『007』シリーズ24作&番外編一挙放送!『ノー・タイム・トゥ・ダイ』以降も続く“ブロッコリ一族”の影響力

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ライター:谷川建司
『007』シリーズ24作&番外編一挙放送!『ノー・タイム・トゥ・ダイ』以降も続く“ブロッコリ一族”の影響力
『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』© 2021 DANJAQ, LLC AND MGM. ALL RIGHTS RESERVED.

気分はまだまだ『007』

ダニエル・クレイグがジェームズ・ボンドを演じる最後の作品『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』(2021年10月1日公開)の出来がすこぶる良い。その背景として、バーバラ・ブロッコリとマイケル・G・ウィルソンという二人のプロデューサーの指向性の違いからくる緊張関係が、事実上の三人目のプロデューサーとしてジェームズ・ボンド像を完結させたダニエル・クレイグの存在によって、ほどよいバランスに保たれたことがありそうだ。

※注意:『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』の内容に触れています

クレイグ版の5部作は初期『007』シリーズへの原点回帰の道のりだった!

五代目ジェームズ・ボンドを演じたピアース・ブロスナンの時代まで、『007』シリーズではMやミス・マネーペニー、Qなどのレギュラー登場人物を除くと毎回独立した物語だったものが、クレイグ版の5作品では基本的に話が全部続いているのが特徴だ、という人がいる。――だが、それは実は間違いだ。

『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』© 2021 DANJAQ, LLC AND MGM. ALL RIGHTS RESERVED.

以前、このコラムでも書いたが、最初のボンド・ガールであるシルヴィア・トレンチ(ユーニス・ゲイソン)は、『007は殺しの番号(『007/ドクター・ノオ』)』(1962年)で真っ赤なドレスに身を包んでカジノで登場し、ショーン・コネリーに「マイネーム イズ ボンド。ジェームズ・ボンド」と名乗らせると、情事を期待してホテルの彼の部屋で待つ(ゴルフのパッティングの練習をしながら)。だが、ボンドはすぐにジャマイカに出張しなくてはならず、ドクター・ノオを倒したのち、半年後にようやくシルヴィアと湖畔でのランデブーにしけこんでいたところを再びMに呼ばれ、ロシアの女スパイ=タチアナ・ロマノヴァについて新たな指令を受ける、というのが『007/危機一発(『007/ロシアより愛をこめて』)』(1963年)の本筋に入る流れだった。シルヴィアは二度にわたってボンドとの情事を成就させることができないのだが、要は最初の二作品では物語は続いていたということ。

クレイグ版の5作品では基本的にすべて話は続いているが、特に『007/カジノ・ロワイヤル』(2006年)のラストシーンから始まるのが、続く『007/慰めの報酬』(2008年)だった。そして『007/スカイフォール』(2012年)のラストで改めてその存在が言及されたボンドの宿敵ブロフェルドとの闘い、『カジノ・ロワイヤル』以来ずっとブロフェルドの部下として登場してきたミスター・ホワイトに「命を守る」ことを誓った娘マドレーヌ・スワン(レア・セドゥ)との間に芽生えた真実の愛と、その悲劇的な結末までを描いたのが前作『007/スペクター』(2015年)と『ノー・タイム・トゥ・ダイ』ということになる。

そして『スペクター』で薄々感じていた、プロデューサーの初期『007』シリーズ――とりわけ『女王陛下の007』(1969年)――への熱い想いが全面的に表に出てきたのが、今回の『ノー・タイム・トゥ・ダイ』なのだ。

『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』© 2021 DANJAQ, LLC AND MGM. ALL RIGHTS RESERVED.

ブロッコリ&サルツマン、2人プロデューサー時代の綱引き関係

初期『007』シリーズが、アルバート・ブロッコリ(愛称はカビー)とハリー・サルツマンの2人のプロデューサーによって作られてきたことはよく知られている。シリーズの人気が頂点に達した第3作『007/ゴールドフィンガー』(1964年)までは二人の共同作業としてシリーズの基礎が固められた時期で、続く第4作『007/サンダーボール作戦』(1965年)は後に泥沼の法廷闘争を繰り広げることになる第三のプロデューサー、ケヴィン・マクローリーと伍していくために元々のプロデューサーであるブロッコリ&サルツマンは結束している必要があった。

問題は『007は二度死ぬ』(1967年)から、三代目ボンド=ロジャー・ムーアの2作目『007/黄金銃を持つ男』(1974年)までの5作品では、1作ごとにブロッコリ主導とサルツマン主導で交互に製作することにより、シリーズの方向性について微妙に志向の異なるプロデューサー間の“綱引き”が行われた。具体的には、第5作『007は二度死ぬ』、第7作『007/ダイヤモンドは永遠に』(1971年)、第9作『黄金銃を持つ男』の奇数作がブロッコリ、第6作『女王陛下の007』、第8作『007/死ぬのは奴らだ』(1973年)の偶数作がサルツマン主導による作品だ。

このラインナップを見るとテイストの違いは明らかで、ブロッコリが常に大仕掛けの派手めの作品を好むのに対して、サルツマンはよりイアン・フレミングの原作に近い、人間としてのボンドが己の肉体で戦う方向に引き戻そうとしていた。だがサルツマンは『黄金銃を持つ男』のプレミア直後に、自身の資金的な問題からプロデューサーとしての権利をユナイテッド・アーチスツに売却してシリーズから手を引くと、その直後にブロッコリ単独で製作した『007/私を愛したスパイ』(1977年)がシリーズ最大のヒットを記録。次作はブロッコリ好みの派手さがほとんどSFにまで行きついた『007/ムーンレイカー』(1979年)ということになった。

ブロッコリの二人の子供たち:マイケルとバーバラによる次世代『007』シリーズ

アルバート・ブロッコリは四代目ボンド、ティモシー・ダルトンの2作品までで現役を引退。以後はブロッコリの後妻の連れ子であるマイケル・G・ウィルソンと、後妻との子であるバーバラ・ブロッコリの異父兄妹が二人三脚で『007』シリーズを引き継いで今日に至るのだが、バーバラよりも18歳年長のマイケルは、早くも『ムーンレイカー』から製作総指揮としてクレジットされている。だが、実際にはこの時はまだ見習いで、続く『007/ユア・アイズ・オンリー』(1981年)からの5作品が(まだ義父アルバートが製作としてクレジットされてはいるものの)、実質的なマイケル主導作品であることは明らかだ。マイケルは、このロジャー・ムーアの最後の3作品とティモシー・ダルトンの2作品すべての脚本も務めている。

そのマイケルの目指していたのが、実はハリー・サルツマンと同じ方向性だったことは、5作品のテイストを見るとよくわかる。とりわけ、初めて彼が全面的に取り組んだ『ユア・アイズ・オンリー』では、ロジャー・ムーアのボンドは断崖をよじ登り、スキーでのアクションなど己の肉体を駆使して戦う。そしてプレタイトル・シークエンスでは、亡き妻トレイシーの命日にバラの花束を持って墓参りをしてからヘリコプターに乗ったところを、首にムチ打ち症のコルセットを付けたブロフェルドっぽい車椅子の人物(ケヴィン・マクローリーとの訴訟中で、まだブロフェルドの名前は使えなかった)に襲われるという、『女王陛下の007』の直接的な続きが示されていた。『ユア・アイズ・オンリー』からの5作品すべての監督を、『女王陛下の007』の第二班監督だったジョン・グレンに任せていることにも明確な意思が感じられる。

五代目ボンド、ピアース・ブロスナンの登場と共に異父妹バーバラがプロデューサーに入ると、父親譲りの派手好みの映画作りを志向するバーバラと、原点回帰のリアリズム志向のウィルソンとの間で、常に綱引きが行われている感があった。その極めつけが、プレタイトル・シークエンスで北朝鮮の捕虜となって数か月に及ぶ拷問を受け、所属する英国秘密諜報部MI6からも見放されるというシリアスな設定で始まりながら、後半にはボタン一つで透明化するボンドカーというSFっぽい秘密兵器が登場するなど、ちぐはぐ感の強かった『007/ダイ・アナザー・デイ』(2002年)ということになる。

『スペクター』と『ノー・タイム・トゥ・ダイ』の二部作が目指したもの

さて、話はダニエル・クレイグ版ボンドの5作品に戻る。『カジノ・ロワイヤル』に始まるクレイグ版が、基本的にスケールの大きさとド派手なアクションシーンというバーバラ流の派手好みを充足させながらも、父アルバートの時代にややもすると陥りがちだった荒唐無稽なSFっぽい展開を徹底的に排除し、かつ5作品を通じて人間ジェームズ・ボンドの人間的成長、その悩み、葛藤といった生身の人間としてのボンド像という、マイケル・G・ウィルソンの方向性のハイブリッドとして成功したことは明らかだろう。これは、共同制作としてクレジットされているダニエル・クレイグが事実上の3人目のプロデューサーとして、バーバラとマイケルの綱引きに対してほどよいバランスを保つことに力を発揮したと筆者は見ている。

その上で、最後の二部作『スペクター』と『ノー・タイム・トゥ・ダイ』を考えると、かねてよりマイケルが「シリーズの中の最高傑作だと思う」と公言していた『女王陛下の007』に捧げた作品と言ってよい立ち位置だったことがわかる。

先ず、悪役側が未知の殺人ウイルスを使って世界征服を成し遂げようとするプロットである点(『女王陛下の007』ではブロフェルド、今回はブロフェルドの組織スペクターを壊滅させたドクター・ノオっぽい悪役サフィンという違いはあるが)。次に、ボンドが真実の愛を構築する相手が、初めは敵側だったもののボンドに娘のことを託す犯罪組織の大物の娘であるという点(前者ではマルク・ドラコの娘トレイシー、後者ではミスター・ホワイトの娘マドレーヌ・スワン)だ。もちろん、ボンドの愛が悲劇的な結末で終わるというドラマチックな展開も合わせ鏡のように同じである。

ほかにも、ボンドが愛する人/のちに愛することになる人を救出すべく乗り込む場所というのが、雪深いアルプスの山頂にある建物で、アクセスはロープウェイに頼るという点(前者ではブロフェルドのアジト、後者では『スペクター』でマドレーヌが隠れるように勤務しているセラピー施設)も同じ。そして『ノー・タイム・トゥ・ダイ』で最後のミッションを遂行すべくサフィンの秘密プラントのある島に潜入したボンドの様子を、QやMがGPSによる地図上の位置表示だけで見守るというシーンがある。ここでのボンドの位置を示すマークは海の神ポセイドンが持つトライデント(三又銛)マークだが、これも『女王陛下の007』のタイトル・シークエンスで印象的に示されていたマークへの言及だ。トライデントは『ノー・タイム・トゥ・ダイ』のタイトル・シークエンスにも出てくるが、ほかにも先端がスペードのマークのようになった時計の針という『女王陛下の007』と共通のモチーフも使われている。

シリーズ全25作品を通じて、ジェームズ・ボンドのテーマ以外で同じ曲が使われたことも最後の二部作が初めてのことだ。すなわち『スペクター』では本予告編で『女王陛下の007』のメイン・テーマが使用され、『ノー・タイム・トゥ・ダイ』では『女王陛下の007』でルイ・アームストロングの唄った「愛はすべてを超えて(We Have All the Time in the World)」が映画を通じて挿入歌となっていて、ボンドとマドレーヌが最後に言葉を交わすシーンでも「もっと時間があればいいのに」というマドレーヌに対するボンドの答えは「We Have All the Time in the World」なのである。――要は、この最後の2作品そのものが『女王陛下の007』に捧げた作品、というのが筆者の見立てなのだ。

二代目レーゼンビー降板の真相、そして七代目ボンドの行方は?

最後にもう一点だけ、誤って語られがちな点を指摘しておきたい。『女王陛下の007』でボンド役を演じたジョージ・レーゼンビーは評判が悪かったから1本限りで役を下ろされ、前任者のショーン・コネリーに再びオファーがなされた、という都市伝説があるが、これはもちろん正しくない。

作品公開前のレーゼンビーを世界中のプレスがコネリーと比較して過小評価していたことと、撮影中のレーゼンビーがトラブルメーカーだったことは紛れもない事実だが、『女王陛下の007』は期待値をはるかに上回る興行成績(1969年の世界の興行成績では『明日に向って撃て』に次ぐ第2位)を残し、レーゼンビーの演技も作品の評価も高かった。だが、アルバート・ブロッコリとハリー・サルツマンが“ボンド役は引き続き彼に”と検討するよりも前に、レーゼンビー自身が「自分がボンドを演じるのはこの1本だけ」とプレスに発表していた、というのが真相だ。……そして、その理由というのは、長髪の主人公たちによる「『イージー・ライダー』(1969年)が世界を席巻している今、短髪の秘密諜報員が活躍するなんて映画は時代遅れだ」というものだった。

『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』の劇中、ジェームズ・ボンドの後任の00エージェントとして黒人女性ノーミ(ラシャ―ナ・リンチ)が登場する。そこから発生したと思われる憶測記事に、次作以降の『007』シリーズは黒人女性が主人公に決定というものがあったが、それはあり得ないだろう。若い観客を掴むことに熱心なバーバラ・ブロッコリなら考えそうな筋書きではあるが、筆者を含めて古くからのシリーズのファンから拒絶されることは目に見えている。本作のエンドクレジットの最後に記されていたのが「007 will return」ではなく「James Bond will return」だったのは、79歳になったマイケル・G・ウィルソンが、来るべき自身の死後に異父妹バーバラが主人公をJane Bondに変えたりするようなドラスティックな変革を模索することへ予め釘を刺していた……と見たが、どうだろうか。

『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』© 2021 DANJAQ, LLC AND MGM. ALL RIGHTS RESERVED.

文:谷川建司

『007』シリーズ24作品+番外編はCS映画専門チャンネル ムービープラスで2021年12月1日より一挙放送中
『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』は2021年10月1日(金)より公開中

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『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』

ボンドは00エージェントを退き、ジャマイカで静かに暮らしていた。しかし、CIAの旧友フィリックスが助けを求めてきたことで平穏な生活は突如終わってしまう。誘拐された科学者の救出という任務は、想像を遥かに超えた危険なものとなり、やがて、凶悪な最新技術を備えた謎の黒幕を追うことになる。

制作年: 2020
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