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最恐の福祉映画を発掘上映! 巨匠ジョージ・A・ロメロが“本気”を出しすぎた怪作『アミューズメント・パーク』

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ライター:#多田遠志
最恐の福祉映画を発掘上映! 巨匠ジョージ・A・ロメロが“本気”を出しすぎた怪作『アミューズメント・パーク』
『アミューズメント・パーク』©2020 George A. Romero Foundation, All Rights Reserved.

連綿と受け継がれるロメロの意匠

ジョージ・A・ロメロと言えば、『ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド』(1968年)や『ゾンビ』(1978年)など、ゾンビ映画の祖として知られる。ブードゥー教で呪術師に操られる死体ではなく、今多くの映画やTVドラマ、ゲームまであらゆるメディアを席巻する「現代の」ゾンビを生み出した映画監督である。

それ以降も『死霊のえじき』(1985年)や『ランド・オブ・ザ・デッド』(2005年)などゾンビホラーを数多く作っているロメロは、日本とも関わりが深く、ゾンビゲームの草分け的存在である「バイオハザード2」のCMを監督したりもしているのだ。

大ヒット戦争ゲーム「コール オブ デューティー」には、ゾンビモードがおまけで付いてくるのが常で、大抵はナチスが超科学で死者を蘇らせ……という独立したモードで、熱狂的なファンが存在する。シリーズ7作目「〜ブラックオプス」(2010年)では追加マップ「Call of the Dead」に、なんとロメロ本人がラスボスとして登場した。さすがゾンビ生みの親だけに、大変プレイヤーを苦しめた。ちなみにこの作品はプレイヤーキャラも『エルム街の悪夢』(1984年)のフレディでおなじみロバート・イングランドや、『フロム・ダスク・ティル・ドーン』(1996年)のダニー・トレホを兵士として使用可能と、かなりジャンル映画ファンへのサービスに満ちた内容だ。。

かように「ロメロと言えばゾンビ」と思われていたわけだが、ロメロ自身は果たしてそれをどう思っていたのであろうか。本人は『ナイト〜』で有名になったものの、実はあまりホラーに対して強いこだわりを持っておらず、むしろ他のジャンルにも挑戦したがっていたのだ。

2021年、ロメロの初期作品がリバイバル公開されたり、埋もれていた幻の作品が日の目を見たりしている。それらを今改めて見返してみると。随所にある「ロメロらしい」要素に気づかされる。

『アミューズメント・パーク』©2020 George A. Romero Foundation, All Rights Reserved.

ゾンビ以上に絶望と暗さが全編を覆う『ザ・クレイジーズ』

『ナイト〜』のあとは様々なドラマなど、非ホラー作品も手がけるようになっていったロメロ。シニカルなホームドラマ『There’s Always Vanilla(原題)』(1971年)、平凡な主婦が悪魔崇拝サークルにはまっていく『悪魔の儀式』(1972年)など、しかしどれも興行的にはうまくいかなかったり、評価されなかった。

『ザ・クレイジーズ』(1973年)は、そのころ作られた。『ナイト〜』と『ゾンビ』の過渡期に作られた、また別の世界の終わりを描いた作品である。

『ザ・クレイジーズ』©1973 PITTSBURGH FILMS.ALL RIGHTS RESERVED.

片田舎の町にある日、未知の伝染性の疫病が流行する。隔絶する町には普通なら政府から支援の手がさしのべられるはずだが、現れたのは住人を救うためではなく、証拠隠滅のため街ごと消そうと送り込まれた秘密特殊部隊だった………。

『ザ・クレイジーズ』©1973 PITTSBURGH FILMS.ALL RIGHTS RESERVED.

除染服ライクな白い服に身を包んだ部隊は、ガスマスクで顔も見えず台詞もロクになく、不気味の一言である。コミュニケート不能なところが、ゾンビと共通しているかもしれない。何よりも都合の悪い真実であるからと、個々人のささやかな生活が国家の都合で握りつぶされていく……。その非情さに、より焦点が当てられている。

『ザ・クレイジーズ』©1973 PITTSBURGH FILMS.ALL RIGHTS RESERVED.

