30歳目前、脳内に響く焦りの針音! Netflix『tick, tick… BOOM!:チック、チック…ブーン!』 亡き天才作曲家の自伝的ミュージカル

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ライター:斉藤博昭
30歳目前、脳内に響く焦りの針音! Netflix『tick, tick… BOOM!:チック、チック…ブーン!』 亡き天才作曲家の自伝的ミュージカル
Netflixオリジナル作品『tick, tick...BOOM! : チック、チック…ブーン!』独占配信中

早逝の天才ジョナサン・ラーソン

ジョナサン・ラーソン。その名前を聞いたとき、ミュージカルが好きな人なら心のどこかで、切なさを伴った感情が湧き上がるかもしれない。

 

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1996年、ブロードウェイのトニー賞で、ミュージカル作品賞など10部門を制覇した名作「レント」。その後、日本でも何度も上演され、2005年には映画化もされた(『RENT/レント』)。この作品が画期的だったのは、NYに暮らす若者たちの夢と厳しい現実に、ドラッグやHIV、セクシャルマイノリティ、人種のマイノリティというトピックを盛り込んだロック・ミュージカルという点。そして多くの人の記憶に刻まれたのは、作詞・作曲・脚本、つまり作品をクリエイトしたジョナサン・ラーソンが、プレビュー公演の前夜に亡くなった事実だ。作り手が、自作の大成功を見届けられなかったのである。

ミュージカルを愛する人には、ある種“伝説”となったジョナサン・ラーソンが、「レント」の前に発表した作品が「tick, tick…BOOM!」。ラーソンの自伝的なストーリーであり、「レント」ほど広く知られてはいないが、その原点として途轍もない彼の才能がみなぎっており、待望の映画化として再生されたのである。

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リン=マヌエル・ミランダの溢れ出る「レント」リスペクト

映画『tick, tick… BOOM! : チック、チック…ブーン!』の物語は、ラーソンが世に送り出そうとする革新的ミュージカルを、上演にこぎつけるためにワークショップを開くというもの。自作の曲の数々をブロードウェイの有力者などを招いて“プレゼン”するわけである。そのワークショップまで、あと数日なのに、ポイントとなる曲が完成しない。しかもラーソンは、30歳が目前。20代でミュージカル界で成功するという夢まで、残された時間はわずか。時計の秒針がチクタクと鳴っている音が、作品のタイトルになっている。

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このワークショップまでの過程に、ラーソンと恋人や友人たちとのドラマチックな関係も絡んでいくのだが、それらのエピソードがワークショップ作品の曲とシンクロしたりする。ゆえにドラマの合間に突然、歌が出てくるのが、かなり必然的。ミュージカル作品としての違和感は限りなく少ない。しかも「レント」を観た人ならご存知のとおり、ラーソンが作る曲はメロディがキャッチーでエネルギッシュ。一度聴いただけで耳に残りやすいし、シンプルに観ているこちらの本能を刺激する。最初のナンバーである「30/90」(30歳になる焦りをぶつけた曲)から全開スロットルで、一気に引き込まれてしまう。ミュージカル作品としては、最高の“つかみ”!

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さらに本作がミュージカル好きに強くアピールするのは、リン=マヌエル・ミランダがメガホンをとったこと。映画化もされた「イン・ザ・ハイツ」、そしてブロードウェイで大ヒットした「ハミルトン」の作り手で、現在、ミュージカル界のトップクリエイター。そのミランダが、高校生の時に観てミュージカルの道を志したきっかけとなったのが「レント」であり、彼自身、最初の作品までの道のりが険しかったので、ラーソンの思いを完璧に共有しながらこの映画を作ったことが、観ていてもよくわかる。

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曲と日常のドラマのシンクロや、シーンとシーンの切り替え、テンポのよい編集など、あらゆる演出に、ミランダがこれまでミュージカル作品で培い、体得したテクニック、そしてスピリットがみなぎっており、彼の映画初監督ながら、ミュージカル映画としてこれほど没入感の高い作品は近年でも珍しい。

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劇中には、ラーソンとスティーヴン・ソンドハイムの関係も描かれる。ソンドハイムといえば、ブロードウェイのレジェンド中のレジェンド。『スウィーニー・トッド フリート街の悪魔の理髪師』(2007年)や『イントゥ・ザ・ウッズ』(2014年)の曲を手がけたソンドハイムは現在91歳。ラーソンが35歳で世を去ったことを考えると、なんとも切ない。ソンドハイムが27歳で「ウエスト・サイド物語」の作詞を担当したという事実がラーソンに“30歳まで”の目標を与えたわけだが、この超名作が、60年以上を経て2021年、映画として再生されたのも運命的だ。

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さらにレジェントいえば、チタ・リヴェラ、ジョエル・グレイ、ベベ・ニューワース、バーナデット・ピータースという国宝級のスターたちが『tick, tick…BOOM!』に特別出演。「レント」のブロードウェイ・オリジナルキャストまでが登場し、ミランダのミュージカル愛、そしてラーソンと「レント」へのリスペクトは限界突破の状態である。

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非ミュージカル層にも訴えかける普遍的なテーマ

『tick, tick…BOOM!』の舞台は1990年のNYで、当時ブロードウェイにはエイズの脅威が襲いかかっていた。そんな状況も描かれ、これは2021年の新型コロナウイルスの状況と偶然にもリンクする。

このエイズをテーマにしたブロードウェイの名作(ストレート・プレイ)が「エンジェルズ・イン・アメリカ」2部作で、第1部の初演が1991年、第2部が1992年と、『tick, tick…BOOM!』の時期と重なるが、この「エンジェルズ・イン・アメリカ」の2018年の新演出版に出演し、トニー賞演劇主演男優賞を受賞したのが、アンドリュー・ガーフィールド。リン=マヌエル・ミランダ監督は、この舞台のガーフィールドを観て、ミュージカル経験がないにもかかわらず、彼にラーソン役を託したという。実際にガーフィールドの歌唱は申し分ないうえ、夢と私生活の狭間で悩みつつ、溢れる才能を抑えきれない役どころで、共感を誘う名演技を披露している。

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この共感が重要なポイントで、一見、ミュージカルマニア向けな『tick, tick…BOOM!』は、意外なほどあらゆる層にアピールするのではないか。人生に多くの疑問を抱きつつ、次のステップに挑むという普遍的なテーマが、クライマックスで一気にせり出してくる。観ているこちらは、ラーソンの苦闘とその結果を自分と重ね合わせ、幸せな気分になったり、ホロ苦さに胸を締めつけられたりする。つまり「映画」としてのマジックも完璧だ。

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名作「レント」が作られたプロセスは直接的に描かれないものの、そこに至る経緯は『tick, tick…BOOM!』から十分に受け取ることができる。そしてその先、つまりジョナサン・ラーソンが長い人生を送ることができていたら、どれだけの名作を量産したであろうと、広がる想像力が涙腺を刺激する。ラーソンが叶えられなかった夢を、代わりに実現し続けようとするリン=マヌエル・ミランダの覚悟と使命感も手にとるように伝わってきて、その涙腺は決壊しながら、エンドロールを眺めることになるのである。

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文:斉藤博昭

『tick, tick… BOOM! : チック、チック…ブーン!』は2021年11月12日(金)より劇場公開、11月19日(金)よりNetflixで配信

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『tick, tick... BOOM! : チック、チック…ブーン!』

一流のミュージカル作曲家を目指す青年。30歳に向けてカウントダウンが始まるなか、恋や友情の悩み、最高の作品を作りたいという焦りに直面してゆく。

制作年: 2021
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