玉袋筋太郎、忘れ得ぬ12歳の歌舞伎町 冒険物語 ~永遠の名作『スタンド・バイ・ミー』にかこつけて~

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ライター:玉袋筋太郎
玉袋筋太郎、忘れ得ぬ12歳の歌舞伎町 冒険物語 ~永遠の名作『スタンド・バイ・ミー』にかこつけて~
『スタンド・バイ・ミー』©1986 COLUMBIA PICTURES INDUSTRIES, INC. ALL RIGHTS RESERVED.

「玉さんの12歳の頃の友達について書いてもらえたら……」と、夏休みも終わりかけのタイミングで『スタンド・バイ・ミー』というベタすぎる編集者様の発注を受けて書く羽目になって、久しぶりにお邪魔した今回!

名画『スタンド・バイ・ミー』については才能あふれすぎる担当編集者におまかせ! 詳細ヨロシク。

『スタンド・バイ・ミー』©1986 COLUMBIA PICTURES INDUSTRIES, INC. ALL RIGHTS RESERVED.

『スタンド・バイ・ミー』(1986年)

12才の夏、誰も大人になんかなりたくなかった――。

1959年、米オレゴン州の小さな町キャッスルロック。文学少年ゴーディをはじめとする12才の仲良し少年4人組は、行方不明になった少年が列車に轢かれて野ざらしになっているという噂を耳にする。この小さな町から出たことのない4人は、遺体を発見すれば一躍ヒーローになれる! と意気ごみ、不安と興奮を胸に未知への旅に出る。そして、たった2日間のこの小さな大冒険が、彼らの心に忘れえぬ思い出を残すのだった……。

ホラーの帝王スティーヴン・キングの短編を原作に、『ミザリー』(1990年)『ア・フュー・グッドメン』(1992年)のロブ・ライナーが監督を務めた青春映画の傑作。かの有名な主題歌はベン・E・キングが1961年に発表した同名曲で、本作に起用されたことにより世界中で再び大ヒットした。

『スタンド・バイ・ミー』Blu-ray
価格:¥2,381+税
発売・販売元:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント

たしかに『スタンド・バイ・ミー』はいい映画だ! 誰しも12歳の頃のあの仲間と、あんな経験あるもんなぁ〜。……って、あるもんかねぇ〜?

そんな名作ほど面白くはないだろうけど、今年54歳になったオレの、12歳の頃の夏のお話――。

12歳の玉ちゃん、歌舞伎町の映画館に徹夜で並ぶ

「君たちぃ、こんな時間に、なんで、こんなところにいるのかなあ〜?」

当時、各メーカーが競って発売していたデジタル時計の時間をオレたちに、わざとらしく見せびらかすように見せながら汗カキカキで職務質問してくる若いおまわりさん。

1979年8月3日、新宿歌舞伎町:深夜1時過ぎ

夜になってもギンギラのネオンの中を行き交う派手な男女、ゲロを吐いている酔っぱらい、強面のポン引き、広場で上半身裸で寝転んでるホームレスたち。まさに「こんな時間に、なんで、こんなところ」にいるのは、12歳のオレ、カッチャン、シミズの3人だ。

おまわりさんが時計を確認したふりをして、オレたちみたいなチ●ポに毛が生え出した頃の少年たちを保護する、というか警官の職務を遂行して自分の手柄にするのだろうという気持ちは、オレたちにはミエミエだった。この頃、麻雀屋をやっていた両親からなんとなく警官の話は聞いていたので、そう考えてしまったのだろう……。

地方訛りで語りかけてくるおまわりさんが腕に巻いている時計よりも高いデジタル時計(セイコー・シルバーウェーブ10気圧防水、シチズン5つの鳴り機能)を腕に巻いてる12歳のオレたち、それは3人あわせて10万円もする代物だった。当時のオレたちからすりゃ、「安いカシオのデジタルで3年持つ電池搭載の安っぽいデジタル巻いてるくせして、子供に見せびらかしてるこいつは田舎っぺだなぁ!」と腹で笑っていた。

しかし、おまわりさんの腹の中は自分の成績を上げるため「コイツらを補導してやろう」と思っていながらも、感情を殺して優しい言葉で12歳児に語りかけてくるのであった。

「君たちは、なんでぇ〜? こんな時間に、こんな場所にいるのかなぁ〜?」

おまわりさんから発せられる聞き慣れないイントネーションの職務質問に笑いながら、職務質問に応えるオレたち。

「だって、明日からやるこの映画を早く観たいから並んでるんです!」と劇場の看板を指差して、こんな時間にオレたちがこの場所にいることを説明する。

その劇場の看板を見てキョトンとするおまわりさん。ここにいる理由はわかったようだが、子供がこんな時間にこんな場所という部分に引っかかりがある顔だ。

「観たいからって、こんな時間に君たちみたいな……君たちは何年生?」

「6年生です」

「あのねぇ、小学6年生がこんな時間に出歩いてちゃお父さんお母さんが心配するし、私も心配になるよ〜」

「お父さんもお母さんも、夜に並んで観ていいっていってます!」

歌舞伎町で夏休みに次々と補導される少年少女たちが使う常套句である。もちろん補導された少年少女はその場から逃げるための嘘方便だが、オレたちは本当に親からの了解を得てこの場にいるのだった。

おまわりさんの顔には「ウソ言ってるな」と書いてあるが、胸を張って親から深夜の外出、しかも映画の公開初日の前日から徹夜で並ぶことを許されているオレたちの顔には、一点の曇りもなかった。しかし、お目当ての映画の封切り初日の初回に、クラスの誰よりも早く観てやろうというオレたちの目的が、おまわりさんの疑いによって阻害されてはたまらない。

たとえオレたちがこのおまわりさんに目をつけられ、歌舞伎町交番に引っ張られて、深夜に親に連絡されて身柄を引き取りに来てもらい、終いには小学校に報告され夏休み明けの2学期の朝礼で、校長先生から全校生徒の前で「君たち! このお友達は小学校6年生という最高学級で下級生のお手本にならなければいけないのに、夏休みに本当に恥ずかしいことをしたのです!」と叱責を受けようが、連絡を受けて身柄を引き取りに来た親から「あの子と遊んじゃ駄目だ」と、当時は本当に親兄弟よりも大事だった12歳の友達とのコミュニケーションを破壊されようが、絶対にこの映画を誰よりも一番先に観たかったのだ。

「なんなら家に電話してください、[email protected]@[email protected]@です。お父さんは赤江正行です、お母さんは赤江広子です」とオレ。

夏休みの歌舞伎町で補導される少年少女たちは、こんなに簡単に自分の連絡先や保護者の名前をスラスラとうたわないだろう。おまわりさんが攻めてくる前に放ったこの先制パンチが強烈だったかどうかは分からないが、おまわりさんはオレたち以外にも徹夜して並んでいる人たちを見て、「暑い夏の夜に徹夜して並んで観るほどの映画なのか……?」という不思議な顔をして、渋々納得したのか「とにかく、こんな場所なんだから、気をつけるんだよぅ〜」という言葉を残して去っていった。

「だから、新宿東映に並べばよかったんだよ! こっち(歌舞伎町)だと、おまわりがうるさいじゃん!」と危機から開放されたシミズの第一声。

「うるせいよ! コッチのほうがゲーセンとかあるから東映に並ぶよりいいんだよ、ハラが減ったら牛丼屋も近いし!」とカッチャン。

さっそく仲間同士で揉めだしたが、シミズよりカッチャンの言葉の説得力が上だった。

深夜のゲームセンターチャレンジ、定番の牛丼弁当

新宿東映は、歌舞伎町から少し離れた新宿三丁目にある映画館である(※新宿東映パラス:現バルト9)。歌舞伎町に比べて周辺は夜になると静かで人通りも少ない。こちらに徹夜で並んでも良かったが、長時間地べたに座って並ぶならば、静かな東映よりも退屈を大いにしのげるゲーセンでインベーダーをやったり、バッティングセンターなんかで時間を潰せて遊べる店が夜通しやっている歌舞伎町の映画館に並んだ方がいい。これは前日、みんなで集合した銭湯・松の湯で行われた作戦会議で決まった方針だった。

この3人での徹夜決行はすんなりと決まったのだが、普通の親ならば絶対に許すはずがない、小学生が歌舞伎町の映画館に徹夜で並んで観ることについて、親から了承を得るために、オレたちはずっと以前から実績を積んできていたのである。

プロ野球団のファンクラブに入り仲間同士(保護者なし子供同士)でナイターに行ったり、子供だけでデパートに行ったり、市ヶ谷や赤坂のお堀に夜中に釣りに行ったり、もちろん映画も最初の頃は徹夜で並んだりすることなく仲間同士で観に行くだけだった。しかし、こうして親が心配する子供の案件を無事故でこなしてきた実績でもって親の信用を得て、今回やっと<映画館に徹夜で並ぶ>ことの認可を得たのだ。

もちろんオレたちの誘いに親の了承が得られず、乗れない奴らが大半だった。その中には以前、仲間同士で「ナイター行こうぜ!」とノリノリで球場に乗り込んだ時、こともあろうことか母親を連れてきて(しかも学校でも有名なカタブツなお母さんだった)、オレたちをドッチラケにしたヤツもいた。無論そんなやつは今回、ハナから誘わなかった。

そうして3人は、地べたに座りながら映画への期待や、映画とは関係ないクラスの好きな女の子の発表タイムやら、いやらしいものを見た自慢やらで盛り上がって時間を過ごしていたが、時計は深夜3時を示す頃。それまで元気いっぱいだったが、そりゃ夜は眠くなる。「今日は寝ないで頑張ろうぜ!」なんて意気込んでいたが、所詮は小学生だ。

襲ってきた眠気を吹き飛ばすためには極道の場合、覚せい剤を撃って解消するのだろうが、オレたちが覚醒するにはゲームセンターでインベーダーを撃つのが一番だった。ゲームセンターは最高のエイドステーションになる。しかし3人一緒にゲームセンターに行ったら、並んでいる場所は奪われ、これまでの苦労が水の泡になってしまう。

3人の誰もが眠気を飛ばすため、そしてまだ足を踏み入れたことがない深夜のゲームセンターに行きたいのである。

「みんなで行ったら場所取られちゃうよ!」とシミズ。
「順番で行けばいいじゃん」とオレ。
「1人で行ったら怖いよ」とシミズがビビる。
「じゃぁ2人が先に行って、戻ってきたらまた2人で行けばいいじゃん」とカッチャン。

そうなると、3人のうちの誰かが2回ともゲームセンターに行けることになり、それは不公平だと口論に拍車がかかり険悪なムードに。すると、前に並んでいた大学生っぽいお兄さんたちが、見かねて「オレたちが見ていてやるから3人で行ってきなよ」と声をかけてくれた。険悪だった3人の顔が一気にほころび、「お願いしま〜す!」とお言葉に甘えてゲームセンターに向かった。

が、ゲームセンターに向かうためには歌舞伎町交番の前を通らなくてはならない。さっきのおまわりさんは深夜の映画館に並ぶ小学生をスルーしてくれたが、さすがに深夜3時に歌舞伎町をウロウロしている半ズボンの小学生がおまわりさんに見つかったら、今度こそ一巻の終わりとなってしまう。ビビったオレたちは、せっかく手に入れた深夜ゲームセンターの入場チケットを諦めることにした。

ここで「でも、オレたちの順番見ててくれてるんだからさぁ……」と、シミズがお兄さんの好意に甘えだした。確かにそうである、せっかくお兄さんたちの好意で自由な時間を手に入れたのだから、ゲームセンターは回避しても時間は有効に使える。ハラも減ってきたので、交番から反対側の新宿大ガードを越えたところの吉野家に行って牛丼を食うことに方針転換した。

深夜3時過ぎの吉野家に小学生3人で乗り込む。突っ伏して寝ている酔っぱらいの扱いに店員が困っている吉野家。冷房が効いてる店内に漂う牛丼の匂いがたまらない。この涼しい店内で牛丼を食べるのが一番いいのだが、あの頃のオレたちは、どこに遊びに行くのにも牛丼弁当を買って現地で食うのが恒例だったので(遠足もわざわざ集合時間前に吉野家に行って牛丼弁当を買って持っていったほどだ。母は「みっともないからやめてくれ!」と懇願していたが)、弁当を買って行列に戻って食べることにした。

「ありがとうございました」とオレたちの順番を見ていてくれたお兄さんたちにお礼を言い、さっそく地べたに座って3人、まだあたたかい牛丼弁当を開いて食べはじめる。牛丼のいい香りが周囲に漂い、順番を見ていてくれたお兄さんたちの顔には「羨ましい」と書いてあった。現在のようにコンビニエンスストアなど発達していない時代の深夜の牛丼であるからして、空腹で並んでいるお兄さんたちからすれば当然だ。お礼にジュースの1本でもお兄さんたちに買って置けばよかったと、これを書いている今になって思う。あのお兄さんたちは「この小学生、なんてふてぶてしいんだ」と呆れていたことだろう。

牛丼を平らげた3人は満腹感でウツラウツラしはじめ、そのまま地べたで眠ってしまった。目が覚めると空もすっかり明るくなっていたが、なんと増え続ける行列のため、映画館の配慮で特別に1回目の上映時間を早めるアナウンスがあり、行列から拍手が沸き上がった。クラスの誰よりも早く観ようと徹夜で並んだ映画が、予定よりも早く上映される。まさにひと足お先に、この映画を観ることができるのだ。

劇場の扉が開き、ゾロゾロと劇場内に入っていく行列客。さっきのおまわりさんが前を通り過ぎて、オレたちと目が合いニコッと笑う。オレたちもペコリと頭を下げた。どうやらオレたちのことが気になって、行列の前を通りかかってくれたのだろうか。

12歳のあの頃のまんま、止まりっぱなしの時間

苦労して徹夜して並んだ映画には大満足だった。ヒンヤリした劇場を出ると、真夏の暑さ。まだ時間はお昼である。オレたちは興奮して、映画の話をしながら帰る。

「キャプテン・ハーロック、カッコよかったなぁ」とオレ。
「メーテルとキスした鉄郎うらやましいよぅ」とシミズ。
「おまえ、チンチンたってたんじゃねぇ?」と突っ込むカッチャン。
「たってねぇよ!」

ガッハッハ!

「今日、あとで松の湯行こうぜ」とカッチャン。
「おう、帰って寝てからね」と睡眠不足のオレ。
そして、いつもの松の湯に6時半集合となった。

オレたちは映画を観た夜は必ず松の湯に行って、みんなで改めて映画が楽しかったことを話して盛り上がるのであった。

「なぁ、徹夜しなかったアイツ、松の湯来るだろ! 今日の映画の話、テキトーに喋ってさぁ〜」とオレの悪だくみというか、先に映画を観た特権を2人に振る。「中身メチャクチャな話ししてさぁ、あいつに教えようぜ!」

行列に並ぶことが出来なかったヤツも当然、オレたちが見た『銀河鉄道999』の土産話を松の湯に聞きにくるはずだ。

「まさか鉄郎が機械人間になってメーテル殺すなんてさぁ〜」
「そしたら、あいつ絶対に信じるぜ!」
「もう観た気になって、家に帰ってバカな弟に自慢するぞ!」
「バカだよなぁ〜」

ガッハッハ!

フラフラで家に着いたオレは腕時計のアラームを6時にセットして、そのままベッドに倒れ込み夕方まで爆睡した。

あの日のオレたちは鉄郎のように、深夜の歌舞伎町を走る銀河鉄道に乗ったのか? その後の人生で3人のうち誰が、鉄郎の目指した機械の身体をくれる星にたどりついたのか? まぁきっと、どっかで途中下車してどっかで生きてるんだろう。あのとき巻いていたデジタル腕時計も、どっかにいってしまった。つまり12歳のあの時の時間のまんま、止まりっぱなしってことか……。

――23年後、新宿歌舞伎町。

徹夜で並んだあの映画館の向いの東宝会館にあった、新宿最後のマンモスキャバレー「クラブハイツ」のソファーでガンガンお酒を飲みながらワイワイ大騒ぎしている3人。ひさしぶりの再会だ。

「この店にはメーテルはいねぇなぁ」と漏らすシミズ。
「まだ風俗あいてる時間だから行こうぜ!」とオレ。
「いいねぇ〜赤江! どっかいい店あるか?」とカッチャン。

この店を出てからの風俗の行き先を巡って険悪になる3人。でも、せっかくこうして再会できたのだから、もうバラバラになっていく必要はない。深夜のゲームセンターを断念したあの夜を取り返すべく、オレたち3人は歌舞伎町交番の前をわざわざ通ってから、機械の身体(body)をタダでもらえる希望を持っていた鉄郎のように、かつての新宿東映近くのソープランドに撃ちに行ったのだった。

文:玉袋筋太郎

『スタンド・バイ・ミー』はCS映画専門チャンネル ムービープラスで2021年9~10月放送

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『スタンド・バイ・ミー』

1959年、オレゴン州の小さな町キャッスルロック。文章を書くことに才能の片鱗をのぞかせる12歳のゴーディは、3人の仲間と共に森の奥にあるという少年の死体を捜しに出掛けた。不安と興奮を胸に抱いた2日間の冒険。それは彼らに生涯忘れられない思い出を残すことになる。

制作年: 1986
監督:
出演:
  • BANGER!!!
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