死者が満ちあふれていても、なにか終わらない夏休みのようなパラダイス感のある『ゾンビ』とは異なり、絶望と暗さが全編を覆っている。国家ぐるみの陰謀をサスペンスやアクションではなく、ホラー文脈で描いているのは他には類を見ないだろう。

そう考えると、人種問題など社会問題(当時のベトナムや黒人たちの公民権運動等々)も含んでいた『ナイト〜』により近く、リベラルなロメロの信条を如実に表している一本だ。

『ザ・クレイジーズ』©1973 PITTSBURGH FILMS.ALL RIGHTS RESERVED.

この作品は、撮影現場のペンシルバニアの住人をかなり起用しており、白衣の兵士を高校生が演じたり、消防士などがスタントを務めている。それが極限的状況に踏みにじられていく日常風景をよく表している。

ロメロがもっとも愛した自信作『マーティン/呪われた吸血少年』

前述の通り『ナイト〜』は成功したものの、ロメロ本人はホラーに対してあまり情熱を持っておらず、距離を置きたがっていた。そんな彼をホラーの道に踏みとどまらせた作品、それが『マーティン/呪われた吸血少年』(1977年)である。

『マーティン/呪われた吸血少年』©1977 MKR Group Inc.

自身の中に“吸血鬼”願望を持つ少年を待ち受ける運命、という内容であるが、オリジナルの脚本ではマーティンはもっと年上で、現代社会に適応しようともがくリアルな吸血鬼の印象が強い。しかしロメロは、主演のジョン・アンプラスのみずみずしさに惹かれ、彼のキャラクターに合わせてマーティンの造形をより若く、純粋なキャラクターに書き換えた。

『マーティン/呪われた吸血少年』©1977 MKR Group Inc.

このように、ロメロは脚本から現場で変更するのが得意で、『ナイト〜』も主人公を黒人に変更したことで、映画当時の人種間闘争も想起させる社会的な作品となった。『マーティン』もこの変更により、当時としてはまだ珍しい青春ホラーの逸品になった。『アイ・アム・レジェンド』(2007年)などで知られるリチャード・マシスンが書いた短編小説を原作に、吸血鬼にあこがれる少年を描いた「ドラキュラの息子」をも想起させる、ロメロにとって自作の中でもっともお気に入りの作品である。

『マーティン/呪われた吸血少年』©1977 MKR Group Inc.

また、本作の成功でホラーの製作にも前向きになり、『ゾンビ』で最大の収益をあげ、「マスター・オブ・ホラー」とまで呼ばれるようになるのだから、やはり『マーティン』はロメロ史の中で転換点的な作品である。

『マーティン/呪われた吸血少年』©1977 MKR Group Inc.

ちなみに、こちらもロメロの知人が多く出演しており、なかには彼の父母も。トム・サヴィーニは特殊メイクだけでなくスタントも担当。主役のアンプラスは、後に『死霊のえじき』(1985年)のフィッシャー医師役を演じることになる。

福祉団体からの依頼に全力で応えすぎた『アミューズメント・パーク』

そんな才気あふれるロメロ初期作品群だが、これらの作品は『ナイト〜』や『ゾンビ』のロメロ作品ということで、今までもビデオなどで皆の目に触れていた。しかし、もう1本の映画『アミューズメント・パーク』(1973年)は長年その存在さえ知られておらず、最近発掘されたという、まさにロメロの“幻の1本”である。

『アミューズメント・パーク』©2020 George A. Romero Foundation, All Rights Reserved.

14歳から8ミリで映画を撮っていたロメロは、テレビCMや広告を製作する会社を立ち上げ、企業のトレーニング映画などを作っていた。つまり、商業的な映像を作ることで自作への資金につなげようという商才も持っていたのだ。

『アミューズメント・パーク』©2020 George A. Romero Foundation, All Rights Reserved.

人々が楽しみを求めて訪れる遊園地。そこは若者にとっては楽しい場所だが、老人たちにとっては恐怖の場所でしかなかった。詐欺や暴力、スリと、あらゆる方法で金を巻き上げられ、ろくに食事もとれない。バイカーには暴力を振るわれ、アトラクションと称してリハビリ施設に叩き込まれる。若者も安心してはいられない。未来を占うカップルには、老いた2人の末路が水晶玉に映し出される……。

『アミューズメント・パーク』©2020 George A. Romero Foundation, All Rights Reserved.

「社会的に迫害される老人と、彼らへのリスペクトを示すことの大切さを伝えよう」……ルーテル協会という社会福祉団体が、そのようなプロモーションビデオの作成をロメロに依頼したのがきっかけでこの作品は生まれた。

作中の老人の苦境は、社会で彼らを待ち受ける困難や危険の比喩であり、「こうなる前に、社会制度や周囲の手助けを受けてほしい」という、今風にいえば「振り込め詐欺防止映像」的なものをロメロが手がけた、ということなのだろう。

『アミューズメント・パーク』©2020 George A. Romero Foundation, All Rights Reserved.

CM制作のために映像会社を立ち上げ、映画も平行して作っていこうとしているロメロにとって、『アミューズメント・パーク』のような作品はおそらく渡りに船、ではあったのだろう。しかし、こんな悪夢のようなプロモーション映像を渡された団体の困惑は、いかばかりであっただろう。

最後には「老人を大切に」的なメッセージはあるものの、そこまでのロメロ流の“恐怖と絶望の世界”のインパクトが本来のメッセージを遙かに凌駕し、これに恐れをなした協会は本作を封印してしまった。プリントが2017年に見つかり、それが最晩年のロメロの元に届いて、陽の目を見ることになったのだ。

『アミューズメント・パーク』©2020 George A. Romero Foundation, All Rights Reserved.

しかし、そもそもロメロは『赤い靴』(1948年)や『ホフマン物語』(1951年)などの英国のマイケル・パウエル監督作品のような、作り込まれた夢幻の世界に惹かれて映画監督を志している。その幻想的世界への憧れは、悪夢とはいえ、実は見事に『アミューズメント・パーク』に引き継がれているのかもしれない。

もし、あの作品をロメロが撮っていたら……

このようなプロモーション映像を初期に撮っている監督は他にも存在し、ポール・ヴァーホーヴェンは母国のオランダ軍の教則映画『Het korps Mariniers(原題)』(1965年)を作っている。火炎放射や水中特殊部隊等々、各種の軍事訓練をアクション映画さながらに撮っており、彼の後の傑作『ロボコップ』(1987年)『スターシップ・トルーパーズ』(1997年)などを彷彿とさせる。

ロメロは、ユニバーサルでミイラ映画『Before I Wake』を作ろうとしたが企画は頓挫。しかし後に、この企画が『ハムナプトラ』(1999年)へとつながったり、『バイオハザード』(2002年)の監督をする予定もあった、等の様々な没企画の逸話を持つ。

『アミューズメント・パーク』©2020 George A. Romero Foundation, All Rights Reserved.

「もしあの時、こちらの作品を撮っていたら運命は変わっていたはず」という、映画業界ではよくある「もしも」を強く感じさせる映画人の1人であるジョージ・A・ロメロ。今回の初期作品上映は、その可能性に思いを馳せる格好の機会と言えるだろう。

文:多田遠志

『ザ・クレイジーズ』『マーティン/呪われた吸血少年』『アミューズメント・パーク』は2021年10月15日(金 )より新宿シネマカリテほか全国順次公開

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『アミューズメント・パーク』

遊園地で老人が罵られ、大変な目にあう。

制作年: 1973
監督:
出演: