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1969年伝説の“封印フェス”が映画で復活!『サマー・オブ・ソウル(あるいは、革命がテレビ放映されなかった時)』

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ライター:#夏目知幸
1969年伝説の“封印フェス”が映画で復活!『サマー・オブ・ソウル(あるいは、革命がテレビ放映されなかった時)』
『サマー・オブ・ソウル(あるいは、革命がテレビ放映されなかった時)』© 2021 20th Century Studios. All rights reserved.

「ハーレム・カルチュラル・フェスティバル」

1969年の夏、6月29日から8月24日まで計6回の日曜日に、「ハーレム・カルチュラル・フェスティバル」っていうイベントがニューヨークはハーレムのマウント・モリス公園で行われ、計30万人が集まった。知ってました? 僕は知らなかった。

『サマー・オブ・ソウル(あるいは、革命がテレビ放映されなかった時)』© 2021 20th Century Studios. All rights reserved.

スティーヴィー・ワンダー、スライ&ザ・ファミリー・ストーン、ニーナ・シモン、B.B.キング、フィフス・ディメンションなど錚々たる面々が出演したにも関わらず、さらに、ちゃんと気合いれて撮影されたにも関わらず、「誰も見たがらなかった」「金にならない」という理由でお蔵入りしてしまい、半世紀も地下室で眠っていたんですって。それをクエストラブが監督して、『サマー・オブ・ソウル(あるいは、革命がテレビ放映されなかった時)』として映画化されました。

『サマー・オブ・ソウル(あるいは、革命がテレビ放映されなかった時)』© 2021 20th Century Studios. All rights reserved.

時代のムード 夢の終わりの祭典

1969年夏のフェスといえば、そうウッドストック。ヒッピーの楽園っていうイメージがありますが、フラワームーブメントの終着駅とも捉えられます。夢の終わりの祭典(ヒッピーが集まったイベントとして1967年のゴールデン・ゲートパークも有名です。こちらの映像はYouTubeで探せばあります。よりヒッピーの雰囲気がわかりやすいと思う)。

まだまだ記憶に新しい、クエンティン・タランティーノ監督の『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(2019年)も1969年を舞台にした映画ですが、夢が現実に飲まれていくような物語でした。ポール・トーマス・アンダーソン監督の『インヒアレント・ヴァイス』(2014年)は1970年、夢のあとの怠惰と、華やかな残り香をわずかに感じさせます。

『サマー・オブ・ソウル(あるいは、革命がテレビ放映されなかった時)』© 2021 20th Century Studios. All rights reserved.

きっとこの感じが、時代のムードだったと僕は考えてる。既存社会からドロップアウトしようとする理想の殷賑と敗北、そしてその続き。こういったアメリカのカルチャーの表のお話は主に、社会的に恵まれた白人たちによるムーヴメントでした。

では同じ時代、その裏側(にされてしまっていた)アメリカの黒人たちは、どう生きてきたのか?

『サマー・オブ・ソウル(あるいは、革命がテレビ放映されなかった時)』© 2021 20th Century Studios. All rights reserved.

アーティストよりもオーディエンス

彼らが置かれてきた立場に端を発し、しかし「アメリカは間違っていた!」みたいな直接的な告発の手段ではなく芸術作品として美しいストーリーを描く映画が、近年とっても多い。ざっくり60年代から70年代にかけてだけでも、以前紹介した『あの夜、マイアミで』(2020年)もそうだし、『グリーンブック』(2018年)や『ドリーム』(2016年)、そして『ビールストリートの恋人たち』(2018年)は1970年代を舞台に普通の男女を丁寧に映していました。アレサ・フランクリンのゴスペルライブフィルム『アメイジング・グレイス/アレサ・フランクリン』(2018年)は1972年撮影。『メイキング・オブ・モータウン』(2019年)もありましたね。とにかくいっぱいある!

本作『サマー・オブ・ソウル』も単なるコンサートフィルムではなく、今回こういったラインナップに連なる作品として映画化されたと思われます。

『サマー・オブ・ソウル(あるいは、革命がテレビ放映されなかった時)』© 2021 20th Century Studios. All rights reserved.

名だたるアーティストの素晴らしいパフォーマンスをたくさん見られますが、当時現場に居合わせたオーディエンスや出演者のインタビュー、開催に至るまでのバックストーリーもしっかり見せてくれる映画です。「このフェスティバルはどういう社会的現象だったのか」が分かる。というか、比重がけっこう分かりやすくそっちに置かれている感じです。アーティストよりもオーディエンス、市井の人々を描こうとしたところに、地下に眠っていたフィルムを映画化させようとした人たちの意思が感じられる。僕が一番グッときたのはそこ。

『サマー・オブ・ソウル(あるいは、革命がテレビ放映されなかった時)』© 2021 20th Century Studios. All rights reserved.

ライブはやはりスライがやばい。大好き。攻撃的で懐の深いダンスミュージック。本当に素晴らしい。今回はちょっとそれっぽい感じで、劇中でも最高だった「Everyday People」冒頭の歌詞でこの記事を終わりにします。音がいいところで見た方が絶対いいので、ぜひ劇場で!

『サマー・オブ・ソウル(あるいは、革命がテレビ放映されなかった時)』© 2021 20th Century Studios. All rights reserved.

僕は正しいし、間違ってたりもします
信条は歌に込めてます
お肉屋さん、銀行員、ドラマーとか
どこに居るかで、違いはないです
僕はエブリデイ・ピーポー(ふつうの人間)
イエイ、イエイ

文:夏目知幸

『サマー・オブ・ソウル』は2021年8月27日(金)より全国公開

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『サマー・オブ・ソウル』

ウッドストックと同じ1969年の夏、160キロ離れた場所で、もう一つの歴史的フェスティバルが開催されていた。30万人以上が参加したこの夏のコンサートシリーズの名は、“ハーレム・カルチュラル・フェスティバル”。このイベントの模様は撮影されていたが、映像素材はその後約50年も地下室に埋もれたままになっていた。誰の目にも留まることなく――今日この日まで……

才気に満ち溢れた若きスティーヴィー・ワンダーの勇姿、1年前に非業の死を遂げたキング牧師に捧げる、ゴスペルの女王マヘリア・ジャクソンとメイヴィス・ステイプルズの、会場を異次元に導く歴史的熱唱、ウッドストックでもベスト・アクトの一つと称された当時人気絶頂のスライ&ザ・ファミリー・ストーンの圧巻のパフォーマンス、そして後世に語り継がれ、聴くものの人生を変えたニーナ・シモンのメッセージ……

この約50年間、ほぼ完全に未公開だったことが信じられない、音楽の頂点を極めた貴重すぎる全てのシーンがハイライトと言える。この2021年に世に出るべくして出た、今年最も心躍り、感動的かつ重要な、時空を超えた最高のドキュメント!

制作年: 2021
監督:
出演: