリストア映像によって構成されるオリジナル・ドキュメンタリー・シリーズ。

制作年: 2021
監督:
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