• BANGER!!! トップ
  • >
  • 映画
  • >
  • 名曲メモリーの吹替はJ・ハドソン越えの神レベル!プロダンサーの超絶技巧にも魅了される映画『キャッツ』

名曲メモリーの吹替はJ・ハドソン越えの神レベル!プロダンサーの超絶技巧にも魅了される映画『キャッツ』

  • Twitter
  • LINE
  • Facebook
ライター:#斉藤博昭
名曲メモリーの吹替はJ・ハドソン越えの神レベル!プロダンサーの超絶技巧にも魅了される映画『キャッツ』
『キャッツ』© 2019 Universal Pictures. All Rights Reserved.

チャレンジングな映画化に拍手! リアリティを超越した映像を名曲が彩る

観客にとって“舞台”の作品と“映画”の作品は、どのように受け止め方が変わるのか? もちろん人にもよるけれど、意外に映画の方がリアリティを要求してくる気もする。生身の人間が目の前で演じているにもかかわらず、舞台は観客にとって「異世界」という感覚が強い。現実にはありえない状況やセリフ回しも、すんなりと受け入れられたりする。一方で映画は、画面の中の世界なのに、そこでリアリティが少なかったり、大げさな表現だったりすると、興ざめする可能性が高い。不思議なものである。

『キャッツ』© 2019 Universal Pictures. All Rights Reserved.

そう考えると「キャッツ」という作品は、ミュージカルの中でも圧倒的に舞台向きである。人間と猫が一体化したキャラクターが歌って踊る。そこに人々は熱狂し、感動する。同じことを、実写映画というリアリティを要求される世界で表現することは、至難の業(わざ)だ。その意味で、今回の映画版『キャッツ』(2019年)は、「よくぞ挑戦した」という感慨がある。俳優の顔と(ほぼ)肉体を生かし、猫に変身させるとしたら、これしかないというルックス。たしかに最初は違和感はあるものの、いつしか舞台の「キャッツ」を観ているように、実写に必要なリアリティを考えなくていい気分に誘われていく。

『キャッツ』© 2019 Universal Pictures. All Rights Reserved.

改めて「キャッツ」の偉大さを認識させられるのは、アンドリュー・ロイド=ウェバーによる曲の数々。有名な「メモリー」以外にも、独創的でありながら耳に素直に入ってくるという、ミュージカルにとって理想のメロディが、ここにある。ロイド=ウェバーは1981年の「キャッツ」から、1986年の「オペラ座の怪人」あたりがキャリアの最盛期。今回、映画版に加えられた新曲「ビューティフル・ゴースト」も突出しすぎず、他のナンバーになじんでいる。

映画版も“本物”の超絶技巧! 最高レベルのダンサーに注目

映画版『キャッツ』での大きな改変は、オリジナルの舞台では脇役だった猫のヴィクトリアをメインにしたこと。ジェリクルキャッツ(※Jellicle=Jewelry+Miracle)の世界に入ってくる新たな捨て猫という設定なので、観客も彼女の目線で導かれる。そのヴィクトリアと、彼女を誘うマンカストラップをそれぞれ、英国ロイヤルバレエのフランチェスカ・ヘイワード、元ニューヨーク・シティ・バレエのロビー・フェアチャイルドという、最高レベルのダンサーが演じているので、猫の動きの美しさには冒頭から魅了されるだろう。

尻尾の動きなどにCGが加えられているが、基本的にダンスは「本物」。素直に超絶技巧に目を奪われたい。多くの猫たちが入り乱れるジェリクルボールのシーンや、やはりロイヤルバレエのスターであるスティーヴン・マックレーのスキンブルシャンクス(鉄道猫)のタップは、ミュージカルらしい盛り上がりを体感させてくれる。

日本語吹替版のハマり具合は嬉しい驚き! オリジナル超えキャストも?

『キャッツ』日本語吹替キャスト(左上から)山寺宏一、浦嶋りんこ、RIRI、 宮野真守、沢城みゆき、山路和弘、宝田明

そして、この映画版では意外なまでに日本語吹替版が作品にマッチしているのだ。もともと人間の俳優が猫に化す「違和感」が特徴の『キャッツ』。通常の映画の場合、日本語吹替はある程度、違和感が生じるものだが、最初から「違和感」がある世界なので、まったく気にならない。劇団四季の舞台に慣れた人は、むしろ吹替版の方がしっくりくるかも(四季版からの歌詞の変化も楽しめる)。吹替版キャストのハマり具合、歌唱力も申し分ない。

『キャッツ』© 2019 Universal Pictures. All Rights Reserved.

たとえば、ガスはイアン・マッケランの名優らしい哀愁漂う表情に、宝田明の味わいが絶妙にブレンドされ、これぞ吹替版の醍醐味。そしてグリザベラに大抜擢された高橋あず美の「メモリー」は、英語版のジェニファー・ハドソンを超えるドラマチックなボーカルで、吹替であることを忘れる神レベルの仕上がり。はっきり言って、この「メモリー」を聴くためだけに劇場へ行ってもいいほどだ。

近年のミュージカル映画は『シカゴ』(2002年)や『オペラ座の怪人』(2004年)、『レ・ミゼラブル』(2012年)のように歌がなくても物語自体がドラマチックなパターンと、『マンマ・ミーア!』(2008年)や『グレイテスト・ショーマン』(2017年)など展開や人物描写にツッコミどころがあっても、歌とダンス優先でアピールするパターンに大きく分かれる。

『キャッツ』© 2019 Universal Pictures. All Rights Reserved.

『キャッツ』は明らかに後者なので、きらびやかで、少し時代がかったロンドンの風景も含め、目と耳でシンプルに「愛でる」ミュージカルとして受け入れればいいのではないだろうか。そして日本の劇団四季版はもちろん、NY、ロンドンで舞台を観た人たちは、どのように映像化されたのかを「確認」し、記憶を追体験するという意味でも必見なのである。

文:斎藤博昭

『キャッツ』は2020年1月24日(金)より全国ロードショー

Share On
  • Twitter
  • LINE
  • Facebook

『キャッツ』

満月が輝く夜。若く臆病な白猫ヴィクトリアが迷い込んだのは、ロンドンの片隅のゴミ捨て場。そこで出会ったのは個性豊かな“ジェリクルキャッツ”たち。

ぐうたらな猫、ワイルドな猫、お金持ちでグルメな猫、勇敢な兄貴肌の猫、不思議な力を持つ長老猫………様々な出会いの中でヴィクトリアも自分らしい生き方を見つけていく。

そして今宵は新しい人生を生きることを許される、たった一匹の猫が選ばれる特別な夜。
一生に一度、一夜だけの特別な舞踏会の幕が開く―

制作年: 2019
監督:
出演: