玉ちゃんのホロリ巡礼の道「寅さんカレー」と「渥美清こもろ寅さん会館」『男はつらいよ お帰り 寅さん』

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ライター:玉袋筋太郎
玉ちゃんのホロリ巡礼の道「寅さんカレー」と「渥美清こもろ寅さん会館」『男はつらいよ お帰り 寅さん』
玉袋筋太郎

「もう出涸らしだよ! 今更『男はつらいよ』を語るなんぞ!!」なんて気持ちで、今回の原稿依頼を受けた。映画化の第一作目から2019年で50周年。『男はつらいよ』シリーズはどれだけの人様に観られ、どれだけの人様が語ってきたのだろう。そんな、すごく愛され、作品評やらでさんざ人様に濾されてきた作品について、オレごときが何を語れるのだろうか。

『男はつらいよ お帰り 寅さん』©2019松竹株式会社

優秀なる編集部よ、今更ながら恥かしいだろうけども『男はつらいよ』の解説よろしく!

1968年(昭和43年)から放送されたテレビドラマをベースに、1969年に映画版第1作が公開された『男はつらいよ』。日本中を旅する主人公・車寅次郎、通称“寅さん”が、たびたび生まれ故郷の柴又に戻ってきては、家族や恋したマドンナを巻き込んだドタバタ騒ぎが描かれる。おっちょこちょいで自由奔放、しかし情に厚く義理堅いその人柄で多くの観客を魅了し愛された寅さんが、日本中を笑いと涙で包み込む国民的映画シリーズ。

釣りは「フナに始まりフナで終わる」、映画は「寅に始まり寅で終わる」

“男はつらいよ あるある”で考えればさぁ、ガキの頃に死んじまったおばあちゃんと一緒に新宿松竹会館に観に行った『男はつらいよ 寅次郎相合い傘』(1975年)だよ。まだガキのオレは“メロン騒動”は幼心に爆笑したけども、当時、大ファンであった同時上映のドリフターズの映画の方が目当てだったりしたんだよね。そりゃ小学生じゃ、あの作品の深みなんて分かる訳ないんだけども、やっぱり小さい頃にそうして『男はつらいよ』が身体の中にインプラントされるんだ。

そして『男はつらいよ』は劇場で見るものだけでなく、やっぱり家族団らんの茶の間で、あの一家の「茶の間」を見るという第二段階作用ってのがある。今じゃNetflixやAmazonプライムなんかでいつでも見れる時代だけども、まだビデオデッキ普及前、昭和の時代にテレビ放映された時の『男はつらいよ』は、茶の間で鍋を囲んで晩酌をしている親父とお袋が笑い、息子のオレも釣られて笑い、作品終盤になると、なぜか茶の間がシンとして、すっかり酔って出来上がってる親父を見てみると、何故かホロリ泣いているという姿を見て、「普段は威張っていて決して泣かないお父さんが、なんで泣いているんだろう?」なんて不思議に思ったりしていたもの。

映画が終了して、親父が小便に立って戻ってくると「スカッとしたな」と「もう寝ろ!」っていうのが、いつものパターンだったんだ。思春期になってくると、オレはその赤江家の<『男はつらいよ』茶の間鑑賞会>が面倒になってきちゃって、自然と『男はつらいよ』と親父との距離が開いていくようになる。そして息子のオレは洋画に夢中になったりして、思春期特有の『男はつらいよ』に対する嫌悪感が芽生えだし、「『男はつらいよ』のマンネリこそが日本映画の悪だ!」なんて思っちゃった。今から考えればモノの真理がわからずに衝動的に洋画に飛びついていた、どうしようもねぇ時代に突入するんだな。まぁ当時、息子のオレに離れられてしまった親父こそ「男はつらいよ」と思っていたのかもしれないけども。

釣りの格言に「釣りはフナに始まりフナで終わる」というものがある。釣りを覚えたての頃はフナやって、だんだん深みにハマっていくと渓流釣りやったり、海で松方さんクラスのダイナミックな大物狙ったりと、沢山の魚種を釣ることになっていくんだけども、つまり老いとともに最初にやったフナに帰っていくということ。オレも歳を重ねて、青年時代に恋をしたり失恋したり、家族を持ったりと旅をしていくうちに、最初にインプラントされた『男はつらいよ』が身体に残っていて「映画は寅に始まり寅で終わる」っていうことを実感するようになるんだよ。

まぁ、ここまではほとんど個人的な話なんだけども、もっと個人的なオレの『男はつらいよ』サイドストーリーにお付き合い願います。

『男はつらいよ』ファンならば、行かずにおれぬ場所がある

やっぱり好きになったものは深く追いかけたいもので、作品だけでなく渥美清さんのことも知りたくなるのがオレの常だ。世にある渥美清さん関連の本を読み漁り、ここは是非もので行かねばならぬ場所が2か所出てきた。

1か所目は、オレのスナックの突撃番組を利用して、その場に突撃した。場所は銀座、『男はつらいよ』で寺男・源公を演じる佐藤蛾次郎さんがやっているスナック「Pabu 蛾次ママ」である。蛾次郎さん夫妻が優しくオレを迎え入れてくれて、蛾次郎さんの女癖に奥様が苦労した爆笑話やら、このご夫婦の最高のエピソードである<山田洋次監督の粋な計らいで、2人の結婚写真を撮影現場で役者さんたちと一緒に撮った>という一枚を肴に、杯を重ねさせてもらった。

この蛾次郎さんのお店の〆は名物のカレーだ。このカレーは蛾次郎さんが『男はつらいよ』の撮影のある1日に現場で出演者スタッフ全員に振る舞うのが恒例になっていた、腕によりをかけた名物カレーである。眼の前に出されたそのカレーライスに匙を入れ口に運んだ。「美味い! 本当に美味い!」と唸った。「この味を、あの頃の役者さん、おいちゃんもおばちゃんもタコ社長も、渥美さんも御前様も味わったんだ」と思ったら、カレー食いながらなんだかこみ上げてきちゃってさ「泣いてたまるか」と思ってたんだけど、結局、最後は泣きながらカレー食ってやんの、オレ。蛾次郎さん夫妻は笑ってたよ。

そしてもう1か所、どうしても行かなければならなかった場所が長野県小諸市だった。寅さんの舞台である葛飾柴又には、立派な「寅さん記念館」がある。しかし、長野県小諸市にも「渥美清こもろ寅さん会館」という施設があるのだ。この施設ができた経緯を渥美さん関係の本で読んで、どうしても行かなければならぬと思い立って車を運転し、一泊のひとり旅に出た。第40作『男はつらいよ 寅次郎サラダ記念日』(1988年)の舞台となったのが、この長野県の小諸だ。そこで渥美さんは、コメディアンの関敬六さんを通して地元で電気会社をしている井出勢可(いでせいか)さんと出会い、意気投合した渥美さんは井出さんのことを「小諸のお父さん」と呼ぶようになる。

普段は他人とズルズルベッタンな関係になることを敬遠していた渥美さんだったが、小諸のお父さんとはプライベートでも親しくなり、渥美さんが小諸を訪ねたり、小諸のお父さんが撮影現場を訪れたりと、2人の関係は深まっていった。小諸のお父さんは『男はつらいよ』シリーズの大ファンであり、渥美清さんの良き理解者だった。そんなある日、小諸のお父さんは渥美さんに厚かましいのを承知で、意を決して自分の夢を切り出した。それは、小諸に寅さんの記念館を作りたいという夢だった。しかし、それを聞いた渥美さんのリアクションは、「オレはお父さんとそういう関係で付き合ってきたわけじゃないんだよ」というもので、小諸のお父さんの夢は崩れ去った……。

そして数カ月後、小諸のお父さんの元にトラックがやってくる。トラックの積み荷を見て、小諸のお父さんは仰天。そこには『男はつらいよ』の衣装やら、渥美さん自身のコレクションやらが大量に積みこまれていたのだ。こうして小諸のお父さんの夢だった「渥美清こもろ寅さん会館」が動き出したのである。

ねぇ、この男の友情物語なんだもん。「そりゃオレも小諸には行かねばならぬ」ってことで、家を飛び出し長野県小諸に向かうわなぁ。

特別な友情を築いた“小諸のお父さん”との絆の結晶「渥美清こもろ寅さん会館」

葛飾柴又の記念館のように、連日観光客がヤイのヤイと押し寄せてるんだろうなぁと気構えて施設に着いてみると、なんとオレ以外、誰も人がいなかった。「渥美清こもろ寅さん会館」はシンと静かに、オレひとりの目の前に建っていたのだ。でも、葛飾の賑わいと比べ、この静けさに寂しさを醸し出す会館なんだけども、建物全体からは冷たさは感じず、なんだかオレを迎え入れてくれるような温かみを感じたんだ。
「よし、こりゃオレの貸し切りだ! お邪魔します!!」と会館に入った。

客はオレ一人。順路に従って展示物を見ながら館内を歩くんだけども、センサーで館内の照明が点灯する仕組みになっていて(さすが電気屋の社長の建物だ!)、オレが移動する度に、それまで見ていた展示物の照明が消えて、次の展示物の照明が点灯する。館内の真ん中ぐらいになると、オレ一人にスポットライトが当たっているような状態だ。

館内には、渥美さんの趣味だったアフリカコレクションやら、もちろん『男はつらいよ』の衣装やら小道具やら、渥美さんと小諸のお父さんの友情がにじみ出る、温かい展示物に溢れていた。オレだけにポツンと当たる照明の先に、渥美さんの国民栄誉賞の賞状があった。照明に照らされているのは渥美さんへの国民栄誉賞の賞状とオレだけで、他は真っ暗。オレは渥美さんの偉大さを感じていた。と、その時、オカルトなんぞ信じていないオレだが、不思議な気持ちになってしまった。オレの耳元で「兄ちゃん、オレも結構な仕事したろ」と囁かれたような気がしたのだ。それも渥美清さん、否、渥美清先輩の声でだ。

渥美清さんは浅草のストリップ小屋・フランス座の出である。そしてオレもフランス座出身。後輩のオレに、優しく囁いてくれたように感じてしまったのだ。こんな思い過ごしの経験ができたんだから、会館はオレを温かく迎えてくれたのか? その不思議な瞬間に、ただただオレは、渥美さんに手を合わせたのだった。

とにかく貸し切り状態だから、ひとりでじっくりと展示物を堪能して、順路から出た先にある売店で土産でも買って帰ろうと思って覗いてみた。土産物はあるが、店員さんも誰もいない。これまたオレ一人だ。2、3品を選んでインターフォンを押して店員さんを呼び出す。「いらっしゃいませ」と笑顔で出てきたのは男性だった。その男性は身体にハンディキャップがあり、自由の利かない手でお土産物をオレに渡してくれて、金銭のやり取りをしてくれ、会館からオレを笑顔で送り出してくれた。

会館を出たオレに、渥美清と小諸のお父さんの心の絆の強さの結晶である「渥美清こもろ寅さん会館」の熱い思いがこみ上げる(今回、こみ上げ過ぎだね)。オレにお土産物を包んでくれた男性は、実は小諸のお父さんの息子さんなのだ。小諸のお父さんは自分にもし何かあったとき、ハンディがある息子さんの行末だけが心配だった。その息子の将来の為に、会館を建てたいという気持ちがあったのだ。小諸のお父さんが切り出した夢に一度は「NO」を出した渥美さんだったが、小諸のお父さんの気持ちを察していた。そんな渥美さんが、大切な小諸のお父さんの息子の為だからという気持ちで寄与し、この会館が完成したのだ。

その夜、真っ暗な小諸の町にひとり繰り出した。どうにかこうにかネオンを見つけて、地下にある一軒のスナックに入った。70歳ぐらいのママさんは一見の客であるオレに興味を持って、定番の「どっから来たの?」から始まり、「なんで、小諸なんかに」なんてやり取りを始める。オレもちゃんと今回の旅の理由をママに話した。話を細かくすると、「あら、その小諸のお父さんなら、うちの常連よ!」。

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昼なんです!

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スナックというのは不思議な縁をもたらすものである。鳥肌モノの偶然に「今日あたり飲みに来ないんですかねぇ」とオレが振ると、ママさんは「いま体調崩されて入院中なのよ」との返事。「万が一にも、小諸のお父さんとオレが会えるわけないよなぁ。そんな都合がいい一人旅なんてないわな」と肩を落とすオレ。「そうだ、逢えないけど、逢えるわ、カラオケビデオに写ってるから」と、ママがレーザーカラオケを入れた。そして流れる祭りの風景を指差しながら、「ホラ、この人が小諸のお父さん」とママ。

オレが小諸のお父さんと初めて会った瞬間は、レーザーカラオケの映像だった。たまらない一人旅の思い出だ。そんな「渥美清こもろ寅さん会館」は、小諸のお父さんも亡くなり、現在、閉館中である。なんだか寂しいよなぁ。

鑑賞前の不安を吹き飛ばしてくれた新作『男はつらいよ お帰り 寅さん』にホロリ涙

『男はつらいよ お帰り 寅さん』©2019松竹株式会社

「映画は寅にはじまり、寅に終わる」と最初に書いたけども、今回の50作目の新作『男はつらいよ お帰り 寅さん』を見て、それは間違っていないことがわかった。最初は見るのが怖かった。だって、齢を重ねるごとに段々と身体に浸透して大好きになっていった『男はつらいよ』である。50周年といえど、いまさら新作を作るって、失敗作になったら叩かれるだろうし、オレも叩かなくちゃいけない立場になってしまう。そんな不安な気持ちで新作を覚悟して鑑賞した。

『男はつらいよ お帰り 寅さん』©2019松竹株式会社

そして作品に対するオレの不安は………吹き飛ばされた! 良かった!! 残存する寅さんファミリーが、現代の設定にすんなりと溶け込んでいるのが素晴らしかった。老いたひろしとさくらとリリー、そして成長し生きている満男。登場人物それぞれにとっての「兄さん」や「お兄ちゃん」や「寅さん」「おじさん」である車寅次郎がインプラントされた物語。オレも最後は、あの頃の親父じゃないけども、思わずホロリ涙を流してしまった。

『男はつらいよ お帰り 寅さん』©2019松竹株式会社

とにかく50周年を迎えた『男はつらいよ』の車寅次郎ってのは、捨てる部位がないクジラと一緒で、まさに「寅(虎)は死して皮を留め、人(渥美清)は死して名を残す」そのものなんだなぁって思うんだ。なに? そんなわかりきったようなフレーズなんぞ、それを言っちゃおしめぇか? なにいってんだ、結構毛だらけ猫灰だらけ、テメェのお尻は糞だらけってもんだ。

文:玉袋筋太郎

『男はつらいよ お帰り 寅さん』は2019年12月27日(金)より全国公開

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『男はつらいよ お帰り 寅さん』

生誕50周年を迎える大人気シリーズ「男はつらいよ」最新作。新たに撮影された“今”と、4Kデジタル修復されたシリーズ映像が織りなす、新たなる物語。小説家になった満男に、伯父・寅次郎への想いが蘇る。

制作年: 2019
監督:
出演:
  • BANGER!!!
  • 映画
  • 玉ちゃんのホロリ巡礼の道「寅さんカレー」と「渥美清こもろ寅さん会館」『男はつらいよ お帰り 寅さん』